484.転売屋は家から出ない日を過ごす
「シロウ、お茶がないんだけど。」
「だからどうした、ほしいなら自分で取りに行けよ。」
「いやよ、寒いじゃない。」
「そんなの知るか。あと足邪魔。」
「長いんだもの仕方ないでしょ。」
こたつの中に六本の足が絡まりあっている。
あ、絡んでいるのは四本か。
うち二本は俺のものでその上に乗っているのがエリザの足。
それを避けるようにアネットの足が隅の方に伸びている。
ちなみにアネットは夢の中だ。
今はまだ昼過ぎだが、昼食後って眠たくなるよな。
あと、長い事こたつに入ってるとなぜかトイレに行きたくなる。
アレはなんでなんだ?
「ったく、仕方ねぇなぁ。」
「やった!」
「次はお前の番だからな、あと酒はないぞ。」
「いってらっしゃ~い。」
こたつから出たくはないのだが、ここで漏らすわけにはいかない。
仕方なくこたつから出て先にトイレへ。
すっきりしてから階段を下りて台所へと向かう。
「シロウ様、どうされましたか?」
「エリザに香茶を持ってこいと言われてな。」
「そんな事でしたら呼んでくださればお持ちしましたのに。」
「まぁトイレにもいきたかったし。別にミラも上に来ていいんだぞ?」
「それではみかんが届いたのがわかりませんから。」
「気持ちはありがたいが、横にミラがいないのも寂しいんだが?」
「ふふ、そう言って頂けるだけでうれしいです。」
台所ではミラが夕食の準備をしてくれていた。
今日の晩飯は鍋だ。
こたつといえば鍋だろう。
まぁ、今日で三日連続だけども。
作り手が違うと味が違うからまた楽しいんだよな。
いつもならイライザさんの店に食べに行くのだが、こたつの誘惑が強すぎてなかなか外に出る気にならない。
ここに来るのもかなりの決断力が必要だったんだ。
エリザなんてほぼ出てない気がする。
あとアネットも。
早くもこたつむりを二匹も作り出してしまうとは、こたつとはなんと恐ろしい物なのだろうか。
「すみませ~ん、おとどけもので~す!」
「お、来たみたいだな。」
「は~い、今行きます。」
「いやミラはそのまま料理を頼む、俺が行こう。」
ミラを制してカウンターをくぐり店の戸を開ける。
すると刺すような冷気が一気に中まで流れ込んできた。
あぁ、早くこたつに戻りたい。
「あ、シロウだ!」
「宅配ご苦労さん。」
「冒険者ギルドからだよ、中身は・・・みかん?美味しいの?」
「あぁ美味いぞ。」
宅配便を持ってきてくれたのは孤児院のガキ共だった。
今も町の郵便事業を担っている。
手紙ブームは一時に比べれば落ち着いたものの、予想を裏切り続いている。
このまま彼らの仕事のなれば今後は安泰だろう。
「ねぇ、ちょうだい。」
「銀貨5枚な。」
「え、高い!」
「お肉より美味しいの?」
「あー、肉の方が美味いかもしれん。」
「じゃあいらなーい。そうだ、サインちょうだい。」
伝票をひったくり、サインをして突き返す。
早く帰ってほしいのにこういうときはなかなか帰りたがらないんだよなぁ。
よく見ると唇が寒さで青くなっている。
ったく、もう少し厚着で仕事しろっての。
「ちょっとそこで待ってろ。」
「え?」
「いいから。」
確かさっき冒険者が持ってきた買取品の中に・・・っと。
あったあった。
午前中は一応仕事してたんだぞ。
一応な。
まぁ、直ぐに二階に引きこもったけども。
「ほら、これもってけ。」
「わ!暖かい!」
「焔の石だ、直接肌につけるなよポケットに入れとけ。」
「うん!」
「ありがとう!」
「まぁ、引き続き頑張れ。」
笑顔いっぱいのガキ共に思わず良心が痛んだ。
とはいえそれも一瞬だ。
向こうは仕事、俺は休み。
何を気にする事がある。
さーて、コタツに戻るかなっと。
「お優しいですね。」
「なんだよ見てたのか?」
扉を閉めると直ぐ後ろにミラが立っていた。
なんともまぁ嬉しそうな顔しやがって。
「シロウ様は本当に子供達がお好きですね?」
「俺が?冗談だろ?」
「だって今までに一度も虐げたことがありません。」
「・・・そんなことはないぞ?」
「畑での労働にも給金を出していますし、働きすぎないようしっかりと管理しておられます。それに、嫌いでしたら毎月教会にお菓子や食べ物を差し入れたりしませんよ。」
「あれは解呪の礼だ。」
「解呪代をお支払いしているのに?」
まったく、分かってて言うんだからミラも意地が悪い。
それ以上何も言われないように俺は黙ってミラの唇を自分の唇でふさいだ。
流石にそうされるとは思っていなかったんだろう。
目を見開き一瞬抵抗する。
とはいえ一瞬だ。
直ぐに力を抜き俺に身を任せてきた。
しばらくしてからどちらともなく身体を離すと、唾液のアーチがかかる。
「恥ずかしがりやですね。」
「うるせぇ。」
「ふふ、どうぞ先に上がってください。もう少しで仕込みも終わります。」
「わかった早くこいよ。」
今日は外に出ないと朝に決めた。
ちなみにさっきのは玄関先までなので外ではない。
大事なみかんを受け取る為だ致し方ないだろう。
「も~、おそい!」
「文句を言うなら自分で取りにいけ。」
「やだ。」
「おら、足どけろ。」
コタツの上に香茶とみかんを乗せエリザの足を蹴りながらコタツにもぐりこむ。
はぁ、暖かい。
「あ、みかんだ。」
「食うなら自分で剥けよ。」
「え~剥いてよ。」
「自分の事は自分でしろって教わらなかったか?」
「剥いて。」
「・・・はぁ。」
コタツに入ると幼児退行でもするんだろうか。
随分と甘えたなエリザの為ではなく自分の為にみかんを剥き、ついでにエリザの口の放り込んでやる。
まさにエサ遣りだな。
「お待たせしまた。」
「お、ご苦労さん。」
「今日の御飯は~?」
「今日は鳥鍋にしようかと。卵もそろそろ痛みそうなので最後は雑炊です。」
「やったー!」
「動いてないのに良く食えるな。」
「一応運動してるわよ?」
「どこで。」
「ここで。」
コタツの中で運動?
よく見るとエリザの体が床から離れている。
プランクっていうんだったか?
両肘を床につけお尻を上げまるで二等辺三角形みたいな体勢になっている。
それで涼しい顔してるとか、さすが脳筋。
「邪魔だから外でやれよ。」
「いやよ、寒いじゃない。」
「まぁまぁ。」
ぶーたれるエリザを宥めながらミラが正面に座る。
冷たい足が俺の足の間に差し込まれた。
「そういやアネットの姿がないな。」
「トイレ。」
「そか。」
「あ~寒いです!」
「おかえりなさい、温かいお茶が入ってますよ。」
「ありがとうございますミラ様。」
肩を抱きながらアネットが小走りで戻ってきた。
そのままコタツに足を突っ込む。
大きめに作ったつもりだが四人入れば結構狭い。
屋敷用のコタツはもう少し大きく作ってもらうとしよう。
それこそ倍の人数でも大丈夫なぐらいに。
でもそれってコタツといえるんだろうか。
でも畳みも手に入るしそれぐらいしてもいいかもしれない。
コタツ専用部屋。
それが作れるぐらいに屋敷はでかい。
「はぁ。」
「何よため息ついちゃって。」
「なんていうか一年で随分と変わったなと思っただけだ。」
「そうね、シロウがここに来た時は三日月亭に部屋を借りる程度だったのに、いまじゃお屋敷もちだものね。」
「でもそれだけ稼いで下さったからこそ、我々がこうしていられるわけです。」
「一歩も家から出ずに、コタツに入ってお茶を飲んでみかん食って。これはあれか?夢か?」
「夢だったらどうするの?」
女達の目線が俺に注がれる。
夢だったら・・・。
「とりあえずもう一回寝て戻ってくる。」
「ふふ、そうして。」
「お待ちしてます。」
「それにだ、コレが夢なら面倒ごとなんてないはずだろ?最近はそういうのが増えてきたし、夢であるはずがない。」
「面倒ごとねぇ・・・。」
「二号店の話ですか?」
「まぁ、色々だ。」
羊男の持ち込む仕事はまだマシだが、最近ローランド様の干渉が多くなっている気がする。
あとアナスタシア様。
今ぐらいであればまぁ我慢もできるが、あまりにも要望が多くなるとぶっちゃ気面倒だ。
とはいえ、妊娠中のハーシェさんを連れて街を出るのもリスクは高い。
せめて何処に行くのかやそこでの滞在場所は確保しておきたいよな。
となると直ぐに出て行くのは無理なわけで。
っていうか、大金費やして手に入れた屋敷を放棄するのはさすがにもったいない。
しばらくは様子見だ。
「何かあれば一緒に行くからね。」
「何処までもお供します。」
「お仕事は任せてください!」
「まったく、頼りになるなぁ。」
「当然よ。」
「でも今日はお休みですからゆっくりしましょう。」
そう言ってまた横になるアネット。
まさにコタツムリである。
「もう少ししたら早めの御飯にしましょうね。」
「それもアリだな。今日は休みだ、のんびりしよう。」
そんな日があってもいいじゃないか。
もう直ぐ年の瀬。
どうせ直ぐ忙しくなるんだから。




