96.転売屋は裏庭を有効利用する
気温が高くなると困ることがある。
そう、雑草だ。
うちは庭が広いのでどうしても雑草が目についてしまう。
気付いたら抜くようにしているが正直めんどくさい。
金になればやる気も出るが所詮雑草、金になるわけがない。
『草。そこら辺に生えている草。最近の平均取引価格は銅貨1枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨2枚、最新の取引日は3日前と記録されています。』
安い。
っていうかこんな雑草を買う人もいるんだな。
飼料か何かにするんだろうか。
「飽きた。」
「も~、まだ始めたばっかりだよ。」
「飽きたものは飽きたんだ。何が楽しくて草むしりなんてしなきゃいけないんだ。」
「私は好きですよ、土いじり。」
「土いじりなら俺も好きだ、だがこれは違う。何かを作るのなら価値があるが、こいつらは何も生み出しやしない。」
雑草は所詮雑草だ。
この前のように石が宝石に化ける事はあれど、こいつにそんな未来はあり得ない。
「なら産み出すものを作ればいいじゃない。」
「ん?」
「そうですね、これだけ広いお庭ですから隅っこに畑があってもいいと思います。」
「なるほど、そうすれば雑草を抜く面積も少なくなるか。」
「抜くことには変わりないけど、何かを産み出す為の労働と考えれば無駄じゃないでしょ?」
確かにその通りだ。
何も生み出さないから面倒なのであって、そうでなければやる気もでる。
頑張れば頑張るだけ帰って来る最高の労働だ。
気分転換にもなるしな。
「決まりだ、じゃあ何を作る?」
「やっぱり食べられるものが良いわよね。
「そうですね。そこにシロウ様の好みを加えるとなると・・・。」
「俺の好み?」
「果物がいいんじゃないですか?お金にもなりますし食べても美味しいです。果樹は時間がかかりますが、今からなら秋の果物に間に合います。」
ほぉお金になる果物か。
俄然やる気がわいてくるな。
食べてよし売って良し、そんなものがあればの話だが。
少し調べてみるか。
「ちょっと出て来る。」
「図書館ですね、行ってらっしゃいませ。」
「なんでわかるんだ?」
「シロウの事だもんお金になりそうな果物を探しに行くんでしょ?」
「それと効率の良い肥料の配合でしょうか。私も肥料に使えそうな薬を探してみます。」
ぐうの音も出なかった。
さすが俺の女達だ。
店番を任せて一人図書館へと向かう。
狙うはお金になってうまくて育てやすい果物。
それと効率の良い肥料の配合だ。
そんなうまい話が・・・。
「ありますよ。」
「あるのか!」
「確かそんな果物を読んだことがあります。えーっと、どこの山だったかな・・・。」
アレンがうずたかく積まれた本の山の間をすり抜けていく。
向こうは体が小さいからサクサク進むが、こっちは山を崩さない様に進まないといけないので大変なんだ。
何とか追いつき指定された本を抜き取る。
「この本の129ページにこの時期に植える果物が載っています。育てやすさの目安も書いてありますので参考にして下さい。それと、こっちの33ページに肥料の配合が載っていますが、種類によってあうあわないがあるので確認してもらう方がいいと思います。」
「助かる。」
「持ち出しは出来ませんので確認したら元の場所に戻しておいてくださいね。元の場所、ですよ。」
「わかってるって。」
山の何番目にどの本があるのか全部把握している彼にとって場所を変えられるのは大問題だ。
この前も一番上に置いたら無茶苦茶怒られたしな。
「じゃあ僕は仕事に戻ります。メモ用紙は奥の棚にありますから好きに使ってください。」
それだけ言うとアレンは作業に戻って行った。
ここにあるすべての本の内容を把握している天才。
いや、変人?
世の中にはすごい人がいるもんだなぁ。
「んじゃま、調べてみますかね。」
ペンを片手に奥の空いたスペースで読みふける。
中々に面白く気づけば他のページまで読んでしまった。
種から育てるのもいいが植樹もありか。
その方が単価の高い果物が手に入りそうだな。
問題はどこで苗や苗木を手に入れるかだが・・・。
それは帰って聞けばいいだろう。
なんなら遠方から仕入れてもいい。
金の為なら初期投資は惜しまないさ。
プラス、暇つぶしにもな。
「ただいま。」
「おかえりなさい、いかがでしたか?」
「あぁ、面白そうな品がいくつかあった。それについていろいろと聞きたいんだが・・・、時間的に先ず飯だな。」
「食事の用意は出来ております、私達は済ませましたのでシロウ様もどうぞ。」
「助かる。」
バックヤードへ移動しメモを読みながら昼食をとっていると、裏庭から頬に泥を付けたエリザが戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「シロウが土いじりしたいって言ったから耕してたの。」
「嘘だろ、もうやってるのか?」
「え、ダメだった?」
「いや、ありがたいが・・・。どんな苗を植えるかによって日当たりとか変えなきゃならないぞ?」
「うそ!も~せっかく頑張ったのに。」
いや、せっかく頑張ったのにって言われても。
裏庭を覗くと日当たりのいい東端の一角がかなりの範囲耕されていた。
まぁ広い庭だし目当てのものは別の場所に植えればいいから構わないけど・・・。
「まぁ、あそこはあそこで別のものを植えるか。芋なら備蓄もできるしな。」
「お芋!」
「好きだろ?」
「寧ろ好きじゃない人なんているの?」
そりゃ探せばいるだろう。
アレルギーとか。
まて、この世界にアレルギーはあるのか?
あんまりそういうの気にしてなかったけど、知らないだけであるのかもな。
「ねぇ、どんなのを植えるの?」
「いい感じなのはホワイトフラゴーラとマジックベリーとかいうやつだ。」
「フラゴーラってあのフラゴーラ?」
「そうだ。ふつうは赤いが白い品種があるらしいぞ。」
「へぇ、知らなかった。でも難しそう。」
「虫がつきやすい欠点はあるが、この辺りでは見かけない虫らしい。うまくいくかもしれない。」
さっき見た本は実際にこの街で栽培した人の育成記録だった。
収穫量は少ないが希少性の高い果物なので貴族に人気なのだそうだ。
見た目は完全に苺である。
味は酸っぱさを減らして甘さを際立たせたような感じ、この前の冬にも何度か食べたが美味しかった。
「マジックベリーは知ってる、乾燥させて食べると美味しいのよね。魔力の回復にもなるし。」
「そうらしいな。苗木が必要になるが風のない場所かつ日当たりのいい場所で育てると落下が少なく実の付きもいいそうだ。まさにうちの庭にピッタリだろ?」
「あれって山じゃないと育たないと思ってたけど違うのね。」
「種から育てるのは無理らしいが、ある程度生育した苗木を持って来たらここでも行けるらしい。」
「ふ~ん。じゃあなんで誰も作らないのかな。」
そこなんだよ。
この地域でも生育出来て金になるなら一大耕作地にでもしてしまえばいい。
土地なら山ほどあるんだから、風は巨大な壁でも作ればどうとでもなる・・・・気がする。
「マジックベリーは苗木が出回らないんです。」
「なんだって?」
と、ミラが表から顔だけ出して教えてくれた。
苗木が出回らない?
どういうことだ。
「出荷をかなり厳しく制限しているので、ここまで遠方に届くことはまずないでしょう。それこそ注文を入れて年単位で待てば一本ぐらいは来るかもしれません。」
「なるほどなぁ。だから高いのか。」
「生産調整をして価格を釣り上げているとも言われていますが、正しいことはわかりません。」
「なるほどなぁ。そういう理由なら仕方がない、他の品種を考えるとしよう。」
金になるになると思ったんだが世の中そう簡単に儲けさせてくれないようだ。
「どんな木なの?」
「低木で1mほどの高さまでしか育たないらしい。ギザギザの葉が特徴だそうだ。ほら、こんなやつ。
俺は図書館で書いた模写を見せてみる。
結構きれいに書けたと思うんだが、どうだろうか。
「背が低くてギザギザの葉っぱ。毒はないのよね?」
「毒はないが切れ味が鋭くむやみに触ると手を切るそうだ。収穫には厚手の手袋をつけて行うのがいいらしいぞ。」
「うーん・・・。」
「どうしたんだ?」
エリザが腕を組み必死に何かを考えている。
イヤ思い出しているのだろうか、ぶつぶつと何かを言っている。
「私、それダンジョンで見たかも。」
「なに?」
「ギザギザで葉が鋭くて腰までの高さの木。ダンジョンのかなり奥なんだけど、魔照が大きく照らす遺跡みたいな場所があるの。畑みたいになってて面白いなって思ったんだけど、あれがそうだったのかな。」
「確かにダンジョンなら風はないだろうが、そんな場所があるのか。中って洞窟じゃないのか?」
「そういう場所もあるけど、急に草原が出てきたり岩場になったり、断崖絶壁だったりいろいろよ。」
すごいなダンジョン。
だが行く気にはならない。
行ったら最後生きて帰ってこれないのは目に見えている。
「かなり奥なのか?」
「うん、最近はあまり行かないけど・・・行ってみようか?」
「頼めるか?できれば一本抜いてきてほしいが、最悪枝だけでも構わない。」
「いいの?」
「ベリー種なら接ぎ木か挿し木のどっちにでも対応できるはずだ。」
まぁそれは元の世界の話なのでこっちの世界では定かではないが・・・。
やるだけやってみる価値はあるだろう。
「わかった、やってみる。」
「頼んだ、持って帰った分だけ報酬は払う。」
「別にいいよ。」
「いや、その辺はしっかりしとかないとな。」
「シロウってそういう所細かいよね。」
細かくて悪かったな。
ともかくまずはそれを確認してから考えよう。
エリザが耕した所には、とりあえず芋でも植えとくかな。




