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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第十章 アクタ

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激動の予兆

――サシオン邸・大広間



「ということが、あってな。現在、国政は揺れている」

 サシオンは軽やかな口調で会議の顛末を口にした。

 俺はそれに対して呆れ口調で文句をぶつける。


「揺れている、じゃないよ。そんなこと話すなよ。フォレはともかく、他のメンバーは聞いちゃダメな話じゃん! 特に女神コトアのこととか!!」


「いや、私は皆に必要な情報だと思っている。同時に詳細を知ってほしいと思っている」

「ん、どういうこと?」


「まず、パティスリー殿。御父上のリーム殿より話を聞いておられるな」

「はい。王都の地下に女神コトア様がお眠りになっており、それをお守りしたという言葉には大変驚きましたが、両陛下のやり取りの方はそれとなく。そして、それについて、『私は』サシオン様へ協力するように(めい)を受けました」


「うむ。アマン殿」

「私は元々、サシオン様と協力関係であり、古くからの友人ですからね。コトア様の存在も存じ上げていますし。ですが、ここまで詳しく内情を話されたということは、つまり、『私たちをお仲間』に引き入れたい、ということですね」

「済まぬな、苦労をかける」

「ふふ、あなたとの仲ですからね。構いませんよ」



 二人の言葉の途中に奇妙な引っ掛かりを覚える。 

 だけど、いまは余計な口は挟まず、話の先を聞こう。


「フォレ。お前には『将来』、騎士団を預けなければならない。そのためには避けられぬ出来事。表も裏も、しっかりと受け止めよ」

「はいっ」


「アプフェル。学士館の活動とはいえ、長く騎士団のため協力してくれたこと感謝する」

「いえ、そんな」

「しかし、此度(こたび)の件、人狼族のアプフェル殿として協力を願いたい」


「人狼族の?」


「国は揺れている。ブラウニー陛下は元より他種族に対して排他的なお方。『強硬な手段』に出るやもしれぬ」

「強硬……そうですか」

「そうなれば、人間以外の種族にとって、王都は住み心地の良い場所とならぬだろう。人狼族の(おさ)の孫娘として、しっかりと我々を見ていてほしい」


「おじいちゃ、失礼。族長のセムラはこのことを?」

「ああ、話は通してある。多くを見る人狼の一つの目として、役目を全うしてほしいとの伝言を預かっている」

「そうですか……わかりました。微力ながらお力添え致します」



 サシオンがみんなに語り掛けるたびに、少しずつ雰囲気が変わっていく。

 

 パティの『私は』という言葉……フィナンシェ家は、プラリネとブラウニーを両天秤に掛けている。


 アマンの『私たちをお仲間』という言葉……これは人猫(じんびょう)族をプラリネ側に引き入れたいという意味。


 フォレに対する騎士団の『将来』……これは遠い未来のことか。それとも『将来』が差し迫っているのか?


 アプフェルへの言葉……ブラウニー王の『強硬な手段』。そして、人狼族の代表として人間を見ていてほしいという言葉。



 これらは全て、『ジョウハク国』で大きな政変が起きることを示唆しているのでは?

 


 最後に、サシオンは俺を強く見つめた。


「ヤツハ殿……(えにし)とは不可思議なものだな」

「はは、俺には世間話?」

「この場にいる者は、誰もが私にとって必要な人材。それを惹きつけ、纏めたのはヤツハ殿だ。だからこそ協力を願いたい」


「ふふ、持ち上げすぎだって……それで何が起こる? お前は何をしようとしている?」

「元々、下地はあった。制度に対する不満と両陛下の思想の違い。それがマヨマヨの襲撃をきっかけに表に出てきた。一度、表に出れば……行きつく先は」


「止められないの?」

「尽力する。だが、人の心とは壁の薄いダムのようなもの。水が壁の力を超えてしまえば、どのような手段を講じても止められぬこともある」

「そっか……ふぅ~、最悪。それで、このメンツで何をしろと?」


「皆には今後、私の別機関として動いてもらいたい。ただし、表向きはヤツハ殿が集めた人材として行動してもらおう。フォレの立場は相談役として。そうだ、たしか、ヤツハ殿は便利屋として名が通っていたな」


「不本意ながらね」

「で、あるならば、今後はヤツハ殿が率いる便利屋という肩書で行動してもらうとしよう」

「え~、それって何かあったら俺の責任になるじゃん。やめてくれよ」

「すでにルビコンの川は渡っているのだ。ヤツハ殿」



 みんなはルビコンの川の意味がわからずに首を捻る。

 これは地球人の俺にだけわかる符牒(ふちょう)

 

 ブラウニーはマヨマヨだけではなく、その 関係者(・・・)も取り締まると言った。

 つまりは、アクタで普通に暮らすことを選んだ異世界の人間までも取り締まりの対象としている。

 俺もその中の一人。

 

 そう、ブラウニー派が勝てば、俺ら異世界人は弾圧される。

 国情を知り、襲撃してきたマヨマヨに知り合いがいる異世界人の俺は覚悟しなければならない。


「はぁ~、投げた賽に良い目が出るように祈らなきゃな」

「賽の目は運ではない。努力と意志で変わるもの」

「努力や意志よりも、できれば、いかさまを仕込みたいところだけど」

「それもまた、努力であり意志であろう」

「そっかね。ま、わかった。よっしゃ、便利屋ヤツハ、社長として頑張りますよっと」

「ふふ、そうしてくれ」



 俺とサシオンは互いに微笑み合う。

 アプフェルたちは今の会話の意味を理解できず、頭の上にはてなマークを乗せていた。


「るびこんのかわ? 何のことかわかる、パティ?」

「さぁ、アマンさんやフォレさんは?」

「私はそのような川の名前を存じません。フォレさんは?」


「私もです。ですが、今のはお二人にしかわからぬ符牒のようなものだと思います」

「それは?」

「一応、ヤツハさんは密偵のような立場。お二人の間は私たちが考えている以上に緊密なのでしょう。実際にヤツハさんは私たちが知らなかったコトア様の事情を知っておいでの様子ですし」



 フォレの言葉で、皆はなんとなく納得したような態度を取る。

 こいつの勘違いは時々妙に役に立つ。


 サシオンはくすりと声を立てて、話を別の議題へと変えた。




評価点を入れていただき、ありがとうございます。

物語は激動の兆しに震えておりますが、その震えをしっかりと支え、今後も執筆活動に邁進してまいります。

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