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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
オペレーション:ラビリンス

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229/286

魔石強盗団2


 秋斗は感動していた。その「感動」が世間一般にいう感動と同じであったかは分からない。だが確かに彼の感情は動いていた。そういう意味で彼は感動していたのだ。


 強盗団が魔石を集める理由。その理由は「今の文明は遠からず滅びるから」だった。その懸念を考えすぎだと笑うことは、秋斗にもできない。実際、二大モンスタークラスが今後も継続的に現われたら、人類はともかく文明は崩壊しても可笑しくない。アリスのことを知っている彼がそう思うのだから、他の者たちは一層そう思うだろう。


 そして目出し帽の男をはじめとする強盗団は、文明が崩壊した後の世界に備えるために、今から魔石を集めているのだという。「円もドルも紙切れになった世界で、価値があるのは魔石である」。彼らはそう考え、行動していたのだ。


 もちろん、秋斗も「他人から魔石を奪う」というやり方が正しいとは思わない。だが彼らは考えて行動に移した。そのことに秋斗は感情を揺さぶられる。悩むだけで動けない自分と比べてしまうのだ。


(でもまあ……)


 しかしだからといって。ここで強盗団相手に萎縮してしまうことはない。自分と比べてしまったのは事実だが、それはそれとして秋斗は彼らのことを冷徹に見定めている。そして彼が下した評価は「弱い」というものだった。


 強盗団は全部で七人だが、秋斗一人で問題なく制圧できるだろう。むしろ手加減の方に意識を割かなければならない。秋斗が全力で攻撃すれば、たぶん殺してしまう。それは避けなければならない。そして彼がそんなことを考えている間に、勲と目出し帽の男の話し合いはいよいよ決裂しようとしていた。


「……で、これだけ喋ったんです。さっさと魔石を寄越して下さいよ」


「断る。コレを渡しても君たちはまた同じ犯行を繰り返すだろうからね。むしろこちらからお願いしたい。こんなことはもう止めるんだ」


「っち、老害が。偉そうに。もういい、やれ」


 目出し帽の男がそう言うと、周囲を囲んでいた者たちがさらにジリジリと間合いを詰めた。緊張感が高まっていく中で、しかし秋斗と勲は変わらず涼しい顔をしている。その二人の反応に今までと違うものを感じ取ったのか、囲んだはずの盗賊団はなかなか動けない。そんな中で秋斗は目出し帽の男を挑発する。


「どした、突っ立ってるだけか?」


「このぉ、メガネェェェ!」


 焦れていたのか、目出し帽の男は簡単に釣れた。彼は叫び声を上げながら、鉄パイプを振りかぶって秋斗に襲いかかる。秋斗は振り下ろされた鉄パイプを余裕を持って避け、斜めに切り返す攻撃も回避する。そして伸びきった男の脇腹へ左の拳をねじ込んだ。


「がっ……!?」


 レバーかキドニーか分からないが、ともかく目出し帽の男は身体を折り曲げてうずくまる。彼の仲間たちはそれを見て「あっ」と声を上げ、焦ったように動き始めるが、しかし遅い。秋斗はさらにもう一人、今度はみぞおちに左膝を叩き込んで悶絶させた。


[アキ!]


 シキの警告が飛ぶ。秋斗はその場で仰け反った。そこを何かが飛んでいく。目の前を通過するそれを、秋斗は右手で捕まえた。


「矢……? ボウガンか」


 右手で掴んだ短い矢を見て、秋斗はそう呟く。しかもご丁寧に鏃は魔石製だ。どうやら隠れている七人目は狙撃手で、そいつが彼を狙って撃ったらしい。


「ていうか顔狙いやがったな」


 秋斗は不機嫌そうにそう呟くと、七人目が隠れている場所へ向かって駆け出した。茂みに隠れているようだが、暗視のおかげでその姿はハッキリと見える。矢を掴まれ、さらに居場所がバレたことに動揺しているのか、七人目は次の矢の装填に手間取っているようだった。


 その隙をつき、秋斗は一気に間合いを詰めた。そして七人目がようやく構えたボウガンを横から蹴り飛ばす。尻餅をついた七人目を見下ろして、秋斗はそいつが女であることに気付いた。目出し帽を被っているが、胸元が膨らんでいるのだ。まさか男が胸に詰め物をしているわけではないだろう。


「確認するけど、おねーさんも強盗団の一人ってことで良いよね?」


「ち、ちが……!」


「まあ違っても人の頭狙ってボウガン撃った時点でギルティだけど」


「ご、ごめんなさ……! ゆ、許し……」


「最近じゃ警察も手一杯みたいでさ、あんまり動いてくれないみたいなんだわ。よく知ってるでしょ? だからさ、自分の身は自分で守らなきゃね」


 秋斗はそう嘯くと、さっき掴んだボウガンの矢を逆手に持ち替えて目出し帽の女へ近づいた。女は目の端に涙を浮かべ、尻餅をついたまま後ずさる。だがすぐに背中が木の幹にぶつかる。秋斗は逆手に握った矢を振り上げ、そして女目掛けて振り下ろした。


「……なんちゃって」


 秋斗が振り下ろした拳は木の幹を叩いていた。矢も木に刺さっている。目出し帽の女の頭からほんの数センチだけ上の位置で。つまり女は無傷なのだが、彼女からすれば秋斗が自分に矢を刺そうとしているように見えたとしても無理はない。


「あ、ああ、あ……」


 振るえた声が女の口から漏れる。頭を庇っていた腕がだらりと垂れ下がり、完全に腰が抜けたようで背中がズルズルと木の幹を滑り落ちた。そして股のあたりにシミが広がり、わずかにアンモニア臭も漂う。それを見て秋斗は内心で少し焦った。


「おいおい、これじゃあオレが悪いみたいじゃないか」


[うむ。見事な悪役ヒールっぷりだったぞ。ノリノリだったな]


 シキにツッコまれ、秋斗は肩をすくめた。そして目出し帽の女に向かって手を伸ばす。彼女はまた両手で顔を庇ったが、秋斗は構わず服の襟を掴み彼女を引きずって歩き出した。


「ああ、そちらも終わったか」


 戻ってきた秋斗を見て、勲が彼にそう声をかけた。二人を囲んでいた強盗団の六人は、全員が彼の足下に崩れ落ちている。心配はしていなかったが、勲もそつなく強盗団を制圧したらしい。秋斗はそこへ引きずってきた目出し帽の女を加えた。


 それから、まず秋斗は七人を拘束する。ポケットから(と見せかけて実はストレージから)結束バンドを取り出し、七人の左右の親指を背中側で結ぶ。中には抵抗する者もいたが、秋斗はそれを歯牙にもかけず、手早く全員を拘束した。


 全員の拘束を終えると、秋斗は次に彼らを並べて座らせ、さらに目出し帽を剥ぎ取る。彼らの素顔を見て秋斗は少し驚いた。七人中、男は六人で女は一人。しかも全員若い。恐らくは大学生くらいだろう。つまり秋斗と同年代だ。何となくだが強盗団は社会人だろうと思っていたのだが、それは外れたようだった。


「ったく、世も末だな」


 秋斗は小さくそう呟いた。実際、彼らも「世も末」だと思ったからこんなことをしたわけなのだが、それはそれとして。全員の素顔を確認すると、秋斗は勲の方を見て彼にこう尋ねた。


「それで、どうします?」


「そうだな……」


 そう言って勲は少し考え込んだ。秋斗としては「警察に通報しますか?」という意味だったのだが、掴まった強盗団の一人は別の方向へ想像力を働かせたらしい。彼は顔を真っ青にしながら、恐る恐る二人にこう尋ねた。


「な、なあ、あんた達、もしかしてヤクザなのか……? た、頼むよ……、見逃してくれ……! ほ、ほんの出来心だったんだ……!」


 秋斗は顔をしかめた。ただしそれは吹き出すのを堪えるためだ。だがそれを見た強盗団のメンバーたちは誤解を加速させる。彼らは次々に命乞いを始めた。秋斗が困惑して勲に視線を向けると、彼は小さく頷いてから地面に座らされている盗賊団の方へ歩み寄る。そして彼らに視線を合わせてこう話し始めた。


「少し、私の話を聞いて貰いたい」


 七人がガクガクと首を縦に振る。それを見てから勲はさらにこう語った。


「君たちはさっきこう言っていたね。『今の文明は遠からず滅びる。その時価値があるのは魔石だから、今のうちに集めておくのだ』と。それは素晴らしいことだ。もちろん他人から奪うという方法は良くない。だが将来について真剣に考え、それに備えるために行動するというのはなかなかできる事じゃない。君たちはそれができたんだ。若いのに立派なことだと思うよ」


「は、はあ……」


 思いがけず褒められて、強盗団のメンバーたちはどう反応したら良いのか分からない様子だった。そんな彼らに構わず、勲はさらにこう語る。


「魔石に眼を付けたのも冴えている。仮に文明が崩壊したとしたら、そこはきっとモンスターがはびこる世界になっているだろう。人々が求めるのはお金ではなくモンスターへの対抗手段。それに魔石は燃料になる。きっと魔石の価値は今の何十倍にもなるだろうね。本当にいい目の付け所だ」


「あ、ありがとうございます」


「うむ。……だがそこまで考えたのなら、もう少し身近なところにも目を向けてみて欲しい。文明が崩壊した世界。それはお金が紙切れになっただけの世界じゃない。生活インフラが使えなくなった世界だ。電気もガスも水道もない、もちろんインターネットもない、そんな世界だ。電車は動かないし、車だって早晩使えなくなるだろう。食べ物にだって事欠くだろうね。日本の食糧自給率は低いんだから。そんな世界での生活を、君たちは想像できるかい?」


「…………」


「もしかしたら君たちはその文明が崩壊した世界でイニシアティブを握り、独裁者のように振る舞うことを夢見たのかも知れない。だけど断言しよう。その世界で独裁者になっても、今の生活のほうがずっと快適だよ。


 スイッチを入れれば明かりが付き、蛇口を捻ればお湯が出る。ちょっと外に出れば食べ物は豊富で、治安もそんなに悪くない。インターネットで動画や音楽を楽しむことができ、さらには毎日のように新たなコンテンツが更新される。そういうのが全部無くなるんだ。どうかな?」


秋斗「ヤクザって……w」

シキ「ある意味、ヤクザよりヤバいがな」

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[一言] ったく、世も末だな ↑間違いない
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