表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
494/1767

494.転売屋は出張する

「そんじゃま行ってくる。明日の夕方には戻れるはずだ、店番よろしくな。」


「はい!ミラ様に指導していただきます!」


「エリザ様アネット様、シロウ様をお願いします。」


「任せなさいって。」


「ミラ様もゆっくりしてくださいね。」


年が開け、昨年からの約束だった隣町への出張の日になった。


今回のメンバーはエリザとアネット。


流石にメルディ一人で店を任せるのは心もとないということで、ミラには留守番を頼むことにした。


まぁ、一泊二日だし年明けはそんなに忙しくならないので大丈夫だろう。


冒険者ギルドも頑張っているので素材の持ち込みも大分少なくなったしな。


アネットの言うようにゆっくりできる・・・はずだ。


動きだした馬車の荷台から留守番の二人に手を振る。


大型の馬車に大量の荷物を積み込んでいるのでスペースはあまりないが、まぁ狭ければ前に行けばいい。


問題は寒さだが、顔以外は何とかなるだろう。


流石の大荷物なのでいつものように速度は出ないが、特に大きな問題もなく馬車は街道を進んでいった。


「平和ですねぇ。」


「それでいいんだよ。毎回何か起きるほうがおかしいんだ。」


「つまりシロウは常におかしいのね。」


「何だよその言い方。」


「だって、シロウと一緒に動いて何もなかったことなんて数えるほどしかないんだもの。」


「それは流石に言いすぎだろう。」


一応俺にもそういう自覚はあるが、それでも毎回ではない。


せいぜい三回に一回ぐらいだ。


「つまりエリザ様は今回も何かあると思っておられるんですね?」


「そうね、起きるわね。」


「だからやめろって。」


「でもご主人様ですから大丈夫ですよ。必ず上手くいきます。」


「その自信はどこから来るんだ?」


「経験に基づいてです。」


「あ、そ。」


これ以上は何も言うまい。


俺達は頼まれた荷物を納品して、ついでに買取業務を行うだけだ。


女豹があれこれと手を回している可能性は否定できないが、今回はあくまでも新しい客から買取を行うだけだし仮に介入された所で問題はない。


ご禁制のものも確認してある。


それに手を出さなければいいだけの話だ。


大丈夫何とかなる。


そう自分にいい聞かせながら馬車はまっすぐ隣町へと走り続けるのだった。



もちろん何も起きませんでしたとも。


エリザがあんなことを言うから魔物に襲われるとか、盗賊に狙われるとか覚悟はしたのだがそんなことが起きるはずもなく。


いつものように隣町へと到着した俺達を迎えたのは、満面の笑みを浮かべた女豹だった。


「よく来てくれたわね。」


「一体いつから待ってたんだ?」


「別に、今来たところだけど?」


「それだけ鼻を赤くしておいて説得力ないわよ。」


「エリザ、わかっていて言わない所だぞ。」


「あ、ごめん。言って欲しいのかと思って。」


エリザのからかいにも女豹は表情一つ変えない。


なんという精神力だ。


「今回はよろしくお願い致しますナミル様。」


「アネットさんは本当に出来た方ですね、横の冒険者とは大違い。」


「なによ、文句ある?私はシロウを守れたらそれでいいの、だから余計なことしないでよね。」


「余計なこと、はてそんな事したことあったかしら。」


売り言葉に買い言葉。


俺を守るというのならばついて早々に問題を起こすのはやめて欲しいんだが?


「いいからさっさと仕事の話しようぜ。頼まれていた油やら何やらは全部後ろに積んである、後はそっちで確認して帰りに代金を支払ってくれればいい。で、俺達はどこで仕事をしたらいいんだ?」


「もぅ、せっかちな男は嫌われるわよ。」


「今回も仕事をしにきたんだ、ほらさっさと案内してくれ。」


「わかったわ、馬車はここに置いてついてきてくれる?」


向こうも呼んだ手前これ以上ちょっかいを出す気はないようだ。


いつもならもう少し絡んでくるのに今回はあっさりと引いてくれたな。


連れていかれたのは街の大通りに面する空き店舗だった。


そんなに大きくはないが、寒空の下で仕事をすることを考えると十分すぎる。


買い取った荷物を置く場所もあるしな。


一つ気になるとすればその前にずらっと並んだ人の列ぐらいなものだ。


20人ぐらいはいるだろう。


「ここでお願いしたいんだけど、大丈夫かしら。」


「大きさは問題ないがこの列はなんだ?」


「そりゃお客さんに決まってるじゃない。告知してみたらすごい反響があったのよ。みんな貴方が来るのを心待ちにしていたの、嬉しいでしょ?」


「マジかよ。」


「じゃあ後は宜しくね。」


ヒラヒラと手を振って女豹は元来た道を戻っていった。


俺の到着を知った客たちが目を輝かせてこちらを見てくる。


冒険者風の人もいれば、ただの主婦っぽい感じの人もいる。


住民7割その他3割って感じか。


事前告知していたとはいえ、この人数は正直想定外だった。


忙しくなりそうだ。


「どうする?」


「どうするも何もやるしかないだろ。エリザが誘導して俺が買取、アネットは会計でよろしく頼む。」


「オッケー。」


「お任せください。」


「そんじゃまさっさと準備をして客を呼ぶとするか。」


準備って言っても場所を作って金を準備するだけだ。


ちょうどおあつらえ向きの大きな机があったので、それを鑑定台にして準備完了。


早速一人目の客を呼ぶことにした。


「寒い中待たせて悪かった。品物を見せてくれるか?」


てな感じで客を捌いていき、一息ついたのが夕方前。


夕日が店内に差し込み周りがオレンジ色に輝いていた。


「あーーー疲れた!」


「お疲れ様、後ろの片づけはやっておくから少し休んだら?」


「そうさせてもらう。あー、目がチカチカする。」


「鑑定し続けでしたから。お薬ありますよ?」


「明日もあるし飲んでおくかぁ。」


「すぐに準備しますね。」


疲れ目にはビタミンがいいんだったか?


目薬って手もあるんだろうが生憎とそういうのはないようだし、なにより目薬苦手なんだよ。


なんていうか上から雫が落ちてくるのが見えるのがダメなんだよ。


目に入る瞬間にビビって目を閉じてしまう。


昔はよくからかわれたものだ。


アネットから薬をもらい長椅子の上に横になる。


目を瞑っていても目の前で星か何かが飛び回っている気がするのは気のせいじゃないんだろう。


ミラのように魔力が減っているのかもしれない。


無理は禁物だ。


後片付けは任せてゆっくりさせてもらおう。


目を瞑ると他の感覚が鋭くなるからか、二人の動きがなんとなくわかる。


エリザが大量の買取品を仕分けしている。


その近くでアネットは帳簿をつけているんだろう。


結構金は持ってきたつもりだが、高額品も多かったので随分と使ってしまった。


明日の分が足りなくなるようであれば、油の売上金から少し借りてもいいだろう。


着服せずちゃんと帳簿をつけていれば羊男も怒りはしないはずだ。


しばらく目を閉じながらそんな音を聞いていると、ふと別の足音が聞こえてきた。


「あら、随分とお疲れなのね。」


「そりゃあれだけ鑑定すればね、何か用?」


「片付いたのなら宿に案内しようと思ったんだけど・・・、それよりも面白いことがあるのよね。興味ない?」


「面白いことだって?」


足音の主は女豹だったようだ。


早々に宿に引き上げたい気持ちもあるが、わざわざ俺を呼びに来たことの方に興味がある。


体を起こし女豹の方を見ると肉食獣のような目をしてこちらを見てきた。


「お目覚め?」


「おかげさんで。で、面白い事っていうのはお互いに利のある事なんだよな?」


「お互い・・・ってのは違うわね。」


「なんだ違うのか。」


「利があるかどうかは貴方次第だもの。でも、悪いようにはしないわ。」


「やめといたら?」


良くない何かを悟ったのかエリザが忠告してくる。


確かに俺に利があるかどうか言わないってのは気になるが、でも商売ってのはそんなもんだ。


自分で動いて考えて初めて利益が出る。


何もせずに金が入ってくるのはもう商売じゃない。


今の俺は半分そんな感じだが、それでも自分で稼ぎたいっていう気持ちはあるんだよなぁ。


理想はローリスクハイリターン。


だが現実はハイリスクローリターンだろう。


それをどう変えるかが、腕の見せ所ってね。


「それを決めるのは俺だ。で、何をするんだ?」


「船が来たの。」


「船?」


「港町と繋がっているのは前にも話したでしょ?それを利用して時々船が来るのよ。」


「それは定期便じゃなくてか?」


「そ、貴方のように個人で商売している人。もちろんここに寄ったのは私が頼んだものを持ってきてもらう為なんだけど、それ以外は全く関係ないわ。」


「だからその中で価値のあるものを見つけられるかは俺次第って事だな。確かに俺に利があるかはわからない、でも面白そうだ。」


「ちょっと、シロウ。」


「もしかしたら珍しい武具があるかもな。」


「行くわ。」


「私も興味あります。」


「決まりね。」


女豹の紹介って所が引っかかるが、さすがにご禁制の物を扱うような相手ではないだろう。


元々ここには買い付けに来たんだ。


それが船主であっても同じこと。


さて、何が出るか楽しみだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ