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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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77.転売屋は幸せを見守る

「なに、買い手が!?」


「はい。取引板の掲示が外されていたのでおそらくは。」


「マジか。てっきりうちに売りに来ると踏んでたが、よそで売ったのか?」


「そもそもダン様が買われたのかすらわかりませんでした。」


「そうか・・・。」


話は少し前にさかのぼる。


ダンが珍しい武器を売りに来て、それが結婚指輪の購入資金じゃないかって話になっていたんだ。


必要としていたであろう金額が金貨2枚。


そこから導き出されたのが取引板で買い取り手を探していた祈りと願いの各指輪(それぞれ金貨1枚)だ。


長い間掲示されていたこれがとうとう売れていた。


ダンが買ったのか、それとも別人が買ったのか。


もし別人だとしたらあいつはどうするつもりなんだろうか。


まぁ、本当にダンが探していたのかさえ定かじゃないから何にも言えないんだが・・・。


「ねぇ、シロウいる?」


「今日はいるぞ。ってどうしたそんな顔して。」


「いやぁ・・・ちょっと私だけで処理できそうにないから話を聞いてほしくて。」


「リンカの件か?」


「なんでわかるの!」


「こっちもちょうど情報が欲しかったところだ。」


「ではお店は一時休店としますね。」


「つまりミラも興味があるわけだな。」


分かりやすいやつめ。


とりあえずただいま不在ですの札を外に出してバックヤードに入る。


すぐにミラが香茶を淹れる準備を始めた。


「飯は食べたのか?」


「それが朝からこの時間までつきっきりだったから。」


「もう昼だぞ。」


「だから助けを求めに来たのよ。」


「なら何か腹に入れるか・・・。ちょうどおっちゃんから新作の乾燥肉をもらったんだ。」


「お腹に入るのなら何でもいいよ。」


なんでもいい・・・か。


ようは朝起きてからこの時間までリンカの愚痴に付き合ったんだろ?


そりゃ疲れるよな。


自分たちの分も用意して早めの昼食にする。


最初こそ疲れ果てていたエリザだったが、食べだすといつもの調子が戻ってきた。


そして今度はエリザの口から大量の愚痴が漏れてくるっていうね。


誰かが吸収するかどこかに垂れ流さないとこの負の連鎖は終わらないんだよな。


「なるほどな。ダンの姿が見えないと。」


「そうなの。二日前には確認できたんだけど、その前に大きな喧嘩をしちゃったんだって。」


「リンカ様なりに焦っておられたのでしょう。そろそろいいお年ですから。」


「いや、まだ早くないか?」


「リンカ様はもう働いておられます。十分適齢かと。」


「そういうものなのか?」


「むしろ私達が遅すぎるのよ、って言ってもアンタにその気はないし私もまだまだ潜りたいしね。ミラはもう結婚したようなものでしょ。」


まぁ一つ屋根の下に暮らしてやることやってたら殆んど一緒だわな。


奴隷っていう身分ではあるが俺がそれを気にしてないし・・・。


あ、あれ?


俺いつの間にか身を固めてたのか?


そういえば指輪も渡して・・・。


いや、アレは自分でつけたし何より右手の薬指だし。


よしセーフ。


まだセーフだ。


「私が結婚など恐れ多い、今のままで十分です。」


「それよりも今はリンカちゃんをどうにかしないと。」


「喧嘩して二日帰ってこないから心配。いや、冒険者が二日帰ってこないなんてよくある話だろ。」


「そうなんだけど、ギルドでも随分荒れてたのを見てるのよね。それこそこの前の私みたいに。」


「何かに追われている感じか?」


「そうそう、時間制限でもあるんじゃないかってぐらいに。」


それがあの指輪なのだとしたら、他の買い手がついたからそれまでに金を持ってこいと言われて焦っていた可能性はある。


で、間に合わなかったと。


「そう言えばケガをした仲間はどうしたんだ?」


「冒険者証を返却して田舎に帰ったみたいよ。あのケガで何が出来るかはわからないけど、よっぽど家が裕福なんじゃない。」


「手切れ金は渡さなかったのか。」


「さぁ、そこまでは知らないわ。一か月ぐらい前にはもういなくなっていたはずよ。」


「一か月前か。」


となるとこの一か月はずっと一人で金を稼いでいたことになる。


あの剣を安値で売って折半し、残りを自分で貯めようと躍起になっていた。


で、二日戻ってこないと。


これは結構不味い流れじゃないだろうか。


「今の情報を整理するとダン様は何かの為に必死にダンジョンに潜っており、二日戻ってきていない。そしてその二日前にリンカ様と大喧嘩をなさった。」


「別れ話まで出たらしいわよ、ってこれはリンカちゃんがついカッとなって言っちゃったらしいんだけど。」


「んー、例の指輪も買い取り手が見つかったらしいが戻ってきてない所をみるとダンじゃないのは明らかだ。後は奴が戻ってくるかどうかだが・・・。冒険者が三日以上潜ることはあるのか?」


「三日潜るとなるとかなり深くなるし、荷物も多いから一人で行くのは考えにくいわ。」


「今日戻って来なかった場合は?」


「この前の私みたいに怪我をしているか、それとも・・・。」


「死んでいるか。」


むしろその可能性は高いだろうなぁ。


冒険者と危険は隣り合わせ。


もちろんそれをわかってダンジョンに潜っているわけだが・・・。


エリザが同じ状況だったらどうする?


それが冒険者の宿命だからと諦めるのか?


いや、それは無いな。


金を使えるだけ使って人を雇い助けに向かわせるだろう。


俺が行けたらいいが、残念ながらそんなヒーローみたいな素質は無い。


だから金で何とかする。


幸いそれだけの金を稼げているんだ、使える時に使わないとな。


で、今回どうするかだ。


ぶっちゃけエリザ程親しいわけではない。


わけではないが、俺がこの世界に来てこの街までたどり着けたのはダンのおかげだ。


あの日助けてもらった恩をまだ返せていない。


それがいまって事だ。


「エリザ、救助の依頼はギルドに出すのか?」


「え、助けに行くの?」


「金を欲してたんなら何かしらの依頼を受けてるだろ。それに合わせて人を出せば見つかる可能性はある。」


「いくら知人とはいえそこまでするのですか?」


「ただの知人じゃないんだ。俺がこの街に辿り着けたのはダンのおかげ、その恩をまだ返せていない。」


「なーんだ、そういう事は早く言ってよね!」


「エリザ様どうぞよろしくお願いします。」


って切り替え早いな二人共。


さっきまで放置していいんじゃない?みたいな空気出してたくせにさ。


「ダンが居なかったらシロウはこの街に来なかったわけでしょ?それってつまり私があの糞野郎に買われていたってことじゃない。」


「その通りです。私も見知らぬ男に買われ慰み者にされていたでしょう。そうならなかった理由がダン様なのであれば十分助けるに値するかと。」


「切り替え早いな。」


「そうと決まればすぐギルドに行くわ。私は先に潜るから依頼に関してはニアに相談して。」


「わかった。無茶はするなよ。」


「もうしないわよ。」


もうしない、か。


エリザはエリザで何か吹っ切れたようだな。


何よりだ。


来た時と違い元気いっぱいな感じで武器を持ち店を飛び出していくエリザ。


そういえば鎧も何も身に着けていないんだが、まさかそのまま潜るんじゃないだろうな。


さすがに一度宿に戻るだろうが・・・。


今度別の鎧も見繕っておくか。


「じゃあ俺も行ってくる。」


「行ってらっしゃいませ。」


「リンカが来たら大人しく待ってろって言っといてくれ。」


エリザが言うだろうしマスターもいるから問題ないと思うが・・・。


ま、念の為な。



その後ギルドでダン捜索の依頼を出し、次の日の朝には無事に救助されたとの知らせを受けた。


大きな怪我をして動けなかったようだが、目的の物は手に入れていたそうだ。


ポーションという薬をキメて今は眠っているらしい。


どこで聞きつけたのか救助されたダンがダンジョンから出てきた時にはリンカもそこにいたそうだ。


泣きじゃくって大変だったそうだが・・・。


若いなぁ。


「何はともあれ見つかってよかったですね。」


「あぁ、助けた甲斐があったってものだ。」


「費用は請求されるのですか?」


「それはダン次第だ。返答次第では請求するつもりだが・・・。」


「シロウ様の事です要求するフリをされるだけでしょうね。」


「さぁそれはどうかな。」


言っただろ、返答次第だって。


それから戻ってきたエリザを労いダンとリンカが店に来たのは夕方になってからだった。


ちなみにエリザはまだ寝ている。


「いらっしゃい、なんだダンか。」


「何だとは何だよ。」


「今日は買取か?この前の剣ならまだ買い取るぞ。」


「いや今日は・・・。」


「ほら、ちゃんと言って。」


「わかってるって。」


年上のダンがリンカに言われて慌てている。


もうこの時点でどっちが上かがよくわかるな。


良い感じじゃないか。


「その、今回は助かった。今度ばかりは俺も年貢の納め時かと思たんだが、シロウが救援依頼を出してくれたんだってな。」


「知り合いに死なれるのは寝覚めが悪くてな。これであの日の恩は返したぞ。」


「あの日・・・。まさかあの日の事まだ覚えていたのか。」


「当たり前だろ。金は渡したが恩は返してなかったからな、こう見えて義理堅いんだ。」


「へ、よく言うぜ。」


話し方はいつもの感じに戻っている。


前に店に来た時はよそよそしかったが、どうやらこっちも何か吹っ切れたようだ。


「で、その礼を言いに来ただけか?ならさっさと帰ってリンカに慰めてもらうんだな。」


「ちょっと!シロウさん!」


「いや、今日は頼みたいことがあって来たんだ。」


「頼みたいこと?買取じゃなくてか?」


「買い取りと相談だ。まずはこいつを見てほしい。」


「これは・・・。」


ダンが袋から取り出したのはこの前の剣・・・ではなく別の物だった。


『惑わしの外套。魔物の感覚を惑わして羽織った者の存在を認識しづらくする。最近の平均取引価格は金貨5枚、最安値金貨3枚最高値金貨8枚最終取引日は270日前と記録されています。』


「凄い品じゃないか。あぁ、今回もこれのおかげで助かったんだな。」


「偶々逃げ込んだ先が隠し部屋でそこにあったやつだ。これが無かったら死んでたよ。」


「お前にはぴったりの装備だと思うんだが?」


「俺にはこいつがあるからな。今回は無理をしたが当分は大人しくするつもりだ。」


命を助けてくれた道具をわざわざ売る。


それには大きな理由があるんだろうな。


「そうだな、この品なら金貨3枚出そう。」


「・・・やっぱり安いな。」


「買い取りだからな。」


たとえどんな理由があったとしても身内にも厳しくというポリシーは曲げない。


「わかった。その代わりに相談を聞いて欲しい、シロウにしかできない内容だ。」


「俺にしかできない?」


「最近涙貝の雫を買い取ってるだろ?その職人を紹介してほしいんだ。」


「どうしてまた。」


「こいつとの指輪を作りたいんだよ。最近の流行なんだとさ。」


「お、ってことは?」


「あぁ、俺も身を固めるよ。ただし冒険者は辞めないつもりだ。リンカもそれは承知してくれてる。」


いいねぇ、そうじゃなくっちゃ。


今回の一件でビビってしまうかと思ったがまだまだ心は折れていないようだ。


それどころかもっと強くなって帰ってきた。


叩けば叩くほど強くなる。


まるで鋼のような存在、それが冒険者だよな。


「そうか。そういう事なら俺から依頼を出しといてやるよ。」


「ほんと!?」


「命懸けで金を稼いできたんだ、それぐらいしてやるさ。」


「恩に着るよ。」


「代金は今じゃなくていい、どうせ時間が掛かるしこれから何かと物入りだろ?新居はどうするんだ?」


「当分は安宿暮らしさ。」


「マスターがどうしても値段下げてくれないの。」


「それは仕方ない。身内には厳しくってのがいい商人の鉄則なんだ。」


内心ホッとしているのかもな。


マスターはマスターでダンの事を心配していたし、リンカの事も大切だ。


「新居が決まったら教えてくれよ。」


「わかった。」


「それじゃあ代金を持ってくる、待ってろ。」


裏に入ると何故か嬉しそうな顔をしたミラが金を持って立っていた。


「なんだよ。」


「いえ、何でもありません。」


何でも無いわけがないだろと言う代わりに乳を揉んで代金をひったくる。


まさか揉まれると思って無かったんだろう。慌てた様子で胸を隠した様子がまた可愛かった。


これでまた一つ心配事が片付いたな。


幸せなカップルに幸多きことを。


さーて次は何で儲けようかな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こいつわぁ、面白い物語やな〜d( ̄  ̄) 1話1話の完結形ながらも、きちっと締める所を作るのが上手い。 30〜40話あたりで一度感想書こうかと思ったけど、目を休めるまもなく、ここまで来たの…
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