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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第九章 英雄祭

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襲撃

 王都中に響き渡る悲鳴。

 爆発音はなおも鳴り続けている。


 王都の空には無数のマヨマヨたちが飛び交い、街に向けてレーザー光線のようなものを無造作に撃ち続けていた。


(くそっ、いったい何がっ!? ピケ、みんな、無事でいろよ!」


 みんながいるはずの城近くを目指してひた走る。

 その途中で騎士団のスプリたちと出会った。

 彼らは恐慌状態の群衆を前に手も足も出せず、右往左往としている。



「おいっ、お前ら何やってんだ!?」

「えっ!? ヤツハさん」

「早くみんなを安全な場所に誘導しろよっ!」

「しかし、僕たちだけではどう対処していいのか……?」

「なに、腑抜けたこと言ってんだ! お前らは近衛(このえ)騎士団だろっ。この街を守っている騎士だろ! なら、みんなのために踏ん張れよっ!」


 スプリの両肩をガッシと握りしめ、じっと目を見つめる。

 彼は震えていた瞳を止め、俺をしっかりと見つめ返す。そして、ゆっくりと頷き、覚悟を目に宿す。


「……え、ええ、そうですね。そう、僕たちだって騎士団。サシオン様やフォレ様に頼りっぱなしでは駄目だ。ウィター、フォール! みんなを東門の前に誘導する。安全とは言えないけど、今の状況よりマシだ!」

「わかった、スプリ! フォール、行こう!」

「応っ! 皆さん!! 我々の指示に従って下さい! アステル近衛騎士団が必ず、皆さんを守って見せますっ!」


 スプリたちの呼びかけに、僅かだが人々は反応した。だけど、この程度では誘導なんて無理だ。

 そう感じていたが、三人の声は、近衛騎士団の兵士たちみんなの心に広がりを見せる。


 騎士団のみんなは逃げ惑う民衆を目に映し、己のやるべき使命を思い出す。

 彼らは皆、心に強気意志の炎を(たけ)らせ奮起した!


 近衛騎士団は一丸となって、混乱し、怯える民衆をまとめようとする。

 徐々にではあるが、街の人たちが近衛騎士団の指示に従うようになっていく。


 ここは何とかなりそうだ。


 俺は一度、スプリたちにコクリと頷き、城を目指して走る!



 

 城に近づくたびに混乱の度合いは増していく。

 それも当然だ。

 ここには武闘祭を見ようと大勢の観客が集まっていたのだから。

 俺は人の津波に巻き込まれて、全く自由が利かない。


(駄目だ、ピケを探すどころじゃない! どうすればっ!?)


「ヤツハ! こっちだ!」


 人の群れの向こう側からティラの声が聞こえた。

 掻き乱れる群衆から首を伸ばして、そちらを見る。

 家と家の隙間にある路地の入り口にアレッテさんが立っている。

 その後ろに、ティラとピケの姿があった。



 俺は人の壁をこじ開けて、何とかそこまで辿り着いた。


「ヤツハおねえちゃん!」


 ピケは俺に抱き着こうとしたが見えない壁が邪魔をして、その場でぴょんぴょん跳ねている。

 どうやら、アレッテさんが強固な結界を張っているようだ。

 しかし、かなり無理を押しているようで、彼女の顔には汗が張り付いている。


「アレッテさん?」

「何とかぁ、この路地を~シェルター代わりにできていますぅ。ですがぁ、わずかでも気を緩めると~、マヨマヨの攻撃にぃ、耐えられません。ごめんなさいですぅ」




 彼女の後ろを見るとたくさんの老人と幼い子どもたちがいた。子どもたち泣き声を上げながらお父さんお母さんを呼んでいる。


「これは?」

「はぐれたお子さんや、預かったお子さんですぅ。走って逃げられない人たちを、ここで守っているのですよぉ」

「そうですか。わかりました、そのままみんなを守ってやってください」



 俺は結界に手を当てて、ピケを見つめる。

 ピケは健気にも怯える心を抑え、俺に笑顔を見せてくれた。


「ピケ」

「おねえちゃん」

「よかった、無事で」

「うん、おねえちゃんも」

「他のみんなは?」

「街の人たちを助けに」

「ということは、無事なんだな」

「うん」

「わかった。それじゃ、えっ!?」



 ぞわりとした恐怖が背中の肉を抉った。

 俺はすぐさま後ろを振り返る。

 空には黄色の外套を纏ったマヨマヨ。そいつは右手に銃のようなものを所持して、銃口をこちらへ向けていた。

 

(いけない!)

 俺はとっさに空へ向けて、最高クラス4の火の魔法・ミカハヤノを放った。

――相手は空。

 制御できなくても、誰かを巻き込むことはない!


 魔法の直撃を受けたマヨマヨを中心に巨大な爆発が起きる……だが――。



「そんなっ。う、うそだろ……」

 

 灼熱に燃ゆる空気の層からマヨマヨが無傷で現れる。

 彼は薄い光を見せるバリアのようなものに守れていた。再び彼は、銃口をゆっくりと俺たちに向ける。

 俺はもう一度、魔法を放つべきっ。

 そうであるべきなのに、恐怖が瞼を閉じさせる。


(ああ、目を閉じるな。魔力を込めろよ!)


 意志と心は別離し、瞼は死を讃え、額突(ぬかず)こうとする。

 瞳に闇の(とばり)が降りていく……。

 

 生と死の隙間から見えるのは、明確な死を見せつけるマヨマヨ。

 そして……一線の光っ!?

 

 どこからか巨大な光の帯が現れ空を貫き、一瞬にしてマヨマヨを飲み込んでいった。

 光はバリアを薄紙の如く突き破り、マヨマヨの姿は完全に消失する。


 俺は瞼に意志を送り込み、光の帯の出元へ目を向けた。

 

 

 そこには、右手に黒き巨大な砲台を身に着け、炎のように猛々しい真っ赤な髪を振るうノアゼットの姿があった。

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