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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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76.転売屋は転売屋なりに心配する

水を得た魚のようなミラとうって変わって、エリザは絶不調だった。


恐らくというか間違いなく焦りがそうさせるんだろう。


まぁ気持ちはわかる。


ミラが真実の指輪を身につけた事でネックになっていた鑑定、査定作業が一気に解消されたのだ。


今までであれば、魔物の素材や冒険者関係の武具などはエリザにお伺いを立ててから査定・鑑定を行っていたが、それを行わなくても良くなった。


もちろん良い事だ。


エリザに頼らなくていい分時間の短縮にもなるし、エリザ自身も店にいる必要がなくなる。


その、『必要無くなる』という部分がネックなんだあぁ。


「お前がそこまでの怪我をするなんて珍しいな。」


「ちょっと罠の確認を怠ったのよ。それで引っかかっちゃって。」


「問題ないのか?」


「うん、予備の武器を落としただけだから。後で取りに行ってくる。」


「そのケガでか?」


「これぐらい、ポーション飲めばすぐだよ。」


すぐ・・・の怪我なのか?


右腕はぶっちゃけヒクぐらいに抉れていて、包帯が真っ赤な血で染まっている。


神経まで行ってるんだろうか、ダランと垂れたまま動くことは無かった。


その血で服も鎧も血まみれだ。


よくまぁ生きて帰って来れたなと思う所だが、本人はあまり危機感がないようだ。


ポーションにどういう効果があるのかは知識としては知っているが、それを過信するのはいかがなものかと思うぞ。


「とりあえずポーションを買いに行け、あと風呂に入ってから潜れ。」


「えぇ、でもすぐ戻らないとどこか行っちゃうし・・・。」


「予備の武器なら俺がいいのを探してやる、わかったな?」


「は~い。」


痛みは無いんだろうか。


女は痛みに強いというが、そういうレベルではないと思うんだが・・・。


危ない薬でもキメてるのか?


「最近多いですね。」


「あぁ、原因がわかっているだけに俺達ではどうにもできん。」


「申し訳ありません。」


「お前が謝る必要はない、アイツが自分でケリをつけなきゃならない問題だ。いつも通りの仕事をしてくれたらそれでいい。」


「かしこまりました。」


「風呂の準備をしてからちょっと出てくる。」


「お出かけですか?」


「ちょっとな。」


ミラは俺の奴隷だ。


俺が主人である以上最低限の生活を確保するよう義務付けられている。


だがあいつは違う。


金の関係も解消され、今はただの客と店主の関係だ。


まぁ、肉体関係は継続しているしそれも日に日に濃くなってきている感はあるが・・・。


その部分でもいい加減吹っ切れてほしいものだが、それを口で言うわけにもいかない。


さっきも言ったようにこれはあいつの問題だ。


「とか言いながら何とかしてやろうと思っているあたり甘いよなぁ。」


惚れた弱味?


ちがうな、野良犬に餌をやった以上最後まで面倒をみるだけだ。


あの日俺はあいつを拾った。


だから面倒を見ている。


うんうん、納得だ。


さくっと風呂を洗って店を出る。


目的地は二か所。


まずはあそこに行って、んでこっちに行って・・・。


「で、ここに来るのか。」


「まずかったか?」


「来たところで俺が言えることは何もないぞ。」


「冷たいなぁ。」


「この間も言っただろうが、人の色恋なんざに構ってる暇は無いんだよ。」


「まぁそうだよな。」


エリザの様子を知るには普段利用している宿、つまりマスターに聞くのが一番だ。


何かヒントになればと思ったが、今思えばそんなこと教えてくれる人じゃなかったな。


「しいて言えば飯を食う量が減った代わりに、酒を飲む量が増えた。」


「酒なんていつも飲んでるだろ?」


「酒は酒でも質が違う。上がったんじゃない、下がった代わりに強い奴だ。」


「最低の流れじゃないか。」


「そう思うなら何とかしろ。あいつの機嫌が悪いと他の客がさっさと部屋に戻っちまう。」


「営業妨害だって言いたいんだろ?」


「よくわかってるじゃないか。」


金を稼いでよりいい酒を飲むようになるならまだいい。


それだけ生活が潤っているという事だ。


だが、金はあるのに安酒に逃げるのはいただけない。


それは生活が充実していないという事だ。


アルコール度数の高い酒で現実を忘れるなんざよくある話だが、見知った女。


それも現在進行形で抱いている女がそうなっているのはよろしくない。


それをどうにかしろと言われたらするしかないだろう。


まったく、面倒かけやがって。


マスターに礼を言って次に向かったのは最近顔なじみになった冒険者ギルドだ。


むさくるしい冒険者にも何人か馴染みがおり、彼らにも挨拶をしておく。


こういった地道な営業活動が繁盛の秘訣ってね。


俺にとっては大切なお得意様だ。


彼らに頑張ってもらわない事には商売が成り立たない。


もちろん今までのように掘り出し物を探しやすくなったので、そっちの方にも力を入れているけどな。


「あれ、シロウさんどうしたの?エリザなら帰ったわよ。」


「知ってる、依頼に失敗したらしいな。」


「そうなのよちょっと面倒な依頼だったからお願いしたんだけど、大事にならなくてよかったわ。」


「あれは大事のうちに入らないんだな。」


「くっついていたらどうにかなるから。」


「そういうものか?」


「そういうものなのよ。」


横で話を聞いていた冒険者もウンウンとうなずいている。


ようわからんがここにいる全員が怪しい薬をキメているというのは分かった。


「失礼ね、薬なんてやってないわよ。」


「一瞬で怪我が治るポーションは薬じゃないのか?」


「あれは必需品ね。依存性もないし痛みも中和できるし、なにより原料が薬草だもの怪しくもなんともないわ。」


「そういうものか。」


「で、今日はどうしたの?」


「いやな、最近随分ナーバスになっているから様子を聞きに来ただけだ。」


この辺りはごまかさない方が身のためだと悟っている。


女の噂は怖いからな。


「シロウさんにも優しい所があるのね。」


「にもってなんだよにもって。」


「だって、ミラさんには優しいのにエリザには全然なんだもん。あんまりあの子をいじめてあげないでね。」


「別にいじめてないさ。それにあいつは客でミラは奴隷だ。扱いが違うのは当然だろ?」


「そうだとわかっていても女心は複雑なのよ。」


だから面倒なんだって。


男みたいにサッパリと・・・いや、サッパリしてない奴もいるからそこは関係ないか。


「兎も角こっちでも様子を見てやってくれ。俺の大事な稼ぎ頭なんだ。」


「んー、自分で言った方がいいんじゃないかしら。」


「言えば余計に懐くだろ。冒険者が冒険を辞めたら終わりだってさ。」


「何それカッコいい。」


「マスターがそう言ってたんだよ。俺じゃないからな。」


「知ってる、シロウさんがそんなこと言うはずないもんね。」


そういう認識はどうかと思うがまぁいいだろう。


くれぐれもともう一度念押ししてから市場へと向かう。


いつもと変わらない賑わいだ。


店を持ってから一時離れてしまったが、やはりここが俺のスタート地点だ。


店を持つ夢はかなったが、こういう所で掘り出し物を探す楽しみはまだまだ終わらない。


「よぉシロウ、今日は出さないのか?」


「今日は休みにしたよ。ちょっと色々とあってな。」


「痴話喧嘩か?」


「そんなんじゃないって、馴染みの冒険者がヘマしたんだよ。」


「エリザちゃん怪我したのか!」


「なんであいつってわかるんだ?」


「お前が馴染みっていうのはあの子ぐらいだろう。で、大丈夫なのか?」


一応ダンとかもいるんだが・・・。


エリザには何度も店番をさせているしそれでだろうか。


「冒険者は腕がくっついてたら問題ないんだと。」


「まぁポーション一本で治っちまうからなぁ。」


「そういう認識なのか?」


「実際そうだからな。俺も魔物に襲われたことがあるが、冒険者のポーションを貰って生き延びた。あの時に凄さを知ってから絶対に一本は持ち歩くようにしてるよ。ほら。」


「うわ、ほんとだ。俺も持っといたほうがいいか?」


「シロウは街から出ないから問題ないだろう。いや、変な女に刺される事を考えたら持っておいた方がいいかもな。あーっはっは!」


失礼な。


いくらおっちゃんでも言っていい事と悪い事があるぞ。


なんてキレる様なキャラじゃない。


おっちゃんなりのスキンシップだろう。


実際行きずりの女なんかとは寝ていない。


あ、いや過去に何度か娼館には行ったが最近はご無沙汰だ。


っていうか行く余裕が無いぐらいに搾り取られている。


それこそあの筋肉馬鹿に。


「まぁ冗談は置いといて気を付けてやれよ、あんないい子なかなかいないぞ。」


「わかってるって。」


「そうだ、東出口近くに面白い露店が出てたぞ。武器とか日用品とか雑多に置いていたご新規さんだ、覗いてみたらどうだ?」


「助かる、ちょっと行ってみるよ。」


「ほら、今日の分。」


「多くないか?」


「エリザちゃんに食わせてやれ。」


有難く頂戴しておっちゃんの教えてくれた店に行ってみる。


こうやって馴染みの人から店を教えてもらえるのも市場の楽しみの一つだ。


もちろん俺もお礼としてその店で買い物してるけどな。


持ちつ持たれつってやつだ。


その後行ってみた店はおっちゃんの言う通り初めて出店する人で、家に眠っていたがらくたを整理しに来たそうだ。


武器が置いてあるのは昔祖父が冒険者だったのだとか。


物は古いが決して悪い物じゃない。


むしろいい感じの品がゴロゴロ転がっていたので調子に乗って買ってしまった。


店主のおばちゃんは大喜びで、最後の最後に売るか迷っていたとっておきという物を見せてくれた。


『ミスリルの手斧。聖銀によって作られたコンパクトな斧は小型ながら鋼鉄をも切り裂く鋭さを持つ。最近の平均取引価格は金貨3枚、最安値が金貨1枚、最高値金貨6枚、最終取引日は29日前と記録されています。』


「これ、すごい品じゃないか。」


「爺さんの忘れ形見さ。ミスリルって凄い物だってのは聞いていたけど実際どうなのかねぇ。」


「鑑定を使えるから言うがこれは本物だぜ、本当にいいのか?」


「置いてても誰も使わないしね。今日は掃除に来たんだ、これも持ってっておくれよ。」


ミスリルの手斧か。


何度か見てきたがやはり綺麗だな。


漫画なんかでは魔法銀なんて言われているそうだが、本当に不思議な光沢をした銀色だ。


「で、いくらだ?」


「わからないから聞いてるんだよ。兄ちゃんに任せるさ。」


「まいったな、結構買って金が無いんだ。」


「言い値でいいよ。他の誰かが使ってくれるなら本望ってものだろ。」


「じゃあ金貨1枚出す。」


「そんなにかい!?」


「本当は金貨2枚でもいいんだが、生憎手持ちがこれだけだ。」


「十分だよ。ありがとうね、いっぱい買ってくれて。」


礼を言うのはこっちの方だ。


良い物を買わせてもらった。


エリザの予備武器としてもちょうどいいだろう。


おばちゃんに金を渡して大量の荷物担ぎ店に戻る。


うーむ、ちょっと買いすぎた。


肩が痛い。


「シロウ、どうしたの?」


「買いすぎたんだ手伝ってくれ。」


「え~、私病み上がりだし~。」


「うるせぇ、治ったんなら手伝え。」


その帰り道の事だった。


よろよろしながら街道を進んでいると前からエリザが歩いてきた。


鎧は脱いで私服だ。


どうやらダンジョンに潜るのはあきらめたらしい。


「ねぇ、ギルドで私の事心配してたってホント?」


「ホントだったらどうする?」


「えへへ、ちょっぴり嬉しい。」


「ちょっとだけかよ。」


「ううん、とっても嬉しい。」


「なら今度から無理はするな。お前に死なれたら悲しむ人間が大勢いるんだ。」


「その中にシロウもいる?」


「当然だろ。」


何を言うかと思ったら。


悲しまないわけがないだろうが。


「そっか。」


「で、手伝ってくれるのか?」


「手伝う手伝う!」


「じゃあ駄賃だ、先に渡しとく。」


ぶっちゃけこれが重すぎるんだ。


手斧を取り出しエリザに向かって放り投げる。


武器を投げるな?


知るか、重いんだよ。


「え、ウソ、これミスリル?」


「予備武器にはちょうどいいだろ、大事に使え。」


「予備にしては豪華すぎない?」


「じゃあ要らないんだな?」


「いるいる、要ります!」


「次は無くすなよ。」


「うん、無くさない。大丈夫。」


「ならいい、帰るぞ。」


まるで玩具を買ってもらった子供の様に胸に抱きしめるエリザ。


それがぬいぐるみとかなら可愛かったんだが、手斧だからなぁ。


夕日に照らされて店へと戻る。


翌日、手斧をぶら下げダンジョンに潜るエリザの後ろ姿が目撃されたそうだが、自信に満ち溢れた表情をしていたそうだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 振るか正式に付き合うかだけの話にいい加減うるさくない? あと、主人公の思考は底辺のホストやヤリチンと同じだから、女が悪いって思考を読まされても困る?
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