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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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48/99

48:不良令嬢の涙!?

「クレア、改めてアリスケレイヴ家へ来てくれてありがとう。君に出会えて、こうして妻として迎えることが出来て本当に良かった」


 顔を上げると、まっすぐな空色の瞳に見つめられていた。

 しかし、その目が僅かに驚きを含み、揺れ始める。


「ご、ごめん……泣いているの? 抱きしめられるのが嫌だった? それとも、私が変なことを言った?」

「は……? えっ……? 誰が泣いているんだ?」


 サイファスが見つめているのは、クレアだけだ。

 試しに自分の目元に手をやると、濡れている。

 無意識のうちに、涙が出ていたようだ。目尻から流れ落ちた雫が頬を伝っていった。


「なんで……?」


 わけがわからない。涙なんて、子供の頃以来一度たりとも流していなかった。

 混乱するクレアを宥めるように、サイファスがその背を撫でる。

 自分のせいでクレアが泣いてしまったと誤解している彼は、見るからにオロオロしていた。


「サイファスのせいじゃないぞ、勝手に目から水が出ているだけだ。なんでこんなことになったのか、俺にも意味不明なんだ」


 本気でクレアが驚いていることを察したのだろう。

 サイファスは、今度はクレアを気遣うように接し始めた。先ほどより、更に距離が縮まる。


 クレアは今まで他人から「頑張ったね」などと言われたことはなかった。

 その環境にいたければ、必死でしがみつかなければならない。

 やらなければ居場所を失う。全力でやっても失うときは失う。それが当然という世界で育った。

 頑張ることはクレアにとって当たり前で、生きるために必要なことで……特に気にするような行動ではなかった。

 でも、サイファスがそれを認めて口にしたとき、言いようのない感覚に包まれた。

 張り詰めていたものが切れ、自分の中の何かが報われた気がした。

 勝手に涙が出たのはそのせいかもしれない。


「クレア、もっと他人に甘えていいんだよ?」

「俺はもう大人だ。そんなガキみたいなことはしない」


 十八歳の令嬢の発言に、サイファスは苦笑しているようだった。


「君は知らないようだけれど、夫婦はお互いに頼り合うものだ。私はクレアが甘えてくれたら嬉しい」


 毒のない笑みを向けられ、クレアは戸惑いながら頷いた。


「そういうことなら、サイファスだって俺に頼れよ?」


 ゴシゴシと涙を拭い年上の夫を見上げると、相手は頬を染めて空色の瞳を細める。


「もう十分、頼らせて貰っているよ?」


 そう言って、サイファスはクレアの頬にそっと唇を落とした。


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