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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
最終章 物語は終わらない

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地獄の沙汰は?

 春の陽気が差し込む縁側の傍で、年老いた笠鷺が黒猫を膝に置いて微睡んでいた。

「ふぅ~、今日は暖かいねぇ、アマン」


 アマンと呼ばれた黒猫はニャーと返事をする。

 そこに中年の女性の声が届いた。


「お義父さん、いくら今日の陽気がいいからって、まだまだ肌寒いんだから体に障りますよ」

「大丈夫だよ。ちょっとくらいならな。そうだろう、アマン」

「ニャ~」


 

 笠鷺は微笑みながら、猫の背中を撫でる。

 その姿に軽いため息をついて、女性は言葉を返した。


「わかりました、いまから毛布を持ってきますから」

「おや、悪いねぇ。ついでにアマンのおやつも持ってきてくれるかい?」

「はい、わかりました……以前から不思議に思ってたんですけど、お義父さんはどうして、猫にアマンって名前を。以前飼っていた猫も黒猫でアマンでしたし」

「そりゃあ、猫と言えば黒猫。黒猫と言えばアマンだからだよ」

「はぁ?」


 女性は軽く首を振り、よくわからないといった態度を取った。

 その様子を優しく見つめ、笠鷺は言葉をもう一つ加える。


「それと、孫たちが学校から帰ってきたら、冷蔵庫にあるプリンを振舞っておいてくれ」

「わかりました。ふふ、お義父さんのプリンはお店顔負けの美味しさですからね。たしか、若い頃に女の子へ振舞ったプリンが不評だったから、プリン作りに傾倒したんですよね?」

「不評ではなかったっ。ただ、もう少しこだわろうとしただけだ!」


 笠鷺は語気を強めて言い返した。

 彼はアプフェルにコンビニプリンを買ってあげた際、自分の作ったプリンの味が負けていたことがどうにも悔しくて、プリン作りに精を出していたのだ。


 女性はムキになる元気な老人の姿に暖かな微笑みを見せて、毛布とアマンのおやつを取りに奥へと下がっていった。



 笠鷺は気を静めて、微笑みと共にアマンを撫で続ける。

 すると、不意に視界が消え、気がつくと目の前には縁側に座る自分がいた。


「おや?」

「にゃ~」


 縁側に座る自分の膝からアマンが飛び出して、笠鷺に視線を向ける。

 彼は目の前にいる自分とアマンの様子から察する。


「どうやら、死んじまったようだね。楽に逝けたのはいいが……こりゃ、びっくりさせちまうなぁ」

 彼はロマンスグレーの髪を撫でて、軽く屈み、アマンの頭を撫でた。


「よろしく言っといてくれよ、アマン」

「にゃ」

「ふふふ。それじゃ、行こうかね」



 アマンから視線を外すと、周りには花畑が広がっていた。

 その花畑には多くの人々がゆらりゆらりと歩いている。

 皆、虚ろな表情であったが、笠鷺だけは確かな意識が存在していた。


「二度目か……歩くのはちょっと億劫だな。年寄りだし……そうだ」


 彼は多くの皺が刻まれた右手を見つめる。

 そこから、若かりし頃の姿を思い描く。

 すると、右手からは皺が失われ、身体もまた若々しかった頃の力が漲ってきた。


「私は、いや、俺は魂の存在。これぐらいはできるか。さて、向かいますか」



 多くの虚ろな人々に混じり、花畑を歩いていく。

 視界は花畑からゆっくりと変化していき、気がつけば、かつての裁判の場に立っていた。


 笠鷺は周囲を見回す。

 頭から角の生えた、筋肉の盛り合わせのようなおっさんが数人。

 目の前にある顎先がひっくり返るくらい高い場所に、平安装束を纏った髭塗れの巨大なおっさんが鎮座している。

 

 遥か高みから厳かにおっさんの声が響いてきた。

「笠鷺燎。二度目になるな」

「ええ、お久しぶりです……うん?」


 よくみると、おっさんの右目に青瓢箪ができている。

 

「どうされたんですか、その痣は?」

「忘れたのか? お前が殴ったのだろう。運命の力を宿したお前が!」

「え……あっ」



 笠鷺は思い出す。

 アクタでみんなと別れる間際、何かを殴りつけたことを。


「あ~あ~、思い出しました。理不尽な裁判を受けた仕返しに、あなたを殴ったことを」

「んむぅ」


 ぶすっとした表情を見せる巨大なおっさん。

 笠鷺は済まなそうな表情を見せる。


「あの頃の俺は若かったからなぁ。申し訳ない。となると、あなたを殴った分も罪状に数えられるのでしょうか?」

「あの時の貴様は私を越えた存在だ。故に罪には問えない。そして、それらを覆すこともできない」

「ん?」


「運命の力を宿した貴様は、これまでの事象を固定し絶対のものとしている。それ故に、我らでは干渉することが不可能となっている」

「そうなんですか? じゃあ、あなたが殴られることは確定して変えることはできない。因みに殴られたのは?」


「お前がここに訪れる直前だ!」

「そこまで計算して殴ったというわけか……なるほど、ここにきて色々と思い出してきました。しかし、どちらにしろ、俺の罪状は決まっているのでしょう?」


「ああ……ほんとうに良いのか? 貴様は見事、前世の罪と対峙し、晴らした。さらに、一時(いっとき)とはいえ運命に届いた貴様は、上位の存在へ届く権利を有しているが?」

「構いません。それが若かりし頃の俺の望み。そして、私もまたそれを望んでいる」

「良かろう。ならば、裁定を述べよう」


 巨大なおっさんは槌を振り下ろし、二度打ち鳴らした。



「では、罪状を言い渡す。笠鷺燎は――――宇宙追放刑と処す!」



 刑の言い渡しと同時に鬼たちが笠鷺に近づいてきた。

 彼は彼らに手を振る。

「自分で行けるよ」


 彼は二人の獄卒に付き添われ、長い廊下を歩いていく。

 その途中で坊主頭の少年に出会った。


「おや? あなたはお地蔵様」

「お久しぶりですね」

「アプフェルの件はありがとうございました」

「いえいえ、私が勝手にしたことですから。おかげさまでここにいるわけですが」

「というと?」

「ええ、一緒に参りましょうか」





 地蔵菩薩は笠鷺の隣に立つ。

 その途中で地蔵菩薩は笠鷺の姿を目にして微笑む。

「ふふふ、少年時代の姿ですか。人とはやはり、若い姿の方がよろしいのでしょうか?」

「ええ。年老いた身体だと足腰がつらくて。本当はもうちょっと大人の方がいいんですが」

「ならば、どうして少年の姿で?」

「それは後ほど。そろそろ、到着しますし」



 二人の目に、狭間の世界に繋がるダストシュートが入った。

 鬼の一人がダストシュートを開ける。


 彼らの様子を見ながら、笠鷺はお地蔵様に声を掛ける。


「あなたまで捨てられてると、地球のお地蔵様はどうなるんです?」

「私は無数に存在しますから、一人が消えるだけで問題ありません。それに時間が経てば、私を補完するために新たな地蔵が生まれますから」

「そりゃ、すごい話……では、行きますか」

 

 笠鷺が一歩前に出る。

 すると、鬼が彼を抱え上げた。

「え、なに? ちょちょちょ、自分で行けるってっ」

「これは我らの役目。さらばだ!」

「えっ!?」


 笠鷺燎は再び、ゴミのように投げ捨てられた。

「ひゃ~。だから、扱い方が雑過ぎるだろうが~!!」





・妹の柚迩ゆにはライカンスロープの都・ミラにいる予定で、アプフェルが里帰りをした際に柚迩と出会うはずでした。


・ウードの正体

 物語を書いている当初は何人か候補があり、どうするかずっと迷っていました。

(斉天大聖孫悟空やエリザベート=バートリなど)

 自身を女と名乗り、さらにはクイズを出したときは、妲己に固定すると覚悟を決めた瞬間でもあります。

 


・サシオンはフォレを庇い、コトアの元へ戻ることなく死亡する予定でした。そして、サシオンはフォレに戦艦インフィニティを託す……といった話です。

 この場合、マヨマヨが所有する船との戦いが待っていました。


・登場しなかった天翔ける空兎そらうさぎ人兎じんと族。

 米軍の偵察爆撃機ドーントレスを乗り回すアメリカンなウサギさん。

 アクタで唯一、龍族と渡り合える種族として登場予定でした。

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