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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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23/99

23:侍女の意外な一面を見た!

「マルリエッタ? 何があった?」

「クレア様……」


 緊迫した様子で振り返ったマルリエッタの顔は険しい。

 しかし、彼女はすぐに表情を改めて微笑んだ。


「なんでもありません。少し外を見てまいりますので、クレア様は馬車の中にいてください」


 扉を開け、一人下りていくマルリエッタ。

 気になったクレアは窓から顔を出し、彼女の動向を見守る。


 外は人通りの少ない路地で石造りの建物が建ち並んでいる。来る途中に通った道だ。

 静かに様子を窺っていると、御者台に回ったマルリエッタが、小さく息を呑む音が聞こえた。


「マルリエッタ、大丈夫か?」


 問いかけた瞬間、彼女が固い声で叫ぶ。


「クレア様、窓を閉めて! 絶対に外へ出てきてはなりません!」


 言い放ち、戻ってきたマルリエッタの顔は険しい。

 クレアは彼女に声を掛けた。


「なら、マルリエッタも中へ……」

「いいえ、私は外で待機します! クレア様、早く窓をお閉めください!」


 クレアは言われるがまま窓を閉めたが、代わりにそっと扉を開け、外の様子を観察することにした。

 状況を把握できないまま、大人しく閉じこもる気はないのである。

 幸い、マルリエッタにはバレていない。


 しばらくすると、物陰から見たことのない男たちが、わらわらと姿を現した。見るからにならず者といった男たちだ。

 マルリエッタは気丈な様子で彼らを威嚇する。


「あなたたちは何者ですか! 怪我をしたくなければ去りなさい!」


 しかし男たちは去らず、マルリエッタとの距離を詰めてくる。


「この馬車に残虐鬼の妻が乗っているな? 大人しく差し出せば、お前の命は助けてやる」


 マルリエッタの表情が険しくなる。

 それでも、彼女は馬車の中のクレアを守ろうとした。


「人違いではなくて? この馬車には私しか乗っておりませんわ」

「せっかく命は助けてやろうと思ったのに……交渉決裂だな。やれ……!」


 リーダー格の男が指示を出し、残りのメンバーがマルリエッタに襲いかかる。

 彼女を助けようと、思わず馬車から飛び出しそうになったクレアだが……瞬間、マルリエッタが上着を脱ぎ捨て、片足を大きく振り上げた。

 彼女のつま先が一番近くにいた男の顎を蹴り上げる。


「辺境伯家にお仕えする侍女たる者、戦闘の一つくらいこなせなくては!」


 続いてマルリエッタはスカートの下に両手を突っ込む。

 ガーターに隠されていたのは二本の短剣だ。

 それを逆手に持った彼女は、向かってくる敵にまっすぐ突っ込んでいく。


「侍女ごときに何が出来る!? くたばれ!」


 ならず者が叫んだ。


「まあ、野蛮ですわ! おくたばりあそばせ!」


 身軽なマルリエッタは敵の攻撃を躱し、一人一人を確実に短剣で倒していく。


「マルリエッタって、戦えたのか……」


 クレアは呆気にとられ、外の様子を眺めた。どうりで、彼女と二人だけで外出できたわけである。

 辺境は仰々しい護衛を付けない文化を持つのかと思っていたが、そうではなく、マルリエッタが護衛も兼ねていたから必要なかったのだ。


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