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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
決壊

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悲しみのアリス2


「久しぶりじゃのう、アキトよ」


 連絡が取れず音信不通だったはずのアリス。しかし彼女は唐突に秋斗の前に姿を現わした。瞳に悲しげな光を宿して。


「アリス!? どうしてここに……? いや、今までどこで何して……!?」


「ふむ。まあ積もる話もある。まずは座るとしよう」


 そう言ってアリスはイスとテーブルを用意し、そこに座るよう秋斗に勧めた。秋斗はイスに座り、それから流れるようにお茶とお菓子の準備をする。それを見ると、アリスは少しだけ顔をほころばせて礼を言った。


「美味いの。甘味は嗜好品、つまり幸せの味じゃ」


 そう言いながら、アリスは大皿に盛り付けられたシュークリームに手を伸ばした。そしてゆっくりと、噛みしめるようにして食べる。彼女の様子がいつもとは違うことに秋斗はもう気付いていたが、それをうまく言葉にできない。仕方がないので、彼はひとまず別のことをこう尋ねた。


「それでアリス。今までどこで何をしていたんだ?」


「どこで、というのは難しいの。世界中を飛び回っておった。何を、というのであれば、そうじゃな。次元の坑について調べておった」


「それって……!」


「うむ。ダークネス・カーテンであったか。それ関連のことを、な」


「そ、それで何が分かったんだ!?」


 秋斗は前のめりになってそう尋ねた。そんな彼をアリスは少し悲しげに見つめ、それからお茶を一口啜る。そして彼女は話し始めた。


「全ての始まりは、やはり魔素じゃ」


 魔素によってこのアナザーワールドは人の住めない環境になり、この星に住んでいた人々は宇宙へ逃れた。そして惑星を封印し、ひとまずの安息を得た。しかしそれで魔素との縁が切れたわけではなかった。


 人々は二つの面で魔素と付き合い続けなければならなかった。一つはエネルギー資源としての魔素。宇宙で生活するようになったとはいえ、この世界の人々は相変わらずエネルギーを魔素に依存した。宇宙に出たことでその傾向は一層強まったと言って良い。魔素がなければ生きて行けなくなったのだ。


 もう一つはモンスターを生み出す根本原因としての魔素だ。過剰な魔素は文明を破壊する。そして宇宙に逃れたこの世界の人々に、次の逃げ場はない。彼らは魔素を管理し続ける、つまり惑星を封印し続けるという宿業を背負うことになったのである。


 さて、まず問題となったのはやはり二つ目の点である。これまでは惑星を覆う術式によって封印をおこなってきた。いわば蓋をして抑えつけていたわけである。だが魔素が増加し続けることで、別の言い方をすれば内圧が高まり続けることで、その方法では封印を維持することが難しくなってしまった。


「恐らくは封印の強度以外にも問題があったのじゃろう。ともかく封印を維持するためには別のアプローチが必要になったのじゃ」


「まさか……!」


 秋斗は顔を強張らせた。ダークネス・カーテンと、さらにアリスが言っていた「決壊」という表現。それらをつなぎ合わせれば、「必要になった別のアプローチ」とは一体どういうモノなのか、彼にも想像がつく。そしてそれを肯定するかのように、アリスは一つ頷いた。


「そうじゃ。別のアプローチ、それは魔素を別のどこかへ逃がすことじゃ」


「それがオレたちの世界だってのか!?」


 思わずテーブルを叩いて立ち上がり、秋斗はそう怒鳴った。目を怒らせる彼の視線を、アリスは痛ましげな眼差しで受け止める。その眼差しが彼の怒りを少しだけ宥めた。彼は顔を歪ませてイスに座り直すと、バツが悪そうにしながらこう呟く。


「……悪い」


「いや。当然の反応じゃ。……この先はどう話したものかの。我の憶測も混じっておるが、そう大きくは外れておらぬはずじゃ」


 そう前置きしてから、アリスはまた話し始めた。魔素を逃がす先の選定には、多大な労力が費やされたであろう。そうして見つけたのが、いわゆるリアルワールドだった。だが見つけたからと言って、すぐに魔素を逃がせるわけではない。


「二つの世界の間には、当然ながら次元の壁が存在する。そうでなければ区別することができぬからの。しかし存在するのは壁だけではない」


 例えるならば「距離」や「位置関係」とでも言うべきモノが存在するのである。しかもそれは一定ではない。常に、しかも不規則に変化し続けているのだ。魔素を逃がすためには、そんな二つの世界の間に一定の繋がりを作らなければならない。


「例えるなら、常に動き続ける二隻の船の間に橋を架けるようなものじゃ」


 むしろ難易度的にはその方が易しい。二隻の船は少なくとも同じ世界に存在しているし、人の手で操縦することが可能だからだ。だがこれが世界同士の話となると、難易度は一気に高くなる。


「二つの世界をいきなり繋げることは不可能じゃ。いや、短時間で良いのであれば可能じゃが、次元抗を掘っただけでは恒久的に繋げたことにはならぬ」


 であればどうするのか。二つの世界の位置関係を固定しなければならないわけだ。そのためにはまず、細くてもいいので二つの世界の間に関係性パスを作る必要がある。そして一度パスを作ったならば、あとはそれを徐々に太くしていけば良い。


「そしてその関係性パスを作る具体的な方法というのが……」


「くそったれめ……!」


 自分で答えにたどり着いた秋斗に、アリスは沈痛な表情で一つ頷く。秋斗としてはむしろ否定して欲しかった。彼は盛大に顔を歪めた。関係性パスを作る具体的な方法。それはつまりアナザーワールドへのダイブインとダイブアウトを繰り返すことだ。


 自分が現在の状況へいたる原因の片棒を担がされていたのだと思うと、秋斗はとても気分が悪かった。怒りは当然感じるし、裏切られたという想いもある。だがそれよりも「失望」という言葉が最も近いかもしれない。


「挑め、世界に何かを刻みつけたいのなら」。その言葉に導かれて、秋斗はアナザーワールドへ来たのだ。そしてあの石版の言葉に滲む罪悪感。それらも全てウソだったのか。秋斗は額に手を当てて顔を歪める。そんな彼にアリスはこう言葉を続けた。


「……ただ、なぜそんな方法を採ったのか、それは気になる」


「…………」


 秋斗は無言のまま睨むようにして先を促す。いま口を開けば、際限なくアリスを罵倒してしまいそうだった。だが彼女を罵倒するのは筋違いだろう。そう自分に言い聞かせて秋斗は口をつぐむ。それを酌み取って、アリスはこう説明した。


「アナザーワールドとリアルワールドを何度も行き来させる。なるほど確かに関係性パスを作ることができるじゃろう。じゃが関係性パスを作るだけならそんなことをする必要はない。最初に夢を見せた時点でできておる。あとはソレを徐々に強くしていけば良い。わざわざ“プレイヤー”に世界を行き来させる必要など無い」


「…………」


「むしろ思考力と行動力のある存在をアナザーワールドへ招くことは、こちら側の者たちにとっては明らかなリスク。現にこうして、事の真相に迫ろうとする者が現われておる。しかもゲームのようなシステムまで用意しておる。簡単に用意できるシロモノではないぞ、これは。かなりのリソースをつぎ込んでおる」


「…………」


「このような方法を採らなければ、必要の無かったリソースじゃ。他に回すなどもできたじゃろう。それなのにわざわざリソースをつぎ込んでまでリスクを取る。計画を成功させることを第一に考えれば、合理的ではないの。計画を立てた者たちもそれは承知していたはずじゃ。それなのに彼らはそれを通した」


「……何が言いたい?」


「……全ては我の想像じゃ。その上で言うがの、これは理詰めで導き出した答えではない。もっと感情的なモノに端を発しておる。そう思えてならぬ」


「つまり罪悪感、ある種の償いだって言うのか?」


「確証はない。そもそも人の想いを証明することは困難じゃ。ただそうであって欲しいと願うのみじゃよ」


 アリスの言葉を聞いて、秋斗は大きくため息を吐いた。確かにプレイヤーを招くことはリスクだろうし、システムを用意するには相応のリソースが必要になるのだろう。それを承知の上でやっているのだから、あの石版の言葉に浮かぶ罪悪感は本物なのかもしれない。


 だが事ここに至れば、それになんの意味があるというのか。どれだけ罪悪感を覚えていようとも、それで結果が変わらないのであれば無意味である。確かに彼らは不要なリソースをつぎ込んでリスクを取ったのかもしれないが、それさえも自己満足かアリバイ作りに思える。


「お主の立場であれば、そう感じるのも無理からぬことよ」


「だいたい、何のためにリスクを取ったっていうんだ?」


「分からぬ。プレイヤー個人に対しては、『願いを叶える』ことをエサにしたようじゃが、それが主たる目的ではあるまい。ただこれらから起こることに備えさせようとしたのではないか。我にはそう見える」


「それは……」


 案外正解かもしれない、と秋斗は思った。アナザーワールドを探索してきたお陰で、少なくとも彼自身は他の人々と比べて心構えが違う。また動画の公開というようなこともできた。アリスの言葉を借りるなら、「備え」が役立ったと言えるだろう。


(でも、それは……)


 しかしそれはある意味で、現在のリアルワールドの混乱の責任の一端が、プレイヤー達にもあるということではないのか。「プレイヤー達がもっと上手くやれていれば、被害と混乱はもっと少なかった」。そんな言い訳が成立するのではないか。だとすればそれはやはりアリバイ作りと言わなければならないだろう。


(我ながら悪意的な解釈の仕方だけど)


 秋斗は心の中で苦笑する。逆に言えば、「アリバイ作りを考える程度には負い目があった」とも言える。悪意的に解釈してもそう言えてしまうのだから、負い目や罪悪感を覚えていたことはもしかしたら本当なのかも知れない。しかしだからといって、彼の腹の中でとぐろを巻く怒りが収まるわけではない。


「……説明を続けよう。とはいえ、もう長ったらしく語る必要もないがの」


 そう言ってアリスは話を事の説明に戻した。二つの世界の、いわば“同期”とでもいうものが完了すると、いよいよ迂回路が作られた。つまり次元の坑である。そして次元の坑によって二つの世界は繋がった。こうしてアナザーワールドからリアルワールドへ、魔素が流れ込むようになったのである。


アリス「我ながら善意的解釈がすぎるかの……」

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