469.転売屋は使用人を雇う
掃除道具は売れた。
まぁ当然だよな、生活必需品だもん。
前回発見した掃除方法は本がなくてもそれなりに知られていた知識だったようだが、それを活かすだけの素材が出回っていなかった。
なので、それを加工して世に流したわけですよ。
そしたらどうなったと思う?
奥様方が群がってきた。
それはもうデパートのバーゲンセールのようだ。
押し合いへし合い奪い合い。
わすが数分で用意した掃除道具は全てなくなった。
さらには再販はまだか!予約させろ!と目を血走らせて迫ってくる始末。
あまりの勢いにできるだけ早くとしかいえなかった。
殺されるかと思った。
いや、マジで。
ってことで、今年最後の仕込みは大成功。
今は冒険者達が主要な素材を必死になって集めている。
それをギルドが一括で買い上げて婦人会に発注。
婦人会は人を集めて加工そして販売という流れが決定した。
俺には発明者として売上の5%が支払われる予定だ。
何もせずに金が手に入るのはマジで最高だな。
とはいえこの街もあれこれ手を出しすぎて婦人会ですら人手不足のようなので、今後は外に生産を委託することになるだろう。
それこそ女豹が喜びそうな内容だ、羊男にしっかり頑張ってもらって良い条件を引き出してもらわないとな。
「ただいま~。」
「おぅ、おかえり。」
「今回は素材が簡単で助かったわ、数はあるし流石に狩り尽くす事は無さそうよ。」
「フォックス種も大丈夫なのか?」
「うん、亜種がいるからそっちで何とかするつもり。毛並みも一緒だし婦人会も大丈夫そうだって。」
「亜種?」
「フォックステイルっていう尻尾だけそっくりの魔物が居るのよ。狐は基本魔物のえさだから、それに擬態して逆に襲い掛かるの。」
ふむ、擬態して捕食するのか。
頭のいい魔物も居るもんだ。
そいつ等と本家を合わせればそれなりの数になるからそれで賄うんだな。
それに消耗品の核と違って毛皮は洗濯できるから一定数集ればあとは使いまわせる。
今は無理でもいずれは各家庭に一本ずつ置いてもらって、それを回収するシステムが落ち着けば継続的にお金も入ってくるし。
マジでダ〇キン様々だ。
良いものはマネしろって偉い人もいってたしな!
「そんじゃまそっちは任せた。後は・・・。」
「そうだシロウ、ハーシェさんが呼んでたわよ。」
「ハーシェさんが?」
「急ぎじゃないみたいだけど、悪阻も出てるみたいだし早めに行ってあげてね。」
「こちらはお任せ下さい。」
「わかった、んじゃま今から行ってくる。」
二・三日前から悪阻が始まったようで終始体調の悪そうなハーシェさん。
できるだけ皆で様子を見に行っているが、直接SOSを出してくるなんてよっぽどだろう。
エリザじゃダメって事はそれ以外のなにかがあるってことだろうし。
急ぎ店を出て屋敷へと急ぐ。
すると、玄関先でハーシェさんが掃き掃除をしているのが見えた。
「ハーシェさんそこまでしなくて良いんだぞ。」
「お呼び出しして申し訳ありません。座っているよりも身体を動かしている方が気が楽なので。それに、誰かが掃除しないと直ぐに汚れてしまいますから。」
「まぁ、そうなんだけども・・・。」
いくら優秀な掃除道具があっても掃除する人間が居なければ汚れは取れない。
しかもコレだけ大きな屋敷だと管理維持するのも大変だ。
前まで居た使用人達は皆ウィフさんを追いかけて王都に行ってしまった。
なので今屋敷に居るのはハーシェさんただ一人。
俺達もできるだけ掃除をしに行っているが、やはり散発的にするのでは追いつかない。
いよいよ使用人を手配する日が来てしまったか。
「とりあえずここの掃除は俺がするから中に入ってくれ、用があったんだろう?」
「はい・・・。」
この感じ、何かお願いでもあるんだろうか。
俺の奴隷じゃないんだし別に好きにしてもらってもいいんだけどなぁ。
ひとまず屋敷に戻り、食堂へと移動する。
人気のない屋敷の中はとても寒々しい感じだった。
気温の問題じゃない。
雰囲気の問題だ。
大きな食堂だが使用しているのは炊事場付近のみ。
ほかはホコリが詰まってしまっている。
いつもの席にハーシェさんを座らせて俺は香茶を用意した。
「すみません来ていただいたのに。」
「こっちの茶葉ならまだ飲めたよな?」
「はい、レレモンの風味がさっぱりするので。」
特製ブレンドの茶葉は普通のものよりもサッパリとした風味が特徴だ。
「で、話ってのは使用人の件か?この雰囲気だもんなぁ、掃除の手間もあるがやはり人が居ないのは寂しすぎる。」
「あの・・・。」
「本当ならもっと早く手をつけるべきだったんだが、色々と忙しくて・・・。いや、コレは言い訳か。ともかくすまなかった、急ぎレイブさんのところに言って人員の手配をするからもう少し待ってくれ。」
「シロウ様、別に私はこのままでも。」
「え?」
「確かに掃除は行き届きませんが、皆さんが来てからでも遅くありませんし最近はずっと一人でしたので。」
あれ?
使用人じゃ・・・ない?
てっきりそうだと思ったんだが、まさか俺の早合点か?
「じゃあ何で呼ばれたんだ?」
「玄関の明かりが切れかけていまして、エリザ様や私では届かないのでお願いしようと思ったんですけど。」
「・・・マジか。」
「でも、そこまで気に掛けてくださって有難う御座います。」
「あ~、まぁ。どうにかしなければってのは確かだったし。でもいいのか?」
「欲を言えば一人でも居てくださると助かるんですけど・・・。」
「わかった、なら手始めに数人入れてみよう。適性もあるだろうし人選は一任する、一緒に来てくれるか?」
「でも私基準で宜しいのですか?」
「生憎とそういうのは縁がなくてね。」
前の世界では一人身の転売屋だ。
家を維持するのに人を雇った経験などない。
その点ハーシェさんならそういった経験もあるだろうし、人を見る目もある。
任せて問題ないだろう。
ゆっくりと香茶を堪能してから俺達はレイブさんの店へと向った。
途中店により事情を説明したがミラもアネットも俺達に一任するとのことだった。
奴隷が口を出す事ではないとか言っていたが、個人的には口を出してもらう方がありがたいんだがなぁ。
「シロウ様、それにハーシェ様まで。お二人一緒とは珍しいですね。」
店に到着するなりレイブさんが出迎えてくれた。
俺達が行くとは誰にも教えていないんだが何で分かったんだろうか。
相変らず謎の多い人だ。
「急にわるいな。」
「いえいえ、大切なお客様ですから。今日は使用人の選定ですか?」
「いつも思うんだが何で分かるんだ?」
「それが仕事ですから。」
飛び切りの営業スマイルを向けてくるレイブさん。
仕事とはいえ数分前まで誰にも伝えていなかった情報を把握されているのは正直怖い。
この人の悪口は口が裂けてもいえないな。
まぁ、言うつもりもないけれど。
「今日は宜しくお願いします。」
「本来であれば一番広い応接室にお通しするのですが・・・。」
「そこまでひどくありませんので気遣いは無用です。」
「左様でございますか、出すぎた事を申しました。」
「いえ。ではシロウ様参りましょう。」
なんだろう急にハーシェさんの話し方が変わった。
いつもの大人しい感じではなく完全に仕事モードな感じ。
貴族の奥様といわれても疑い用のない凛々しさがある。
いつものように巨大な応接室へと案内され、おなじみのソファーに腰を掛けると同時に香茶が運ばれてきた。
「飲み物は結構です。」
「そうですか、失礼致しました。」
「本日は使用人の選定に来たわけではありません、あくまでも情報収集そう思ってください。」
「かしこまりました。では、本日は何処までお呼びすれば良いでしょう。」
「そうですね・・・。従者長を含めて四人ほどお願いできますか?」
「あのお屋敷を四人で?」
「当分は私しか住みませんので、全体を把握するだけであればその人数で十分かと。」
「つまり下働きは不要なのですね。」
「庭師や御者も不要です。」
「・・・わかりました。何人か厳選して推薦させていただきます。」
二人がさくさくと話しを進めていくがまったくわからん。
っていうかてっきり家を管理する全ての使用人を確保するつもりなのかと思ったんだが、どうやら違うようだ。
あくまでも家を管理監督するトップを雇うだけ。
それはわかった。
恭しくレイブさんが頭を下げて部屋を出て行く。
なんていうかいつもと違う張り詰めた雰囲気に少し息苦しい感じがする。
「すみません、勝手に決めてしまいまして。」
「それは別にいいんだが、本当にその人数で良いのか?」
「いきなり大人数で来られても私が管理できません。この体調ですから、まずは少数で回せる人材を確保するつもりです。従者長や執事長として動いてくれる方が居れば人が増えても安心ですから。」
「なるほどなぁ。」
「確認なのですが、購入ではないんですよね?あくまでも奴隷を派遣してもらい不要になったら返却する。いずれは割高になりますが構いませんか?」
「最初はそれでいいだろう。しっかりと管理できるような人材であれば買い受けても構わない。一般人を雇うよりも奴隷を派遣してもらったほうが安心安全・・・ってのが普通なんだろ?」
住民から使用人を募集する事は簡単だ。
むしろ前の世界ではそれが普通だったが正直リスクが大きい。
盗難もそうだし酷い場合は傷害や殺害される可能性だってある。
主人を殺しても見つかる前に逃げ出してしまえば見つけ出すのはかなり難しいだろう。
その点奴隷であれば今のリスクをほぼ無かった事にできる。
殺意を向ければ隷属の首輪が発動するし、物を盗んだところで意味がない。
逃げようとしても逃げられないので結果としてその様な悪事に手を染める事がないというワケだ。
向こうもあわよくば買い上げてもらえるわけだし、決して手抜きはしない。
どちらにとっても利が多いのが派遣というワケだ。
「失礼します、候補者を連れて参りました。」
コンコンとノックの音が響き続いてレイブさんの声が聞こえてくる。
「どうぞ。」
ハーシェさんの応答と同時に扉が開き、レイブさんを先頭にゾロゾロと候補者達が入ってくる。
男性3名女性5名。
年は様々だがどれも30代以上な感じだ。
一番上は50~60と微妙な感じの初老の女性。
高齢の奴隷というのも意外だが、それ専門に扱っている奴隷なんだろう。
「こちらの8名が今回の候補者となります。お時間もありますから早速紹介させていただきましょう。まずは・・・。」
挨拶も早々にレイブさんが候補者の説明を始める。
うちの使用人に相応しいのは誰か。
緊張感の張り詰めた応接室に俺は早くも帰りたくなるのだった。




