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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
オペレーション:ラビリンス

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次元迷宮一般開放事情2


 十月の半ば、ついにアメリカで次元迷宮の一般開放が行われた。この時点で一般開放されたのは一つだけだったが、軍の施設内にあるなどの場合を除き、他の次元迷宮も順次一般開放されていくことになっている。


 このニュースはたちまち世界を駆け巡った。一階層だけだったが、メディアのカメラも入り、次元迷宮の内部の様子が広く世界に知らされた。モンスターと戦う様子を配信する者が現れるなど、間違いなく現在最もホットな話題になっている。そしてこのニュースは秋斗の周囲でも話題になった。


「あ~あ、日本も次元迷宮の一般開放しねぇかなぁ、アメリカみたいにさ」


 秋斗の向かいでランチを食べながらそうぼやくのは、同級生の三原誠二である。鶏の唐揚げを食べながら秋斗が視線だけ向けると、彼は和風ハンバーグを箸で切り分けながらさらにこう話す。


「少なくとも一階層のスライムはスゴい弱いだろ?」


「そういう話だな」


「いやいや、コレ見てみろよ」


 そう言って誠二はスマホである動画を秋斗に見せた。アメリカの配信者が投稿した動画で、一階層のスライムがどれだけ弱いかを解説している。そのなかで象徴的なのが、カエルをスライムに投げ込むシーンである。


 薄紅色の水饅頭、つまりスライムのなかに放り込まれたカエルは、なんとその中を泳いでいる。カエルの動きはややぎこちなく、スイスイとはいかないようだが、それでも溶けたり苦しんだりする様子はない。そしてカエルは泳いでスライムの外に出て、そのままどこかへ行ってしまう背中を映して動画は終わった。


「……カエル一匹殺せないスライムか」


 動画を見終えると、秋斗は苦笑しながらそう呟いた。それを聞いて誠二は大きく頷く。そして彼はこう言った。


「そうなんだよ。他の動画だと、素手で魔石引っこ抜いているのもあるんだぜ? まあさすがに大抵のヤツはスコップ使ってるみたいだけどな」


「つまり特別な装備は必要なく、誰でも倒せるってわけだ」


「その通り! しかも一階層のスライムが自分から襲いかかってくることはほとんど無い。はっきり言って外で出てくるモンスターよりよっぽど安全だ」


 だから次元迷宮を一般開放しても問題ない、というのが誠二の主張のようだ。「二階層以降はどうするんだよ」と思いつつ秋斗は肩をすくめ、さらに別の懸念をこう指摘する。


「でもスゴく弱いってだけであって、一階層のスライムも完全に安全で無害ってわけじゃないだろう?」


「うっ、まあ、そうだけどさ」


 誠二はやや気まずそうに視線を泳がせた。今のところ、次元迷宮の一階層で人的な被害は出ていない。だが物的な被害は出ているのだ。


 これもアメリカの話である。ハンターが休憩用に持ち込んだアウトドア用のイスとテーブルが、一時間ほど放置していたらスライムに溶かされてしまったのである。さらに研究者が設置した定点カメラもスライムのせいでダメになっている。


 それで一階層のスライムは「弱いが無害ではない」と言われている。次元迷宮を危険視する者たちに言わせれば、「一階層で人的被害が出ていないのはあくまでも訓練を受けた軍人や自衛官が攻略に当たっているから」。「一般開放すれば必ず死傷者が出る」と彼らは主張している。だが誠二は鼻で笑ってこう言った。


「はっ。そういう奴らは転んで膝を擦りむいたって『ホラ見たことか』って言うぜ。交通事故で年間何人死んでると思ってんだよ」


「それはそれで極論な気もするけど。そもそもミッチーは、なんで一般開放して欲しいんだ? 金? それともレベル?」


「両方。魔石の買い取り価格下がったし、モンスターも少なくなったから、ホントに小遣いピンチでさ」


「バイト辞めなくて良かったな」


「ホントそれな。あとレベルも上げときたい。長生きできそうだし」


 誠二が冗談っぽくそう言うと、秋斗もつられて笑った。レベルアップで長生きできるかは今のところまだ確認されていない。モンスターが出現するようになってからまだ日が浅く、エビデンスが十分ではないからだ。ただレベルアップで身体能力が増すのはほぼ確定で、それなら寿命も延びるんじゃないのかとまことしやかに噂されている。


「あとはマジックアイテムとか欲しいじゃん。てか使ってみたい」


 誠二は眼に興奮を浮かべてそう言った。リアルワールドでいう「マジックアイテム」とは、今のところ「次元迷宮で発見されたアイテム」という意味で用いられている。今後変わるかも知れないが、今はそんな感じだ。


 今までに確認されているマジックアイテムは幾つかある。最も有名なのは赤ポーション。その他にも「転移石」や「マジックポーチ」などがネットを騒がせている。ちなみにそれぞれの次元迷宮の一階層にはどこかに【鑑定の石版】が置かれていて、その石版を使うことでこれらのマジックアイテムの名前などが判明している。


 転移石は次元迷宮のために秋斗が考え用意して貰ったアイテムだ。長方形の結晶体のようなアイテムで、○○-××という数字が刻印されている。特定の階層へ移動するためのアイテムで、その階層のモンスターが稀にドロップする。ちなみに鑑定の石版を使った場合は次のような感じになる。


 名称:転移石○○-××

 No.○○の次元迷宮の××階層に転移する。


 使用法が分からなくて最初の頃は混乱したそうな。なおパキッと折って使用する。基本的に一人が転移するのに転移石が一個必要で、また手で触れるなりしていないと転移されないことが分かっている。だから地面に叩きつけると、転移石は発動するが使用者は転移されず、つまりアイテムが無駄になる。


 ただし転移石は該当の次元迷宮内で使わないと効果がない。だから例えば「転移石64-01」を次元迷宮の外や次元迷宮No.64以外で使っても意味がない。アイテムが失われるだけだ。なお次元迷宮は下へ行くほどに階層が共通化していくわけだが、その場合は共通化したナンバーの転移石が使用可能だ。


 マジックポーチは収納用のアイテムだ。つまり見た目よりたくさんのモノが入るアイテムである。鑑定の石版を使って調べてみた場合はこんな感じになっている。


 名称:マジックポーチ

 1㎥


 これを初めて見た人間はワケが分からなかっただろう。「1㎥」というのは容量で、つまりそれだけの内部空間があるということだ。ちなみに容量はマジックポーチごとに異なり、現在確認されている最大の容量は6㎥。そしてポーチが収納アイテムだと思い至ったハンターは早速荷物をポーチに入れようとしたのだが、しかし弾かれてしまった。


 荷物が大きすぎた、わけではない。これは後で分かったことだが、マジックポーチには次元迷宮由来の物品しか入らなかったのだ。このことに落胆したハンターは多い。だがそれでも間違いなくマジックポーチは有用なアイテムだ。コレがあれば少なくとも大量の魔石の持ち運びに悩まされることはなくなるのだから。


 余談だがマジックポーチのこの仕様に最も安心したのは各国の税関関係者で、最も落胆したのは麻薬の密造・密輸を手がけているマフィアだと言われている。それでもマフィアはめげずに次元迷宮内でアヘンや大麻を見つけようとしているとか。その欲望でどれだけ攻略が進むのか、秋斗は楽しみでもあり恐ろしくもある。


「……やっぱ自衛隊もマジックアイテムを集めてんのかな?」


「そうなんじゃねぇの?」


 秋斗が味噌汁を飲みながらそう答えると、誠二は不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。次元迷宮でマジックアイテムを手に入れる方法は大きく分けて二つ。クエストと宝箱だ。


 まずクエストだが、これは石版と深い関係がある。つまり石版に触れることで、「~~を討伐せよ」とか、「**を○個納品」のようなクエストを受けることができるのだ。そしてクエストをクリアすると報酬としてマジックアイテムが手に入るわけである。ちなみにクエストは大抵の場合早い者勝ちだが、クールタイムが設定されていて何度でも受けることができる。


 また宝箱だが、これはモンスターがドロップすることが多い。ただし一階層のスライムからドロップしたという話は今のところない。また階層のどこかに隠されている場合もあり、アメリカではこれを探すハンターを「トレジャーハンター」と呼ぶ。なお転移石は宝箱とは関係なくドロップするので、一階層でも手に入る。


 マジックアイテムの入手の比率としては、当然ながらクエストのほうが圧倒的に多い。そして各国が公表している石版からの情報によると、「十五階層毎にクエストの石版がまとめて配置されている」という。


 ただ、クエストの石版があるのは十五階層毎の階層のみ、というわけではない。全ての次元迷宮で共通しているのは「十五階層毎にクエストの石版がまとめて配置されている」という仕様だが、他の階層にもクエストの石版が置かれていることはある。ただその場合は完全にランダムなので、探すのは結構手間だという話だ。


 まあそれはともかく。自衛隊が次元迷宮の攻略を始めてからすでにそれなりの時間が経過しているし、もう十五階層には到達しているだろう。なら幾つかのクエストをクリアしてマジックアイテムも多数入手しているはずだ。


「ホント、ずるいよなぁ。迷宮は国民の財産だっての」


 ブチブチ文句を言いながら、誠二は最後のハンバーグのひとかけらを口へ運んだ。秋斗は苦笑しながらそんな彼に自分の考えをこう話した。


「迷宮の一般開放自体はそのうちされると思うぞ」


「なんで?」


「人手が足りないから」


 秋斗は端的にそう答えた。次元迷宮の深い階層を探索・攻略しようとする場合、帰還用として一階層か二階層の転移石は是非とも欲しいだろう。だが転移石をパーティーの人数分用意するには大量のモンスターを倒さなければならない。


 二階層はともかく、一階層のスライムは激弱なのだ。つまり必要なのは戦闘力ではなく純粋なマンパワー。またこの先ゲートの数は増えていくだろうし、そうなれば自衛隊がつぎ込める攻略用の戦力も払底する。その時、次元迷宮の一般開放という流れになるのは自然なことだろう。


(そもそも、そのための転移石だしな)


 秋斗は心の中でそう呟く。攻略が進んでも、いや攻略が進めば進むほど、一階層のスライム退治が重要になる。いや一階層だけでなく浅い階層の攻略が重要になるのだ。それが彼の狙いの一つである。そして彼のそんな内心の考えを知ってか知らずか、誠二はこう尋ねた。


「なるほど……。で、それはいつだ?」


「知らん」


 秋斗は肩をすくめてそう答えた。そして「さっさと一般開放してくれないかなぁ」と呟く。彼の偽らざる本心だった。


秋斗「鑑定さんマジ鑑定さん。オレも苦労させられたぜ……」

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