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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
オペレーション:ラビリンス

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246/286

次元迷宮No.12752その1


「アキ、アキッ! ビッグニュースだぜ!? 大学の近くにゲート出現だって!」


「知ってる。ちなみにウチから歩いて十分くらい」


「マジかよ!? オレ、もう今日からお前んちに泊まるわ」


「まだ一般開放されてねーよ」


 テンション高めな誠二に、秋斗は苦笑しながらそう答えた。八王子市の雑木林に出現した新たなゲートは、近隣住民によって発見されて警察に通報された。ちなみに石版によって確認されたシリアルナンバーはNo.12752。現在は関係各署から人が集まってきていて近づけないが、近いうちに一般開放されるのではないかと秋斗は期待している。


(というか、してもらわないとわざわざ仕込んだ意味が……)


 一般開放されず、まかり間違ってスタンピードが起こったら、秋斗の家もただでは済まないだろう。実は彼も内心でちょっとビクビクしているのだが、そのあたりは新政権に期待と言ったところか。仕方がないとはいえ人任せにせざるを得ないことが、彼は歯がゆかった。


 さて身近にゲートが出現したことを、誠二は「ビッグニュース」と叫んだが、世間一般から見ればこれはもうビッグと言えるほどのニュースではなくなっている。むしろ今注目を集めているのは、別のビッグニュースだ。


 それはあるアイテムに関するニュースだ。確認されたのはカナダの次元迷宮No.872で、ボスと思しきモンスターがドロップした宝箱(銀)から出てきたという。アイテムの名前は「封印石」。鑑定してみた結果は、以下の通りである。


 名称:封印石

 ゲートを一つ、恒久的に閉じる。


 つまり封印石はゲートを消すためのアイテムだったのだ。ゲート対策、ひいてはスタンピード対策の抜本的解決策とでも言うべきアイテムの登場に、世界は沸き立った。


 もちろんこのアイテム一つで全ての問題が解決するわけではない。だが久しぶりの明るいニュースであることは間違いなく、人々が喜んだ理由としてはそちらの方が大きいのかも知れなかった。


「ま、封印石でゲートを全部閉じることはできないんだけどねぇ」


 ニュースを見ながら、某仕掛け人はそう呟いた。仮に必要なゲートの数が1万個だとする。その内の一つを封印石で閉じると、1万と1個目のゲートがどこかに現れて全体の帳尻を合わせるのだ。


 そういう裏事情を知ってしまうと、封印石は意味のないアイテムだと思うかも知れない。だが秋斗はそうは思っていない。例えば山奥にあるなど行くだけで苦労するゲートや、出現してはいけない場所に出現してしまったゲートというのは確かにある。そういうゲートを閉じてしまうことが、想定される封印石の使い道だった。


 さて封印石についてだが、そういう裏事情を知らない幾つかの国が非公式に「譲ってくれ」とカナダ政府に打診したと言われている。だが結局、カナダ政府は自国で使うことを決定。アラスカの近くに出現したゲートを閉じるのに使った。


 そのゲートが選ばれた理由は幾つかある。一つは【鑑定の石版】で全ての情報が分かるわけではない、ということだ。鑑定結果に表われない、別の情報があるかもしれない。それを知るためにも実験は必要だが、いきなり街中のゲートで試す気にはなれなかったのだ。


 二つ目には、そこが僻地であったこと。つまりスタンピードが起きても被害は最小限に抑えられる。また三つ目として、特に冬季だが、そこへ行って攻略を行うのは一苦労である。本当にゲートを「恒久的に閉じる」ことができるなら、その手間を省くことができ、攻略部隊の負担を軽くすることができるだろう。


 そしてその結果だが、封印石は確かにゲートを閉じた。空間の歪みとしか言い様のなかったゲートは綺麗に消え去り、それが現れる前の景色が回復した。カナダ政府はその映像を公開し、大きな注目を集めた。またカナダ政府は監視を続けているが、今のところゲートが再び開く兆候はない。ただしゲートの出現自体は世界中で続いている。


 また最近注目を集めているアイテムとしては金属インゴットがある。金属インゴットは主にクエストの報酬として入手されてきた。ただ金やプラチナと言った貴金属、ミスリルやオリハルコンといったファンタジーメタルはまだ確認されていない。確認されているのは全て地上でも手に入る金属ばかりだった。


 それで、一部のレアメタルを除けば、当初金属インゴットは見向きもされてこなかった。重いしお金にならないしで、わざわざ回収して持ち帰る意味がなかったのだ。しかしある発見によって金属インゴットの価値は見直されることになる。


 アメリカのある若者が、一本のナイフを手作りしたのだ。ただしタダのナイフではない。素材を全て次元迷宮から調達して作ったナイフである。そしてこのナイフ、なんとマジックポーチに収納することができたのだ。


 マジックポーチには、次元迷宮由来の物品しか入らないことは、これまでにも知られていた。だがこのナイフによって、加工品でも次元迷宮由来の素材で作ってあれば、マジックポーチに収納できることが判明したのである。


 これによって、一気に金属インゴットの価値が見直された。次元迷宮のより深い階層を探索したり攻略したりするには、それ相応の物資が必要になる。そして持っていくべき物資の中には、当然ながら武器弾薬が含まれた。


 だが大量の武器弾薬を持っていこうとするのは大変だ。また途中の階層に隠して備蓄しておこうとしても、その場を離れてしまうとスライムなどによってダメにされてしまうことが確認されている。


 結局背負って持っていくしかないのだが、どれだけ武器弾薬を持って行けるかは重要な問題だった。次元迷宮内では基本的に補給を受けられず、持ち込める武器弾薬の量がどれだけ探索や攻略を行えるかに直結するからだ。


「マジックポーチが使えたらなぁ!」


 肩に食い込む背嚢の重みに、そう叫んだ者は多い。だがどれだけ叫んでもマジックポーチに武器弾薬は収納できなかった。だがここへ来て、それを可能にする方法が判明したのだ。つまり武器弾薬の全てを、次元迷宮由来の素材で作れば良いのだ。


 これにより、鉄や銅、鉛といったこれまでゴミ屑のように思われていた金属インゴットに注目が集まった。これらの素材で武器を作るためだ。ただ弾薬を作るためには火薬などの化学物質も必要になる。そういうモノをどうやって調達するのか、新たな課題になっている。


 持ち込む物資に関連して言えば、次元迷宮産の食料も注目されている。最大の理由は現地調達が可能だから。これにより持ち込む物資の中で食料の比率を下げることができ、より多くの武器弾薬を持ち込めるのだ。


 また金属インゴットの場合と同じく、次元迷宮産の食料もマジックポーチに収納が可能。群生地で大量に採取してそのまま持っていくことができる。そしてそれは次元迷宮に潜る時間を伸ばすことに繋がる、というわけだ。


 別の理由もある。石版からの情報によれば、「次元迷宮産の食料からも経験値が得られる」。この「経験値」が厳密に何を意味するのかはハッキリしていないが、ともかくレベルアップに繋がるモノであろうことは察せられる。ただこういう情報があっても、当初次元迷宮産の食料は避けられた。


 当然と言えば当然である。そもそも次元迷宮とは得体の知れない場所なのだ。得体の知れない場所で手に入れた得体の知れない食べ物を、いくら鑑定で「食用」と出たから言って、実際に食べてみたいと思う者はそういない。モンスターがドロップした肉なんてなおのことだろう。


「これを何の躊躇いもなく食べられるヤツがいるとしたら、そいつは間違いなく変人だな」


「ははは、間違いない」


 日本で初めてドロップ肉を確認した自衛隊員たちはそう言って笑い合ったという。それが常人の感覚だろう。やっぱりハードルは高いのだ。


 分析機関での科学的な調査も行われたが、その結果分かったのは、例えば「リンゴ」ならリアルワールドの「リンゴ」とまったく同じということだった。また「リンゴ」なら多数の品種も確認された。科学的には「安全」としか結論できないわけだが、しかしだからといって実際に口に入れるのは躊躇われる。そういう人は多かった。


 ただそうも言っていられない者たちもいる。アフリカなど、飢餓に苦しむ人たちである。次元迷宮産の食料をまず口にしたのは、そういう人たちだった。彼らは魔石やマジックアイテムよりも、まず食料を求めて攻略を行うようになった。


 これは後で分かった話だが、アメリカが一般開放を行う前から彼らは次元迷宮に出入りしていた。もちろんそれぞれの国の許可は得ていない。つまり監視体制がずさんだったのだ。いや、もしかしたらスタンピードを起こさないためにあえて見逃していた可能性もある。ともかく彼らは次元迷宮に入り、そこで食料が得られることを知ったのである。


 人気なのはもちろんドロップ肉。最初はもちろん躊躇ったようだが、「食用」と分かればハードルは下がるらしい。今ではマサイ族が集団でマンモスを追いかけているとかいないとか。ファンタジーである。


 そして次元迷宮に出入りするようになって数ヶ月。彼らは日常的に次元迷宮産の食料を食べてきたが、今のところ健康被害は報告されていない。それで、こういう人体実験じみたことを通し、次元迷宮産の食料はどうやら安全らしいと判断されたのである。


 とはいえ、次元迷宮産の食料を流通にのせるかは別問題である。実際、日本を含めて大多数の国ではそれを売買することは禁止されている。ただ個人が手に入れたモノを個人的に食べるのは規制されていない。実質的に黙認されているのが実情で、一部のハンターたちは攻略や探索の時間を延ばすためなどの理由で、次元迷宮内部で食料を調達することが良くあった。


 日本で言えばその筆頭は自衛隊である。だからこそ規制できないというのもある。前述の自衛隊員らも今ではドロップ肉を美味しくいただいているとか。人間、変われば変わるものである。本人達がそれをどう思っているかは分からないが。


 ちなみにクエストの報酬として鑑定のモノクルが出回るようになると、次元迷宮で食材探しが行われるようになった。その結果分かったのは、意外と食用品が多いということである。中にはリアルワールドで聞いたことのない食べ物もあり、次元迷宮が一般開放されてからは、ネットの情報サイトに日々新たな食材の情報が書き込まれている。


 さて十月の末、ついに八王子市の次元迷宮No.12752が一般開放された。ゲートが確認されてからおよそ一ヶ月での一般開放であり、前政権のペースと比べるとずっと早い。ただそれでも一般人の感覚からすると遅いように思えてしまうのは、現代人が我慢できなくなってきているからなのかもしれない。


 それはさておき。次元迷宮No.12752の一般開放の日、秋斗も攻略に行くつもりだった。だがあまりの人の数を目の当たりにしてテンションが急降下。Uターンして家に帰った。


「ま、少しすれば落ち着くだろ」


[いや、東京にもう幾つかゲートが現れるまではこのままかもしれないぞ]


 シキの言葉に秋斗は顔をしかめる。早いところ人出が落ち着いてくれないだろうか。彼はそう思うのだった。


秋斗「変人……」

シキ「先駆者はみな変人さ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 灰色の王のドロップ肉みたいに焼いたの食べたくなりました
[一言] > ゲートを一つ、恒久的に閉じる。 これに『閉じたゲートから一定範囲のゲート発生を防ぐ』とかあったら助かるのだろうが、それやると時間があれば全領域カバーもあり得るものな・・・
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