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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第二十八章 罪は集いて大罪を討つ

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悪徳の町

アクタへ戻ってきた笠鷺を出迎えたのは、敵としてのアプフェル。

彼女から魔力を奪い、辛うじて逃げ出すことに成功した。



一方王都では、ウードからの無慈悲な命令に仲間たちが抗い続けていた。

その中で、フォレは己自身が目指していたものを思い出す。

今はもう、彼に迷いなどはない。



――ジョウハク・西方・チャッカラ


 

 ジョウハクの西端にある、ここチャッカラは悪徳の町として有名であった。

 この町は周辺部族が勝手に作り上げた町で、伝統的にジョウハクと対立している町。

 常々、ジョウハクはこの町への軍の派兵を検討してした。


 だが、ここら一帯は小さな部族が乱立し、またジョウハク国から距離もあり、移動だけで大きな時間を要することになる。

 さらには、ジョウハク国から見ると、さほど需要な場所でない。


 新女王を迎え、目に見えてわかる成果の欲しいジョウハクとしては成果の上がりにくい上に、何らメリットのないこの町に関わる理由はなかった。


 そのため、チャッカラは今日も元気よく悪徳を栄えている。


  


 その町の一角にある酒場で、いま俺は机に足を置き、怒鳴り声を上げている最中だ。

「次ぃ! さぁさぁ、どんどんこいやぁ!!」

「あのなぁ、あんちゃん。もう、百は超えてるぜ。底なしかよ」


「百? 全然足んねぇよ!」


 俺の足元には大勢の男や女どもがぶっ倒れている。

 ここは酒場……だけど、酔いつぶれているわけじゃない。

 倒れている連中はみんな、魔力を豊富に持つ魔導士や戦士たち。


 彼らは俺から魔力を抜き取られた屍たちだ……気を失っているだけどね。


「さぁて、つぎじゃあ。こんな魔力じゃヤツハには勝てねぇ!」



 俺はアプフェルから逃げ延びたあと、バーグのおっさんから元キシトル兵士たちが傭兵として身を寄せている町があると紹介された。

 そこでアプフェルの魔力を使い、転送でこの悪徳の町『チャッカラ』に訪れた。

 因みに転送ポイントは、町の場所を知っているおっさんの魔力と同調して転送先を特定した。



 町に着いてすぐ、おっさんにあることを尋ねる。

「俺は俺の勝手な理由でヤツハを倒そうとしているけど、なんでおっさんは協力してくれんの?」

「ん? まぁ、なんだ。故郷の敵討ちってわけじゃねぇが、ジョウハクの連中に一発かましてやりてぇってのがあるな」

「本当にそれだけで?」

「うん、まぁ、それによぅ」


 おっさんは俺の頭をポンポンと叩く。

「あのヤツハ率いるマヨマヨたちに、どこまであんちゃんが食いつけるか見てみてぇってのもあるな」

「野次馬かよ!」

「はっはっは、そう言うなよ。魔導士たちを紹介してやんだから」


 

 そんなわけでチャッカラに訪れたというわけ。

 町に訪れて、まず俺が感じた感想は。

「スラム?」

 

 無造作に乱立する建物の群れ。

 通りは汚く、妙な刺激臭が漂い、さらには胡散臭い連中が跋扈し、怪しげな店が立ち並ぶ。

 あちらこちらから怒声が届き、時折悲鳴も聞こえる。

 そして、ジョウハクとは比べ物にならないくらいの多くの種族が交差する、人種のるつぼ。

 

 バーグのおっさんは俺の言葉に否定と肯定の交わる言葉を返す。

「スラムじゃねぇよ、町だよ町っ。まぁ、スラムみたいなところだけどな」

「どっちだよ? 大丈夫、ここ? いきなり身ぐるみとか剥がれそうなんだけど……」

「ま、俺が付いてるから大丈夫だ。とにかく、酒場に行くぞ。そこで昔の仲間がたむろってるからな」



 そうして、壁や床にまでアルコールが染み込んでいそうな、ぼろな酒場へとやってきた。

 そこにいた傭兵っぽい男にバーグのおっさんは話しかける。

 すると、男はどこか消え、数分後、数人の魔導士を連れて戻ってきた。


 俺から彼らに事情を話すと、キシトル帝国の仇が取れると二つ返事をしてきた。

 さらには、周りにいたチャッカラの住民もノリノリで協力を申し出てくる。


 それは何故か? 理由はジョウハク嫌いだ。

 この町はブラウニー執政下に流通の塞き止めという、嫌がらせを受けたらしい。

 もともとジョウハクと敵対しており、そんな嫌がらせを受けたため、その嫌悪感は最高潮。

 

 

 とはいえ、多くの住人は俺みたいな子どもが、ジョウハクの、その宰相ヤツハを討つと言っても面白半分のネタとしか見ていない。

 そこで、おっさんが紹介した魔導士たちに魔法を発動してもらい、それらを全て吸収してやった。

 

 俺の制御力を見た住人たちは驚き騒めき、何故か大いに盛り上がる。

 それはここが酒場という場所だから。

 つまり、酔っ払い塗れなので無駄に盛り上がる……。


 それに加え、ジョウハクに一泡吹かせてやりたいのか単に面白がっているのか、ある程度の魔力を持つ連中が次々と俺に魔力を渡してきた。


 しかし、途中で意味不明な展開になっていく。

 一人の意地っ張りな酔っ払いが出てきて、「俺はそう簡単に魔力は渡せねぇぜ」とか言って、わざと魔力の流れを搔き乱して魔力を奪ってみろと挑発してきた。


 それをあっさりと奪ってやった。

 すると、次は俺だ、俺だと、勝手に盛り上がり始めて、列をなして、俺の制御力に挑戦してきた。

 その挑戦に正面から応えてやる。

「あんたらなぁ~。いいだろ、まとめてかかってこいやっ!」




 そして、現在に至る。

 床に転がる屍、もとい、気を失っている戦士魔導士たちへ目を落とす。

「あ~、ちょっと調子に乗りすぎたかなぁ。思いっ切り挑発に乗って、限界まで吸い尽くしちゃったよ」

「まぁ、いいんじゃねぇのか。こういうのはとことんやった方が盛り上がるってもんだっ」


 と、言いつつ、バーグのおっさんは両手に薄着の女性を抱え、右手ではおっきくて柔らかそうな胸を揉んでやがる。


「おっさん、何やってんだよ……?」

「なにって、楽しんでんだよ。なぁ~?」

 いやらしい顔を浮かべて、二人の女性の胸を同時に揉む。

 すると、女性の一人が官能的な声を響かせた。


「あんっ。もう、ここじゃなくて、続きはベッドで……」

「だっはっは、だよなぁ~」


 おっさんはきったない笑い声を飛ばす。

 酒を結構あおっているらしく、顔が赤い。


「俺が頑張ってるのに、この~、エロ親父めっ」

「ぼやくなぼやくな、はっはっは! あんちゃんも女が欲しけりゃ、今から呼んでやろうか?」

「いらねぇよっ! それよりも魔導士たちのおかわりだ。この程度じゃ、ヤツハには届かない!」



 バーグのおっさんの紹介とチャッカラの住人たちのおかげで、百人以上にも及ぶ魔力を手に入れた。

 だけど、まだ足らない!


 キッと鋭い眼光を周囲に飛ばす。

 まだ、酒場に魔力を持つ者がいる。

 そして、この騒ぎを聞きつけて集まってきた野次馬たちが店外にいる。

 だけど、誰も名乗り出ようとしない。


「おい、誰でもいいから、来いよ」

「いや~、無理だろ」

「なんで?」

「あんちゃんが凄すぎて、賭けが成立しないんだよ」

「賭け?」


 おっさんがくいっと首を動かす。

 その方向へ顔を向けると、小太りのおっさんが金勘定をしている姿が……。


「俺が魔力を奪えるかどうか賭けてたのか? いつの間に……」

「ま、そういう町だからな。それに賭けだけじゃなくて、ちょっとあんちゃんにビビってるところもあんな」

「ん、どうして?」


「この死屍累々の酒場を見てビビらねぇ方がすげぇよ。なんで限界までやるんだよ。もうちょい手加減しろっての。あっさり雰囲気に流されやがって、やっぱガキだな」

「おっさん、さっきまで盛り上がっていいじゃねぇかって言ってたよな!?」

「そうだっけぇ~? へっへっへ~」

「この、酔っ払いめっ」



 おっさんを睨みつける。

 すると、バーグのおっさんは両手の花を放して、顎髭をジョリっと撫でながら声色を真面目なものへと変えた。


「しかし、あんちゃんはただのガキじゃねぇな。馬鹿げた量の魔力を蟒蛇(うわばみ)のように飲み込んじまった。おまけにまだ余裕があるんだろ?」

「うん、全然余裕」

「自身の魔力量はほとんどないのに、器だけは底なしかよ。どうなってんだ、あんちゃんの身体?」


「知らんよ。なぜか、大気中にあるマフープが俺の身体に入るのを拒絶してるんだもん」

「ふ~ん、大気中に漂うマフープには女神コトアの加護があるって話だが……あんちゃん、女神様に嫌われてるんじゃねぇのか?」

「嫌われるようなことをした覚えはねぇよっ」

「ま、だろうな……とりあえず、今日のところは打ち止めにしとこうや」

「はぁ、仕方がない」


 

 俺はがっくりと肩を落とす。

 その肩をポンポンとバーグのおっさんは叩く。


「そう落ち込むなって。少なくともあんちゃんに、あのヤツハと対抗できるだけの力があるってことはわかったからな」

「おっさん……」

「明日にも魔導士や戦士たち見つけてくらぁ」


 おっさんはニヤリと笑みを見せる。

 俺はそれに対して、礼を述べようとした。

 そこに、声が届く。



「有象無象の魔力をいくら吸収しようとも無意味であろう」



 ズシリと、心に響く声。声は酒場を凍りつかせる。

 だがそれは、威圧感とは全く違う、不思議な声。

 

 そうであるのに、思わず(こうべ)を垂れてしまいたくなる、厳かな声の()

 酒場いる者たちは身体を震わせながらも入口へ目を向けた。


 今までの騒動を酒場の外で見学していた一癖二癖ある者たちが、無意識に壁端へ寄り、声の主のために道を作る。


 

 そのむさ苦しい花道を歩き、簡素な旅の装いをした一人の男が酒場に入ってきた。

 男は真っ白な髪と、顔半分を白髭に覆いつくされた、掘りの深い老人。

 姿は山のようで、あの六龍パスティスよりも身体は大きく、ケインよりも逞しい肉体を持つ。

 そこに、老人という名から連想する衰えは全くなく、活力に漲っている。


 よく見ると、その老人の後ろには男の剣士と女の魔導士が付き添っていた。

 双方ともに若い。

 だが、その身に宿る魔力はエクレル先生を超えている。

 

 前に立つ老人に至っては……女神の装具もなく、六龍に並ぶ。



 俺は彼らに名を問おうとした。

 だけど、その言葉よりも早く、バーグのおっさんが指先を震わせ老人の正体を口にする。


「お、お、お、親父! どうしてっ!?」

「へ、親父? て~っと…………キ、キシトルの!?」

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