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472.転売屋は再び手紙を貰う

ある日の昼ごろ。


昼食を終え、うとうとしながら店番をしていた時だ。


カランカランと扉のベルが鳴り、その音に意識が覚醒する。


「いらっしゃい。」


「お久しぶりですシロウ様。」


「イザベラ?なんでここにいるんだ?」


「大切なお手紙を預かって参りましたの。それと、お仕事のご相談に。」


入ってきたのは王都にいるはずの俺の奴隷、イザベラだった。


何でこんな所にいるんだ?


今はウィフさんの所で化粧品とガーネットルージュを扱う代理店を経営しているはずなんだが。


わざわざ手紙を持ってくるためだけにここに来るってことはないだろうから、仕事の方がメインなんだろう。


「その為にわざわざここまで来たのか、足はどうした?」


「もちろんウィフに用意させましたわ。」


「・・・さっそく尻に敷いているのか。」


「何のことでしょう。さぁ、生憎と滞在時間は限られておりますの、中に入れてもらってもよろしくて?」


よほど急ぎの用事なんだろうか。


俺は主人でイザベラは奴隷のはずなんだけど・・・。


ま、その辺はどうでもいいか。


わざわざここに来るということはよそに漏れたくない話なんだろう。


ミラに店番を任せて屋敷に移動する。


ぶっちゃけると、店の前に横付けされた馬車が邪魔だったんだがそれは言わないほうがいいだろう。


「で、話ってのは?」


「まずは此方の手紙をよんでいただけますか?」


「これは・・・リングさんからか。」


この前の返事だろう。


手紙を読む前にもう何が書いているか悟ってしまった。


タダの返事ならここにイザベラが来ることはない。


ここに彼女がいる時点で普通でないのは確定だ。


静かに中を開け中身を確認する。


今回も前のようにさわやかな香りを感じたが、一つ違うのは手紙以外のものが入っていることだ。


「そうか、王都でも流行りそうか。」


「早くもダンジョン産の素材に注文が入っています。まだまだ数はありませんが、珍しい素材の方が好まれるようですね。動きの早い貴族なんかは、お抱えの冒険者をダンジョンに派遣しているとか。とはいえ、買ったほうが早いことを考えるとある程度の需要は見込まれます。現時点でのシロウ様の段取りを教えてくださいますか?」


「ダンジョン産の花は一定数確保している。それと並行して手紙ブームに合わせた押し花も作成中だ。こっちは花言葉に合わせて入れる簡単なやつだが、時期を気にせず仕入れが出来るから貴族相手じゃなく一般用に売り出しても問題ない。とりあえずこの街では大成功といっていいだろう。」


「生産数に余裕はあるのですね?」


「あぁ、あえてここでは売り出さずそっちで流行ってからやるつもりだったからな。自前で何とかするやつもいるだろうから過剰に在庫を持っているわけじゃないが、しばらくは独占できるはずだ。」


「つまり長期での販売は視野に入れていないわけですのね?」


その通り。


この街はともかく王都での需要をすべて満たすのは不可能だ。


ダンジョンがここにしかないのなら別だが、向こうにもダンジョンはたくさんある。


そこから仕入れればわざわざこんな町から仕入れる必要はなくなるのは必然。


だらだらと販売して過剰に在庫を持つぐらいなら、出だしを独占するぐらいで十分だろう。


前にも言ったが流行に乗るのでは遅い、自分で作って初めて利益が出るものだ。


「では今日持ち帰っても問題なさそうですわね。」


「あぁ、すぐに準備をさせよう。後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ。押し花はどうする?」


「王都ではもう下火ですから少量で結構です。」


「まじか、もう終わりなのか?」


「手紙の大流行は一か月前ですから、年末までかと。」


「早いなぁ・・・。」


という事はこっちの流行もあと一か月。今の在庫をどうするか考えておいた方がよさそうだ。


「シロウ様でしたら別の何かに加工できるのでは?」


「あのなぁ、俺を魔術師か何かだと勘違いしてないか?」


「むしろ王家ではそのような位置づけだと、ウィフがそういっていましたわ。」


「マジか。」


「リング様もそう思われているでしょう。次々と新しい物を考え、そして速やかに実行する。あの男は何者なんだと心底不思議がっておられました。私も同意見です。」


「お前なぁ・・・。」


「金貨1000枚で買った女を愛でる事もせず王都に放りだすなんて、普通は誰もしませんわ。」


まぁそれに関しては俺も同意だ。


普通の神経ならそんなことできないだろう。


だが、今回は色々な理由がたくさん重なってなのでこの選択が最善だったと思っている。


「別の何かに加工すると言ってもなぁ。香水でもしみ込ませるか、或いはしおりにするか。」


「香水、それはいいかもしれませんわね。」


「でも手紙は終わりなんだろ?」


「今の流行はやりは終わりですわ。ならこちらから作ってしまえばいいだけの事。」


「その方が儲かるしな。」


「でもこれじゃ儲けは微々たるものですわね。」


「売れないよりかはましだろ?」


「私は一日でも早くこの首輪から解放されたいだけです。その為にはもっともっと稼がないと。」


気持ちはわかるが言っていることが完全に商売人だ。


いや、元々はその素質があったのかもしれないな。


いきなり代理店をやれと言って普通はできるはずもない。


にもかかわらず、ウィフさんと共に王都に行って一か月足らずでかなりの注文が舞い込んでいる。


しかも決して無理のない量で。


その辺をかなりコントロールできるのがイザベラの強みだろう。


出し渋って値を釣り上げるのではなく、適切な数量をしっかりと伝えたうえで高値で売る。


事実当初の販売価格よりも二割ほど高い価格で売っているようだ。


出来る女であることは間違いない。


「とはいえ、金になりそうなものは流石にないなぁ。しいて言えば掃除道具ぐらいか?」


「掃除道具?」


「魔物の素材で作ったやつだ。」


「それは売れますの?」


「売りだしてもいいが今回はリースでやってみようかと思っている。」


「詳しく聞かせてもらってもよろしくて?」


お、イザベラの目つきが変わった。


やっぱりこいつ貴族じゃなくて商人の方が向いているんじゃないだろうか。


解放した後も代理店業やってくれないかなぁ。


一先ず考案した掃除道具の使い方を説明し、それに合わせたレンタル方法も教えた。


やり方は元の世界にあったのと同じだ。


最初にレンタル契約を行い希望する掃除道具を貸し出す。


回収は月一回だが、希望すれば半値でそれよりも早く回収して新品と交換できる。


また種類を増やしたり長期の契約になれば値引きもする。


消耗品関係は貸し出しではなく販売扱いだが、追加での購入も可能だ。


問題があるとすれば真似をしてくる奴らへの対応だが、特許権的な物が無いので止めることはできないだろう。


「話は分かりました。」


「どう思う?」


「面白と思いますわ。庶民ではなく貴族に限定して貸し出しを行えばそれなりの利益は出るでしょう。」


「住民数を考えるとそっちの方が利益が大きいんじゃないか?」


「毎月決まった金額を払って掃除をしたがる人など一握りしかいませんわよ。」


「マジか。」


「一般商店や飲食店も商売相手にはできそうですけど、もっと安い値段で類似品を出してくる輩が出てくるでしょうし、そうなったらそっちに流れるのは目に見えていますもの。ならば、貴族専門と銘打って上質な物を提供し続けるほうが高値で貸し出しても文句は言われませんわ。」


「なるほどな。一種のステータスにしてしまうわけか。」


「そういう事です。まずはリング様に使ってもらい、王家御用達というやり方もありますわね。」


「やることがえぐいな。」


「あら、利益を出す為には当然の事ですわ。『王家でも使用しているのにアナタは使ってませんの?信じられませんわ。』なんて会話が目に浮かびます。うふふ、これは流行りますわよ。」


おぉ、完全に人が変わっている。


俺は目覚めさせてはいけないやつを目覚めさせてしまったんだろうか。


今度ウィフさんに詫びの手紙を出しておいた方がいいかもしれん。


「さぁ、シロウ様。そうと決まれば適当な物は作れませんわよ。最上級の品で最高の物を提供する、それも毎月新しい物を出せるだけの素材が必要ですわ。準備はよろしくて?」


「・・・来月まで待ってくれ。」


「では今回サンプルだけ持ち帰ることにしますわね。契約数は全貴族、加えて追加分も切らさぬようご準備お願いいたします。では、倉庫まで案内していただけますかしら。」


イザベラがドヤ顔で立ち上がり足早に部屋の外へと進んでいく。


その歩き方の勇ましい事。


慌ててその後ろ姿を追いかけ、結局荷物の搬入までさせられてしまった。


「シロウ様、あの人何者ですか?シロウ様の奴隷なんですよね?」


「言うな。」


夕陽に染まる草原をものすごい速度で街を出ていく馬車を見送り、俺は大きなため息をついた。


はぁ、自分で振っといてなんだが面倒な事になったかもしれん。


最高の品を全貴族数、しかも追加も含めてだって?


まずはどれだけいるのかの確認だな。


加えて、一貴族につき何個必要かも考えなければ。


あ、一契約で何個までって聞くの忘れてた。


そもそもそれが分からないと数の確認も・・・。


「うん、後で連絡が来るだろう。」


まぁいいか。


とりあえず今できるだけの事をするだけだ。


足りなければ足りないで考える。


もちろんそうならないように全力は尽くすけどな。

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