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491.転売屋は最後に大儲けする

「順番にならんでくださ~い!まだまだありますから順番で~す!」


「はい、大盛です!トッピングは向こうでお願いします!」


「出汁は多め?少な目?はい、持って行ってねお会計は一番最後だから。」


「美味しいおにぎり一緒にどうですか?中身はサモーンの塩焼きか塩のみですよ。」


「えーっと、大盛とトッピング三つにおにぎりで全部で銅貨19枚ですね。良いお年を~。」


うどんを受け取った冒険者がうれしそうな顔で大通りに作られた臨時のテーブルに向かっていく。


今日は大晦日。


感謝祭最終日だ。


その一番盛り上がる日に一番盛り上がっているのが我らがうどん。


やばいわ。


うどん半端ないわ。


行列は大通りの中心から街の外ギリギリまで続いている。


みんな寒空の下ながら嫌な顔せず嬉しそうに並んでくれているのは、うどんと一緒に込めた売り文句のおかげだろう。


『来年も太く長く生きられるよう願いを込めた幸運のうどん、一杯銅貨5枚から。』


そんなメッセージで売りだしたらあっという間に長蛇の列だ。


まぁ、あの匂いを嗅いだら並ばずにはいられないよなぁ。


「麺は足りてるか?」


「今の所は余裕があるけど、この分だと足りなくなるかも。製造もいっぱいいっぱいみたい。」


「応援を頼むか・・・。」


「今婦人会に依頼してるから昼前には増員されると思うわ。それよりも出汁の方は大丈夫なの?」


「モーリスさんに在庫全部出してもらったから今日の分は何とかなる。明日は知らん、当分は鰹節なしだ。」


「仕方ないわね。」


現場担当のエリザにその場を任せ、俺は行列を抜け、大通りを一本入った通りへと足を向ける。


細い道ながらその日はたくさんの人が出入りしていた。


その先には小さな広場。


普段は子供たちが遊ぶぐらいにしか使われないが、今日は街で一番活気がある場所となっていた。


大勢の女性たちが息を合わせて動き回っている。


その中心で指揮を出しているのはミラだ。


「あ、シロウ様。表はどんな感じですか?」


「とりあえずは何とかなってるがトッピングに偏りが出てきたな。特にグリーンオニオンの消費が激しい。」


「あれだけあったのに・・・。どうしましょうこの分だと昼過ぎにはなくなってしまいます。」


「暇な冒険者に採りに行かせているが間に合うか微妙だな。」


「仕方ありません、無くなったら無くなったで我慢してもらいましょう。」


「俺も好きだがあんなに人気が出るとは思わなかった。」


グリーンオニオン、つまりネギ。


ただの薬味でしかないネギだが、うどんとなれば話は別だ。


単体ではあまり好まれて食べられていないようだったが、ここにきて大人気商材に躍り出てしまった。


備蓄が少なかった分すぐに在庫が底をついてしまい急遽ダンジョンに潜って採ってきてもらっている。


ダンシングオニオンという巨大玉ねぎのような魔物がいるのだが、そいつの頭に生えているのがグリーンオニオン。


今頃ダンジョンでは哀れな巨大玉ねぎが切り取られた頭部を触って嘆いていることだろう。


許せダンシングオニオン。


「すみません通ります!」


「悪い。」


「そこ邪魔!」


「すまん。」


「ちょっと突っ立ってるだけなら食器持って行ってよね!」


「申し訳ない。」


ミラと話し込んでいる横を奥様方が通りぬけていく。


現在広場では婦人会の依頼を受けた奥様方総出でうどんを作り続けている。


麺づくり、トッピングづくり、出汁づくり。


さらには使用済みの食器が運ばれて来ては洗われていく。


大晦日だというのに皆嫌な顔一つせず手伝ってくれるんだからほんと頭が上がらないなぁ。


「しかし、これだけの人が良く来てくれたもんだ。」


「皆さん感謝祭に飽き気味でしたから。」


「なるほど。」


「最終日は特にすることもありませんから手持無沙汰を解消しつつお金も稼げ、さらに食材まで持ち帰りオッケーとなれば来ない主婦はいません。」


「考えたのはミラだけどな。」


「お褒めにあずかり光栄です。」


給金を出すだけではこの半分も来てくれなかっただろう。


だが、大量に用意した食材を好きな時に好きなだけ持ち帰れるとなれば話は別だ。


ここぞとばかりに用意した・・・いや、用意させた食材を使ってトッピングを作っているが余った食材は仕事が終われば全部持って帰っていいことになっている。


肉も野菜も小麦も山ほどある。


残したって捨てるだけなんだ、みんなに持ち帰ってもらった方が食材も喜ぶだろうさ。


「引き続きこっちの指揮は任せた。アネットはどこにいる?」


「アネットさんでしたらギルド協会の依頼で製薬中です。二日酔いと胃の薬が切れそうなんだとか。」


「あ~、これだけの騒ぎになれば仕方ないか。」


「どうかされましたか?」


「表の人手が足りないんで手伝ってもらおうと思ったんだが・・・。」


「シロウ、ちょっと来て!」


っと、エリザからお呼びがかかった。


積み上げられていた洗い済みの食器を抱えて表に戻ると何やらもめ事が起きているようだ。


「どうした?」


「よくわからないんですけど、冒険者同士が急に揉めだして・・・。」


「だから取り過ぎだって言ってんだろ!」


「うるせぇ!俺は山盛りで食いたいんだよ!」


「そんなに取ったらなくなるだろうが!」


どうやらネギのとりすぎで揉めているようだ。


たかがネギ、されどネギ。


薬味のないうどんはうどんにあらずとまでは言わないが、やっぱり欲しいよなぁ。


「おいおい、そんな所で大声出すな。」


「あ、シロウさん・・・。」


「こいつがこんなに取っちゃって、もうないんですよ!」


「わかってるって。だから今取りに行ってもらってるんだ、悪いが諦めてくれ。」


「そんなぁ。」


「なんなら自分で取りに行くか?取ってきてくれたら今日の分は全額タダだぞ。」


「え、マジっすか?」


もめていた冒険者二人の目つきが代わった。


タダ。


その言葉は冒険者の心にドスンとヒットしたようだ。


「いくら食べてもいいぞ、ただしグリーンオニオンを採ってきたらな。」


「すぐに行きます!」


「それ食ってからでいいからな。」


ポンポンと揉めていた二人の肩を叩くと、二人で顔を見合わせ大きくうなずいた。


ダンシングオニオンは一人では中々狩り辛い。


一人が注意をひきつけ、もう一人が後ろから頭部のネギを刈り取る必要がある。


ネギでもめた二人がネギで和解する。


年の瀬に喧嘩なんてするもんじゃないからな。


騒ぎが収まりしばらくすると、ネギを大量に抱えた冒険者を連れてニアが戻ってきた。


「お待たせ。」


「ギリギリセーフだ、助かった。」


「なんだかネギを持って来たらただでうどんが食えるって騒いでいた人がいたけど、本当なの?」


「あぁ、そこで騒いでいたからお願いしたんだ。」


「・・・悪い人ねぇ。」


「人聞きの悪いことを言うなよな、向こうはそれでいいって言ったんだ。別に嘘はついていないだろ?」


俺の答えにニアが苦笑いする。


それもそうだろう。


緊急で出したグリーンオニオンの回収依頼は一回銀貨2枚だ。


短時間で簡単に稼げるという事で、奥様方同様感謝祭に飽きた冒険者たちがたくさんなりを上げてくれた。


だが先程の彼らは違う。


うどんはただになるものの、ギルドを通していないので依頼料は無し。


それを知った頃にはもう緊急依頼は終わっているだろう。


誘導しなかったと責められるかはグレーなところだが、まぁ彼らにはいい勉強になったということにしてもらうさ。


揉めたらもめた時だ。


「依頼料はひとまずギルドが立て替えて請求書を回してくれ。皆ご苦労さん、うどん食べて帰っていいぞ。」


「「「「ういっす!」」」」


ネギを抱えた冒険者が嬉しそうに行列の後ろへと走っていった。


持ってきてもらったネギはすぐさま裏に運ばれすぐに補充されることだろう。


これでひとまずは難を逃れた。


とはいえまたすぐなくなるので、継続して持ってきてもらわないとなぁ。


「大晦日だってのに、働かされるとは思わなかったけど。これをタダで食べられるなら悪くないわね。」


「ニアはともかく旦那にはちゃんと払わせろよ?」


「一杯銅貨5枚の願掛けかぁ、来年は太く長くいい年になるといいわね。」


返事はなかったがまぁ大丈夫だろう。


素うどん一杯銅貨5枚。


ほぼ原価だ。


ちなみに大盛は銅貨10枚でトッピングが一つ銅貨2枚でおにぎりが銅貨3枚となってる。


大盛以上になると儲けが出るが、大抵みんな何かしらつけるので損をすることはほとんどない。


銅貨5枚なら金がない人でも何とか食べられるだろうということで、この値段になった。


もし払えなくても皿洗いのアルバイトが待っている。


一年の恩返しとみんなは思っているようだが、俺からしたら単なる金儲けだ。


それ以上でもそれ以下でもない。


これが当たれば来年もまた頑張れる。


俺にとっても願掛けみたいなものだったが、まぁ当たるよな。


「さて、エリザと交代するかね。」


「私もギルドに戻るわ。それじゃあシロウさん良いお年を。」


「おぅ、良いお年を。」


まだまだ日は高い。


夕方ぐらいまでこの行列が途切れることはないだろう。


働いて働いて働いて。


大変だったけど楽しかったで追われたら最高の年の瀬になることだろう。


ただ、年越しだけはのんびりしたいもんだな。


働き過ぎは体に毒だ。


メリハリつけて仕事しないと。


「シロウ手伝ってー!」


「はいよ、今行く。」


っと、考えている前に手を動かさないとな。


「いらっしゃい、注文は何にする?」


こうして俺らしい一年の最後を迎えるのだった。

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