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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
オペレーション:ラビリンス

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宇宙船の残骸の攻略3


 垂直に駆け下りる。落ちるのではない。その速度は自由落下よりも速いからだ。小さく視界に映っていた宇宙船の残骸がグングンと目の前に迫ってくる。秋斗は視線を鋭くしてタイミングを計った。


「アッシュ!」


 秋斗が叫ぶ。アッシュはそれに答えて守護障壁を張った。彼はさらに馬具の人馬一体を介してそこへ自分の魔力を注ぐ。守護障壁を強化するためだ。そして彼らは尾を引く帚星のように宇宙船の残骸へ突撃し、激突した。


 まるで雷が落ちたかのような轟音を響かせて、秋斗とアッシュが三体のラージ・キャノンがいるあの広場へ舞い戻る。天井をぶち抜いたのだ。舞い上がる砂塵や埃を切り裂いて、アッシュに跨がる秋斗が現われる。その位置は一体のラージ・キャノンの頭上。彼らは速度を緩めることなく一瞬で距離を詰める。そしてすれ違いざまに飛爪槍を叩きつけた。


「△◆‡◎▼※●☆!?」


 身体能力強化と強化服レイヴンの運動能力強化を併用し、そこへさらに速度を乗せた一撃。その一撃はラージ・キャノンを広場の底へ叩きつけるのに十分だった。六本ある脚の何本かは折れていて、見た目にも瀕死である。だが倒せてはいない。それを見て秋斗は鋭く舌打ちした。


「っち、硬いなっ!」


[浸透攻撃以外はまともに効かないと思った方が良さそうだな]


 腕のしびれに顔をしかめつつ、秋斗はシキの言葉に小さく頷く。そこへ他の二体のラージ・キャノンが砲撃を始めた。秋斗は手綱を引き、アッシュを壁面に沿うように走らせる。砲撃がその後を追い、彼の後ろで魔力弾が連続して爆ぜた。


 秋斗はアッシュの脚を生かして素早く二体目のラージ・キャノンに接近していく。だが相手はそれを嫌ったようで、多脚を駆使して逃げ回り始めた。同時に砲門を回転させて秋斗を狙う。彼は高さを維持してタイミングを計った。


「っ!」


 至近に着弾。しかも後ろではなく前だ。脆い箇所だったのか、僅かに顔を強張らせる秋斗の目の前で煙幕が広がる。「あっ」と思う間もなく、秋斗とアッシュはそこへ突っ込んだ。一瞬姿が隠れるが、彼らはすぐに煙の中から出てきた。ただし別々に。煙幕の中で、秋斗はアッシュから飛び降りたのだ。


 アッシュはそのまま壁際を駆けていき、砲撃はその後を追っていく。二体のラージ・キャノンはアッシュの動きを予測しながら砲撃をしている。だからこそ飛び降りた秋斗の動きに、すぐには対処できなかった。


「はあああああ!」


 秋斗は飛爪槍を逆手に持ち、放物線を描きながらラージ・キャノンの上へ落下する。そして着地と同時に槍の穂先を突き立てて浸透刺撃を放った。手応えに彼は口角を上げる。ラージ・キャノンの多脚が力を失いへたれ込むその瞬間、シキの声が彼の頭の中に響いた。


[アキ、跳べ!]


 秋斗は反射的に跳躍した。加減ができなかったこと、そして身体能力強化に運動能力強化が重なったことで、彼は天井付近まで跳び上がった。そこから下を見ると、ラージ・キャノンがひっくり返っているのが見えた。


 秋斗の浸透刺撃でそうなったわけではない。別の攻撃だ。彼は不吉なモノを感じながら視線を動かす。すると最初に広場の底へ叩きつけ、瀕死になっていたはずのラージ・キャノンの砲門が彼の方を向いていた。


 ぶわりと吹き出す冷や汗。アッシュはすぐに助けに来られる位置にいない。彼は咄嗟に両腕を交差させて顔を庇い、身体を丸めて被弾面積を小さくした。さらに強化服レイヴンにインストールしておいたインスタントアーマーの魔法を発動させる。同時にシキもマジックガードを彼にかけた。


 そしてラージ・キャノンが砲撃を放つ。魔力弾は秋斗を直撃した。インスタントアーマーで減衰させ、マジックガードで防いでいるにもかかわらず、骨が軋むような衝撃に彼は息を詰まらせる。そのまま彼は吹き飛ばされて壁に激突した。


「くそっ……」


 悪態を吐きつつ、秋斗はもう一度しっかり敵の姿を確認する。そして眼を見張った。瀕死だったはずのラージ・キャノンの周りに他のモンスターが集まり、どうやら修理しているらしいのだ。


(攻撃できた理由はコレか……! ってか、じゃあさっきのは!?)


[浸透攻撃を叩き込んだのは、さっき魔素へ還ったぞ]


 シキの返答を聞いて、秋斗は少しだけ安心した。だが手をこまねいていれば、修理中のラージ・キャノンがまた動けるようになってしまう。彼は身体能力強化と運動能力強化を併用して一気に壁面を駆け下りる。そしてスピードを落とさずに修理中のラージ・キャノンへ向かった。


 そこへ群がるのは多数のドローン。だが秋斗はそれを無視した。守護障壁がないので、次々にドローンが彼の身体にぶつかる。それは体当たりを受けているに等しかったが、彼は頓着せず弾き飛ばしながら進んだ。


「△◆‡◎▼※●☆!」


 そこへまた砲撃。どうやら砲門は動くようになっているらしい。秋斗は鋭く舌打ちをすると、直線的な動きを止めてジグザグに走りながら間合いを詰めた。そして周囲にいたインセクト・キャノンを踏みつけてラージ・キャノンの懐へ潜り込む。


 飛爪槍を振り回し、まずは浸透斬撃。さらに石突きを使って浸透打撃。二発の浸透攻撃を受けて、ラージ・キャノンは今度こそ崩れ落ちた。それを確認すると、秋斗はすぐに駆け出した。そしてアッシュを呼ぶ。


「アッシュ!」


 アッシュは三体目のラージ・キャノンの注意を引きつけていたのだが、秋斗が呼ぶとすぐに彼のところへ合流した。ただ足を止めるとそこを狙い撃たれる。秋斗はアッシュと併走し、そしてその背に飛び乗った。彼が背に乗ると、アッシュはすぐに宙へ駆け上る。


 秋斗は手綱を操り、最後のラージ・キャノンの頭上を取ろうとする。ラージ・キャノンもそれを察して動き回るのだが、機動力は圧倒的にアッシュの方が上だ。秋斗はすぐに有利な位置を取り、そこから急降下して浸透刺撃をくらわせた。


 一撃では倒せなかったが、底へ落ちた衝撃もあってラージ・キャノンはほぼ瀕死だ。だが放っておけばまた修理されてしまう。秋斗は素早く手綱を操り、墜落したラージ・キャノンのもとへ向かう。そして止めをさした。だがモンスターはラージ・キャノンだけではない。秋斗はすぐに高度を上げた。


「ふう」


 天井すれすれの高さで、秋斗はようやく一息ついた。ついでに集気法で魔力を回復する。人馬一体を介してアッシュの魔力も回復させ、それから彼はシキにこう問い掛けた。


(シキ。ラージ・キャノンのドロップは?)


[回収できている。魔石はボスクラスだった。あとはパーツが少々]


 それを聞いて秋斗は一つ頷いた。ラージ・キャノンがボスクラスだったことに違和感はない。だが同時に彼はこれで終わりではないとも感じていた。彼は視線を鋭くして広場の壁面に空いている亀裂に視線を向ける。


 もともとあったのか、それとも新たにできたのか。亀裂自体はありふれている。だが彼がそこに注目したのはもちろん理由があった。


(シキ、あそこだよな?)


[うむ。あそこからモンスターが出てきていた]


 実際、亀裂の周りにはモンスターが多数たむろしている。それはその入り口を守っているようにも見えた。これまでにはなかったことだ。ということは近いのかもしれない。ここの機械系モンスターを生み出す場所、もしくは存在が。


 秋斗は魔石を握った。そして思念を込めつつアッシュを走らせる。魔石を亀裂付近に投げ込むと、雷魔法が発動して紫電が広がった。周りにいたモンスターは力尽きるか動けなくなるかなってから、秋斗は悠々と亀裂をくぐった。


 亀裂の向こう、つまり壁の向こうはずいぶん雰囲気が違っていた。大量のケーブルが張り巡らされ、さらに所々から光が漏れている。この宇宙船の残骸は完全に死んでいると思っていたが、ここはまだ生きているのだ。そしてその部屋の中心にソレはいた。


 その姿を何と形容しようか。一言で言えばグロテスクな機械だった。巨大で、アームや触手のようなケーブルがたくさん生えていて、それらがウネウネと蠢いている。そしてその先端に魔素を集束させたかと思うと、次の瞬間には機械パーツが生まれており、それを組み合わせてここのモンスターを作っているのだ。とりあえず秋斗はこのモンスターを「マザー」と呼ぶことにした。


[ほう。魔素から機械パーツを作るモンスターか。捕獲できれば有効利用できそうだが]


(アレをストレージに入れておくのはイヤだぞ)


[それは残念。では倒すしかないな]


 シキも本気ではなかったのだろう。言葉ほど残念な気配はさせず、むしろ「さっさと倒せ」と秋斗を促した。秋斗はアッシュに跨がりながら飛爪槍を構えたが、マザーもそれに反応する。さらに作り上げたばかりのモンスターたちも彼に照準を合わせた。


 そして火蓋は切られる。戦闘はモンスター側の一斉掃射で始まった。煙や埃が立ちこめる中、秋斗はアッシュを駆けさせる。ただ部屋の中はアッシュを自由に駆けさせられるほど広くはない。それで最初から守護障壁を硬くして対応した。雑魚には構わない。狙うのはマザー。秋斗は守護障壁を頼りに、一直線に間合いを詰めた。


「△◆‡◎▼※●☆!」


 敵が近づいてくるとマザーも反応する。アームや触手のようなケーブルが秋斗に殺到した。彼はそれを飛爪槍で切り払う。そして守護障壁を張ったまま突進して体当たりすると、マザーは大きくよろめいた。その隙を見逃さず、秋斗は槍の穂先を突き刺す。そして浸透刺撃を放った。


「△◆‡◎▼※●☆!?」


 マザーがうずくまるようにして力を失う。だがまだ倒せてはいない。秋斗は素早く飛爪槍を振り回し、今度は連続して浸透打撃を喰らわせた。手数優先だったので幾つか不発だったものの、瀕死の相手にはそれで十分。マザーは完全に力を失い、黒い光の粒子になって消えたのだった。


 マザーを倒しても、他のモンスターはまだ残っている。だがもう増援はない。秋斗は部屋の中に残っているモンスターを手早く片付けた。「ふう」と息を吐いてから部屋の中を見渡すと、マザーを倒したからなのかずいぶん広く感じられた。


(マザーは弱かったな)


[うむ。生産特化だったのだろう。ラージ・キャノンが護衛だったのではないかな]


(多分な。で、ドロップは?)


[ボスクラスの魔石が一つと、あとは黒箱だな]


 黒かぁ、と秋斗は苦笑する。宝箱(黒)は罠付きなのだ。しばらくはストレージの肥やしだろう。とはいえ今回のメインターゲットはコレではない。


[アキ。残敵を掃討してくれ。それからゆっくりと探すとしよう]


「了解。んじゃ、やりますか」


「ブルゥゥ」


 嘶くアッシュの首筋を撫でながら、「アッシュもよろしくな」と秋斗は声をかけた。宇宙船の残骸は大きい。どこかで休憩を挟まないとだろう。その時には果物でも食わせてやらないとだな、と彼は考えるのだった。



マザーさん「引きこもりの生産職に戦闘とかムリだから!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいなあ生産ユニット。 超ほしいですね。
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