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489.転売屋は感謝祭を楽しむ

感謝祭が始まった。


今年一年の平和と繁栄に感謝するお祭り、だった気がする。


正直町中がどんちゃん騒ぎしたいだけだと思うのだが、それはそれで嫌いじゃないので文句はない。


なんせ食べ物や飲み物のほとんどがタダなんだから、そりゃ文句も出ないだろう。


好きなだけ飲んで好きなだけ騒いで、そして幸せな気分で来年を迎える。


その為の長い長いお祭りだ。


「さぁ、今年も張り切って食べるわよ!」


「ほどほどにしろよ、薬があるからって飲み過ぎるのはやめとけ。」


「嫌よ。」


「知ってた。」


「ってことで行ってくるわ、じゃあまた夜に!」


感謝祭開始の鐘の音と共にエリザは目にもとまらぬ速さで雑踏の中に消えてしまった。


こういう日だからって別に俺達と一緒にいる必要はない。


各々が好きな場所に言って好きなように楽しめばいいんだ。


そういう日だからな。


「お前らも好きに楽しんできていいんだぞ、おばちゃん待ってるんじゃないか?」


「母は母で付き合いがあるでしょうから、わざわざその邪魔をする必要はありません。」


「このような日に何故兄の面倒を見なければならないのですか?そんな事をするのならばご主人様のそばで有意義に時間を使わせていただきます。」


「まぁ好きにしろ。」


店はもちろんお休み。


いや、明後日は営業予定だ。


ぶっちゃけ遊び続けるってのは性に合わないんだよな。


それならいつものように仕事をしていた方が気分的に楽だ。


こういう日でも客は来る。


勤勉な?冒険者なんかはダンジョンに潜っているし、そういうやつらの相手をするのもまぁ嫌いじゃない。


でも今日は休みだ。


ミラとアネットを両手に侍らせながらお祭り騒ぎの町をゆっくりと歩いていく。


「あ、向こうにドルチェ様の屋台がありますよ。」


「まだそんなに並んでなさそうだな、今のうちに顔出しとくか。」


「はい!」


初回からスイーツとは流石女子。


いや、俺も好きだけどさぁ。


開店間際だからかまだ5人ほどしか並んでいない。


どうやら今日の目玉はチーズケーキのようだ。


「あ、皆さん!いらっしゃいませ。」


「今日はチーズケーキなんだな。」


「はい!最終日まで日替わりで出していきますので良かったら毎日来てくださいね。」


「おぅ、また明日な。」


人数分確保して早々に店を離脱する。


気づけば後ろには長蛇の列が出来ていた。


あの短い間にこんなに並ぶとは、さすが街一番の菓子職人、最初に行って正解だったかもしれん。


「次はどうする?」


「軽食をいくつか見繕って早めのご飯にしましょう、お昼になってしまうとどこもいっぱいになってしまいますから。」


「じゃあ各自好きなものを買ったら屋敷に集合な。」


「かしこまりました。」


「おまかせください!」


いつもならあちこち行くのだが、今回はハーシェさんが屋敷で留守番だ。


別に人ごみに出てはいけないわけではないんのだが、人酔いしやすい状況なのでお留守番してくれている。


とはいえせっかくのお祭りを楽しめないのは可愛そうなので、初日は屋敷で食事を摂ることにしたわけだ。


エリザ?


あいつは知らん。


良い感じの料理を確保しつつ追加の料理を物色していると、正面から珍しい人がやってきた。


「お、レイラじゃないか。」


「シロウさんやないの、一人なんて珍しいやんか。」


「買い出しだよ、お前こそ一人で買い物なんて他の男たちはどうしたんだ?」


「私だってたまには一人で買い物ぐらいするんやけど?」


「そうか?」


「そうや。」


自分はその気でも他の男達が放っておくとはおもえないんだがなぁ。


竜宮館一の娼婦。


つまりはこの街で一番といってもいいだろう。


出会った頃は残念なやつだったが、今では誰もが認めるいい女になっている。


あぁ、言っておくが抱いてないぞ。


別に娼婦に嫌悪感とかそういうのはないんだが、こいつとはそういう関係になりたいと思わない。


仲がいいからって抱きたいと思うかは別だしな。


「ま、せっかくの感謝祭だ楽しんで来いよ。」


「え、もう行ってまうん?」


「今日はそういう日なんだよ。用があるんなら明後日は店にいるから来ていいぞ。」


「この私と一緒に祭りを楽しまないとか・・・ありえへんのやけど。」


「何か言ったか?」


「なんでもあらへん!」


まぁ全部聞こえていたのだが、悪いが今日はかまってやれないんだよ。


感謝祭はまだ長いしまた会う事もあるだろう。


レイラと別れ、昼前には両手いっぱいの料理と共に屋敷に戻ることが出来た。


「おかえりなさいませ。」


「ただいま。」


「皆さまお戻りですよ、それとマリー様とアニエス様が来られています。食堂にご案内しておりますのでご挨拶を願い致します。」


「二人が?」


感謝祭初日に来るなんて何かあっただろうか。


「それと、帰られてしまいましたがルティエ様もいらしていました。」


「千客万来だな。」


「年末ですので挨拶に来られる方は多いでしょう。それだけお館様に人望があるという事ではないでしょうか。」


「そうだといいんだけどな。これ、みんなで食べてくれ。それと、明日以降は手が空いたら適当に感謝祭を楽しんでもいいぞ。せっかくの機会だ、息抜きがてら楽しむといい。」


「お気遣いありがとうございます。下の三人にはそのように申し伝えておきます。」


つまりグレイスは祭りに行かないという事だ。


あれ?ハワードは?


「ちなみにハワードには前回の件も含めて謹慎を申し伝えております。お誘いになりませんよう、お願い申し上げます。」


「自業自得だがあまりやりすぎるなよ。」


「お優しいのですね。」


「いや、きつくしすぎてまた変な方向で発散されても困るんでな。」


「なるほど、そういう考え方もありますね。」


たまにはガス抜きも必要だろう。


そうでないとまた食材を大量に手配しかねない。


料理が生きがいみたいな人間だからな、それを止めてしまうと余計にこじれてしまう。


エリザに酒を飲むなというのと同じだ。


そのまま食堂へ向かい扉を開けると、中から女達の姦しい声が聞こえてきた。


「あ、ご主人様が戻ってこられました!」


「ずいぶんと賑やかじゃないか、どうしたんだ?」


「シロウ様が喜びそうな物が売っていたそうで、食事が終わりましたら皆さんと買いに行く事にしたんです。」


「俺が?」


「えぇ、間違いなくお好きだと思います。私も楽しみです。」


机には買ってきた料理がこれでもかと並べられていた。


マリーさんたちも気を使って買ってきてくれたんだろう。


それにしてもアニエスさんまで楽しみな物っていったい何だろうか。


見当もつかないんだが。


「まぁ、人も多いし気をつけろよ。」


「はい。」


「ご心配なく、ハーシェ様を含め皆様の安全は私が保証いたします。」


じゃあ別に料理を買ってこなくても良かったのでは?


とか一瞬思ってしまったが、それはそれこれはこれ。


女達が楽しいのであればそれをとがめる理由はない。


せっかくの祭りだ。


楽しまないともったいない。


「ご主人様も一緒に行きますか?」


「いや、俺は留守番しとく。」


「えぇ行きましょうよ!」


「そうです、来てくださった方が色々と意見が聞けますし。」


「ちなみに聞くが、何を買いに行くんだ?」


「下着です。」


は?


この祭りの日に下着?


いや、意味が解らん。


「いや、なんで下着?」


「なんでも新しい下着で新年を迎えるといい年になるのだとか。」


「王都で大流行なんだそうですよ!」


どこの馬鹿だよそんな流行作ったのは。


この世界の下着はそんな派手な感じじゃない。


なんていうか素朴な下着が多く、元の世界みたいなやつは貴族とかが身に着ける程度だ。


それを変えようという風潮なのかもしれないが・・・。


俺には絶対に考え付かない流行だな。


「絶対いかねぇ。」


「毎日見ているのに恥ずかしいこともないでしょう。」


「そういう問題じゃない、そういうのは俺抜きで楽しんでくれ。」


「じゃあせめて好みの色とか教えてください、それに合わせて選んできますから。」


マリーさんがいつにもなく真剣な面持ちで俺を見てくる。


いや、全員が俺の答えに集中しているような感じだ。


「そんな事したら全員同じ色になるだろ?」


「まぁ、確かに?」


「つまりご主人様は色んな形や色を楽しみたいんですね、わかりました!」


何を勝手に解釈してくれているのかなうちのアネットさんは。


っていうか全員納得したような顔をするな。


確かにそういうのは嫌いじゃないが・・・。


いや、もう何も言うまい。


「楽しみにしていてくださいね、シロウ様。」


「もう知らねぇ。」


買ってきた料理を机に置き、皿に盛りつけられていたフライドポテトモドキを口に入れる。


うん、若干湿気っているがなかなか美味いじゃないか。


向こうでは女達がキャイキャイと盛り上がっている。


ふと厨房に目をやると死んだような眼をしてハワードが料理を作り続けていた。


今の会話は耳に入っていないだろう。


謹慎がよほど応えていると見える。


でも仕方ないよな、あんなことやったわけだし。


そんなハワードから視線を戻し、かつ女達からも視線をそらして俺は無心で料理を食べ続けた。


この一年もいろいろあったが、まさかその集大成である感謝祭初日早々にこんなことになるだなんて。


今年は去年とは違うもんになる。


そんな予感をひしひしと感じるのだった。

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