78.転売屋はオークション用の品を手に入れる
「そろそろ準備しないとなぁ。」
「準備って?」
「オークションだよ。」
「え、何か買うの?」
「いや出す方だ。買う方はまだまだ余力がない。」
ルティエに素材を卸すようになって安定した収入を得ることが出来るようにはなったが、それでも金額としてはまだまだ少ない。
前回買い付けたグリーンスライムの核も出番があるのはまだまだ先になる。
となると当分は自分のスキルを有効につかって稼ぐ従来のスタイルに戻る必要があるわけだ。
露店で売るにも限界はある。
レイブさんの言うように相手を選んで商売するのが一番の近道になるというわけだ。
でもなぁ、オークションに出品するってことは前夜祭にも顔を出さないといけないんだよな。
そうなると面倒な飲みにケーションをしなければならないわけで・・・。
懇親会もそうだけどそれが一番めんどくさい。
興味のない相手と何故話をしなければならないのか。
それが未来の商売相手になるかもしれない!なんて言う人もいるが、今は目の前にいる人を相手にするので精いっぱいだ。
未来を見るのは売るネタだけで十分ってね。
「売る物なんてあった?」
「いくつかあるがコレ!ってやつはまだだな。最低でも五つは出品したい。」
「そんなに?」
「絶対に売れるとも限らないし、それぐらいはな。」
「ふ~ん、大変そう。」
「何か珍しそうなやつがあったら持って帰ってくれ。それこそ骨董品みたいなやつなら最高だ。」
「一番興味ない奴ね。」
まぁその気持ちはわかる。
骨董品の何がいいのかさっぱりわからない。
冒険者にとっては実用がすべて。
この間の外套のようにそれで命が助かる事もあるからだ。
何の役に立つかわからない道具なんて持って帰るのも邪魔、そう考えるのが普通だ。
もっとも、それがものすごいレア品である可能性もあるので一発当てるために変なものを持って帰ってくるやつもいる。
「こんちはー!」
そう、奴のように。
「ガアラ、また来たの?」
「あ!エリザ姉さんちわっす!」
「別にアンタの姉になったつもりはないんだけど。」
「あはは良いじゃないですか、気分ですって気分。」
店に入ってきたのは一人の冒険者。
この街のどこにでもいる初級から中級ぐらいの実力を持った、冒険者のうちの一人だ。
だが普通と違うのは彼の持ち込む品。
普通の冒険者は魔物の素材や武具などを持ち込むが、奴は違う。
『ガラクタ』そう呼ばれる宝箱から見つかるよくわからない品を探して来ては持ってくるんだ。
それも自分で見つけるんじゃない。
冒険者が不要と判断してその場に捨てた奴を後になって回収して回る。
付いたあだ名はハイエナ、もしくは掃除屋。
それで食っていけるのは、俺やベルナのような何でも買い取る人がいるからだと、嬉しそうに話しているのを聞いたことがある。
自分で魔物を狩らないのは実力がないから。
それでも奥深く潜って戻って来れるだけ凄いと思うけどな。
「で、今日は何を拾ってきたんだ?」
「今日はすっごいの持ってきましたよ!」
「すっごいガラクタでしょ?」
「じゃじゃーん、これです!」
じゃじゃーんと効果音を出しながらカウンターに転がしたのは石だった。
いや岩?
小ぶりだからやっぱり石か。
ともかくこぶし大のソレが四つ転がり出てきた。
「石です!」
「いや、見たらわかる。ゴミなら街の外に捨てとけ。」
「ゴミじゃないですよ!ちゃんと宝箱の中から出てきたんですから!」
「出てきたってアンタが見つけたわけじゃないんでしょ?」
「でも出てくるところと捨てる所はちゃんと見ましたし、拾う許可も取ってますから。」
「ご苦労な事だ。」
「で!で!どうですか!?」
「ゴミなら銅貨10枚な。」
「もちろんです!」
余りにも変なものを持ってくるので最初は断っていたのだが、本当に偶に珍しい物が混ざっているので無碍に断る事も出来ない。
そこで、他所の鑑定屋の邪魔をしないようにこいつからは鑑定料を取る約束をしたのだ。
アタリなら鑑定料不要で買取。
ハズレなら一つにつき銅貨10枚を支払うという形だ。
大量に持ってきてハズレばかりだった場合、かなりの代金を支払う事になるので抑制にもなる・・・と思ったのだが、こいつはそんなことも気にもしていないようだけど。
仕方なく転がされたそれら手に取ってみる。
『石。何の変哲もない石。若干鉄を含んでいる。』
『石。何の変哲もない石。若干銅を含んでいる。』
『願いの小石。この石を100個集めると願いが叶う・・・と言われている。』
お、当たり発見。
願いの小石か、久々に見たな。
「良かったな、当たりがあったぞ。」
「マジっすか!」
「願いの小石だ、銀貨30枚で買い取ってる。」
「銀貨30枚!やったー!」
「良かったじゃない、当分は宿代に困らないわよ。」
「ほんとそれですよ。安宿なら二カ月は固いですからね、いやー助かった!」
「他はどれもゴミ、タダの石だ。」
「まぁ当たりがあればそれでいいっす。」
大当たりの部類に入るだろう。
開店当日にエリザが持ってきて以来何個か買い取ってきたが一体いくつあるんだろうか。
ミラも言っていたが、気づけば溜まっていたぐらいに考えて買取しないとやっていられない。
単価は高いので出来れば売りに出したいんだが・・・。
まぁ宝くじと思えばいいだろう。
高い宝くじだが夢はある。
「それじゃあ代金を持ってくる。」
「おねがいしまっす!」
代金を取りに裏へ戻ろうとした時、ふと鑑定していない石がある事に気が付いた。
相場スキルを使うと同じ商品の価格だけを表示することが出来る。
願いの石と小石には値段表示されている物の最後の一つには値段が浮かび上がっていない。
ってことは石じゃない?
「悪い、鑑定漏れのようだ。」
「あー、いいっすよ。どうせゴミですから。」
「自分でゴミって言うなよ。」
「あはは!とりあえず先にお金お願いします!早く宿に戻って祝杯あげるっす!」
まぁ別にいいならいいんだが。
早く飲みに行きたいと騒いで煩いので急ぎ金をもって戻る。
銀貨を30枚積み上げると眼を輝かせてそれを受け取り、飛ぶようにして去って行った。
「相変わらずせわしないわねぇ。」
「まぁいつもの事だ。」
「ただの小石みたいだけど、当たりもあるのね。」
「お前も持って来ただろうが。」
「そうだっけ?」
「おまえなぁ。」
自分で持ってきた品を忘れるか?
ってあまりにもたくさん持ち込みすぎているので忘れるのかもしれないが・・・。
俺は願いの石を取り、小石を裏庭に捨て、残りの石に手を伸ばした。
『ジェイド・アイ。巨大な翡翠の原石、魔加工することで毒を無効化する効果を付与できる。最近の平均取引価格は金貨86枚。最安値が金貨55枚、最高値金貨112枚、最終取引日は2年と612日前と記録されています。なお取引価格は加工された場合です。』
「は?」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない。」
頭がおかしくなったのかと思いもう一度手に取ってみる。
『ジェイド・アイ。巨大な翡翠の原石、魔加工することで毒を無効化する効果を付与できる。最近の平均取引価格は金貨86枚。最安値が金貨55枚最高値金貨112枚、最終取引日は2年と612日前と記録されています。なお取引価格は加工された場合です。』
同じ答えが戻ってきた。
嘘だろ。
これが宝石の原石?
しかも最高金貨112枚って。
意味わからん。
つまりあれか、この中にこれと同じぐらいの原石が眠ってるってことか?
他の石よりも若干大きいのは大きいが・・・。
透かして見るとほんの少しだけ緑色に光る部分が見えた。
あー、マジか。
「ちょっと、どうしたのよ。」
「いや、ちょっと。」
「ちょっとじゃわからないでしょうが。」
「これなんだが、何に見える?」
「え、石でしょ?」
「だよなぁ。」
「違うの?」
「最高金貨112枚する宝石の原石なんだと。」
「嘘でしょ!」
慌てたエリザが手を滑らせ机の上に転がった。
そのまま床に落ちそうになるのを慌ててキャッチする。
タダの小石なら足で蹴飛ばすが流石にこれは・・・。
さっきの弾みで周りの石が欠けたのか、より鮮やかな緑色が見えてきた。
「あ、ほんとだ。」
「さーて、どうするよ。」
「どうするって、貰っちゃえばいいんじゃない。あいつが要らないって言ったんでしょ?」
「いやまぁそうなんだが・・・。」
「良心が咎める?」
「んー、ほんの少し、ほんのわずかにだが。」
流石にこの金額はと思いつつも、ラッキー!という心の方が強い。
エリザの言うように捨ててくれと言われた品だ。
意図してやったわけじゃない。
本当に偶然鑑定し忘れただけなんだ。
だが、次回から奴の顔を見る時にそれが浮かんでくるというのはどうもなぁ。
そんな良心の呵責にさいなまれるぐらいならいっそ正直に言うべきだろうが・・・。
だが買い取ろうにもそんな金は無いしなぁ・・・。」
「じゃあその良心私が捨ててきてあげる。ようはタダでもらったから気になるんでしょ?ならお金を払えばいいのよ。」
「払うって言ってもこの金額は無理だ。」
「まだ磨いてない原石なんてちょっと高い石とおんなじよ。磨きに失敗したらただのゴミ、だからそれに見合った代金を支払えばいいのよ。」
「で、どうする?」
「お酒を奢るの。そしたらアイツも喜ぶしシロウも気が楽になるでしょ。」
「そうだな、対価を払っていればマシだ。」
「じゃあ決まりね、一角亭に行ってくるからあとよろしく~。」
宜しくってお前が飲みたいだけじゃないのか?
いや、それでもいいか。
酒を奢りその対価にこれを貰ったと考えればいい。
そうだ、そういう事にしよう。
「ただいま戻りました。先ほどエリザ様が凄い勢いで出ていかれましたが何かあったのですか?」
「ちょっとな。」
「レイブ様にはオークションへの参加をお伝えしてあります。また近日詳細をお伝えくださるそうです。」
「わかった。」
「いい品を期待すると言われてしまいました。これは気を抜けませんね。」
「そうだな、だがその心配はないかもしれないぞ。」
不思議そうに首をかしげるミラにさっきの石を手渡してやる。
すると鑑定スキルが発動しみるみるうちに驚きの表情へと変化していった。
さぁ、接待はエリザに任せてこっちはこっちで乾杯しようじゃないか。
とっておきの品を持ってきてくれて有難うってな。




