490.転売屋は年越しうどんを作る
オークションも無事に終わり、感謝祭も残す所後二日になった。
オークションでは前回同様に馬車馬のように鑑定させられたが、ちゃんと報酬が出ているのでコレに関しては文句はない。
出品した品もそれなりの価格で売れたので満足だといえるだろう。
しいて言えば目玉商品がなかったので金額的には物足りないが、それでも他の出品者に比べれば多いほうだ。
今年は出費が多かったからなぁ。
トータルで見れば黒字だが、来年はもっと稼ぎたい。
欲を言えば倍。
昨年はオリハルコンとかもあったからそれを超えるのは中々難しいかもしれないが、目標は高いほうがいいだろう。
それだけ稼げれば当分は安泰だ。
「シロウ、今日はどうするの?」
「昨日は甘味ツアーでその前がおつまみ大捜索でしたね。」
「今年も残す所後二日、ゆっくりしてもいいと思いますが?」
「いや、それじゃあもったいないよなぁ。とはいえ挨拶も終わったし何もするべきことはないわけで。」
年末の挨拶は歳暮のときにもしたが、一応親しい人たちには改めてしておいた。
明日は皆思い思いの場所で年明けを迎えるだろうから、捕まえるのが大変なんだよな。
そうか、もう大晦日か。
「じゃあゆっくりしたら?私は買い物に行くから。」
「それならついでにモーリスさんの所で鰹節買ってきてくれ。」
「は~い。」
「あ、私も行きます!」
エリザとアネットは二人仲良く外出した。
残ったのは俺とミラ、それとメルディの三人だ。
「今何か思いつかれましたね。」
「え、そうなんですか?」
「流石ミラ、よくわかったな。」
「そういう顔をされましたので。」
表情は変えたつもりないんだが付き合いが長いとわかってしまうらしい。
少しこそばゆい感じだが悪い気はしないなぁ。
「それで、何を考えたんですか?」
「年越しそば食ってないなって。」
「トシコシソバ?」
「俺の地域では年越しにあわせてソバっていう麺類を食うんだよ。来年も細く長く生きられますようにってな。」
「面白いですね。」
メルディがいる手前もとの世界とはいえないが、まぁ伝わっているようだから問題ないだろう。
さっき思いついたのは、まさにそれだ。
この世界に来て二回目の年越し。
前回はそんなこと考える余裕なんてなかったが、今回はその辺拘ってもいいかもしれない。
せっかく鰹節もどきがあるんだから作らない手はないよな。
でもそもそも蕎麦があるんだろうか。
蕎麦の実がないと始まらないんだが・・・。
「でも何で細く長くなんでしょう。せっかくなんだから太く長くすればいいのに。」
「慎ましい願いなんじゃないでしょうか。あまり欲を書かないようにと戒めているのかもしれません。」
「私なら来年こそいっぱい稼いで皆さんのお役に立ちたいって思うのになぁ。」
「ふむ、確かにメルディの言うとおりだな。別に細く長くある必要なんてない。」
「ですよね!」
「ってことでだ。メルディ、小麦の備蓄ってどのぐらいある?」
別に蕎麦じゃなくてもいいよな。
地域によってはうどんの所もあるんだし、うどんなら小麦粉で作れる。
せっかくだから太く長くいてやろうじゃないか。
来年がいい年になりますように。
そもそもなんで今の今までうどんを思いつかなかったんだろうか。
麺類はパスタがあったから間に合っていた感はあるのだが、出汁と醤油があってうどんを食べない理由はない。
よし、うどんを作ろう。
今から作れば明日までには何とか間に合うはずだ。
「小麦ですか?結構ありますよ。」
「結構ってどのぐらいだ?」
「余裕で夏まで持つぐらいです。」
「なら問題ないな。」
「何を用意すればよろしいでしょう。」
「オバちゃんの所で大きな木の棒を買ってきてくれ、生地を伸ばすのに使うといえばわかるはずだ。」
「生地、という事は捏ねるんですね。」
「そういう事。水とそれと・・・塩があったら出来るはずだ。」
うどん作りは友人が一時期ハマっていてやらせてもらったことがある。
足で踏んだりとなかなか楽しかったなぁ。
材料も小麦粉・・・薄力粉だっけ?ともかくそれと塩とお湯で出来たはずだ。
まぁ、時間はたっぷりあるから思い出しながらやってみよう。
「なんだか楽しそうですね!」
「年の瀬に悪いが付き合ってくれ。」
「全然大丈夫です!」
その細腕に宿る腕力が今回は必要だ。
ミラが戻ってくるまでの間に机の上を片づけて粉の準備をしておこう。
30分もしないうちに戻ってきたので早速うどん作りに取り掛かった。
結論。
案外何とかなる。
最初は生地がボロボロだったりうまくくっつかない感じだったが、何度か挑戦していると良い感じにまとまりだした。
それをある程度の薄さに伸ばし、少しだけ太めに切ればうどんの出来上がり。
後は大量のお湯で時間を図りながら茹でればシコシコになる時間も確認できた。
「ただいまーって、なにこれ!すっごいいい匂い!」
「本当ですね、お出汁でしょうか。」
「ちょっと、私達がいない間に何作ってるのよ!」
「おかえりなさいませエリザ様、アネットさん。早速味見してもらえますか?」
部屋に入ってきて早々にはしゃぐ二人をミラが華麗に誘導する。
あれこれ聞かれるのも面倒だ。
まずは食ってから感想を言え。
「え、何これ。パスタ?」
「それにしては太いですね。」
「うどんという食べ物で、シロウ様の故郷で食べられるそうです。来年を太く長く生きられるよう一年の最後の日に食べるそうですよ。」
「へ~おもしろいわね。」
「とりあえず食え、そして感想を聞かせろ。」
「そんなにせかさないでよね。」
まだまだ箸は使えないので、フォークを使ってパスタのように巻きつけて口に運ぶ。
ふむ、食べ方を考えるともう少し細くした方がいいかもしれないなぁ。
でもそれだと太く長くにならない。
どうするか。
「温まりますね、お出汁がとっても美味しいです。」
「何この麵、ぷりっぷりのしこしこなんだけど!」
「だからうどんだっての。」
「こんなの初めて!これ寒い外で食べたら最高なんじゃない?」
「ふむ、それは考えてなかった。」
「売れるわよ~。明日は寒くなるって話だし、今の話だったら来年の幸運を祈っての食べ物なんでしょ?ピッタリじゃない。」
「皆さん願掛け大好きですからね。」
外で食べるのはともかく売るのは全く考えてなかった。
でも、売れると言われればその気になってしまうわけで。
今から生地を仕込んで間に合うか?
本番は明日、出汁だって大量に作る必要がある。
どう考えても俺達だけでは無理だ。
「生地作りは私が教えれば街の奥様方で対応できるでしょう。シロウ様はハワード様と共に大鍋でお出汁をつくっていただけますか?アネットさんとエリザ様は再びモーリス様の所で材料となる鰹節を買い占めてもらって、メルディさんは食器の手配をお願いします。」
「やる気か?」
「売れるとわかってやらない理由がありません。まだ一日あります、今からなら何とかなるでしょう。」
「ミラが大丈夫って言うんなら大丈夫なんでしょ。ほら、アネット行くわよ。」
「はい!」
「生地は小麦よね?倉庫にあるやつ使ってもいいけど、ギルドからもらっちゃう?」
「貰ってしまいましょう。」
いや、何を勝手に決めてるんだ?
一応街の備蓄なんだから俺達の為に解放してくれるとは・・・ってまぁいいか。
お祭り騒ぎだ貰えるもんはもらっておこう。
それに感謝祭の食事代は全額街が持つんだし材料も同じと考えていいだろう。
最終日にどれだけ追い上げられるかわからないが、何もせずに年明けを迎えるぐらいならたらふく儲けて翌年を迎える方が俺達っぽいよな。
「でもこのままじゃ寂しいわよね。何か入れるの?」
「薬味があればいいんだが、油揚げとかかき揚げとか入れる人もいるな。あ、卵もありだ。」
「つまりはトッピングよね?」
「まぁ、そんな感じか。」
「じゃあ基本セットは安めにして、トッピングの種類を増やせばみんな好きなの食べられるんじゃない?違う味食べたきゃお替りしてもらえばいいのよ。そんなにお腹にたまるものじゃないし、数食べられるでしょ。」
まさかそんなやり方を考え付くとは思いもしなかった。
トッピング、まさにチェーン店のやり方だな。
「何を入れるかはおいおい考えましょ、何入れてもおいしいわよきっと。」
「唐揚げでも入れるか?」
「いいじゃない?」
「いいのか・・・。」
本当に何でもありだな。
でもまぁ出汁さえしっかりしていれば何入れても美味い気がする。
いや、美味い。
絶対に美味い。
腐っていたハワードも少しはやる気を出すだろう。
あいつの事だたくさんトッピングを考えてくれるに違いない。
「残り時間は少ない、みんなよろしく頼む。」
「「「「はい!」」」」
金儲けに始まり金儲けに終わる一年。
さぁ、最後の大儲けと行こうじゃないか。




