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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第二十二章 決戦前夜

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マヨマヨ情報

 うまく自分の存在を誤魔化したところで、俺は赤いマヨマヨの柳さんから受け取った情報をみんなに伝える。


「皆さん、実は重要な情報が私の手に舞い込んでおりまして、よろしいでしょうか?」


 皆は一斉に押し黙り、視線を俺に集める。

 サシオンの効果は抜群だ!



「まず、現在のジョウハクを取り巻く事情はご存知でしょう。北のソルガムと南のキシトル帝国が、虎視眈々とジョウハクを狙っています」


 子爵は俺の言葉に付随するように声を出す。


「ええ、特にソルガムは以前から北方の城砦に狙いを定め、軍を動かしているという情報が届いていますね」

「はい……それについて、かなり厄介なことが起こりそうなんです」

「というと?」


 子爵はモノクルをきらりと光らせ、円卓に座る面々も同じく目を光らせる。

 俺は張りつめた空気から受ける緊張を少しでも和らげるために、肩から力を抜きつつ息を漏らす。



「ふぅ……皆さんはマヨマヨに、強硬派と穏健派がいるのはご存知でしょうか?」

 皆はコクリと頷く。

 重要人物ばかりなので、アクタの裏事情を知っているようだ。


「では、話を続けます。現在、北方のソルガムはジョウハクを窺っていますが、その水面下ではどうやら強硬派のマヨマヨが動いているようです」


 

 この情報に空気は凍りつく。

 彼らの脳裏には王都襲撃の苦い記憶が蘇っているようだ。

 俺はさらに言葉を続ける。


「ですが、穏健派と呼ばれるマヨマヨたちが彼らを抑えるようです」

 ティラの隣に座るゼリカ公爵が言葉を飛ばす。


「その情報は一体どこから?」

「サシオン様はマヨマヨの動向を探るために、密偵を潜ませていましたから、その方から」

「なるほど……たしか、王都襲撃の際も、サシオン殿が事前に察知していたと聞いていたが。う~む、そのようなからくりがあったわけだ」


「続けてもよろしいでしょうか?」

「ああ、進めてくれたまえ」


「では……穏健派と呼ばれるマヨマヨたちは味方というわけではありませんが、我々と関わることを避けているので、彼らはソルガムの(いくさ)に関わろうとする強硬派を抑えるでしょう。ですが、ここに一つの懸念があります」


「それはなんだね?」


「北方に強硬派のリーダーの姿がないそうです。彼は大きな作戦を行う場合、必ず指揮を執る。何か、もっと大きな作戦が進行している可能性があります」

「それは?」


「残念ながら密偵は途中で正体を気づかれ、これ以上詳しい情報は得られませんでした。ですが、密偵は彼らの思惑のよってはかなり危険な事態になると言っていました」

「その危険な事態とやらが重要な情報なんだね?」


「はい。強硬派は王都サンオンの地下に眠る女神コトア様を狙っている。しかし、王都襲撃は失敗に終わり、我らアクタ人の力に恐怖したそうです」


 

 おお~っという歓声が会議室を満たす。

 脅威と言われるマヨマヨを退けたこと。そして、彼らを恐怖させたことに安堵と矜持を感じ入ったのであろう。


 しかし、セムラさんだけは俺を一睨みして、続きとなる言葉を先んじて出し、それに対してポヴィドル子爵が疑問の声を上げた。



「それは厄介だ。彼らは腰を据えてかかることにしたというわけか?」

「セムラ様。それは一体?」

「マヨマヨどもは今まで我らの力を侮っていた。しかし、襲撃を通じて脅威と感じ、時間をかけて攻略することにしたのだろう。例えば……王都を窺える場所に拠点を築くなど、な」

「そ、それはっ!?」



 先ほどの安堵感が粉みじんに砕け散り、喧騒が埋め尽くしていく。

 俺は喧騒を掻き消すように大声で皆に言葉をぶつける。


「セムラさんの言うとおりです。ですがっ、これらはあくまで可能性の話。今は警戒を強めるに留め、目の前にある敵を討つことに集中すべきでしょう」


 この声にセムラさんが答える。

「うむ、要塞都市リーベンは背後に敵はなく、そういった意味では内部と背後の警戒が疎かであるからな。強硬派どもの動きが掴めぬ以上、つぶさに動きを見ておく必要があるだろうな」


「はい、その通りかと……私が得た情報は歯抜けの情報ばかりで、逆に皆さんへ不安と混乱を与えただけかもしれません。ですが、伝えるべきことかと思い、お伝えしました」


 俺は深々と頭を下げて、後ろに下がる。



 ゼリカ公爵は俺に視線を向けて、次に円卓を見回す。


「いや、ヤツハ殿。必要な情報であった。我らは目の前の敵だけを見すぎていた。各々方、警戒を巌に」

 皆は互いに頷きあい、さらに軍議を深めていく。

 内容は兵站などに移り、いよいよついていけなくなった。

 そんなわけで、俺は話に関わらないように努め、たまにうんうんと頷くだけに留めておいた。

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