表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/99

76:不良令嬢、残虐鬼に甘えてみる

 伯爵らの縄を解いたクレアたちは、捕縛した執事長を残して屋敷をあとにする。

 事後処理くらいはクレオにもできるだろう。

 予め手配していた宿の部屋の中、クレアはサイファスに抱き上げられている。

 血まみれの服は着替え、風呂にも入った。

 

 抗議するも残虐鬼は耳を貸さなかったので、仕方なく状況に甘んじている。

 サイファスの腕に包まれたクレアは、小さく彼に話しかける。


「屋敷では情けないところを見せてしまったな、サイファス」

「ミハルトン伯爵を盾に取られたときのこと?」

 

 あの瞬間、クレアは動けず、最善の選択を放棄してしまった。

 過去の情に流されるなんて、愚かだと言わざるを得ない。


「俺は、あいつを見捨てられなかった。冷静に考えれば、あれほど伯爵に執着していた執事長が、彼を斬ることなどできないとわかっていたはずなのに。だからこそ、殺さず部屋で拘束していたのに」

 

 あのときのクレアは、焦って思考を怠った。僅かでもミハルトン伯爵が傷つけられる可能性を恐れたのだ。

 自分には見向きもしない、道具以外の利用価値を見いださない親なのに。

 助かったあとでさえ、彼はクレオ以外に目を向けなかったのに。

 

「あんなにクレオの地位にこだわっていたのも、結局のところ父であるミハルトン伯爵に必要とされたかっただけ。子供じみた感情だ」

 

 知れば知るほど、自分は執事長と同じだ。

 方法が違うだけで、今でも父親を振り向かせたがっている。

 

「クレア、その……私じゃ駄目かな」

「へっ……?」

「私では君の家族として不十分?」

「サイファス?」

「君は私にとって、ただ一人の家族だ。誰よりも大切な……」

 

 サイファスは寝台にそっとクレアを下ろす。

 

「ミハルトン伯爵の代わりにはなれない。けれど、私にとってクレアは、この世で一番の妻だ。君のためなら、なんだってしたい」

 

 寝台の淵に座ったクレアは、隣に腰掛けるサイファスをじっと見つめる。

 彼の目は真剣そのものだった。

 だが、クレアにとって、理解できない部分がある。


「サイファス、お前はおかしい。出会って一年にも満たない俺を、『この世で一番』の相手として扱うのか?」

「こういうのは時間ではないよ。君を知るほどに愛おしいと思ってしまうんだ。何があっても、私の手で守りたいと」

「俺を守ったところで、お前に利益があるのか?」

「あるよ。でも、そんなのどうだっていい。私が君を守りたいから守るんだ、クレアを手放したくないから……」

 

 余裕のないサイファスを前に、クレアは動揺し始めた。

 またしても恥ずかしくてこそばゆいような、それでいて逃げ出したくなるような、おかしな感情にとらわれてしまったのだ。

 顔が熱いし、動悸も激しくなっていく。

 

「クレア、どうか私の手を取って」


 サイファスは動揺するクレアに追い打ちをかけた。


「これからは王都のミハルトン家ではなく、私と共にルナレイヴで生きて欲しい。ミハルトン伯爵ではなく、私を見て」

 

 サイファスは場所のことを言っているのではない、クレアの気持ちの置き所について話している。

 クレアは、そう理解した。


 ミハルトン伯爵に顧みられず、静かに疼いていた傷。

 自分は必要ないのだと突きつけられ、認めたくないがクレアは確かにショックを受けていた。

 その傷が、サイファスの言葉によって徐々に薄れていく。

 

「こんなときに何をと思うかもしれない。でも、私はクレアが好きなんだ。何度でも君を愛していると言うよ。共に人生を歩みたい」

「サイファス……」


 クレアは他人の感情の機微に聡くない。

 けれど今は、彼が心の底から自分を望んでいるのがわかった。

 ミハルトン伯爵を求めていたクレアのように、サイファスは自分を求めてくれている。

 

 それにくらべて、クレアはどうだ。

 伯爵が自分に対してそうだったように、サイファスをないがしろにしていなかったか。

 全力で向き合ってくれる彼をいい奴だと思いながらも、クレアからは一歩も歩み寄れていない。

 これでは、父と同じだ。

 

「すまない、サイファス。俺はお前に対して誠実じゃなかった」

「え? 誠実じゃない?」


 不思議そうに首を傾げるサイファスだったが、やがてハッと何かに気付いたように顔を青くする。


「まさか、浮気していた!? 他に好きな人が!?」


 明後日の方向に解釈するサイファス。


「どうしてそうなる? 誠実じゃないと言ったのは、サイファスの優しさをいいことに、俺が一方的に甘えていたという意味だ」

「よくわからないけど、クレアが甘えてくれるのは大歓迎だよ?」

 

 サイファスが、どうぞというように両手を広げる。

 

「…………」

 

 全く会話が成立していないが、実にサイファスらしい言葉と態度だ。

 肩の力が抜けたクレアは小さく息を吐き、自分からぽすんと、隣に座った彼の胸に頭を預けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最近露骨なイチャイチャものが流行りだしたから、普通のイチャつきに安心した。 ゆっくりデレてる感じがよき
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ