宇宙船の残骸の攻略2
なんやかんやあってボロさ加減に拍車がかかったとはいえ、そこはやはり宇宙船の残骸。構造物として見ればかなりの大きさがある。アリスが言っていた「ボスっぽいモンスター」も中にいるわけで、つまり攻略のためにはまず内部へ突入しなければならない。
ボロいだけあって突入ルートは幾つもある、ように思える。遠目に見ているだけでも中には入れそうな場所は何カ所かあるし、上空から見たときも同じだった。ただ秋斗は正規ルート、つまり増援のモンスターが現われる場所から突入するつもりだ。
[増援が現われるということは、少なくとも出現場所からそこまでの移動ルートは確保されている、ということだからな]
シキの言葉に秋斗も頷く。それに正規ルートは上下に開くハッチが出口(突入口)になっている。宇宙船の構造的にも通路が繋がっていたはずで、内部の移動はしやすいはずだ。崩落などによって通路が塞がれている場所もあるだろうが、空を駆けるアッシュの能力があれば、進めなくなってしまうことはないだろう。
さて、アッシュの脚は速い。駆けさせるとすぐにインセクト・キャノンやドローンが反応する距離になった。秋斗が着替えていた間にまた少し敵の数は増えていて、砲撃もやや激しくなっている。また騎乗した状態では小回りは利かず、加えて的も大きい。つまり回避は難しい。それで秋斗はこう命じた。
「行けっ、アッシュ!」
「ヒィィィン!」
秋斗の声にアッシュが応える。そして守護障壁を展開して砲撃を防ぐ。アッシュはそのまま真っ直ぐに走り、モンスターの群れの目前で大きく跳躍した。アッシュは宙を数歩駆け、つまりインセクト・キャノンらの頭上を飛び越えて、モンスターの群れの後ろ側へ着地する。ちなみに群がってきたドローンは秋斗が飛爪槍を振り回して多数叩き落とした。
「△◆‡◎▼※●☆!」
着地したアッシュへ、後方にいたバニッシャーが攻撃を仕掛ける。両手にビームソードを構え、二つの背部砲門を撃ちながら多数のバニッシャーが接近してくる。秋斗は素早く視線を巡らせた。頭上を飛び越えられたインセクト・キャノンは方向転換に手間取っている。ドローンは数が少なくなっているし、増援はやはりまばらだ。
バニッシャーを無視して突入するのは簡単だ。だが後を追ってこられると、最悪挟み撃ちの可能性がある。なら、小回りが利いて攻撃力もあるバニッシャーを突入前に倒しておくのは悪くないように思えた。
秋斗は手綱を引いてアッシュを走らせる。バニッシャーの砲撃も、動いている相手には命中精度が良くない。たまに当たる分も、守護障壁が問題なく防いだ。秋斗はビームソードの間合いには入らず、刺突や伸閃を駆使してバニッシャーを一体ずつ狩った。
[アキ、そろそろインセクト・キャノンがこちらを向くぞ]
(あいよ!)
最後のバニッシャーの胸を刺突で貫き、それから秋斗はアッシュの手綱を引く。馬首を巡らせたアッシュは、突入口であるハッチの方へ駆け出した。インセクト・キャノンたちはガショガショと動きながら、その背中に砲門を向ける。
ハッチからも増援が現われる。ただ突っ込んでは来ず、砲を並べて迎撃の構えだ。バニッシャーを片付けている間に数がたまったのか、その厚みは無視できない。位置関係からしても、挟み撃ちのような格好である。
だが秋斗は構わずにアッシュを走らせた。そしてインセクト・キャノンらが砲撃を行うその瞬間、アッシュの手綱を引いて大きく跳躍させ、そのまま数歩宙を駆けさせる。そうやって砲撃を回避したのだが、彼の狙いはそれだけではなかった。
彼を捉えそこねた砲撃は、前後それぞれにいたモンスターの群れに突き刺さった。派手なフレンドリーファイアである。もともと同士討ちを気にしない傾向はあったが、ここまで大規模なのは珍しい。そして派手なフレンドリーファイアのために、モンスター側の攻撃が一時的に沈黙した。
「よしっ!」
秋斗は歓声を上げると、その隙を見逃さずに突撃した。馬上で槍を振り回し、伸閃と刺突を駆使して敵の防衛線を食い千切る。中から現われる増援は断続的で脅威にならない。アッシュは軽やかにハッチカバーを駆け上り、宇宙船の残骸の内部へ突入する。
ハッチはもともと物資の搬入口なのだろう。突入してすぐの場所は、広い空間になっていた。照明はついておらず、崩れた場所から日の光が差し込んではいるものの、やはり薄暗い。秋斗はすぐに暗視を使って視界を確保した。
(シキ、俯瞰図もくれ)
[了解]
シキがそう答えると、すぐ秋斗の視界に俯瞰図が表示される。それを見て秋斗は小さく頷いた。やはり障害物が多くて入り組んだ場所では俯瞰図があった方が良い。そしてモンスターが現われる方向を俯瞰図で確認し、手綱を引いてアッシュの馬首をそちらへ向けた。
「△◆‡◎▼※●☆!」
インセクト・キャノンが砲撃を放つ。それを守護障壁で防ぎつつ、秋斗はアッシュを突撃させた。敵を全て倒すことには拘らない。ドローンに至ってはほぼ無視だ。邪魔になるモンスターだけ倒しながら、秋斗は先を急いだ。
通路へ入ると、敵の攻撃は激しさを増した。フィールドが狭くなったせいで、敵の密度が上がったのだ。その上、通路にはいろいろなモノが散乱している。剥がれ落ちた金属パネル、垂れ下がったケーブル、何かしらの機械パーツに正体不明の備品らしきモノ。まさに足の踏み場もないといった感じだ。
そのせいでモンスターは進みにくそうにしているが、アッシュも進みにくそうにしている。だがこの場合、有利なのはモンスターの側。秋斗は小さく舌打ちをすると、手綱を引いてアッシュに宙を駆けさせた。天井に頭をこすりそうになるが、姿勢を低くしてしのぐ。
「アッシュ、防御頼んだぞ!」
「ヒィィィン!」
アッシュが嘶き、守護障壁がインセクト・キャノンの砲撃を防ぐ。ついでに群がるドローンも弾き飛ばしながら、アッシュは通路を駆け抜けた。
[次の曲がり角、左だ]
シキのナビに従い、秋斗が手綱を操る。角を曲がると、そこに待ち構えていたのはバニッシャーの一団。ただしビームソードではなくシールドを装備している。シールドを構えたバニッシャーが横一列に並んで、道を通せんぼしているのだ。そして背部砲門を水平に構えて侵入者排除の意思を見せている。
「やっぱりそういう使い方するよな!」
[どうする?]
「突っ込む!」
「ブルゥゥ!」
秋斗の声にアッシュが応える。彼は守護障壁が一段強化されたのを感じた。そのための魔力は馬具の人馬一体を介して彼が供給しているのだが、体感としてはまだ余裕がある。それで彼は目の前の敵に集中した。
バニッシャーの一団が砲撃を始める。アッシュの守護障壁はその攻撃をまるで雨粒のように弾いた。秋斗はニヤリと口角を上げる。そして飛爪槍を突き出して刺突を放つ。その攻撃はシールドに防がれたが、重い衝撃を受け止めきれず、バニッシャーが体勢を崩す。そこへ守護障壁を展開したままのアッシュが突撃した。
「△◆‡◎▼※●☆!?」
アッシュに弾き飛ばされ、横一列に並んでいたバニッシャーの隊列が崩れる。間髪を入れずに秋斗は飛爪槍を一閃。二体のバニッシャーを仕留めた。もう一体を突き飛ばし、完全にルートが開くと躊躇わずにアッシュを駆けさせる。残ったバニッシャーが砲撃しながら追ってくるが、脅威は感じない。秋斗は後ろを振り返らず、前だけ見てアッシュを走らせた。
通路の先は開けた空間になっていた。ただし瓦礫の散乱が酷い。もともと広い空間だったというよりは、幾つかの区画が崩落して潰れ、結果として広くなったように感じる。天井は一応健在だが、穴だらけで筋状になった日の光が幾つも差し込んでいる。幻想的とも言えるその光景に、秋斗はつい足を止めた。
[アキッ!]
突然、シキの警告が秋斗の頭の中に響く。彼は反射的に手綱を引いてその場から飛び退いた。ほぼ同時に彼の隣で爆発が起こる。彼は顔を強張らせてアッシュを走らせた。その後を追うように爆発が連続して起こる。巻き込まれた他のモンスターがスクラップになって魔素へと還り、立ち上る煙と埃が開けた空間の中に充満していった。
「砲撃……!」
アッシュを走らせながら、彼は攻撃の種類をそう見極めた。撃っているのはインセクト・キャノンと同種の魔力弾。ただし威力ははるかに高い。「新手か」と彼は小さく呟いた。何度も撃ってくれたおかげでおおよその位置は分かる。さらにシキがこう言った。
[見つけたぞ]
同時に秋斗の視界に敵の位置を示すアイコンが表示される。敵がいるのは上。壁際の、崩落せずに残っている上の階の一部だ。秋斗は見慣れた他のモンスターは無視してアッシュに宙を駆けさせ、その敵へ肉薄した。
近づくにつれて、敵の姿ははっきりと見えてくる。そこにいたのはインセクト・キャノンに似たモンスターだった。ただし有している砲門はより巨大で、さらに六本の脚は長くて機動力がありそうに見える。全体的なサイズもインセクト・キャノンよりかなり大きい。秋斗はこの新手のモンスターを「ラージ・キャノン」と呼ぶことにした。
[アキ、他にも同じのが二体だ]
シキの報告に秋斗は無言のまま頷く。まだ攻撃してこないのは隠れているつもりなのか。シキの索敵能力の前には無駄だったようだが。秋斗もその二体のことには気付いていないふりをし、最初の一体へ向かって距離を詰める。ラージ・キャノンは連続で砲撃して迎え撃つが、素早く宙を駆けるアッシュを捉えることができない。
秋斗とアッシュが一定の距離まで近づくと、ラージ・キャノンは砲撃を止めた。そして六本の脚を曲げて大きく跳躍する。飛びついたのは壁面で、六本の脚を器用に使いながらまるでアメンボのようにそこを這い回り、同時に砲撃を行った。ただ動きながらであるので、命中精度は悪い。
秋斗は手綱を引き、身体を傾けまるで壁を駆けるようにしながらその後を追う。普通なら、背後を取れれば有利になる。だがラージ・キャノンは砲門を回して後を追う彼に照準を合わせた。
そして撃つ。砲撃は三つ重なった。隠れていた二体も攻撃を始めたのだ。どうやら最初の一体は、残りの二体が攻撃しやすい位置へ秋斗を誘導していたらしい。攻撃が激しくなり、秋斗は一旦距離を取った。三体のラージ・キャノンの砲撃がそれを追う。幾つもの魔力弾が壁面で爆ぜた。
その攻撃を避けつつ、秋斗はほぼ垂直に天井を目指した。そしてそのまま天井に空いた穴から外に出る。上空何百メートルかまで上昇すると、彼はそこで手綱を引いた。ちょっと小休止である。「ふう」と息を吐き、さらに集気法で魔力を回復する。それから宇宙船の残骸を見下ろしてシキにこう尋ねた。
(シキ、あの三体は捕捉できるか?)
[可能だ]
「よし。んじゃ、行きますか」
「ヒィィィン!」
アッシュが嘶いて秋斗に答える。そして彼らはまるで稲妻のように、一直線に宇宙船の残骸へ突撃した。
ラージ・キャノンさんA「我ら自宅警備員!」
ラージ・キャノンさんB「余分三兄弟ではないのだよ!」
ラージ・キャノンさんC「ちょっと大きくなりすぎて外に出られないだけなのだ!」




