471.転売屋は家族を紹介する
「えっとこれは・・・。」
「まぁまぁ今日だけだからおとなしく座ってなさい。」
「ですが。」
「グレイス、エリザ様の言う通りにしてください。今日はそう言う日ですから。」
「はい、失礼致しました。」
ハーシェさんの言葉に不満そうな表情を見せるがすぐに納得するグレイス。
その周りでは女達が忙しそうに動き回っていた。
ほんと、こういうイベントごとが好きだよなぁ。
話は少しだけさかのぼる。
五人を迎え入れた俺達はその足で急ぎ屋敷へと戻った。
到着しさぁ、早速仕事を!と思っていた五人だったようだが、俺から何もするなと命じられそのまま食堂へと誘導される。
そこでは先に準備をしてた女達が忙しそうに動き回っていた。
っと言う感じだ。
何もするなと言われたものの、状況が呑み込めず当惑する五人。
自己紹介とかはまぁ後でいいだろう。
「シロウ様、お鍋を見ていただけますか?」
「任せとけ。」
「あの、料理でしたら俺が・・・。」
「言っただろ大人しくしとけ。とはいえ、トイレに行きたくなったら適当に出て構わないぞ。」
「それは・・・大丈夫です。」
「結構。あ、ハーシェさん食器よろしく。箸は・・・まぁフォークでいいだろう。」
「早いうちに練習させておきます。」
「まぁ、程々でいいぞ。」
別に箸じゃないと食えないってわけじゃない。
ミラに呼ばれそのまま厨房へと向かう。
「いかがでしょう。」
「ん、いい感じだ。」
「足りない分はモーリス様から借りてきました、これから人数が増える事を考えるとあと二つほど増やしていいかもしれませんね。」
「そうだな、それ関係はまた考えるとしよう。後は醤油を少し入れて完成だ。熱いから気をつけろよ。」
「はい。」
モクモクと湯気を上げながら鍋の中で具材が煮込まれている。
冬と言えば鍋だよな、やっぱり。
イライザさんの店でもよかったんだが、せっかくの歓迎会なんだしやはり自分の屋敷でやる方がいいだろう。
そうんなわけで女達が準備をしていたというわけだ。
それから30分ほどで歓迎会の準備は完了した。
「グラスは揃ってるか?」
「大丈夫です。」
「みんなお酒は大丈夫よね?あ、ハーシェさんのは別にしてるから。」
「ありがとうございますエリザ様。」
「食べられそう?」
「はい、別メニューで楽しませていただきます。」
「そんじゃま、始めるとするか。」
お誕生日席からグラスを持って立ち上がる。
向かって左の上座側に使用人一同。
向かって右の下座に女達が座る。
因みに参加者はミラ・アネット・エリザ・メルディ・ハーシェさんだ。
まるで合コンのような構図だがここにいる男は三人だけ。
そもそも左の使用人一同は何が起きているかわからずパニック寸前な顔をしている。
唯一落ち着いているのは先ほどハーシェさんと話をしたグレイスだけだ。
「とりあえず今日はこの屋敷に新しい仲間が増えた記念として簡単な食事会を用意させてもらった。立案者は正面にいる女達。これから長い付き合いになるかもしれないんだ、せめて今日ぐらいは気楽に話が出来ればと思っている。好きに食べて飲んでくれ、ただし飲み過ぎには注意しろよ。」
「シロウお腹空いた。」
「わかってるっての。各自言いたいことはあると思うがとりあえず飯にしよう。グラスは持ったな?それじゃあ乾杯!」
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
女達が嬉しそうにグラスを上げ、使用人たちがおずおずと言った感じでそのまねをする。
まさかこんなことになるとは思っていなかったんだろう。
今日は無礼講だ。
冬に人が集まると言えば鍋だろうって事で、今日は水炊きにしてみた。
「美味しい!」
「エリザが良い感じのアングリーバードを仕留めてくれたからな、朝挽きはやはり美味い。」
「ありがとうございますエリザ様。」
「美味しいです!」
「そんなに褒めないでよ、照れるじゃない。」
「大丈夫だ今日だけだから。」
「なんでよ!」
とまぁ、いつもの感じで食卓を囲んでいるわけだが、使用人たちはいっこうに食が進んでいない。
「とりあえずいろいろ思う所はあると思うが、これがうちの流儀だ。今は奴隷だの使用人だのは忘れるように、わかったな。」
「わ、わかりました。」
「でもなぁ・・・。」
「素人の作った料理で悪いが味は保証するぞ。」
「そ、そう言うつもりじゃありません!いただきます!」
よしよし、とりあえず今は食え食え。
やっとこさ重たい腰が上がり、少しずつだが食事を始めた。
用意した鍋は4つ。
さっきも話していたが人数的にもう少し増やしたいなぁ。
食事会は滞りなく進み、やっとお互いの緊張もほぐれて来た。
何で俺がこんな事まで気を回さなきゃいけないのかと思う所はあるが、それも雇用主の務めという奴なんだろう。
あぁ、めんどくさい。
人が増えるというのはこんなにも大変なのか。
パンパンと手を叩いて全員の視線をこちらに向ける。
「いい感じに腹も膨れてきた所で簡単に紹介をさせてもらおう。俺とハーシェさんは良いとして・・・。まずはエリザからだな。」
「え、私?」
「見た目はこんなだがこの街で一二を争う実力の冒険者だ。中身はまぁ見た通りだな、酒が好きでずぼらでだらしなくて。あとは・・・。」
「ちょっと!もう少しちゃんと紹介してよ!」
「なんだかんだ言って一番気を遣う女だ、何かあれば相談してみると良いだろう。もっとも、答えが出るかはしらん。」
何か言いたげな顔をするがそこはグッと飲み込めるぐらいに空気の読める女でもある。
「エリザよ、シロウの言う事は気にしないように。でも何かあったら遠慮なく言ってね、手伝えることは手伝うから。」
「んで、次はミラだな。奴隷ではあるが俺の代わりに店を管理している。見た目通りきっちりした女だ、俺とハーシェさんがいない場合はミラの指示に従ってくれ。」
「ミラです、皆様と同じ奴隷ですのでどうぞ気兼ねすることなく話しかけてください。」
「そしてアネットだ。ミラと同じく奴隷だが、街で唯一の薬師として働いている。体調が悪い時はすぐに相談してくれ、無理はしないようにこれは命令だ。」
「アネットです。ミラ様同様同じ奴隷ですので何かあれば遠慮なく言ってください。お薬はいっぱいありますから遠慮なくどうぞ。」
「で、最後にメルディだが・・・。」
「メ、メロディアーナです!気軽にメルディって呼んでください。普段は倉庫の整理をしているのであまりお目にかからないかもしれないですが力仕事があったら遠慮なく呼んでください!」
俺が説明する前に自分で説明してしまった。
まぁいいだろう。
「ちなみにメルディを除いた四人は俺の女でもある、それも忘れないでくれ。」
これはちゃんと言っておかないとな。
一先ず紹介が終わったので静かに席についた。
かわりにグレイスが立ち上がり俺の方を見る。
「では続きまして私共の紹介をさせていただきます。まず初めに、ハーシェ様より侍女長の役目を仰せつかりましたグレイスでございます。この歳ですが精一杯尽させていただきますのでどうぞ何なりと申し付け下さいませ。続きまして料理と雑務全般を取り仕切るハワード、主にベッドメイキングと掃除、ならびに雑務を行いますキルシュとジョン、最後に掃除と買い物等お屋敷外の雑務を行うミミィです。以上五人が本日より業務に当たります。何分不慣れな事が多くご迷惑をおかけするとは思いますが、一日でも早くお役に立てるよう皆努力いたします。」
グレイスに紹介されながら四人が順番に立ち上がる。
身長は180は越えているであろう男がハワード。
例の姉弟はキルシュとジョン。
で、一番小さいのがミミィ。
紹介されると同時に深々と頭を下げて行った。
そしてハワード以外が着席する。
「ハワードです、食事についてご要望があれば何なりと仰ってください。一応は何でも作れると思います。ですが、今日の料理は初めての味でした。これだけの味を出せるなんて、主様は料理人か何かですか?」
「いいや、ただの一般人だ。うちは俺も含めて食いしん坊が多いからな、今後に期待している。」
食いしん坊に呑兵衛に色々居るから大変だろうが、まずは明日の朝に期待だな。
「キルシュでございます。」
「ジョンです。」
「レイブ様より離ればなれにならぬよう一緒に雇ってくださったと聞いています。このご恩に報いるべく一生懸命に働かせていただきます、よろしくお願いします。」
「お願いします!」
「そう気を張らなくてもいいが、グレイスの指示をしっかりと聞いて頑張ってくれ。なんせこの屋敷は部屋数が多いからな、掃除は大変だと思うが無理はするなよ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「頑張ります!」
元気のいい弟と礼儀正しい姉。
歳はキルシュが俺達よりも少し下、ジョンはまだ12・3って所だろうか。
まだまだガキだが真面目そうな二人だ。
「ミミィです。お買い物とか何でもやります!あと、赤ちゃんのお世話は任せてください。うち、弟や妹がいっぱいいましたので。」
「あぁ、これから少しずつだが増えると思うよろしく頼むぞ。」
傍から聞けば子作り宣言だが、そもそも俺の女だと言っている時点でお察しだ。
これに関しては俺ではなくて女達の意思の方が強い。
「本日は私共の為にこのような時間を作ってくださり感謝いたします。」
「これからよろしくお願いしますね、グレイス。」
「最後のお勤めになりますよう精いっぱい頑張らせていただきます。」
「とはいえ、今日に限っては仕事はするなよ。するなら明日の朝からだ。朝食、期待しているからな。」
「お任せください、とびっきりのやつを用意いたします。」
「私お肉!」
「朝から肉かよ。」
「だって食べないと元気でないんだもの。あ、獲って来て欲しいお肉とかあったら遠慮なく言ってね。」
皆の笑い声が食堂に響く。
人が増えるのは良い事だ。
活気があるのは良い事だ。
さて、来月からこの五人の分もしっかり稼がないといけないな。
いよいよ年末。
最後のもう一頑張りだ。




