表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
オペレーション:ラビリンス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/286

二大モンスター2


 バハムートとリヴァイアサン。どちらが先に出現したのかは定かではない。ただ先に確認されたのはバハムートの方だった。太平洋に現われたダークネス・カーテンのど真ん中に、巨大な竜の影が現われたのである。これがバハムートだった。


 バハムートはダークネス・カーテンを従えるようにしながら、太平洋の上空を不規則な軌道で周回し続けた。ダークネス・カーテンが濃いとその姿はほとんど見えなかったが、薄いときには姿を確認することができた。


 最初にバハムートの姿を捉えたのは衛星である。詳細な姿は分からなかったものの、どうもドラゴンらしきモンスターであることは分かった。ただしその体躯は巨大である。衛星画像を解析した結果、翼を広げたその翼幅は200mほどもあったのだ。


 これほど巨大なモンスターはなかなか例がない。どうやって飛んでいるのかさえ意味不明なレベルである。とはいえ巨大なモンスターはそれだけで厄介な存在であることは、これまでの経験則で分かっている。


 すでに被害は出ているし、またいつ環太平洋の国々が直接攻撃されるかも分からない。ダークネス・カーテンが薄くなるタイミングを狙い、アメリカ軍が五機の戦闘機を飛ばして討伐を試みた。


 しかしこの攻撃は失敗に終わる。合計で20発の空対空ミサイルを撃ち込んだのだが、バハムートを撃墜することはできなかったのだ。五機の戦闘機のパイロットたちは口汚くバハムートを罵ったが、しかしそれ以上できることはもう何もない。帰投するするべく機首を巡らそうとした次の瞬間、黒紫色の閃光が空を貫いた。


「なんだっ!?」


「攻撃か!?」


「クソッ、04がやられた!」


「ブレイクッ、ブレイクッ、散開しろ!」


 四機の戦闘機は編隊を崩してそれぞれバラバラに散らばった。そこへ巨大な影が突っ込んでくる。いや、影ではない。アレこそが実体だ。全身をまるでペンキで塗りたくったかのように真っ黒なドラゴンが、真っ赤な双眸を怒らせて現われたのである。


「オーマイガー……。ドラゴンだぜ、ありゃ……!」


「ウソだろ、無傷じゃないか……」


「……っ、03! 後ろを取られるぞ、離脱しろ!」


「ヤロウ、戦闘機のスピードに付いてこられるってのか!?」


 03はエンジンを吹かして加速する。だがバハムートは引き離されるどころかぐんぐんと距離を詰める。そしてあっという間に追いついて03を右腕の一振りで破壊した。


 03の反応が消えたのを見て、リーダーである01は「クソッ」と悪態をつく。そして作戦司令室へこう通信を入れた。


「司令室! 04につづき03がやられた! こちらにはもう機関銃しかない! 至急来援を請う!」


「01へ、離脱できないのか?」


「向こうの方が速い! フルスロットルで吹かせて追いつかれたんだぞ!?」


「了解した、スクランブルをかける。だが今すぐ発進させても、そちらへ到着するまでに20分はかかる」


「くそっ、何とかもたせてみせる!」


「幸運を祈る」


 01は顔を険しくしながら操縦桿を握った。しかし彼らの奮闘もむなしく、8分後には全ての戦闘機が撃墜された。一機は突進を回避したところを尻尾に打たれて真っ二つにされ、もう一機は翼で打ち据えられて墜落し、最後の一機は巨大な顎にかみ砕かれた。そして五機の戦闘機を容易く撃墜して見せたバハムートは、悠然とダークネス・カーテンの中へ姿を消したのだった。


 攻撃隊が全滅したことで、スクランブル発進した戦闘機隊は反転して空母へ帰投した。仲間を救えなかったことは、彼らにとって痛恨事である。しかし同時に彼らは少なからず安堵を覚えてもいた。彼らの戦闘機に装填されていた空対空ミサイルは、攻撃隊のそれと同じモノだったのだから。


 一回目の攻撃が失敗した後、攻撃隊が残したデータが詳細に分析された。そして速やかに二回目の攻撃が計画された。攻撃隊が全滅させられたことで、アメリカ軍は面子を潰されたのだ。何としても戦友の仇を取り、アメリカ軍は世界最強であることを証明しなければならない。なおこの二回目の攻撃作戦から、正式に「バハムート」の呼称が用いられた。


 バハムート討伐のための作戦は「オペレーション:ドラゴンキラー」とされ、この作戦のためにアメリカ軍は太平洋艦隊の全戦力を動員した。堂々たる艦列を眺めながら、艦隊司令官はこう言ったという。


「過剰戦力だな。だが相手はバケモノ、足りないよりは良い」


 この言葉に象徴されるように、アメリカ軍は決して油断はしていなかったが、同時にこの作戦が失敗するとも思っていなかった。確かにバハムートは20発もの空対空ミサイルをくらっても無傷だった。だがそれは何かしらの防御手段を持っているためと考えられる。つまり彼らはミサイルを直撃させれば少なくともダメージは与えられると考えたのだ。


 加えて今回の作戦では、先の作戦で使用したものより破壊力のあるミサイルが用いられる。このミサイルを中心にバハムートへ飽和攻撃を加えて圧殺する。これがドラゴンキラー作戦の概要であり、これによってアメリカ軍の面目は保たれるはずだった。


 しかしその結果は太平洋艦隊の壊滅というものだった。「壊滅的被害」ではない。壊滅である。より正確にいうなら全滅したのだ。軍事上の「全滅」ではない。文字通りの全滅である。つまり太平洋艦隊の艦艇と戦闘機は全て海の藻屑と化したのだ。


 逃れたのは上空で情報収集を行っていた偵察機一機だけだった。そしてその偵察機が持ち帰った情報を分析して分かったのは、バハムートの圧倒的な攻撃力と機動力、そして防御力だった。


 作戦は予定通りまずミサイルの一斉発射から始まった。バハムートへ向けて120発を超えるミサイルが一斉に放たれる。バハムートはたちまち爆炎と煙に包まれた。しかし黒煙を引きちぎって現われたバハムートは、赤い双眸を爛々と輝かせていた。


「目標健在! 繰り返す、目標健在! 攻撃の有効性は……、認められず!」


「ミサイル第二波、放て!」


「グルゥゥゥァァァアアアアア!!」


 艦隊司令官の命令とバハムートの咆吼が重なる。大きくはばたいて加速するバハムートへ、第二波のミサイル攻撃が行われた。ミサイルは次々に命中したが、しかしバハムートはミサイル攻撃を歯牙にもかけない。バハムートは猛スピードで戦闘機の編隊へ突っ込み、そのまま突き抜けた。その際、体当たりと衝撃波で十数機を撃墜している。そしてバハムートは艦隊上空へと到達した。


「グォォォオオ!!」


 バハムートは艦隊の上空でホバリングすると、口元に不吉な黒い光を蓄えた。何が起こるのか分からないが、何かヤバいことが起ころうとしている。誰もがそれを直感し、対空砲火を含めて集中攻撃が行われた。


 弾丸は全てAMB(Anti-Monster Bullet)。さらにバハムートがほぼ静止していたこともあり、攻撃はほとんどが命中した。しかしどれだけ攻撃を叩き込んでもバハムートにダメージを与えることができない。そしてついにその顎から黒紫色の閃光、後にドラゴンブレスと呼ばれる一撃が放たれた。


 その一撃により、旗艦であった空母は縦に切り裂かれて轟沈。さらに数隻の艦艇が巻き添えになった。それを見て他の艦艇は散開してその場からの離脱を図る。だが戦闘機さえ置き去りにするバハムートの機動力を前に、艦船の速力は遅すぎた。結局一隻も逃れられず、また途中から援護を行った戦闘機群もまるでカトンボのように全て落とされたのである。


 アメリカ軍の太平洋艦隊が消滅したというニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。多くの人々はこのニュースに驚き、また大きな不安を覚えたが、この事態をまたとないチャンスと捉える者たちもいた。ロシアと中国である。


 これまで太平洋はアメリカが実効支配してきたと言って良く、その要は言うまでもなく太平洋艦隊だった。しかしその太平洋艦隊は消滅した。太平洋におけるアメリカの影響力を弱め、可能ならば取って代わるまたとないチャンスに思えたのだ。


 太平洋艦隊が消滅してから一ヶ月後、ロシア軍と中国軍は太平洋で合同演習を行った。この演習は必ずしもバハムート討伐を目的としたものではなく、あくまでも太平洋で両国が軍事行動を行うことそれ自体が目的だった。よって演習には空母も参加していたが、艦載機の離発着訓練や射撃訓練が行われる予定はなく、あくまで艦隊行動のみが行われる予定だった。


「軍事パレードみたいなものさ。観客がいないのが残念だな」


 ロシア軍のある大佐はそう嘯いたという。とはいえバハムートへの備えを怠っていたわけではない。ミサイルはたんまりと用意されていたし、特にロシアは魔石を利用した新型のミサイルも持ち込んでいた。


 前述した通り両軍はバハムートと積極的に戦うつもりはなかったものの、戦っても勝てるだけの、少なくともそう思えるだけの準備はしていた。それどころか中国軍のある高官はこんなことさえ言っていたという。


「むしろバハムートが出てきてくれたほうがありがたい。これを討伐できれば、ハワイより東の海域におけるアメリカ軍の影響力はゼロに等しいものになるだろう」


 つまり両軍ともアメリカ軍のことを嘲笑いつつ、自分たちが同じ轍を踏むわけがないと自信満々に「軍事パレード」に臨んだわけだが、その結果は惨憺たるものだった。バハムートの強襲を受けて合同艦隊は太平洋艦隊と同じ命運を辿ったのだ。すなわち一隻残らずの撃沈である。ちなみに例の新兵器は何の役にも立たなかった。


 事ここに至り、「バハムートは通常兵器では倒せない」というのが軍事専門家らの共通認識となった。さらにこの頃になるとすでにリヴァイアサンによる被害も甚大なものとなっており、この二大モンスターの速やかな討伐が急務となっていた。ではどうするのか。


「核攻撃を提案します」


 安全保障理事会が招集され、そこでアメリカの代表から「核攻撃によるバハムートの討伐」が提案された。当然ながら大統領の承認を得た、アメリカ合衆国としての提案である。非常任理事国だった日本は反対したものの、常任理事国が拒否権を発動することはなく、提案は可決された。


 作戦は国連軍として行われることになったが、その中核は言うまでもなくアメリカ軍である。作戦立案もアメリカ軍が中心となって行われた。「オペレーション:プロメテウス」は速やかに実行され、そして失敗した。核の炎でさえ、バハムートを屠ることはできなかったのである。


 とはいえ、ダメージは与えられた。ただそのことを確認できた者はいなかった。「核さえ使えば必ずや倒せる」と誰もが信じており、また放射線の危険も考慮して、衛星による観測のみに留められていたのだ。


 当然ながらすぐさま偵察機が飛ばされたが、バハムートはその時にはすでにダークネス・カーテンのなかへ隠れてしまっていた。そして次に確認された時には、ダメージは何も残っていなかったのである。


 このせいで「核でさえダメージを与えられるか分からない」ということになり、「核による連続攻撃、もしくは飽和攻撃」という狂気的作戦を行うのはどうしても躊躇われた。しかしではどうやってバハムートを討伐するのか。妙案は見つかっていない。


バハムートさん「脚なんて飾りですよ! 自分、地上に降りたことないですから!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 200mサイズ!アナザーワールドでも登場したことがないサイズ感も来ちゃうのか。
[一言] 主人公の胃にそのうち穴空きそうだな 現実があの選択を受け入れるまで待ってくれない
[気になる点] 核で倒せないのはやりすぎでは? 半径2キロに100万度の太陽が発生すると マンガ「飛ぶ教室」で言ってた。正しいかは分かりませんが。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ