482.転売屋は素材を調達する。
こたつを作ろう。
そう決めたものの、なかなか先に進まない。
素材の選定からやり直しになったのだから致し方ないかもしれないが、それでもこれというものが無いんだよなぁ。
一応木材の見当はついた。
エリザが言っていたように火山帯に生えているやつが熱に強く、さらには強度的にも申し分ない。
問題はあまり太くならないんだよなぁ。
熱源を設置するのでテーブル板にも使いたいのだが、一枚板で使用できるほどの大きさのやつは残念ながらない。
ならば加工すればいいじゃないかと考えてはみるものの、ここは草原地帯。
木材加工の職人なんているはずないんですよね。
でもまぁそれに関してはビアンカの知り合いを紹介してもらえることになったので、その返答待ちだ。
材木の切り出しは終わり、後は加工するために隣町へ送るだけというところまで準備できている。
「残るは熱源かぁ。」
「程よい熱さを長時間維持できるという条件がなかなか・・・。」
「熱くなりすぎても良くないし、かといって弱ければ意味がない。焔の石が良い感じかと思ったがあれじゃ弱いんだよなぁ。」
「でもヒートゴーレムの心臓はダメですよ?」
「燃料を変えてもか?」
「一番弱い魔石とでしたら熱さはクリアできますけど、その分持久力がありません。30分に一回魔石交換します?」
「しない。」
「では却下です。」
アネットには却下されたものの、金貨2.5枚の素材を寝かせておくのは惜しい。
どうにかして使えないものかと模索してみたがやっぱり駄目なようだ。
仕方ない、時間はかかるがゆっくり売るしかないだろう。
「ただいまー。」
「おかえりなさいませエリザ様。」
「木材は積み込み終わったわよ、そっちは?」
「残念ながら打つ手なしだ。」
「そっかぁ。求めている条件が厳しすぎるんじゃないの?」
「厳しくはないと思うんだが・・・。いや、そうだから見つからないんだろうな。」
「なによ、わかってるんじゃない。」
「とはいえ諦めるつもりはない。」
何としてでも俺はこたつを作る。
っていうかここまで来て引き下がれるかっての。
「私は冒険者ギルドに顔出してくるから、遅くなるようなら先に食べといて。」
「顔出しだけじゃないのか?」
「諦めきれないシロウの為に調べものするの。」
「そりゃどうも。」
アレン少年に頼んで色々と調べてもらったが収穫は無し。
もちろん冒険者に聞き込みをしてみたが同じく良い返事は貰えなかった。
とはいえ可能性はゼロじゃない、餅は餅屋ということでエリザに任せるとしよう。
「燃料交換の手間を気にしなければあるにはあるんですけど・・・。」
「せっかく温まったのに交換の度に出るとかナンセンスだ。」
「ですよね。」
「アネットもわかるときがくる。」
こたつを設置すると生まれる魔物『こたつむり』。
一度でも魔物になり果ててしまうと二度と出ることはできない・・・は言い過ぎだが、極力出たくなくなるんだよなぁ。
ファンヒーターの灯油入れがどれだけ苦痛か。
あの苦労を味わうぐらいならそもそもそうならないものを開発するね。
「シロウ様。」
「どうしたミラ。」
「昔の帳簿を確認してますと、過去にこういったものを仕入れているようです。」
「火焔石?」
「焔の石に近い物のようですが、仕入れをした後出て行った形跡がありません。もしかすると倉庫のどこかに眠っているのでは?」
「メルディ知ってるか?」
「北の倉庫にはありませんでしたよ?」
「ならうちの倉庫か、ちょっと見てくる。」
名前的に焔の石よりかは強そうだ。
北風の吹き付ける中庭を走り抜け、倉庫へと駆け込む。
ここもなかなかの寒さだが、直接風が吹いてこないだけ何倍もマシだ。
えーっと、結構前の品だから奥の方だと思うんだけど・・・。
前にメルディが片付けてくれたので随分と探しやすくなった。
とはいえ見当がつかないのであちこちひっくり返しながら奥へと進んでいく。
と、その時だった。
薄暗い倉庫。
足元に転がっていた物に気付かずこけそうになってしまった。
慌てて横の木枠に手をかける。
「アッツ!」
え、なんで熱いの?
すぐに手を放し二三歩たたらを踏んでバランスをとる。
え、何事?
恐る恐る先程触った木枠に手を近づけると、明らかに熱を感じる。
木枠に触れているのは足元の箱のみ。
棚の上の段は空っぽだ。
って事はこの中に原因があるわけで・・・。
恐る恐る箱に手を入れてみると、やけに冷たい何かに手が触れた。
と、同時に発動する鑑定スキル。
『火焔石。これ自体が熱を発するわけではないが、触れたものを火焔のように熱くする性質を持つ。火焔石そのものは冷たく熱を持たないために他のものと混同され事故がよく起きる。最近の平均取引価格は銀貨25枚。最安値銀貨12枚最高値銀貨44枚最終取引日は41日前と記録されています。』
え、これが探していたものなのか?
勇気を出してそいつを掴み箱から引っ張り出す。
見た目にはただの黒い石。
拳大のそれは上から注がれる光を吸収して鈍い光を放っている。
単体では冷たい。
でも、触れたものを熱くするらしい。
じゃあ俺は?
生身の肉はそうでもないんだろうか。
しばらく持ったままにしてみるも俺の体が熱くなる様子はない。
だが物は試しと横に立てかけられていた長剣に接するように置いてみると、朗かに様子が変わった。
ゆっくりと赤みを帯び、赤黒い感じになる。
と、同時に接している長剣からじりじりと熱が感じられる。
刃の部分に軽く指をあててみたが、触れるような熱さではなかった。
「マジか、こんなに熱くなるのかよ。」
石を離すと色はまた元の黒に戻り、長剣も触れるぐらいに冷え始めた。
これは・・・。
石を手に店へと戻る。
「おかえりなさいませ。」
「ありましたか?」
「あったのにはあったが・・・。」
ひと先ず現物を机の上に置いてみる。
するとまた石は赤黒くなり始めた。
「机を触ってみろ。」
「え、机ですか?」
「温かい・・・?」
「これが火焔石らしいんだが、何でも触れたものを熱する効果があるらしい。俺が持っても反応しないということは何か理由があると思うんだが、そこまではわからん。」
「確かに温かいですが、これでは物足りませんよね。」
「だが金属はかなり熱くなったし、倉庫の棚も木材ながら熱かった。もしかすると素材によって熱の伝わり方が違うのかもしれん。」
「そうなると、今回の木材が適しているかもわかりませんね。」
「そこなんだよなぁ・・・。」
また準備したものの使えませんでしたの可能性が出てきた。
もちろん使えないのなら別の素材を探せばいいわけだが、素材そのものが熱せられるのであれば燃料もいらないし素材を入れる場所さえ作れば済む。
上に毛布を掛けたり天板を置けばある程度熱さもコントロールできるだろう。
「ひとまず置いてみてはどうですか?」
「そうだな。」
考えるよりも産むがやすし。
俺は火焔石を持って木材の置かれた畑へと向かった。
ルフとレイに見守られながら俺は木材の上に石を置いた。
待つこと10秒。
赤黒くなったのを確認してからゆっくりと木材に手を伸ばす。
熱い。
熱いが、我慢できないほどじゃない。
これは良い感じじゃないか?
この寒さでこの熱さなんだ、室内に持ち込めばもう少し熱く感じるだろう。
それにこの熱気。
木材そのものが赤外線みたいなのを発しているような感じだ。
凄いな離れていても何となく暖かく感じるぞ。
これは一歩前進。
いや、もうゴールに近いんじゃないだろうか。
後は実際に組み上げてみてどうなるか・・・。
「あ、シロウさん探しましたよ。」
「なんだ、また面倒ごとか?」
「何言ってるんですか、シロウさんが頼んでいた職人さんの返事が帰ってきたんです。一度物を見せてほしいとの事ですよ。」
「そうか、悪かったなこんなところまで。」
「何か面白そうなものを作ってるらしいですね、もし成功したらこちらにも回してください。それでチャラにします。」
「高くつくなぁ。」
「伝えましたからね、それじゃあ寒いんで戻ります。」
羊男は伝えるだけ伝えて寒そうに両腕を抱きながら戻っていった。
「一歩前進って感じか?」
「わふ?」
「なんでもないこっちの話だ。明日はエリザに散歩を任せるからよろしく頼むぞ。」
ぶんぶん。
「さて、俺はこいつをもって急ぎ隣町へ向かうとするか。」
今からならまだ日暮れまでには間に合うはずだ。
アネットも一緒に連れて行くとしよう。
やると決めたら即行動。
俺は石を回収すると小走りで店へと戻るのだった。




