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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第二十二章 決戦前夜

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過去に触れる力????

――大浴場



 ゼリカ公爵の屋敷には複数の風呂が完備してある。

 一つはVIP専用の個人風呂。

 もう一つは学校の運動部に所属する生徒たちのための大浴場だ。



 俺はその大浴場へ訪れた。

 先程の会話が本当に行われていたのならば、アプフェルたちはここにいるはず。


 女性専用風呂の扉を開けて、中へ。

 広い脱衣場には二人がいた。


(マジかよ。本当にいるなんてっ)

 驚きは抑え、とりあえず二人に声を掛ける。

「よ、今からお風呂?」

「あら、ヤツハさん?」

「え、ヤツハっ?」

 

 二人はこれからお風呂に入るみたいで下着姿だ。

 パティは胸の下半分が濃い布で、上半分がレースという黒色のブラをつけている。

 下も上と同じデザインの黒の下着。



 アプフェルは……。


「何よ、ヤツハ?」


 アプフェルは顔を赤らめて、タオルで身体を隠している。

 別に裸というわけじゃないのに、どうして身体を隠すんだろう?


(あ、もしかして)

 先ほどの会話の内容を思い出し、アプフェルに尋ねる。

「ちっぱいを見られるのがそんなに恥ずかしいの?」

「だれがちっぱいだっ!」

「だったらなんでタオルで身体を隠すんだよ。別に裸でもないのに?」

「それは……別にいいでしょっ」


 何を怒っているのか、アプフェルは自分の服を手に取り、着替えを始めてしまった。

 それも何故か、あまり俺に見られないように……。



(なんだ、あいつ……?)

 俺はアプフェルから視線を外し、パティへ移す。

 パティも自分の服に着替えようとしている。

 

 ゆっくりと視界から消えていく肢体。

 擦れる布の音。

 何故か、それらに興奮を覚えてしまう。


(あれ、なんでこんなことで? 二人の裸を見たときだってこんなに興奮しなかったのに?)

 ケインの屋敷でお風呂に入った時は二人とも裸だった。

 そこで色々見えてしまいそうになり慌てたが、ここまで興奮はしなかった。

 それなのに今は、下半身に血流が集まる、あの懐かしい感覚を思い出している。


(え、そこには何もないでしょ。女なんだから……はっ!? そうか、身体はともかく男の思考が戻りつつあるから、二人にっ!)


 

 俺は急ぎ二人から目を逸らした。

 顔が一気に火照っているのがわかる。

 その様子をパティが不思議そうに覗き込んできた。


「あら、どうしたんですの? 顔が赤いようですが? 風邪?」

「ほえ? ひや、違うよ。えと、さっきまで魔法の練習をしてたからねっ」

「ああ、そういうことですの? それでしたら、ちょうど良かったかもしれませんわね。お風呂のお湯は張り替えたばかりですから」

「張り替え。そっか……」


 二人が浴場にいたこと。

 そして、女中さんが口にした風呂の湯の張り替え。


(じゃあ、あの会話は本当に。ってことは、俺はテレパシーが使える?)

 俺は無言で考えに耽る。



 そこに二人が声を掛けてきた。


「それじゃ、お休みなさい」

「ヤツハさんも早く汗を流すといいですわよ」


「うん…………え!? 二人ともお風呂はっ?」


 二人とも着替えを終えており、脱衣場から出て行こうとしている。

 二人はキョトンとした顔を向ける


「お風呂と言われても、上がったばかりだし」

「ええ、そうですわよ」

「はい?」

 

 二人をよく見る。

 二人とも柔肌から蒸気が立ち昇り、髪は艶やかに揺れ、潤いに満たされている。

 そこからたしかに風呂上がりだということが見て取れる。



 俺は二人に生返事をする。

 二人はちょっと首を捻ったが、何を尋ねることもなく脱衣場から出て行った。

 

 俺は一人、脱衣場で顎に手を置き、首を捻る。


(どういうことだ? だってさっき、女中さんと会話したばかりだろ。それなのにもうお風呂を上がっているなんて?)


 あの会話を聞いて、数分も経っていない。

 そうだというのに、二人はお風呂から上がっている。


(だったらなんだ? あれは過去の会話だったってことか? 一体何が起こっている!?)

 意味不明……あの世界は俺の過去の記憶を呼び起こすだけの世界ではないのか?

 誰かの会話を聞ける世界? 

 しかも、過去の?

 

(だめだ、わけがわからん……もう一度、意識を)

 目を閉じて、引き出しの世界へ。

 そして再び、その世界で目を閉じ、意識集中したのだけど……。

 


「あなた、何をしてるの?」

「ウードか。ちょっと黙ってろっ」

「フフ、二人とお風呂に入れなくて悔しがっているのかしら? 今のあなたは年頃の男ですものねぇ」

「ウード、黙ってろ!」

「っ?」


 ウードを睨みつけると、彼女はびくりと体を跳ね上げ、それ以上一言も漏らさなかった。

 俺は改めて、意識を集中する。

 だけど、先ほど見た光は浮かばない。


(なんでだ? さっきのはたまたま? それともウードがうざいから? もう一度集中…………ふぅ~、だめっぽいな、こりゃ)

 俺は先程の現象を再現するのを諦めることにした。


「はぁ、やっぱり取扱説明書が欲しいな」

「あなたはさっきから何をしてるの?」


 ウードが俺を覗き込む。

 彼女を目にして、なんとなくこいつのせいのような気がしてきた。

「ふむぅ~、お前が近くにいるからかなぁ? というか、お前が俺を意識したから?」

「ん?」

「まぁ、いいや。大したことじゃなさそうだし」


 過去とはいえ、人の会話を聞けるのは凄いことだけど、上品な行為じゃないのはたしか。

 それに、使ってすぐに頭痛が襲うようじゃ、あまり役に立ちそうにない。


「はぁ、寝るか。おやすみ、ウード。あんま夜更かしすんなよ」

「ちょっとっ、あなたはなにをして――」



 目を開けて、ウードの声を消す……そのつもりだったが、脱衣場にウードがいる。

「そっか、引き出しの世界だけじゃなくて、普通に出てくるんだったな、お前」

「それで、さっきのは何だったの?」


(はぁ~、しつこい奴。だからといって、あんまりこいつに情報渡したくないなぁ。仕方ない、適当に誤魔化すか)


「鳥の情報を探してたんだけど、アホみたいに情報があってどうしようもないから、もっと絞れないかと悩んでたんだよ」

「鳥?」


「そ、鳥。俺が幼いころ、夜に鳴く鳥がいたんだよ。屋敷の暗がりを見てたら思い出してな」

「なんで、そんなに鳥が気になるのかしら?」


 しつこい……何か別の隠し事があるのかと疑ってるのか、そういう性格なのか。

「はぁ~、めんどい性格してるなぁ、お前」

「いいから答えなさいっ」


「あ~、はいはい。おばあちゃんと一緒に住んでいた頃を思い出して、その繋がりで夜に鳥が鳴いてたけど、何の鳥だっけと思っただけ。結局、種類がいっぱいいてわかんなかったけど」

「たしかに祖母が亡くなるまで、あなたの両親と祖母は一緒に暮らしていたみたいね」


「そんなことまで見てるのかよ。きっもっ」

「何とでも言いなさい……本当にそれだけ?」

「本当にそれだけって、俺とおばあちゃんの懐かしい思い出なんだけどなぁ」

  

 

 おばあちゃんのことを思い出して、胸の中が暖かくなる。

 その姿を目にしたウードは少しだけ顔を歪めた。


「はぁ、追慕(ついぼ)というわけ。くだらない」

 ウードは俺が何か重要なことを考えていたのではと思っていたのに、その中身がおばあちゃん子の思い出の振り返りと知って、無駄骨だったとため息を漏らす。

 彼女は表情に落胆の色を見せたまま姿を揺らめかせて消えていった。


 姿が完全に消えたことを確認して、心に言葉を広げる。

(はぁ、誤魔化せた……しつこい女。だけど、ふふ、甘くて優しい思い出話は苦手みたいだな)


 機会があればウードの前で愛について語るのも面白いかもしれない。

 もっとも、俺自身あまり愛についてわからない上に、愛を語る恥ずかしさがあるけど……。

(ま、それはいいや。それよりも……結局さっきのことが何だったのかわからずじまいか)


 

 意識を集中すると聞こえた過去の声。

 何のための能力なのか?

 そもそも本当に過去の声を聞く能力なのか?

 それとも、本当は別の能力が隠されていて、たまたま過去の声が聞こえたのか?


(さっぱりだな。ウードがいるとダメっぽい感じもするし、おかげでそうそう試せるもんじゃない……引き出しの世界には妙な能力が隠されている。とだけ、覚えておこっと)

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