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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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69.転売屋は懇親会に向けて準備する

ルティエに頼んだ品は予想通り、いや予想以上の形で仕上がってきた。


何処からどう見ても一級品。


やはり俺の勘、そして彼女の実力は間違いなかった。


何が無名だ。


今後俺がこいつを有名にしてやる。


そんな身勝手な決意さえ抱いてしまうような仕上がりだった。


作った本人も何度も品を見ては信じられないというぐらいだからな。


「綺麗。」


「コレで何度目だ?」


「だって綺麗なんだもん。あれがこんな風になっちゃうなんて想像もできなかった。」


「俺だってそうさ。だが、これで涙貝の雫に新しい可能性が出てきたぞ。」


「真球ならともかく、小型の歪な物はそれほど高くありません。」


「あぁ。コレまでは化粧品にする為に砕いていた品をそれなりの値段で買取ると言ったら冒険者がこぞって持って来るだろう。そして、今まで買い叩いてきた商人が後悔するに違いない。何で気付かなかったんだろうってな。」


真球であるからこそ価値がある。


そんな間違った価値観をエリザの一言が払拭してくれた。


それを本人に言おうものなら図に乗ってしまうのでいうワケないけども・・・。


「コレは売りに出すの?」


「そのつもりだ。」


「えー!勿体無い!」


「馬鹿いえ、仕入れに金貨4枚、加工に金貨1枚もかかってるんだぞ。金貨10枚ぐらいで売らないと元取れないだろうが。」


まぁ他の四粒を含んでの金貨4枚だがいいだろう。


ソレぐらいの価値があると俺は思っている。


「金貨10枚・・・?」


「ソレぐらいの価値はあると思われます。ですが誰にでも売って良いというワケではありませんね。」


「そうだな。」


「え、どういうこと?」


「ただの物好きに売るだけじゃ意味がないのさ。金があってさらに見栄えのする人間に着けてもらってこそコイツの価値が一段と輝くってもんだ。」


「よくわからない。」


うーむ、例えが悪かったか。


「エリザ様の使っている武器を初心者冒険者の方が使っていたとして、ソレを気にする人が居ると思いますか?」


「どうだろう。初心者がどんな武器を持っているかなんて興味ないし、気付く人は気付くぐらいじゃない?」


「では、上級冒険者若しくはそれに順ずる凄腕の冒険者が所持していた場合はどうでしょう。」


「すっごい気になるし、欲しくなる!」


「そういうことです。」


中々に分かり易い例えだった。


こういうのはどれだけ相手が想像し易いかが重要なんだな。


プレゼンとかした事ないからそういうの苦手なんだよなぁ・・・。


「なるほど、その人と同じようになりたいと思わせることが大事なのね。」


「良くわかったな。」


「えへへ~、褒めてくれても良いのよ。」


「良くわかる説明だった、さすがミラだ。」


「お褒めに預かり光栄です。」


「ってそっち!」


ミラの頭を撫でてやるとくすぐったそうに肩をすくめる。


だが本人の顔は非常に満足気だ。


ミラは猫だがエリザは犬だ。


であったときに見せたあの目、あれは野生の狼のような目をしていた。


ソレが今やコレだからなぁ・・・。


まぁ良い女である事は変わりないし、別に犬を抱くわけじゃないから良いけどな。


「問題はどうやって売り込むかだが・・・。」


「それも考えておられるのですよね?」


「幸いにもそういう機会に恵まれているようだからな、有効に利用させてもらうつもりだ。」


「どういうこと?」


「今度の懇親会にはこの街の偉いさんもくるらしい。その人が身に着けていれば必然的に注目されるだろう。」


そう、普通なら出会えない人に出会えるタイミングがある。


その時に売り込むことが出来れば、完璧だ。


もっとも、ソレに対する仕込みも必要になるから金はかかるだろうが・・・。


「確かにそんな人が着けてくれたら評判になるけど・・・。着けてくださいって言うんじゃないんでしょ?」


「当たり前だ、買ってもらわなきゃ大損だからな。」


「でもそういう人ってもっと良いのを身に着けているものじゃない?」


「そうだろうな。」


「じゃあどうするのよ。」


「ただ品を見せるだけじゃ買ってくれないが、買いたくなるように魅せる事は出来る。ミラ、今度の懇親会にはお前がコレを着けるんだ。」


「私がですか?」


「商品を引き立てるのには最高の素材だからな。コレとは別にイヤリングも注文している、後はそれに似合う服を隣で作ってもらえば完璧だろう。」


ただの服もモデルが着ているだけで良いものに見えてくる。


ようはミラをマネキンにして売り込むということだ。


ルティエには残りの四つと追加で金貨1枚を握らせてある。


彼女の事だ、今回も完璧な品を仕上げてくれる事だろう。


実際依頼した瞬間目を輝かせていたからな。


結構金はかかってしまうがネックレスが売れれば十分に元は取れる計算だ。


むしろコレで失敗したら大損だからな、とことん経費をかけて何とでも成功させなければ。


「私なんかでよろしいのでしょうか。」


「俺の自慢の女だ、それだけの価値はある。」


「ありがとうございます。」


「いいなーいいなー、俺の女だってさ~。」


「何だ、言って欲しいのか?」


「べっつに~。私はまだ誰のものでもないし~。」


口ではこんな風に言っているが随分と拗ねた顔をしている。


そんな様子もまぁ可愛らしいのだが・・・。


何時までも拗ねられると面倒なので種明かしをしておくか。


「別にミラにだけ着けさせるんじゃない。お前の分もちゃんとあるから安心しろ。」


「え!?」


「買取った雫は合計5つ。一個は使ったが残りの四つはイヤリングに加工中だ。一つはミラだが、もう一つはお前の分だよ。」


「ホント!」


「別にお前が俺の女じゃないなんて一言も言ってないだろ?お前には冒険者にアピールするって仕事があるんだ、頼むぜ。」


「任せといてよ!」


何も客は貴族や商人だけじゃない。


女性冒険者の中にもお洒落したいという人は大勢居るからな。


彼らにも買ってもらわないと商売が成り立たない。


しっかり宣伝してもらわないと。


「当分は涙貝の雫をメインに買取をする。真球は不要だ、加工が出来そうな大きさで形が綺麗な奴をドンドン買い取ってくれ。取引板にもそのように依頼を出すし、冒険者ギルドにも連絡はする。大きさや形は後でルティエに確認しておけよ。」


「は~い。」「かしこまりました。」


「俺はそのための資金集めだ。安いとはいえ単価が高いからな、現金を用意する必要がある。」


「どうするの?」


「在庫処分だ。またベルナに頑張ってもらうさ。」


最近は利用してなかったからな、挨拶がてらまた買取ってもらうとしよう。


向こうにも結構客を流しているしたまには良いだろう。


涙貝の件はまだ言わないけどな。


「終わったらミラと俺は隣で懇親会用の衣装作りもある、その間店番頼むぞ。」


「いいな~、ドレス良いな~。」


「ドレス着たいのか?」


「シロウが見たいなら?」


「お前にはドレスよりも鎧の方が似合ってるよ。」


「ふへへ、似合ってるだって。」


何だよその笑い方は。


自分の腕を抱いてクネクネと不思議な踊りを踊るエリザの頭をはたき、倉庫で売れ残りとそれなりの品を合わせて持ち出す。


「じゃあ行ってくる。そのまま市場も回ってくるから夕方までよろしく頼むぞ。」


そうだ、もう一度ルティエの店に顔を出しておこう。


昨日依頼してから寝てない可能性もある。


失敗されたら困るからな、ちゃんとするようにきつく言っておかないと。


とか何とか考えながら用事を済ませていると気付けばもう夕刻。


ローザさんの所で採寸を終える頃にはもう外は真っ暗だった。


今日はもう何処に行く元気もない。


帰って大人しく飯を食って寝るとしよう。


「シロウ様、そちらにおられましたか。」


そんな小さな願いをも許してくれなさそうな人物が店の前に立っていた。


「シープさんじゃないですか、こんな時間にどうしたんです?」


「懇親会の詳細が決まりましたのでお知らせに参りました。」


「手紙でも良かったのに。」


「そういうわけには行きませんよ。主賓なんですから。」


「・・・何時からそういうことに?」


「あれ、言ってませんでしたっけ?」


なにが言ってませんでしたっけだ。


そんな事一言も言ってないだろうが。


「・・・スピーチはしないからな。」


「てっきりお断りされると思っていましたが、どういう風の吹き回しですか?」


「そっちが脅してくるからだろ?」


「あはは、何のことやら。ですが参加に前向きになっていただき何よりです。」


「一つ聞きたいんだが、誰がくるんだ?まさか街のトップとか言わないよな。」


「あの方はお忙しい方ですので参加されません。ですが代わりに副長の奥様が来られます。」


よし、標的はその人だ。


明日からはその情報収集だな。


「それでも十分上の人間じゃないか。そんな人を差し置いて主賓とか言うのか?」


「奥様も興味があるそうですよ、シロウさんに。」


「勘弁してくれよ、そっちの趣味は無いんだ。」


人のものに手を出すのが好きな人も居るが俺はそうじゃない。


ましてや旦那のいる女に言い寄られても迷惑なだけだ。


「それは何よりです。誘惑に負けて身を滅ぼした人を何人も見ていますから、気をつけてください。」


「せいぜい気をつけるさ。」


「では懇親会の日程ですが、二週間後の夕刻お迎えに上がります。」


「迎えに?」


「主賓を歩いてこさせるとか首が飛んでしまいます。」


何とまぁ大げさなといいたい所だがそれがありえそうだからなぁこの街は。


エリザの親友の旦那じゃなければ放っておいても良いんだがそういうワケにも行かない。


それに今回の件で羊男には貸しが出来たはずだ。


それを返してもらうまでは今の地位にいてもらわないと。


「わかった、二週間後の夕刻だな。ミラ覚えておいてくれ。」


「かしこまりました。」


「お召し物はもう手配済みのようですね、代金はこちらに回してください。」


「お、いいのか?けっこうするぞ。」


「主賓ですから。」


「そういうことにしておくが、貸しはそのままだからな。」


「あはは・・・。」


こいつコレで貸しをなしにするつもりだったな。


危ない危ない。


でもまぁ衣装代が浮いたのは素直に嬉しいな。


今日は良い酒が呑めそうだ。


「じゃあまた二週間後に。」


「それでは夜分に失礼致しました。」


優雅にお辞儀をして闇夜に羊男が消えていく。


さぁ戦いの舞台は整った。


後はそれに向けた下準備だけだ。


頑張るとしよう。


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