23:侍女の意外な一面を見た!
「マルリエッタ? 何があった?」
「クレア様……」
緊迫した様子で振り返ったマルリエッタの顔は険しい。
しかし、彼女はすぐに表情を改めて微笑んだ。
「なんでもありません。少し外を見てまいりますので、クレア様は馬車の中にいてください」
扉を開け、一人下りていくマルリエッタ。
気になったクレアは窓から顔を出し、彼女の動向を見守る。
外は人通りの少ない路地で石造りの建物が建ち並んでいる。来る途中に通った道だ。
静かに様子を窺っていると、御者台に回ったマルリエッタが、小さく息を呑む音が聞こえた。
「マルリエッタ、大丈夫か?」
問いかけた瞬間、彼女が固い声で叫ぶ。
「クレア様、窓を閉めて! 絶対に外へ出てきてはなりません!」
言い放ち、戻ってきたマルリエッタの顔は険しい。
クレアは彼女に声を掛けた。
「なら、マルリエッタも中へ……」
「いいえ、私は外で待機します! クレア様、早く窓をお閉めください!」
クレアは言われるがまま窓を閉めたが、代わりにそっと扉を開け、外の様子を観察することにした。
状況を把握できないまま、大人しく閉じこもる気はないのである。
幸い、マルリエッタにはバレていない。
しばらくすると、物陰から見たことのない男たちが、わらわらと姿を現した。見るからにならず者といった男たちだ。
マルリエッタは気丈な様子で彼らを威嚇する。
「あなたたちは何者ですか! 怪我をしたくなければ去りなさい!」
しかし男たちは去らず、マルリエッタとの距離を詰めてくる。
「この馬車に残虐鬼の妻が乗っているな? 大人しく差し出せば、お前の命は助けてやる」
マルリエッタの表情が険しくなる。
それでも、彼女は馬車の中のクレアを守ろうとした。
「人違いではなくて? この馬車には私しか乗っておりませんわ」
「せっかく命は助けてやろうと思ったのに……交渉決裂だな。やれ……!」
リーダー格の男が指示を出し、残りのメンバーがマルリエッタに襲いかかる。
彼女を助けようと、思わず馬車から飛び出しそうになったクレアだが……瞬間、マルリエッタが上着を脱ぎ捨て、片足を大きく振り上げた。
彼女のつま先が一番近くにいた男の顎を蹴り上げる。
「辺境伯家にお仕えする侍女たる者、戦闘の一つくらいこなせなくては!」
続いてマルリエッタはスカートの下に両手を突っ込む。
ガーターに隠されていたのは二本の短剣だ。
それを逆手に持った彼女は、向かってくる敵にまっすぐ突っ込んでいく。
「侍女ごときに何が出来る!? くたばれ!」
ならず者が叫んだ。
「まあ、野蛮ですわ! おくたばりあそばせ!」
身軽なマルリエッタは敵の攻撃を躱し、一人一人を確実に短剣で倒していく。
「マルリエッタって、戦えたのか……」
クレアは呆気にとられ、外の様子を眺めた。どうりで、彼女と二人だけで外出できたわけである。
辺境は仰々しい護衛を付けない文化を持つのかと思っていたが、そうではなく、マルリエッタが護衛も兼ねていたから必要なかったのだ。




