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21.そして、めでたしめでたし

 春子の異邦人登録が終わった後、ネジュと二人で少し王都を観光してから帰路へと着いた。

 ファルディンはまだ神殿でやることが残っているということで王都で別れたのだが、街までの護衛として数人の神殿騎士が着いて来てくれて、無事冬になる前に帰ってくることが出来たのだった。


 そして冬が開け、春のとある晴れた日。春子とネジュの暮らす街の小さな礼拝堂で、祝福の鐘が鳴らされていた。


「おめでとうございます、ハルコ嬢、ネジュ殿」

「ありがとう」

「ファルディンさん、ありがとうございます」


 盛装に身を包んだ春子とネジュの前で、神官役をしてくれたファルディンが微笑む。今日、二人は婚礼の式を挙げたのだった。

 街に常駐する神官が居ないため、お祝いに来たついでにファルディンが式を取り仕切ってくれたのだ。


 親族が共に居ない二人のため、礼拝堂の中は春子とネジュ、そしてファルディンの3人だけだ。静かで、小ぢんまりとした式となった。

 しかし二人が礼拝堂から出れば、わぁっと歓声が上がり、花吹雪が舞う。


「わっ!?」

「ハルコちゃん、おめでとう!」

「お幸せに~!」

「ネジュ、しっかりしろよー!!」


 礼拝堂の前の広場にはマールやミーニャなど、街の人々が集まってくれていたのだ。口々に祝福の言葉や叱咤激励を贈りつつ、色とりどりの花を二人に向かって投げている。

 小さな街なので、誰かしらの祝い事は街ぐるみで祝福するのが常なのだという。


 この辺りの風習では、花嫁衣裳は母親が縫うものだという。しかし異邦人の春子には、母親がここには居ない。

 だから母親代わりだとマールがドレスを縫い、ミーニャなど春子とも関わりのある女性たちが素敵な刺繍を施してくれたのだ。そうやって作られた、薄桃色のワンピースドレスは春子の何物にも代えがたい宝物になった。


 そして本来ならば、このまま街を上げての大宴会となる。宴会では新郎が街の男たちからの洗礼として、酔い潰される伝統だという。

 しかし春子は、ネジュを連れて街外れへと向かっていた。

 後でネジュを宴会に捧げなければいけないが、その前にどうしても行きたい場所があったのだ。


「春子さん、ここってもしかして……」

「うん。初めて、ネジュさんに会った場所。ネジュさんが、私を見つけてくれた場所」


 そこは、なんてことのない森の中だ。特別な目印があるわけでもないので、正直言うと、正確な場所は分からない。

 それでも、この場所は春子にとって、特別な場所なのだ。


「ねぇ、ネジュさん。今日、何の日か、知ってる?」

「うん。……春子さんが、この世界に来た日、でしょう?」

「知ってたんだ……」


 驚いて目を見開くと、ネジュはほにゃりと笑う。

 婚礼の式を今日にしよう、と言ったのはネジュだった。春子がこの世界に来て丸一年になる日だと知っていて、式の日を選んでいたとは思っていなかった。

 驚きとともに、喜びが胸に広がる。


 とても、幸せだった。嬉しくて、自然と笑みが零れていた。

 ネジュの手を取り、真っ直ぐ見つめる。


「ネジュさん。私を見つけてくれて、ありがとう。ネジュさんに会えたから、私はこの世界で生きていれたの」

「春子さん……」

「ネジュさん大好き。これからも、よろしくお願いします」


 恥ずかしくなってペコリ、とお辞儀をして誤魔化す。

 するとグイと手を引かれ、ネジュの腕の中に抱き込まれた。


「ネジュさん!?」

「もう、春子さん……!」


 驚いて見上げれば、目元を赤く染めたネジュが嬉しそうに微笑んでいた。

 そしてギュッと強く抱き締められ、額を合わせる程近い距離で見つめ合う。


「春子さん。僕も、愛してる。きっと、もう春子さんを泣かせたりしない。だから、これからも一緒に生きてください」

「はい。ずっと、一緒に……」


 どちらからともなく、そっと距離を詰め、唇を重ね合わせる。

 強く抱き締め合い、互いの温かさを実感する。


 春の優しい木漏れ日が、そんな二人を照らしていた。

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