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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
オペレーション:ラビリンス

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宇宙船の残骸の攻略1


 二月のある日。強い寒気が入って来ているとかで、この日は珍しく東京にも雪が降った。北国と比べれば東京の冬は比較的温暖だが、やはり雪が降ると一段と寒く感じる。だが世の中の人々は、暖房の設定温度を今までよりも低くしているだろう。


 近頃は電気代も高止まりしている。政府は補助金を出しているが、上昇分全てをカバーしてくれているわけではない。それに財源は国債だ。結局のところは、巡り巡って国民が支払うことになる。


 秋斗もまた、その影響を受けている。ただ彼の場合、ポータブル魔道発電機があるので、電気代については他よりも影響が少ない。とはいえ値上がり傾向は電気に限った話ではなく、彼もまた生活費の高騰には渋い顔をせざるを得なかった。


 さてそんな秋斗だが、彼は今日も今日とてアナザーワールドへ来ていた。アリスとあれこれ相談や打ち合わせをするため、ではない。個人的な攻略のためである。きっかけは昨日の夜にシキとした何気ない会話だった。


『シキ。そういえばアッシュの角って、どうした?』


[アッシュの角……? ああ、麒麟の角か。どうもせず、保管してあるが]


『じゃあ、まだ何にも使ってないんだ』


[まあ、そうだな。何か使いたいことでもできたのか?]


『いや、そういうわけじゃないけど。良い素材なんだろ? なんで使わないんだ?』


[良い素材だからだ。角はそれだけでは使えない。せいぜい彫刻を彫るくらいだが、美術品を作っても仕方がないだろう?]


『そりゃ、まあなぁ』


[であれば、何か合せるための素材が必要になる。それもただの素材じゃない。麒麟の角に釣り合うような素材だ]


『だけどそういう素材が手持ちにはない、ってことか。心当たりもないのか?』


[ないな。あ、いや、心当たりと言えるようなモノではないが……]


『なんだ、何かあるのか? 言っちゃえよ』


[例の宇宙船の残骸だ。アレは要するに金属の塊だからな。それも恐らくは、多種多様な金属が使われている。その中にもしかしたら……]


『麒麟の角に釣り合うような素材があるかもしれない、か』


 いいね、と呟いて秋斗はニヤリと笑った。そんなわけで宇宙船の残骸の攻略が一つ目の前の目標になったわけだが、ここでちょっと話がややこしくなる。もともとこの宇宙船の残骸は、秋斗が奥多摩からダイブインした際に見つけたモノだ。それを宝箱(緑)に収納してホームエリアまで持ち帰った。


 そして二大モンスターをどうにかしなければならなくなった時、秋斗はバハムートを宝箱(緑)に収納(封印)することを考えた。宇宙船の残骸と一緒に多数のモンスターも収納することができていたからだ。つまり宝箱(緑)にはモンスターも入れることができる、ならバハムートもいけるのではないか、と考えたわけである。


 ただしそのためには、すでに宝箱(緑)に収納してある宇宙船の残骸を外に出す必要があった。宝箱(緑)は今のところ一つしか無いからだ。バハムートを入れるためには、それを空にする必要がある。


 ただ宇宙船の残骸を外に出すと、そこからモンスターが際限なく現われてしまう。ホームエリアのすぐ近くに置いておいたら、ここの環境をまるっと変えられてしまう可能性がある。物価高のこの時代、食材などの調達ができなくなると困るので、秋斗としてはそれは避けたかった。


 そんなわけで。秋斗はホームエリアから少し離れた場所に宇宙船の残骸を置いておくことにした。具体的に言うと、アッシュに一時間ほど空を駆けさせた距離だ。川を何本かまたいだので、あそこから現われたモンスターがホームエリアを侵略することはまず無いだろう。とはいえそのために、目的地へ行くまでに多少の手間がかかるようになったのも事実である。


「お~い、アッシュ~」


 ホームエリアの廃墟の一つ、その庭の木陰で寝ているアッシュを秋斗が呼ぶ。アッシュは薄く眼を開けたが、すぐに閉じて昼寝の続きと洒落込もうとする。この通りアッシュはなかなか気まぐれで、そう簡単には背中に乗せてくれない。


 だが最近では秋斗もアッシュの扱いに慣れてきて、こんな時にどうすれば気を引けるのかも把握している。彼は小さく肩をすくめると、ストレージから大きめのボウルを取り出した。ラップが張ってあり、中にはスティック状に切ったニンジンが三本分入っている。彼はラップを取ってニンジンを見せつつ、さらにこう言った。


「ほ~ら、アッシュ、ニンジンだぞ~。ドレッシングもかかってるぞ~」


 アッシュの耳がピクリと動く。そしてのそっと立ち上がると、秋斗の方へは一瞥もくれず、彼が持つボウルに首を突っ込んだ。そしてドレッシングのかかったニンジンをモシャモシャと食べる。ちなみにドレッシングはさっぱり塩レモン風味。


(しっかし、アッシュは馬型だからニンジン好きなのは良いんだけどさ、ドレッシング好きってどうなのよ)


[それは馬としてか、それともモンスターとしてか?]


(……どっちも?)


[病的に砂糖が好きな人型モンスターもいることだし、別に構わないだろう]


(まあ、それもそうか)


 秋斗が妙な納得の仕方をしている間に、アッシュはニンジンを食べ終えた。それを見て秋斗は小さく苦笑する。最近は高いのだ、ニンジンも。とはいえこれは必要経費である。確定申告には反映できないが。


「ブルルル……」


 ニンジン(ドレッシングかけ)を食べ終えると、アッシュは小さく嘶いて秋斗に軽く頭を擦りつける。秋斗はアッシュの首筋を撫でた。アッシュの鬣は今日もサラサラである。ともかくコレがオッケーの合図。秋斗は馬具「人馬一体」を取り出してアッシュに装着した。


「これでよし、っと」


 馬具の装着を終えると、秋斗は鐙に足をかけてアッシュの背にまたがる。そして合図を送ると、アッシュは軽やかに空へ駆け上がった。そしてそのままアッシュを駆けさせることおよそ一時間。ようやく宇宙船の残骸が見えてきた。


 正直、もっと近くにすれば良かったと思わないでもない。ただ今更何を言ってももう遅い。宝箱(緑)にはバハムートを収納(封印)してある。これを外へ出すことはできない。秋斗にできるのは、せいぜい往復回数を少なくするくらいである。


 それで宇宙船の残骸だが、こちらは最初に見つけた時よりもさらにボロくなっていた。その理由は単純で、ここへ出したとき、地上ではなく空の上から出したのだ。つまり数十メートルの高さから落としたせいで、あちこちがさらに壊れてもっとボロっちくなったのである。


「結構衝撃があったからなぁ」


 アッシュにまたがりながら、秋斗はそう呟く。あの時は轟音と共に土煙が盛大に舞った。空気の振動もビリビリと伝わってきたので、地表では震度7くらいの揺れになったのではないだろうか。秋斗はそう思っている。


 さて秋斗は手綱を操り、宇宙船の残骸から200mほどの場所にアッシュを着地させる。そして一度アッシュから降りた。それを見計らってシキが彼にマジックガードの魔法をかける。秋斗は一つ頷くと、首筋を撫でながらアッシュにこう声をかけた。


「じゃ、ちょっと一当たりしてくるから。このへんで待ってて」


「ブルルゥゥ」


 小さく嘶いてから、アッシュが茂みの中に身を隠す。それを見届けてから秋斗は大きく深呼吸をし、それからゆっくりと駆け出した。彼は宇宙船の残骸の方へ向かって少しずつ加速していく。


 秋斗が宇宙船の残骸へ接近していくと、周囲のモンスターたちもそれに反応し始める。まずインセクト・キャノンが砲撃を開始し、ドローンも動き出す。見える範囲にバニッシャーの姿はまだない。


「△◆‡◎▼※●☆!」


 インセクト・キャノンの砲撃を一つ回避し、もう一つを切り払うと、秋斗は身体能力強化をかけて一気に加速。敵の群れの中に飛び込んだ。彼は素早く竜牙剣を振り回し、同時に伸閃を使って周囲の敵を切り裂いていく。そしてそうやって戦っているうちに、彼はあることに気がついた。


(敵の増援が、少ない……?)


 宇宙船の残骸に近づこうとすると、中から際限なく増援が現われる。これまではずっとその物量によって、秋斗は宇宙船の残骸に近づくことができなかった。どうしても途中で息切れしてしまうのだ。


 だが今回はどうも様子が異なる。増援は確かに現われているのだが、これまでのような圧力を感じない。むしろ敵の数はだんだんと減っているようにすら感じる。それを肯定してシキもこう言った。


[確かにこれまでと比べて増援が少ないな。こちらが倒すペースのほうが速い]


「やっぱりか!」


 秋斗は歓声を上げた。原因は恐らく、宇宙船の残骸を空から落としたことだろう。そのせいで内部にも被害が出たに違いない。要するにモンスターを生産(もしくは生成)させる設備がダメージを受けたのだ。


(これは……!)


 これは本当に、この宇宙船の残骸を攻略できるかもしれない。秋斗はそう思った。今回の目的はあくまで素材探しだが、そのためにも「攻略して増援が際限なく湧くのを止める」というのは選択肢としてはアリだろう。


 内部に突入したことのあるアリスからは、「ボスらしきモンスターはいた」という情報を貰っている。ならそのボスを倒せば増援は止まるのではないか。ゲーム的に考えれば、その可能性は十分にある。


(よし、やってみよう……!)


 そう決めると、秋斗は一旦その場から離脱した。敵の数はずいぶんと減っていて、そのおかげで追撃はかなりヌルい。彼は悠々とアッシュのところへ引き返した。そして本格的な攻略のために準備を整える。とは言っても、強化服レイヴンに着替えるだけだが。


「シキ、槍出して」


 強化服に着替えてアッシュにまたがると、秋斗はシキにそう頼んだ。するとストレージが開いて槍の柄が出てくる。秋斗はそれを引き抜いた。使うのはダマスカス鋼とワイバーンの爪を使った槍。ちなみに「飛爪槍」と名付けた。


「んじゃ、行きますか」


「ブルルッ」


 秋斗が好戦的な笑みを浮かべると、アッシュも嘶きを上げてそれに答える。そして秋斗とアッシュは宇宙船の残骸へ向かって突撃した。


アッシュ「ほ、本能に逆らえないだけなんだからねっ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] アッシュはチョロインだった?
[一言] 不調っぽい宇宙船、やっぱり地面は最強武器。 モンスターにとって食事は娯楽なのかな、なので栄養ではなく味とか刺激で好みがわかれてるのかな。
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