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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
外伝

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エリクサーを狙え!8


「What?」


 スマホに送られてきた秋斗からのメッセージを見て、アニルは思わずそう呟いた。メッセージは一言「MISSION COMPLETE」、ただそれだけ。文字は読める。だがその意味を、彼はしばらく理解できなかった。


(まさか……)


 まさかもうエリクサーを手に入れた? 契約書を交わしたのはほんの四日前、依頼の話をした時点から数えてもまだ十日も経っていないというのに。一体何をどうしたのか、アニルには想像も付かなかった。


 宝箱(黒)、いや宝箱(銀)を狙うとは言っていた。だがこれまで世界中でいったい幾つの宝箱(銀)が開けられてきたと思っているのだ。少なく見積もっても百や二百ではきかないだろう。それでもエリクサーは一つとして出なかったというのに。


 いっそ、「最初からエリクサーを所持していた」と言われた方が信じられる。だがそれはないだろう。少し調べてみたのだが、秋斗は宝箱(黒)のお取り寄せを頼んでいる。最初から持っているなら、わざわざそんなことはしないだろう。


(なら、本当に……?)


 本当に宝箱(銀)からエリクサーが出たのか。アニルは眉間にシワを寄せ、それからため息を吐いて首を左右に振った。重要なのは秋斗がどうやってエリクサーを手に入れたのか、ではない。彼がエリクサーを入手したという、その結果だ。


『本当ならば喜ばしい。嘘ならそれ相応の対応をする。それだけだ』


 アニルは自分に言い聞かせるようにしてそう呟いた。そしてスマホを操作して秋斗に電話をかける。彼はすぐに電話に出た。「エリクサーを確かめさせて欲しい」と頼むと、彼はすぐに「分かりました」と了解する。声音から騙そうという意図は感じられない。


 エリクサーを衆目に晒したくはないと思い、アニルは宿泊しているホテルの部屋に秋斗を呼んだ。彼が来たのはおよそ一時間後。アニルは彼にソファーを勧めると、前置きもナシにいきなり本題に入った。


『ではムナカタさん、エリクサーを確認させてください』


『はい、分かりました』


 秋斗はトートバックからマジックポーチを取り出し、マジックポーチからエリクサーを取り出してテーブルの上に置いた。シンプルなデザインの小瓶の中には、黄金色に輝く液体が入っている。それを見てアニルはゴクリと唾を飲み込んだ。そして鑑定のモノクルを取り出し、エリクサーの小瓶には触れずに鑑定する。鑑定結果は次の通り。


 名称:エリクサー

 完全回復薬


『ほ、本当に……!』


 アニルは全身が粟立つのを感じた。これまで彼の主が血眼になって探し求めてきたアイテム、存在は明示されていたものの誰もそれを確認できなかったアイテム。それが今彼の目の前にあるのだ。


『んん、確かにエリクサーを確認しました。正直、自分の目で見ても信じられません。本当にどうやって……。いえ、宝箱を狙うという話は覚えていますが……』


『頑張りました』


 秋斗はにっこりと笑ってそう答えた。アニルは苦笑を浮かべ、「降参」と言わんばかりに小さく両手を上げる。確かに「頑張る」しかないわけだが、頑張って手に入るなら、エリクサーはもっと早く世に出ていただろう。やはり何かあると思うのだが、アニルはそこを追求したりはしなかった。


『それでムナカタさん。今後の事ですが……』


 アニルは表情を改めると、今後の予定について話した。依頼主であるファルハン・パテル氏への連絡や、表向きエリクサーを買い取る医療機関をどこにするのかなどは、全てこれからだという。


 秋斗からすると、段取りが悪いように思える。だがすぐに「仕方がないか」と思い直した。なにしろエリクサーがいつ手に入るのか分からないのだ。どうしても現物が手に入ってから動き始めるという形になる。


『こちらから改めて連絡するまで、エリクサーを保管しておいてもらって良いでしょうか?』


『はい。分かりました』


 そう答えて秋斗はエリクサーをマジックポーチに戻した。それから二人はラウンジに移動し、そこでコーヒーを飲んだ。ちなみに秋斗はシュークリームも頼んだ。シュークリームをフォークで食べるのは初めての経験である。そして一服しながらこんな話をした。


『エリクサーって、ポーションが普及すれば不要になっていくと思うんですよね。少なくとも迷宮の外では』


『ムナカタさんはどうしてそう思うんですか?』


『各種ポーションが十分な数あれば、それで大抵の症状はどうにかなるでしょうから』


 秋斗がそう答えると、アニルは顎先を撫でながら「なるほど」と呟いた。現在でも同じ事は言える。事前に各種ポーションを十分に揃えておけば、大抵の症状には対応できるはずだ。


 それでもファルハン・パテル氏がエリクサーを求めるのは、つまり患者はポーションではどうにもならない症状、もしくは状態なのだろう。だが秋斗はそれを詳しく聞こうとは思わなかった。どうせ後で教えてもらえるのだから。


 シュークリームを食べ終え、最後にコーヒーを飲み干すと、秋斗はアニルに見送られてホテルを後にした。次にアニルから連絡があったのはおよそ三週間後。準備が整ったので、二日後、都内のとある病院に来て欲しいという。秋斗は「分かりました」と答えた。


 そして二日後。秋斗はバイクで指定された病院へ向かった。アニルが玄関のところで待っていて、彼と合流して秋斗は病院に入る。アニルの案内で向かったのは院長室。そこで秋斗を待っていたのは、一人の老紳士だった。


『ファルハン・パテルだ』


『アキト・ムナカタです』


 ファルハンが指しだした手を秋斗が握り返す。ファルハンの年齢は八十近いように見える。だが表情は溌剌としているし、握手する手の力も強い。そしてファルハンは強い視線を秋斗に向けてこう言った。


『聞きたいこと、話したいことは多いが、今は時間が惜しい。エリクサーを確認させてくれぬか?』


 秋斗は一つ頷くと、リュックサックからマジックポーチを取り出し、さらにそこからエリクサーを取り出した。テーブルの上に置かれたそれを、ファルハンが鑑定のモノクルを使って確認する。そして「ああ……」と感極まった声をもらした。


 その様子を見ながら、秋斗は内心でちょっと居心地の悪さを感じていた。実は彼が取り出したエリクサーは最近手に入れたモノ、ではない。随分前、最初に手に入れたエリクサーなのだ。つまり彼は古い方を出したのである。


 もちろん事前に鑑定して問題ないことを確認している。だが「そろそろ使用期限ヤバいかな?」とか思って古い方を出したものだから、それに感動されてしまうとちょっと申し訳ない。当然、そんな内心はおくびも表に出さなかったが。


『では院長、頼む』


 目尻の涙を拭ってから、ファルハンが白衣を着た院長にそう告げる。院長はニコニコしながら「はい、はい」と答え、エリクサーの買取り手続きを始めた。買取り額は契約通り1000万ドル。この時点の為替レートでおよそ12億7000万円だ。秋斗がマイナンバーカードを提示して手続きを終えると、エリクサーの所有権は正式に病院側へ移った。


『感謝するぞ、ミスター・ムナカタ! さ、院長、早く!』


「まあまあ、ファルハンさん、そう急がず」


『アニル、後の事は任せたぞ!』


 急かすファルハンを宥めながら、院長はエリクサーを大事に持って部屋を出て行く。これから患者にエリクサーを使うのだろう。元気になってくれたら良いと思いながら、秋斗は二人の背中を見送った。


『ムナカタ様、このたびは本当にありがとうございました。主に代わり、心から感謝申し上げます』


『まあ、仕事ですから』


『それでも、です。これは主からの、感謝の気持ちです。どうぞお受け取り下さい』


 そう言ってアニルが差し出したのはハイブランドの腕時計。具体的なグレードなどは分からないが、きっと良い品なのだろう。秋斗は一瞬躊躇ったが、断るのも失礼かと思い、「ありがとうございます」と言って受け取った。


 それから秋斗とアニルは今後の事について打ち合わせをした。契約では「エリクサーの具体的な効力について公表する」ことになっている。発表記者会見は病院が行い、詳細なレポートも病院のホームページで公表することになった。


『記者会見のときには、エリクサーの入手方法について質問が出るかと思います。どこまで答えて良いでしょうか?』


『私の個人情報は絶対に明かさないで下さい。セキュリティカードを使い、銀の宝箱から出した、とだけ』


 秋斗がそう答えると、アニルは「分かりました」と言って頷いた。その後、もう少し細かな打ち合わせをしてから、秋斗は病院を後にした。病院の玄関で深々とお辞儀をするアニルに見送られ、秋斗は外に出る。


 それからふと、彼は振り返って病院を見上げた。もうすでにエリクサーは使用されただろうか。ちゃんと効いてくれればいい。そう思いながら彼はバイクに跨がった。


 病院が記者会見を開いたのは、それからおよそ一ヶ月後のことだった。そしてこの記者会見は、彼の目論見通りテレビのニュースやニュースサイトで取り上げられ、大きな注目を浴びた。


「なるほどねぇ……。いや、スゴい効き目だ」


 そう呟きながら秋斗が眺めているのは、記者会見と同時に病院が公開した詳細なレポートである。そのレポートによると、エリクサーを使用した患者は19才の女性。年齢的にたぶんファルハンの孫娘だろう。


 患者は次元迷宮が現われる前に事故で昏睡状態に陥り、以来ずっと意識が戻らなかったという。さらに事故のせいで片足と片目を失い、全身の四割がケロイド状だった。


 病院は患者の鼻からチューブを入れ、そのチューブを使ってエリクサーを胃へ流し込んだ。秋斗は「それで良いのか」と思ったが、エリクサーは問題なく効力を発揮。患者の身体を完全に回復させた。


 まず失ったはずの足が再生。ケロイド状だった皮膚も、いやそれ以外も含めた全身の皮膚が、みずみずしい状態に回復した。髪も艶を取り戻し、さらには肉付きも良くなったという。ゆっくりと開かれたまぶたの下には両目が揃っていて、彼女が最初に見たのは涙を流す、少し老いた両親だったという。


 驚くべき報告はさらに続く。数年間寝たきりだったはずのその女性は、しかしリハビリの必要もなく動き回ることができたという。目覚めたその次の日は、家族とレストランの食事を楽しんだそうだ。


「エリクサースゲぇな。てか、質量保存則はどうなってんだ?」


[それこそ野暮なツッコミということだ。ファンタジー相手にはな]


 シキにそう言われ、秋斗は肩をすくめた。ともかくこの件に関する反響は大きい。宝箱(黒)の値段も上がっており、狙い通りムーブメントを起こせたのではないか。秋斗はそう思うのだった。


アニル「MISSION COMPLETE」

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― 新着の感想 ―
[一言] 奏ちゃんも似たようなルートがあったというのとか
[気になる点] 時計にGPSとか盗聴器とか付いてないよね?
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