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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
最終章 物語は終わらない

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新たな旅立ち

 笠鷺は片腕を回しながら愚痴をこぼす。


「ったく、話すだけで重苦しさを放つのはやめて欲しいなぁ」



 彼は何度も体をほぐすように動かし、身体を東へ向けた。

「さて、行きますか」

 だが、一歩足を踏み出そうとする彼の背中を、ウードの声が掴む。


「待ちなさい。王都はそっちじゃないわ、真逆よ?」

「わかってるさ。ちょいと、ヤツハに会いに行こうと思ってな」

「え?」

 

 ウードは笠鷺の隣にいるヤツハを見つめた。

 幼いヤツハは舌を出して、ベロベロバーッとウードを牽制する。

 それにイラつきながらも、ウードは笠鷺に問いかける。



「じゃじゃ馬なヤツハならそこにいるじゃないの?」

「おいおい、忘れたのか? ヤツハに関して、アクタにはもう一つ大きな謎が残されているだろ」

「それは?」


「アプフェルの名付けの元ネタだよ。ヤツハの名は銘菓の名前なんだから」


 笠鷺はヤツハの頭を撫でて、遥か東を指さした。


「ここからリーベンを超えた先に海があって、その先に群島国家グレナデンがある。そこにはこの子の名前の元になったお菓子がある。それがどんなお菓子なのか気にならないか?」

「はっ、それはそれは大層な謎だこと」

「謎ついでにもう一つ」

「何かしら?」


「グレナデンには…………お前がよ~く知っている釣り好きのじーさんがいるぞ」

「え!? そいつって!?」


 ウードは瞳を一気に怒りの炎に染め上げ、足早に東へ向かい始めた。


「何をぼさっとしているの? さっさとグレナデンに行って、クソジジイに止めを刺すわよ!!」

「あははは、こえ~な」



 笠鷺はヤツハの手を握り、歩き始める。

 そんな二人の姿を目にしたウードは、足を止めて彼らに疑問を投げかけた。


「本当にいいの? このまま行って?」 

 ウードは視線を下に移す。

 その視線にヤツハはしっかりとした言葉を返した。


「フォレにはアプフェルがついてるからね。私の居場所はないよ」

「それでいいの?」

「うん」

「理解できないわね。自分の気持ちを抑え、他者に譲るなんて」


 ウードは両手を上げて、肩を竦めた。

 しかし、続くヤツハの言葉に共感を覚える。



「だって、フォレは年上すぎるもん。私から見たらおじさんだし」

「……ふふ、面白いこと言うわね。あんなにもフォレを想ってたのに」

「私は若いんだよ。もっといろんな恋をしたいし。それに私可愛いから、きっと、もっといい人を見つけられると思うの」

「はんっ、そうね」


 呆れた声を飛ばしつつも、どこか自分に似たものを感じ取る。

 性格は違っていても、魂の結いは存在する。

 だから、どこかでつながっている。


 ウードは軽く頭を振って、一度、王都へ視線を振った。

 そこから、視線を笠鷺に戻して語りかける。

「あなたはいいの? 笠鷺、あなたは仲間に会いたくはないの?」



 彼女の問いに、笠鷺は笑みを零す。


「ふふ、ウード。そいつは蛇足ってもんだ」

「蛇足?」

「そう、蛇足。彼らは俺たちとは違うヤツハと出会い、多くの時を過ごし、そして物語を終えた。そこに俺たちが現れるなんて、蛇足も蛇足っ」


 

 笠鷺は王都へ顔を向けた。

 そして、手を前へと伸ばす。


「時が経てば、いずれ運命が交差するときがあるかもしれない。でも、それは今じゃない。今、俺がやるべきことは、今日と明日を繋ぐ新たな冒険に旅立つこと」


 王都から顔を東に戻し、笠鷺はヤツハの手を握って前へ踏み出す。

 二人の後ろには、ウードと地蔵菩薩が続く。


 

 笠鷺燎は語る。

 


「アクタに訪れた一人の少女の物語は終えた。だが、そこから新しい物語は紡がれる。これから先に続くのは……笠鷺燎の、俺たちの物語なのさ!」

 



 

 ここまでの冒険譚を共に歩んで頂いた方々。そして、ブックマークや評価や感想、勝手にランキングへ投票をして下さった方々に、厚い感謝を捧げます。

 

 正直を言えば、途中で筆を折りそうになったことは何度もあります。

 ですが、皆さんの支えのおかげで今日という日を迎えることができました。

 皆さんのおかげで完走できたといっても過言ではありません。

 心より感謝いたします。

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