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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第十八章 大空の支配者

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三人目の空間の魔法使い

 先生は俺との間に、魔力を増幅するというオリハルコンの力宿る魔導杖(まどうじょう)を地面に突き刺す。

 

「杖を通し、互いの力を増幅します。そして、魔力を共鳴させて、消失に当たる。できるわね、ヤツハちゃん!」

「もちろん!」


 俺と先生は同時に全身から魔力を放つ。

 二つの魔力は同一の波長となり、互いに結び合う。

 そして、両手に魔力を集める。


 

 こちらの覚悟が終え、トーラスイディオムは大きく顔を天に掲げた。

「まさか、生涯最初にして最期の身魂投げ打つ力を人に向けようとは……ふふ、長きを生きてきたが、これほどの驚きと喜びを味わったことはない」


 トーラスイディオムの全身に紫と黄金混じる稲光が(ほとばし)る。

 彼から放たれる強大な魔力に空間は悲鳴を上げて歪められる。

 持てる力は全て、龍の(あぎと)に集まり、黄金の輝きが辺りを染めていく。


 その力はあの黒騎士との戦いでも感じることのなかった、絶対の力。

 俺の全身に寒気が走り、汗が一気に噴き出す。 


「先生……」

「どうしたの?」

「ちょ~逃げたい」

「あのね、いまさら何を言ってるの?」

「いや、だって、あれ、人の受ける力じゃない。触れた瞬間消滅するっ」


「そうね。ここで私たちが受け止めることができなかったら、後ろにいるピケちゃんたち。そして、コナサの森のみんなも消えちゃうでしょうね」

「まぁ、そうでしょうね。それにほっとくと、もっとひどいことになるんでしょ?」

「力の暴走による爆発。ここはもちろん、王都サンオンを含めて甚大な被害が出ちゃう……」


「まったく、何で静かに死ねないかな」

「その身に膨大な力を持つ者の宿命。常に力を産む龍は危険と引き換えに至高へ立つのよ。鎮め方を誤れば、ご覧の通り」

「危険が他の種族に及んでるっ。ちきしょう!」


 

 俺と先生は両手を前に出し構える。

 トーラスイディオムは一度大きく仰け反り、首を前に戻すと、(あぎと)より咆哮を放った!

 その咆哮を最後に大きな唸り声を上げて、彼は地面に倒れた。


 黄金の一閃が周囲を光に染め駆け抜けていく。

 光に怯えた地面は捲り上がり、その場から逃げ出す。

 転がっていた大岩も羽を生やし、我先にと離れていく。


 そんな馬鹿げた力を相手に、俺たちは正面から挑む!!



「ヤツハちゃん、最初の一撃で動きを止めるわよ。流れに集中!」

「はい!」

「流れは単純! 私が右上と右中を受けるから、ヤツハちゃんは左上と左下!」

「わかりました!!」


 光の塊が近づく。

 塊の表面では魔力の波紋がゆっくりとしたうねりを見せ、それらがぶつかり合い、緩やかな流れが産む。

 俺たちはその流れに沿い、まず塊の動きを止めた。


「うらぁぁぁ!」


 俺と先生の両手は流れのポイントを射抜く。

 一時は動きを止めたが、放たれた光線は魔力の洪水となって次々と押し寄せる。

 塊の中に新たな流れが出現する。

 その流れを、一度の過ちも犯さずに一つずつ丁寧に押さえ、受け流す。


 右手で上を押さえると、下に流れが生まれる。

 下を左手で押さえると、次は中央に生まれる。

 中央を押さえると、流れが三つに。

 それら瞬時にして押さえると、また新たな流れが……。


 忙しなく動く四本の腕。

 俺は悲鳴を上げる。


「むりむりむりむりっ! 間に合わないっ!」

「間に合わなかったら消えてる。頑張って!」

「そんなこと言われても、一撃一撃が重くてしんどいっ」

「口を動かす暇があったら、手を動かす!」


「その手が疲れてきてきっつい。これって、体力も使うんだけど~」

「もう、命が掛かってるのに、我儘ばかり言って……でも、そんな余裕があるのが驚きね」

「え?」


「普通はこんな強大な力を前にしたら身が竦むものよ。それなのに」

「黒騎士とやり合って、死線というやつを知りましたからね。おかげさまで死は怖いけど、必要以上に恐れることはなくなりました」

「ふふ、大変な怪我を負ったけど、ヤツハちゃんを大きく成長させる良き出来事だったようね」


 先生は柔らかな笑みを浮かべる。

 しかし、その顔には汗が張りつく。

 それは俺も同じ。

 

 今はお喋りしている余裕があるものの、徐々に光線が俺たちを押し込んでいる。


「くそっ」

 流れの乱れる箇所が八つ現れる。

 うち三つを俺が処理をして、四つを先生が処理をするが、一つが間に合わないっ!

「先生っ」

「もうっ!」


 先生は(ひざ)に魔力を籠めて打ち込み、流れを潰した。


「おお~、器用っすね、先生。そんなこともできるんだ」

「できなかった。でも、できるようになっただけよ!」

「この土壇場でそんな機転が? さすが、先生!」

「ええ、まさか私も、こんな妙な成長を遂げるなんて思わなかった。でも!」


 先生は光を見つめる。

 光の塊は列となって、いまだ続いている。

 俺たちが消失させた力はまだ折り返し程度。

 このままでは先に、俺たちの体力と魔力が尽きてしまう。

 


――やはり、龍の今際(いまわ)(きわ)の言葉は、人には受け止めてやることができないのだろうか……。


「このままじゃ……」



<仕方がない。力を貸してあげるわ>



「え?」



 ふわりとウードが隣に立った。

 彼女は相変わらず人を小馬鹿にしながらも、心を魅了する妖艶な笑みを見せている。

 俺は頭の中で彼女に問いかける。


(何の用だ? こっちは忙しんだよ)

(これを凌ぐには二人では足らない。だから、私が力を貸してもいいわよ)

(わかった、力を貸せ!)

(あら、あっさりと……)


 俺はチラリと隣を見る。

 そこにはエクレル先生がいる。

 

 後ろにいる、守りたい人たちのことを思う。

 荷馬車にはピケやトルテさん、サダさんにノアゼット。

 さらに後ろにはクレマたちがいる。


 そして()ぎるは、近藤を失ったときの思い。


(俺はもう、失う後悔をしたくないんだ)

(そう。理由はどうあれ、私には好都合だけど……わかるでしょ。私の力を借りる意味?)

(心の浸食が進むんだろ。でも、ここで死んだら意味がないからな。それよりも、お前の力とやらでどうにかなるのか?)

(もちろん)

 


 ウードは両手に魔力を籠める。

 そして、即座に俺と先生の魔力に同調した。


(お、お前……?)

(フフ、驚いた?)

(どうして? いや、どうやって?)

(アクタへ来て以降の知識や経験はあなたと共有している。だから、魔力とやらを産む(すべ)を得ている。もちろん、空間魔法もね)

(てめぇ、俺が苦労して手に入れたものにただ乗りしやがって!)


「ヤツハちゃん……?」

「ん?」


 先生が俺の名を呼ぶ。

 意識を先生に向けると、彼女は目を大きく開き、俺を見ていた。


「二種の魔力を感じる……ヤツハちゃん、あなた一体?」


 先生の様子から、俺の内側から二人分の魔力を感じているだけで、ウードのことを感じ取っているわけじゃなさそうだ。

 俺は説明を交えず先生に指示を飛ばす。



「先生、不思議に思うでしょうが、今は目の前にあるものを、ですっ」

「え? そ、そうね。私とヤツハちゃんと、もう一つの魔力を使えば何とかなるかも!」

「はいっ!」

(ウード!)

(フフ、わかってる)


 ウードは俺の隣に立ち、両手に魔力乗せて流れを迎え撃つ。


 四から六に増えた腕。流れを見る目も六。

 

 もっとも、先生は俺たちと違い、器用に(ひざ)(ひじ)へ魔力を集めて、エクササイズをしているかのように忙しなく動いているけど……。

 

 とにかく、これならば乗り切れる!

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