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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第二十六章 女神コトア

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数多の宇宙から訪れる少年たち

 私は近藤ちゃんの場面から移動して、草原で途方に暮れている少年の前に立つ

「なるほど。この少年とは違う、別世界の同一存在である少年は、近藤ちゃんとあんなことになるんだ。次はどこを見ようかな? うん、最初から見よう」


 場面は、目の前にいる少年がアクタへ訪れる前に移る。


 


 無に投棄された少年は負の想像の反映に逆らっていた。

 並みの者なら闇に怯え恐怖が心を包む。

 それなのに少年は、無の世界に自分の部屋を浮かべて、のんびりと煎餅を食べている。


「ええ~、なにこの子? 危機感ってものがないのかなぁ」

 自分の想像を反映させて、くつろぐ少年。

 その姿に、神である私は嫉妬してしまった。

「私には創造ができないのに、有の存在は神でなくとも無に自分の想像を反映できるなんて、プンプンだね…………ん?」


 私は少年の魂の中に潜む、別の魂を感じ取る。

「これって……前世? こんなに明確に感じ取れるなんて、かなり生に執着のある存在みたいだね。あ~、これが彼の罪なんだ」

 


 私は少年の罪を知る。

 少年は前世の罪である、神の持ち物を盗んだ罪を償うことができずに宇宙追放刑を受けていた。


「はぁ~、相変わらず、有の世界の連中の誇り高いこと……あっ」

 少年の部屋が崩壊を始めた。

 想像を生み続けることに疲れてしまったみたい。


 

「ま、そうなるよね。でも、少しの間とはいえ、無の世界で普通に居られるなんて、変わった子……それで、ここから~」


 部屋を失い無に漂う少年の前に地蔵菩薩が現れた。

 地蔵菩薩は少年の精神力に驚きつつも、刑罰の重さに同情し、少年は私の世界へ送られる。


 無には、地蔵菩薩だけが残る。

 私は彼に話しかけた。


「どうして、こんなことを?」

「え? これは虚無の女神コトア様。接触は法度(はっと)のはずですが?」

「ここは無。私の世界。ルールを破ってるのはそっちだよ。それに、宇宙追放刑を受けた者へ救済を与えるのもね」

「ええ、そうですね」


 私はもう一度問う。

「どうして?」

「それは……私が人間に近づきすぎたからです。人の目線を持ち、彼の受けた刑罰を理不尽と感じてしまいました。前世が犯した罪を何も知らずに背負わされるなど……蒙昧(もうまい)な存在には重すぎます」


「そうなんだ。君って、変わり者だね」

「はは、その通りです。コトア様、どうかあの少年をよろしくお願いします」

「うん、ど~んとこいだよ。って言っても、誰か一人に肩入れはできないんだけどね。じゃね」



 場面を切り替え、少年の生涯を見つめる。

 彼の中に潜んでいた魂は無の世界で自分を具現しようとしたけど、あっさり消え去り、少年は何事もなく、ごく平凡な人生を歩み、終える。

 

 それを私は少しもったいないと思っていた。


「魔法を操る才を持っているのに、魔道に関わらないなんて。もっとも、魔力に恵まれなかったからだけど……ううん、魔力を納める器は並々ならない。となると、私の所為かな?」


 少年は魔法を操る才――人が制御力と呼ぶ才を持っていた。

 でも、魔力が乏しく、魔道を歩む機会がなかった。

 そして、彼の魔力が乏しい原因は私にあった。

 それは神にあるまじき行為……。


「無の世界で創造を可能とする君に私は嫉妬しちゃった。だから、私の祝福を受けたマフープが君の中に入ることを拒絶しちゃったんだね」


 マフープは私の力の一端。

 それらには極めて小さな私の意思が宿っている。

 その意思たちは少年に嫉妬した私の思いを受けて、彼の中に取り込まれることを拒絶しちゃったみたい。

 これじゃ、必要最低限の取り込みがやっとで、少年の身に魔力が満たされることはない。

 

 

「はぁ~、神とあろうものが人に嫉妬だなんて……でも、それ以外にもあの子に対する無意識の警戒感があるのかも」


 少年にはもう一つ、特別な才があった。


 それは情報に触れ、操る力。

 その力あったからこそ、無の世界で少しの間だけ生存できた。

 

「あの子。ちょっとだけ、情報を操れるんだ。無の世界でくつろいでた様子といい、かなり変な子なのかも。でも、全部魔力不足で意味を成してないけど……それでも、危険な存在」



 情報に触れる力。

 これが有の世界なら、よほど強力な力を持たない限り、特に役立つことはない。

 だけど、このアクタでは違う。

 アクタは情報が積み上げられてできた世界。

 万が一、その情報に触れてしまったら、彼の脳が壊れるか、それとも……。

 

「ふ~ん、この時点での私は、彼が情報に触れることを警戒して、その力を封じたんだ」


 だからこそ、別の場面にいる私は、今の私へと意識を統合してきた。


「ふむふむ、たしかにアクタを大きく飛躍……ううん、もっとすごいことになりそう。だけど、さすがにそれは有の存在が黙っててくれない。だからって、人のように手持ちの情報のみで動かないといけないなんて」


 

 計画が完遂できた、もしくは道筋を作ることに成功した場面にいる私と意識が統合できない。

 それはつまり、先の場面が定まっていないということ。

 そしてそれを見ようと力を行使すれば、監視者たちに計画の存在が見つかってしまう。


「わ~、人みたいに手探りで歩かなきゃいけないんだ。私、神なのに……でも、ちょっと面白そう」


 先が全く見えない道を歩く。

 それはとても怖いこと。

 だけど、怖いという感情も含めて、私は手探りで歩く行為を楽しく感じている。


「よし、移動できる場面。必要とする場面に変えよっと」


 私の視界はぐるぐると回り、目の前に次々と場面が現れては通り抜けていく。

 その場面は全て、あの少年の場面。

 

 あの少年は時間にズレがあるものの、様々な宇宙から私の世界に訪れている。


「あの子たちは別の宇宙からやってきた水野みたいに、色んな宇宙からやってくるんだ。でも、どれも似たような人生で終わってる」



 宇宙は違っても、少年はみんな、前世の罪を償っていないという理不尽な刑を受け、宇宙を追放される。

 そこを地蔵菩薩に救われ、アクタへ。


 少年に魔法の才あれど、マフープから拒絶されて魔力がほとんど宿らないため、魔道に触れることはない。

 そして、どの少年もやがては結婚し、数人の子どもに恵まれ、幸せな生涯を終えている。



 私は多くの少年たちを目にして、その情報を集める。

 そして、行動パターンを読み取り、人間のように予測する。


「うまく誘導できれば、私が思い描いた計画が実る。よしっ」


 場面を予知不可能の見えない場面へと移す。

 ここからはほぼ手探り。

 場面を見ようとする場合、予測の混じる不完全な場面となる。

 

 ここから私は手に入れた情報を元に、先を予測し行動する。人のように……。

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