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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
外伝

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267/286

騎士と黒竜と白兎1

今年もよろしくお願いします。


「待っておったぞ。ちと手を貸せ」


 秋斗が大学院を卒業してからおよそ三ヶ月後。この日、アナザーワールドにダイブインした秋斗は、出待ちしていたアリスに開口一番にそう言われた。


「どした、いきなり」


「うぅむ、ちと面倒なことになっての。手を貸して欲しいのじゃ」


「ふぅん? まあいいけど。でも事情くらい教えてくれよ」


「……そうじゃな。まずは茶じゃ。茶をしょもー」


 ややヤケクソ気味にお茶を求めるアリスに苦笑しながら、秋斗は言われたとおりお茶の準備を始めた。ただアリスが待っているとは思っていなかったので、お茶菓子は全て日持ちする既製品ばかりだ。その一つを口に放り込み、アリスはふて腐れたような様子でテーブルに片肘を付く。


 アリスがこういう態度を取るのは珍しい。「面倒なこと」が起きたと言っていたが、面倒なだけでなく彼女にとってそれは不本意なことなのかもしれない。そんなことを思いながら秋斗は彼女に紅茶を差し出した。アリスは紅茶を受け取るとそこへ次々に角砂糖を投入していく。その数はいつもよりさらに多い。


(いろいろ溜まってるなぁ)


[どうやらそのようだ]


 シキとそう言葉を交わしながら、秋斗はアリスの向かいに座った。コーヒーを啜りながら個包装のチョコレートを一つ摘まむ。彼はのんびりとアリスが話す気になるのを待った。そして彼がコーヒーを飲み終えた頃、やおらアリスは口を開いてこう言った。


「…………実はな、革命を起こされた」


「そうか。……ってはあ、革命!?」


 冷静に受け止めかけて、しかし秋斗はびっくりした。コーヒーを飲み終えていて良かったと言うべきだろう。飲んでいる最中だったら盛大に吹き出していたはずだ。それくらい「革命」という言葉のチョイスは謎すぎた。


「なんでそんな面白……、意味不明なことに……?」


「おい。おぬし今、『面白い』と言ったか?」


「いやいや、まさかまさか。で、何でまた?」


 ジロリと睨むアリスの追及を笑顔でかわしつつ、秋斗はさらなる詳細の説明を求めた。アリスはしばし無言で秋斗を睨んでいたが、やがて諦めたように「はあ」とため息を吐き、こう説明を始めた。


「ほれ、おぬしが我と戦った、あの城のことは覚えておるじゃろ?」


「ああ、あの某テーマパークみたいな。やり過ぎなくらいにファンシーだったあのエリアね」


 秋斗が「夢の跡エリア」と名付けたエリアである。アリスは大きく頷くとさらにこう続けた。


「うむ。それであのエリアのモンスターどもがな、我に対して叛旗を翻したのじゃ」


「ぶっ……!」


「笑ったな? おぬし、いま笑ったな?」


「いや、だって……!」


 ついに秋斗は堪えきれなくなり腹を抱えて笑い出した。「革命」も意味不明だったが、「叛旗を翻す」はそれに輪をかけて意味不明だ。それをされたのがアリスだというのがまた傑作である。そもそもモンスターにそんな理性や知性があるのかとも思うが、彼女がそう感じたのだからそうなのだろう。それに今回の問題点はそこではない。


「なんでまとめてぶっ飛ばさないんだ? エリアごと更地にしてしまえばいいだろ?」


 アリスにはそれができるだけの力がある。難しくもなんともないだろう。むしろ片手間にやってしまいそうだが、しかし彼女は苦い顔で首を横に振った。


「どうもな、我の力に対して耐性を獲得したらしいのじゃ」


「なんてピンポイントな進化。でもなるほどね、それで“革命”か」


「うむ」


 渋柿にかぶりついてしまったような顔をしながら、アリスは重々しく頷いた。さらに「あやうく吊されるところだったわい」なんて言うものだから、秋斗はまた吹き出してしまった。そしてにっこりと笑ったアリスにスネを蹴られて悲鳴を上げる。痛むスネをさすりながら、彼はアリスにこう尋ねた。


「放置はダメなのか?」


「うむ。ちと事情がある」


「事情って? 某共産主義者みたいに反アリス主義を世界に広めようとしているとか?」


「その場合はおぬしも一緒に吊されるじゃろうな!」


 アリスがやや切れ気味にそう言うと、秋斗は「うげ」という顔をした。もちろんそんな愉快な事情のはずはなく。アリスは一度ため息を吐いてからこう事情を説明した。


「実はな、こっちの世界の防衛軍が母星に研究施設を備えた橋頭堡を建設する予定を進めておる」


「ああ、もしかして予定地だった?」


「いや、予定地ではない。じゃが橋頭堡と言ったじゃろ? つまり漸次活動範囲を広げていく予定なのじゃ」


「そこに例のエリアが入っている、と」


「うむ」


「……邪魔ならその防衛軍? に任せれば良いんじゃないのか? オレより装備も戦力も充実してるだろ」


「うむ、まあ、そうなのじゃが……」


 アリスの答えは歯切れが悪い。視線を逸らすアリスの態度に、秋斗は今回の一件が戦略的な露払いというより、彼女の個人的な事情であることを察した。要するに「自分の尻拭いを防衛軍にさせるのは心苦しい」ということなのだろう。


「ま、いいよ。協力する」


 秋斗は軽い感じでそう答えた。「オレに迷惑をかけるのはいいのか?」と思わないでもない。だが秋斗とアリスの仲だ。そんな話は今更だろう。そもそも秋斗だってたくさんアリスに助けてもらっている。それが今回は助ける側になった。それだけだ。


「そうか、すまんな。いや、礼を言う」


「で、具体的にはどうしたらいいんだ?」


 ホッとした顔をするアリスに、秋斗はそう尋ねた。何か特定のモンスターを倒せばいいのか、それとも特殊なアイテムをどこかへ運べば良いのか。アリスは「ふむ」と呟くと少し考え込み、それからこう答えた。


「……まず状況を説明しておく。あのエリアは丸ごと特殊なフィールドに覆われておる。物理的な防御力を備えた障壁ではなかったのでな、我も油断した。迂闊に突入して、強烈なデバフを喰らったわけじゃ」


「で、吊されそうになった、と」


「あまり言ってくれるな。で、命からがら外へ逃れ、さすがに腹が立ったのでの、まとめて吹き飛ばしてやろうと思って砲撃を放ったんじゃが……」


「それも防がれた、と」


「防がれたと言うよりは無力化されたという感じじゃったな。威力が勢いよく減衰していくように見えた」


 アリスはその時のことを思い出しながらそう語った。突入は論外だし、外からの攻撃も効果がない。これでは打つ手なし、だ。仕方なくアリスは一人で片づけることを諦め、こうして秋斗を巻き込むことにしたわけである。


「そのデバフってやつだけどさ、オレにも効果があったらどうすんだ?」


 アリスの話を聞いてから、秋斗はそう懸念を口にした。夢の跡エリアのモンスターのことは秋斗も覚えている。可愛らしい、着ぐるみのようなモンスターだった。目を赤々と輝かせ、武器を持っていなければ、だが。そして特別強くはなかったと記憶している。


 その普通の雑魚モンスターでしかない連中に、あのアリスが吊されそうになったのだ。つまりそれだけ彼女が弱体化したということである。そんな強力なデバフを秋斗が喰らったらどうなるのか。虚弱になりすぎて死んでしまうかも知れない、と彼は真面目に思っている。だがアリスは首を横に振ってこう答えた。


「その点については心配ない。あのデバフは我だけを対象にしておる。言ったであろう、我の力に対して耐性を獲得したようだ、と」


「それがそのフィールドってわけか」


 耐性というよりは対抗策と言った方が正しい気がするが、それはそれとして。なんにしてもデバフが秋斗には効かないのであれば、彼はいつも通りに戦えるだろう。アリスがそう保証してくれたので、秋斗はひとまず納得した。


「それで実際に何をするのかじゃが、はっきり言って何をどうすれば良いのか、我にも確かなことは分からん」


「おい」


「ただ推測はできる」


 それはアリスが吊されそうになった時のこと。その場に一体のモンスターが現われた。フルフェイス・フルプレートの騎士で、風格からしてボスクラスに間違いない。そしてその騎士は手に何か笏のようなモノを持っていた。じっくりと観察できたわけではない。だが騎士には似つかわしくないブツに見えた。


「恐らくアレは王笏レガリアじゃ。王権、つまり我の力と権威を象徴するもので、アレを持っていることが革命を成功させたことの証となっておるのじゃろう」


「そんな大事なモノをあの城に置きっぱなしにしてたのかよ」


「そんなわけなかろう。そもそも作った覚えすらないわ。本当に何がどうなっておるのか……」


 そう言ってアリスは肩をすくめながら首を左右に振った。存在しないはずのモノが存在しているとか、突っ込みどころは満載だが、秋斗はひとまずそれらを横に置く。彼は真剣な顔をしてアリスにこう尋ねた。


「じゃあ、その王笏を奪い返すか、最悪破壊すれば良い、ってことか?」


「うむ。たぶん、な」


「たぶんかよ。……でもその王笏ってアリスの力の象徴なんだろ? それを持ってるってことはその騎士はアリスの力の、少なくとも一部を使えるってことなのか?」


「分からん。じゃがあまり大きな力は感じなかった。思うにデバフのほうに力の大半を使っているか、もしくは本当にただの小道具で、舞台設定的なことはシステムがやっているのかも知れぬ」


「……後者だとしたら、システムさんはずいぶんお茶目だな」


 秋斗は肩をすくめながらそう答えた。アリスも逃げ帰ってきたクチだから、詳しい調査などはしていない。つまりこれ以上のことは分からない、ということだ。ただアリスの見立てでは、件の騎士は他のボスクラスモンスターと比べて突出した力を持っているようには見えなかったという。


「一対一で真正面から戦えば、おぬしが勝つじゃろ」


 アリスはそう太鼓判をおした。それを聞いて秋斗はもう一度肩をすくめる。どうやら照れているらしい。彼はやや視線を泳がせながらこう言った。


「じゃ、じゃあその騎士、いや王笏を持ってるなら騎士王か? とにかくソイツをぶっ飛ばして王笏を奪うってことでファイナルアンサー?」


「うむ。ふぁいなるあんさー、じゃ」


 アリスが大きく頷いてそう答え、それを見て秋斗も一つ頷く。これで何をするかは決まった。


システムさん「てへぺろ」

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― 新着の感想 ―
[一言] システムさんが犯人なのか……。 アリスクラスの力をそこらのボスモンスにまで封じるのは凄まじい能力だなぁ。 規格外な能力でヤバすぎるけど、アリスを生み出す時点でシステムの自己進化?がヤバいのは…
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