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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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70.転売屋は例の檻について考える

準備は順調に進んでいる。


涙貝の雫は結構多くの冒険者が持っていたようで買取が多くなり一度ストップするハメになったが、金額を下げても買取依頼が来たので細々と続けている。


本当はもっと買取りたいが、現金を全て吐き出すわけにも行かない。


失敗すればこれらは全てゴミになってしまう。


いや、ゴミにはならないが利益が出るには大分時間がかかってしまうだろう。


そうなると俺の計画に大きなずれが出てしまう。


よ~く考えよ~お金は大事だよ~と何かのCMでも歌っていた。


現金は大切だ。


よく考えて動かさなければならない。


「と、いう事で当分困らないだけの数はある。じゃんじゃん作ってくれ。」


「作ってくれって、本当に売れるの?」


「売れる。というか売る。ルティナはただ良い品を作ってくれればそれで良い。」


「私は好きな商品を作れたらそれで良いけど・・・。本当に大丈夫?」


「なんだ、心配してくれるのか?」


「だって、大切なお得意様だし、私の作品をここまで気に入ってくれる人なんて居なかったし・・・。」


急に声が小さくなりもじもじし始めるルティナ。


今までの客は余程見る目がなかったんだな。


だが、見る人はちゃんと見ていたというワケだ。


ローザさんに教えられなかったら出会えなかったわけだし感謝しておかないと。


「まぁこっちの事は心配するな。」


「そっか。」


「ちゃんと寝ろよ、それと飯は食え。わかったな。」


「分かってるって、ちゃんとするから。」


「そうだな、ズボンも履いてるしな。」


「あ、あの時はたまたま!」


「あはは、分かってるって。じゃあな。」


真っ赤な顔で反論するルティナに手を振って店を出る。


今回の売り込みが成功すれば彼女には多くの依頼が殺到するだろう。


貴族一般人冒険者問わずだ。


品は飛ぶように売れ、また俺のような作成依頼も舞い込んでくる。


特に涙貝を使用した作品は多くなるに違いない。


だがそうなることを見越して、素材を仕入れるのは俺の店からという契約を先日結んでおいた。


そうする事で俺はスムーズに素材を卸すことが出来るし、ルティナは安定した供給を受けることが出来る。


また、面倒な相手をする必要がなくなるというメリットもある。


間違いなく、ウチからも仕入れてくれという依頼があるに違いない。


そんな時に契約書を見せれば、他所から買い付けできない決まりなんですと言い切ることが出来るのだ。


ちなみに違約金は金貨1000枚。


さすがにその金額を払ってまで乗り換えてくれっていう奴は出てこないだろう。


たぶん。


もちろんこの契約をするにあたり、ルティナにはちゃんと説明をした。


なんなら羊男を同席させてこの契約が合意のものであり強制は何一つ無いと証明させてもある。


急に俺が涙貝を買いあさり始めたものだから何事かと思ったようだが、今回の作戦もしっかり伝えておいた。


こうする事で何も疚しい事はしてないぞと証明したのだ。


相変らず凄い事をするなと感心されたが、同じような事を考えた奴が居ればきっと先にやっている。


たまたま俺が最初に発見しただけの話だ。


さてっと、店に戻るかな。


裏通りを抜けて大通りへと出る。


外は晴天。


最近雨が降っていないからか地面は少し乾燥しているようだ。


土埃が舞っている。


でも西の空が若干暗いのでそろそろ一雨くるだろう。


この時期は乾燥と長雨を交互に繰り返すとミラが言っていた。


そろそろ雨の時期が来てもおかしくない。


「ただいま。」


「おかえり~。」


店に戻るとエリザが店番をしていた。


最近はずっとここに入り浸って居るように思うんだが、大丈夫か?


「ミラは?」


「今二階の掃除をしているみたい。雨が来る前にやっちゃうんだって。」


「そうか。お前はダンジョンに行かなくて良いのか?」


「今生理なの。」


「あ、そ。」


女だもんな、そういう時期もある。


「腹、冷やすなよ。」


「ありがと。」


「んじゃ俺も上にいるから何かあれば呼んでくれ。」


「わかった~。」


カウンターをくぐり二階へ。


寝室に荷物を置いているとミラが部屋に入ってきた。


「お帰りなさいませシロウ様。」


「ただいま。掃除してくれたんだって?」


「二階はほぼ終わりました。後は三階だけです。」


「あそこは別に構わないぞ?」


「いけません。長雨になると湿気がこもりますから、今のうちに綺麗にしておきます。」


「使ってないから別にいいんだがなぁ・・・。」


「本来であれば私もあそこを使うべきなのです。それなのに綺麗な部屋を用意していただき、感謝の言葉もありません。」


隠し部屋もとい三階についてはミラが来た当初から存在を教えてあった。


最初の頃もあそこで構わないと言っていたが、部屋が余っているので二階にするように命令したんだ。


毎回毎回あの隠し階段を降ろすのがめんどくさいってのもある。


窓のない部屋に押し込むのは俺が嫌なんだ。


それにどうしてもあの檻を思い出してしまう。


あそこに押し込まれた人はどんな気持ちだったんだろうか。


奴隷としてミラを買いはしたが、決してそういう風に使うために買ったのではない。


大切な仲間を紹介してもらった。


今はそういう感覚だしな。


「言っただろ、奴隷だとしても俺は普通に扱いたいんだって。」


「勿論分かっております。ですが、私は思うのです。あそこに入れられていた人は、決して不幸なんかではなかったのではないかと。」


「どういうことだ?」


「迫害され命を落とす者、冒険者の囮に使われ殺される者、住む場所を追われ飢えと病気で死ぬ者。この世界にはそのような人が星の数ほど居ます。ですが幸いにも私は衣食住を与えられ、好きな事をして生きていく事ができます。例えあの檻の中に入れられていたとしてもその考えは変わりません。食事を与えられ、暖かい毛布で寝ることが出来る、それがどれだけ幸せな事か、きっとあの檻の中に入れられた人も同じだったんだと思うんです。」


なるほどなぁ。


そういう考えもあるのか。


もちろんそれは十分に理解するが、やはり俺はミラを檻に入れる事は出来ない。


もしどうしても上に住むというのならば、窓をつくりベッドを置き生活できるように加工するだろう。


だがまぁ今は奴隷を増やすつもりもないし、そんな事しなくても良いけどな。


というか、そんな金はありません!


「つまり仕事を与えられているのであれば不満は無いと?」


「仕事というよりも、存在理由でしょうか。」


「難しい考えだな。」


「いえ、至極簡単な理由です。『必要としてくれる』それだけで十分なんですから。」


「必要としてくれるなら檻の中でも構わないと?」


「私はそう思います。そして檻の中にいたであろう人もそうであったと思っております。」


うーむ、どうかなぁ。


こんな所に閉じ込めやがって!


と、俺なら思うだろうけどな。


当の本人はおらず確認の仕様もない。


遺体もしくはそれに準ずるものは発見できなかったので、ここに放置されたという事は無いのだろう。


もしそうだとしたら即行でクレームを入れている。


事故物件だとな。


「まぁどういう理由であれ待遇はこれからも変わらない。さぁさっさと掃除してしまうか。」


「汚れてしまいますよ?」


「そのあと風呂に入ればいい。俺も綺麗にしてくれるんだろ?」


「もちろんです。」


定期的に掃除をしているからか思ったよりも埃は積もっていなかった。


掃除の基本は上から。


はたきをかけて埃を落とし、箒と塵取りでそれを回収。


最後は水拭きと乾拭きで床と家具の汚れを取り除く。


俺の予想通り、夕刻を過ぎたころにポツポツと雨が降り出した。


この雨は当分続くだろうな。


「シロウ様のおかげで早く掃除が出来ました。」


「ギリギリ間に合ったな。」


「本当であれば換気をしたい所ですが・・・。」


「まぁそれはおいおいでいいだろう。使用しない部屋に金をかける余裕は無いんだ。」


「今度の仕込みが成功するといいですね。」


「俺は成功すると確信しているぞ、なんせモデルがいいからな。」


昨日仕立ててもらっているドレスの仮合わせに行ったが、仕上げ途中にもかかわらずミラの美貌を十二分に引き立ててくれる仕上がりだった。


これにあのネックレスとイヤリングが加われば間違いなく人々の視線を釘付けにするだろう。


そんな奴隷を連れているのだと、俺も鼻が高くなるってものだ。


「お褒めに預かり光栄です。」


「窓を付けるとしたらあの檻のある方がいいか?」


「そうですね。あそこでしたら裏庭が良く見えますから。」


「そうなるとあの檻を撤去する必要があるが・・・、一体どういう理由で置かれたのか俺には見当もつかないな。」


「逃げられないようにして欲しかったのかもしれません。」


「逃げないようにじゃなくてか?」


檻とは本来そういう物だ。


何処かに行かない為に檻の中に入れる。


それを逃げられないようにとは、どういうことだろうか。


ミラは時々俺とは全く違う角度から話をするから、解読するのに時間が掛かる。


「あそこにいる間はその人の物で居られますから。」


「それではまるで逃げた人を匿っていたようだ。まぁ、隠し部屋だけに匿うにはうってつけだが・・・、実際どうだったんだろうな。」


「それは私にもわかりません。ですが、残された家具や開いた檻を見ていると、決して虐げられていたようには思えないのです。」


「それは俺もこの部屋を見つけた時に思ったよ。大事にしていたんだろう、そう感じた。」


「はい。私もです。」


まぁ本人がいないんじゃ確認しようもないし、前使用者に至っては発見すらしていなかったみたいだしな。


幽霊になって出て来てくれたらわかるかもしれないが・・・って、あまり考えたくない。


夜な夜な半透明の存在が隠し部屋に出てきているかもしれないなんて。


どこのホラー映画だよ。


「その秘密もまた、あの指輪だけが知っているのかもしれないな。」


「何か仰いましたか?」


「いや、なんでもない。」


隠し部屋で見つけた例の指輪は金庫の中に保管してある。


間違って装着したら大変なことになるからな。


モニカにも解呪できない以上使う事は無いのかもしれないが・・・。


それはその時だ。


「さて、いい加減戻らないとエリザが腹を空かせて泣いているかもしれない。」


「冷え込みますので今日は温かいものにしましょう。」


「ならその間に風呂の準備をしておこう。」


「よろしくお願いします。」


お湯が出ないのがあれだが、温めてやればちょうどいい温度を作り出せる。


魔石型加熱器というらしいが、どういう仕組みなのか見当もつかない。


ま、使用出来れば何でもいいさ。


下に降りるミラを見送り、俺は風呂掃除用のブラシを手に浴室へと向かうのだった。

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