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アサシンズ ロア  作者: ぽんこっつ
教国編
44/52

教国の事情

読んで頂きありがとうございます

少しでも楽しんで頂けると幸いです

馬車で街道を駆け、爆発音のした方向に向かう

両手に鈍く黒い光を放つ短剣を握り、臨戦態勢に入る


「見えました!やはり先程の馬車です!」


御者台で馬車を駆る王子の言葉に、街道の先を見る

街道の脇は、平原から森に変わって、少し進んだ辺りで

先ほどの豪華な馬車を発見した

森からの待ち伏せを喰らったのか?!


豪華だった馬車は、無残に大破し、その傍らには、

白髪の司祭服に身をくるんだ老人を守る様に九人のプレイヤーが囲む


その周りを取り囲んでいるのは、二十人程の白いローブを纏った集団と

白銀の鎧を着込んだ五名の男


「とりあえず止めさせますよ!突っ込みます!」


王子の声と共に、馬車は包囲している集団に突っ込む

白ローブ達が馬車を避けたため、俺達はプレイヤーPTと集団に

割り込む形で滑りこむ

俺と【伽藍】さんが馬車から飛び降り、戦闘態勢に入る

王子は御者台から立ち上がり、相手の正確な人数と状況の判断にかかり

ガーネットさんは、馬車の影から、プレイヤー達の元へ走る


「相手の白装束は二十二人、武器はショートソード!

騎士は五名、武器は両手剣!」


「ふむ!二人では割り切れぬのである!拙僧が十四名をお相手いたそう!」


「え!じゃあ俺十三?王子の分は?!」


「私の分は、適当でいいですよ、そんな事を気にしないでください」


王子の苦笑に、緊迫していた空気が弛緩する


「王子のせいで緊張感が…」


俺の呟きに、【伽藍】さんまでも苦笑交じりで


「うむ!王子殿ではなく!アシッド殿のせいである!」


俺?俺のせいなの?

小首を傾げながら、いつそんな行動したか思い出そうとしていると

白銀の騎士の一人が、前に進み出て来た

白銀の鎧に、後ろで束ねた赤髪の長髪が映える偉丈夫で

整った顔立ちに浮かぶ、鋭い眼差しが、突然の乱入者が何者なのか

値踏みするように俺達を見つめていた

赤髪の偉丈夫は、俺達を一通り眺めた後、鋭く言葉を発する


「われわれは、教国の銀剣騎士団である!現在反逆の疑いをある者を捕縛中である!旅の冒険者達よ、我らは無関係な者を巻き込むのは本意ではない、そこをどいてくれないかね」


語気の最初こそ、勢いがあったものの、最後の方は、世間話をするように

語りかけてくる形となり、無駄な戦闘はしたくないという意志が本心である事が窺える


「反逆ですか?それはまた…」


王子は御者台から、プレイヤー達が守る老人を見つめ


「とてもその様な感じにみえないのですが…」


王子の言葉に対し、白ローブの一人が前に出て

異論を叫ぶ、この白ローブだけ、胸に大きな金色の鷹が描かれていた


「何を言う!その男は不遜にも、病に伏せっておられる教皇様に対し、

教皇様のために尽くしておられる大司教様のありもしない話を進言し、

自らが大司教になるべく謀事をしている反逆者よ!」


唾を飛ばしながら、興奮して叫ぶ白ローブに、赤髪騎士が、なだめる様に

話しかける


「落ち着いて下さい、モルデ殿…、まだ容疑というだけで、確定した訳ではありません」


「何を言うか!既に各都市の教会を巡り、各司祭に、直訴を願う為の

署名を集めておるらしいではないか!大司教に対する反逆の意思は明白ではないか!何を甘い事を言っておるのだ、ギルス殿は!」


モルデと呼ばれた男は、さらに興奮し、手を振り回しながら叫ぶ

赤髪の騎士は、ギルスと言うらしい、そのギルスは渋面をする

その時、今まで静かだった馬車の後方から声が響く


「教皇様が病に伏せっているのをいい事に教国を私物化しておる大司教に、なんの正義があるというのか!」


凛とした声が響く、芯が通っていて、とても老人の声とは思えない


「な、なんという不遜!大司教様に対しなんという事を!」


モルデは顔も真っ赤で、もうすぐムキーッ!とか言いそうだ

そういえば、猿っぽいな…

ネジを巻いたらひたすらシンバルを叩く猿のおもちゃっぽいな…

駄目だ…モルデが必死になればなるほど、おもちゃが浮かんで

つい笑いがこぼれてしまった…


「おい!そこの黒いの!何がおかしい!」


モルデが、いらついた声で、手をばたつかせながら叫ぶ


「あ…いやごめんごめん、ついシンバル叩く猿のおもちゃ思い浮かべちゃ…あっ!」


本人がいるのについ言ってしまった…

シンバルを叩く猿の言葉で、王子と【伽藍】さんは手で口を押さえて

笑いをこらえている

猿という単語に反応したのか

赤髪の騎士は、ジェスチャーでそれ言ったらダメ!としているが

目は笑っているし、白ローブの集団は固まってしまった

モルデは、手を振り上げた状態で固まってしまっている…


「はっはっ!いいのう猿か!大司教の犬めと思っておったが、違ったのう!

大司教の猿回しであったか!はっはっ!」


馬車の後ろから、老人の笑い声が響く

モルデが、ぎくしゃくした動きで、こちらに顔を向ける


「てめえ…死んだぞ…ぶっ殺してやるぜ…」


うお!キャラが変わってる!

タブーワードに触れてしまったようだ…

悪気はなかったんだ…ごめんな…

心の中で詫びる


「おい!魔法部隊!やれっ!手加減はいらん最大威力だっっ!こいつら消しちまえ!」


「モルデ殿!それはまずい、まだ司祭の取り調べも終わっーー」


「うるさいっ!全部有罪!死刑!消しちまえっ!」


モルデは後方の森に指示を飛ばす

豪華な馬車を吹き飛ばした魔法があった事を忘れていた…


「まずいですね…何がくるか予測できません」

「うむ!耐えるのである!」

「さっき飛んできたのは火炎系だったぜ!気を付けな!」


後方のプレイヤーからも声が飛ぶ

が、森は鎮まりかえったまま、動きはなかった


「おい!魔法部隊!寝てんのかっ!起きろよてめえらっ!」


モルデは、また顔を真っ赤にして手を振り回す

モルデの叫びが森に響いた時

森の中から、黒い小柄な影が、ぴょこんと飛び出て、

ぺこりと頭をさげる


「あの…すいません…魔法使いさん達は無力化しちゃいました…」


ガーネットさんが、少し照れたように笑いながら頭を下げる

馬車の影から、後方のプレイヤーの所に渡り、影を潜って森に入ったようでいつ潜ったのか、俺達も気付いてなかった


そっか…ガーネットさんは、ついこの間までGVGで活躍してた

対人戦のプロだったんだ、見た目の小動物らしさに忘れていたけど

二年間のブランクがある俺より、戦闘感覚が鋭いのかもしれない


「なっ…なんだとっ!魔法部隊が全滅だと…」

「まさか…教国でも指折りを集めて来たのだぞ!」


モルデとギルスは、驚愕の表情を浮かべ、硬直する


「はっはっ!ご自慢の魔法部隊が使えぬとあらば形勢はかわるのぉ」


司祭服の老人が御者台に上り、高らかに笑う


「何を反逆者風情が生意気にいうかっ!」


顔を真っ赤に叫び返すモルデを、老人は指差し告げる


「モルデよ、ワシは隠居したとはいえ枢機卿のひとりぞ、それを忘れすぎではないか?!」


老人の問いに、沈黙で答えるモルデ

ギルスは、その沈黙を埋める様に言葉を足し、頭を垂れる


「わかっております、メルディオス殿、我々騎士団は剣と聖女の名において公正な調査を致します、ですから嫌疑を晴らすために、一度首都に御同行下さいませんか?」


老人は、顎に手を当て考える素振りをみせたが、すぐに


「すまんの、無理じゃ、騎士団は信用できても、周りの環境が悪すぎるわい、首都には必ず出向く、じゃが同行はできん、近いうちに教皇府に顔をだすのは約束しよう、それでここは退いておかぬか?」


老人は、優しげにギルスに話しかける


「ふざけるなっ!此処まで来て退けるか!第一こちらがまだ優勢ではないか!お前ら奴を捕えろ!」


モルデが叫び返し、白ローブ達に命令を下す

白ローブ達は、一瞬躊躇したものの、すぐに戦闘態勢を整える


しょうがないなあ…

俺は皆の目の前でアイテムボックスから【麻痺毒】の小瓶を取り出す

二本の短剣にゆっくりと、紫色の液体を馴染ませて行く


「何をしているのですか?アシッドさん?」

「うむ?それは何であるか?」


王子と【伽藍】さんの問いかけに


「いや、麻痺させちゃった方が早いかなって思ってさ、見逃してくれそうにないしさ…」


そう言って苦笑する俺に、モルデが苛立ちを含んだ声で叫ぶ


「な…なにをいう!この人数をどうにかでーーー」


その言葉が終らないうちに、俺は踏み込み白ローブにつっこむ


「なっ!」「ぎゃあ!」


まず二人、慌てて態勢を整えようとする白ローブだが

ーーもう遅いよ

次々と倒れて行く白ローブ達


「なっ…なんだとっ…」


絶句するモルデとギルス、斬りかかった俺に注意を奪われてしまったのが

致命的なミスになっている


「すいません…武器を捨てて貰えませんか…」


「「なっ」」


ガーネットさんは、俺が動いたと同時に影に潜って

二人の背後から短剣を喉元に付きつけている


「馬鹿な…二人いたのか…」


モルデの呟きに、ガーネットさんが微笑みながら応える


「いえ、五人ですよ?白ローブさんの所にも三人います」


エクストラスキル【ミラージュ】

四体の分身を作るスキルと説明文は見たが、実物を見るのは初めてで

その精巧さに驚く


「別々の動きもできんのか?」

「はい!分身さんにお願いすると、お願い通りに動いてくれますよ!」


そりゃ便利だし、すげえな…


「ふふっ!お陰でお弁当の買いだしが楽々でしたよ!」


満面の笑顔を浮かべるガーネットさん…

それ多分、分身の使い方間違ってると思うな…俺は…


白ローブ達を無力化し、ガーネットさんは分身たちに


「お疲れ様でした!」


と笑顔で頭を下げると、分身たちは


「いえいえ、本体さんこそ、お疲れさまでした!」


と四体揃って笑顔でぺこりと頭を下げている


何だ!この分身達!分身ってこんな物なのか?!


「あっ!これお土産です!」


ガーネットさんはそれぞれの分身にイチゴケーキを配っている

分身達はそれを笑顔で受け取り、消えて行く…

なんかおかしい気がする…


「すまんの…まきこんでしまったのお」

「悪いな…俺達のクエストに巻き込んじまって…すまねえ」


頭を下げて来る老人と、プレイヤーPTのリーダー


「いえいえ、こちらが押しかけたのですから、非礼はこちらにあります、

勝手に押しかけてしまい、すいませんでした」


王子の言葉に、俺達全員で、軽く頭を下げる


「できれば事情をお聞かせ願えると助かるのですが…」


「そうじゃな…実はじゃの…」


そうして俺達は教国の内紛に巻き込まれていく



~~~~~~~~~~~~~~~


【首都ミネヴァ】

中央にそびえる白亜の神殿【教皇府】

北の聖女を奉じ、その教えと聖地を守るべく誕生した国の首都の基幹部

その最上階にある教皇の間

本来は、教皇がその上座に座り、枢機卿達と会議を持ち統治していた

しかし、今その大広間にいるのは二人のみであった


「ふふっ、大司教様、あの小うるさいメルディオスの爺様を早く処分してしまいましょう、二人の未来のジャマよ」


そう言って、妖艶な笑みを浮かべる女性、艶を帯びた黒髪は腰のあたりまで伸び、憂いを含んだ瞳は、熱を帯びてもう一人の男を見つめる

女が身に纏っている司祭服は、胸や腰のラインが強調されていて

清純や潔白を表す筈の司祭服が、煽情的な妖しさを纏う

女はゆっくりと、男の口元に細い指を這わす


「しかし…元枢機卿なのだ…簡単にはいかんよ…アーニャ…」


そう呟く小太りの中年の男は、妖艶な女を見つめ返しため息をつく

司祭服は不自然な程の金色で彩られ、はち切れんばかりに膨らんでいる

贅を尽くした暮らしのせいで、太ってしまった身体からは

何の威厳も感じられない


「あなたは大司教なのよ、元枢機卿なんて相手にならないわ…あなたは偉大なのよ、教皇すら現にあなたは凌いでいるじゃないの…あなたは歴史に名を残す偉大な人物になるのよ…聖地も、深淵も封じた大司教として、神にも魔にも侵されない人間だけの世界の王になるのよ…」


妖しく動く細い指が、大司教と呼ばれた男の顔を撫でて行く

そして、唇を寄せて、妖しく囁く


「さあ…聖地の解かれた封印をもう一度施しましょう、そうすれば深淵の回廊もまた、閉じられるわ…はやくあなたが王になる所が見たいの…私の王様」


「そうだな…私には偉大な使命があるのだ…神からも魔からも侵されない

人類だけの世界を作ると言う使命が…」


大司教の熱病に浮かされたような囁きを聞いた女は、

妖しく微笑む

ーーーそうね、閉じられるのは、聖地だけだけどねーーーー


私が仕掛けるグランドクエストをタイムリミットまでに攻略できるかしら?

グランドクエストに挑むプレイヤー達は?
























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