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463.転売屋は結果の報告を受ける

「結果が出たって?」


「はい。そのお知らせに参りました。」


「それはいいんだが、なんでここで?」


「そりゃあシロウさんにだけお伝えしたいからです。ギルド協会にも承諾はもらっています、後はそっちでやってくれと。」


「つまり丸投げか。」


「いいではないか、全部自分のものになるのじゃぞ?」


「相手が相手だからな、むしろ一枚噛んでもらった方が有難い場合もある。まぁいい、話を聞かせてくれ。」


いつもなら店で話を聞くのだが、内容が内容だけに別の場所を要求されてしまった。


要求してきたのは凸凹コンビこと、若くてデカいのがジョンさんで年寄りで小さいのがハワードさん。


こう見えても王家直属の調査隊で、今回発見した二つの祭器と前に見つけた召喚用の祭器の調査を依頼していたんだが、今回はその報告にわざわざやってきてくれた。


で、店では話が出来ないので急遽屋敷に案内したと。


本来なら全員で話を聞きたいのだが、ミラは店番、エリザはダンジョン、アネットは製薬。


なので今回のお供はハーシェさんというわけだ。


屋敷の持ち主でもあったわけだし、同席しても問題ないだろう。


「失礼します、香茶をお持ちしました。」


「奥方申し訳ない。」


「あ、もらいます!」


ジョンさんが素早く立ち上がりカップの乗った盆を受け取った。


うんうん、そういう気配り嫌いじゃないよ。


「それじゃあ堅苦しい挨拶は抜きにして、聞かせてもらうとするか。ハーシェさんはそこに座ってくれ。」


「わかりました。」


「ではまずこの書類に目を通してください。」


カップを避けつつ三枚の書類が重ねて提出される。


どうやら一種類ずつの報告書のようだ。


ふむふむ、なるほど。


まぁそうなるよね。


「はい、ハーシェさん。」


「いいんですか?」


「元は自分の家にあったものだ、知っておいて損はないだろう。」


「別に構いませんよ、あの二つはもうこちらの手にありますから。知られたところで問題はありません。」


「では・・・。」


「読んでもらっている間に話だけは進めちゃいますね、ってことでハワードさん任せました。」


「まったく報告ぐらいまともにできんのか。」


黙って香茶を飲んでいたハワードさんが大きなため息をつく。


俺も同じことを思った、そこまで話して丸投げなのかよ。


まぁいいけどさ。


「先に預かった災厄と破滅の二つじゃが、然るべき場所に保管されることとなった。『悪用される前に見つかったのは誠に幸運であり、それを正しい場所に戻そうという気概も素晴らしい、流石我が見込んだ男だ』と、国王陛下のお言葉も頂戴している。有難く思えよ。」


「別に認められた覚えはないんだが?」


「まぁまぁいいじゃないですか、流石あのアニエスさんが見込んだ男ですね。」


「知り合いなのか?」


「前に何度か遺跡にもぐらせていただきました。強いですよねぇ、それでいて綺麗ですし。亜人じゃなかったら声をかけてましたよ。」


「なんで亜人じゃダメなんだ?」


「うちの実家が正統派思考でして、他の血を入れることを嫌うんです。ほんと、どうでもいいんですけどそういう家に生まれた以上守らないといけない決まりなわけですよ。」


純血主義とかそういうのだろうか。


これだけ種族がいるとそういう考えが出ても不思議ではない。


とはいえ、実際にそれを聞くのは初めてだな。


そういう考えの人もやっぱりいるのか。


「話を続けていいか?」


「あ、ごめんなさい。どうぞどうぞ。」


「先の二つは国家が買取り責任をもって管理しよう。ついては発見並びに提出の報奨金として国は金貨200枚を其方に支払う用意がある。もちろん足りないとは言わんよな?」


「足りないと言ったら?」


「一応僕らの権限でもう少し増やすことは・・・って痛いですよハワードさん。」


「足らんとは言わんな?」


「・・・悪用されることを考えたら随分と安い支払いだと思うがまぁいいだろう。よかったなハーシェさん金貨200枚だってよ。」


「え?シロウ様が頂くのでは?」


「発見したのは俺だが持ち主はハーシェさんだろ?」


「所有権は譲渡しましたから。それにどちらのお金でも今は一緒ですよね?」


「なるほどそう来たか。」


籍は入れていないがつまりはそういう事だ。


一緒に住む以上金は俺が出す。


ならどっちが持っていても同じというわけだな。


なんだろう、面と向かってこう言われると照れるじゃないか。


「惚気はそのぐらいで、ほらハワードさんが怒っちゃいますから。」


「悪い、続けてくれ。」


「オホン。最後にあずかった祭器じゃが、アレも召喚用の祭器で間違いない。旧王朝時代の遺物としてはかなり状態がいい代物じゃな。あれほどのものはワシも過去に一度見たかどうか・・・。」


「もうピッカピッカで亀裂も欠けもないんです。あれですね、こういうのって見つけた人の性格が出ますよね。」


「シロウ様は丁寧なお方ですから。」


「丁寧、なのか?」


確かに綺麗な品はそれなりに扱うが、汚れたり壊れてるものは結構雑な気がする。


アレは中身が中身だけに綺麗にしただけだしな。


「来たるべき時の為にあの祭器は宝物庫に仕舞われることとなっておる。歴史的価値と実用性、そのどちらをも勘案して、王家から金貨150枚での報奨金が支給される事となった。もちろん・・・。」


「断る。」


「なに?」


「実用性を考えるなら金貨200枚でも安すぎる。世界の危機を救える代物だぞ?」


「もちろんそれはそうですけど、旧王朝以降使われるような事案はありません。いつ使うかもわからないものにはそれが限界なんです。」


「いくら国王陛下のお気に入りとはいえ好き勝手言うのは許さんぞ。」


「許さなかったらなんだっていうんだ?」


鋭い目つきでにらんでくる爺とにらみ合うこと数秒。


横に座るハーシェさんが小さく咳払いをした。


「なんだよ。」


「アニエス様の顔もありますから、その程度でよろしいのではありませんか?色はつけてくださるそうですし。」


「何を言っている?」


「そういう権限はお持ちなんですよね?では誠意を見せていただければシロウ様もご納得はされるでしょう。価値のあるもの、本来であればもっと高値で売り出せた品を格安で手放すのです。それに見合う誠意を見せるのが王家としての筋ではないでしょうか。」


「貴様、王家にたてつくつもりか?」


「何を言われようとも我々は商人です、いくら王家とはいえ手に入るはずだった利益を放棄しろという権利はありません。我々は善意でお譲りしている、そこをお間違えになりませんよう。」


いつもは静かでおとなしいハーシェさんが、見たことのない鋭い目つきで爺をにらんでいる。


顔は笑ってる。


微笑んでいるといってもいい。


でも目は笑っていない。


おかしい、こんな人だったっけ。


「ふむ・・・。」


「ハワードさん、この人の言うとおりですよ。我々に命令する権利はありませんって。」


「お前はちとだまっとれ。」


「まぁまぁ落ち着け。ハーシェさんの言うように誠意を見せてくれるなら俺も納得するさ。別に金が欲しいんじゃない、安く見られているのが気に入らないだけだ。」


「この程度で納得するだろうと足元を見られているってことですか?」


「先の二つで金貨200枚も手に入れたではないか。合計金貨350枚じゃぞ?」


「いっただろ、金の問題じゃないんだよ。」


金貨200枚も渡しているんだからこの程度でいいだろう。


そんな思惑が感じ取れる。


モノがモノだけにしっかり考慮しているとはおもうが・・・。


ま、王家に喧嘩を売りたいわけじゃないし頃合いを見て折れるか。


「・・・ではどうすればいい?」


「そうだな両方とも金貨200枚。それでどうだ?」


「それで納得するのか?」


「あぁ、ちゃんと俺達の不満を理解してくれたと感じるね。」


「・・・なんでギリギリの額がわかるんですか?」


「ジョン。」


信じられないという顔をするジョンさんを、ハワードさんが静かに諫める。


この辺が経験の違いってやつだろう。


ポーカーフェイスは交渉の基本。


さっきハーシェさんもやっただろ?


「あの国王陛下の事だ、両方金貨200枚でいいって言ったんだろ?だが、どこぞの誰かがそれじゃ多すぎると言った。もちろん国を思ってのことだろうが、できるだけ安く終わらせたいっていう何かが入り込んだわけだ。とはいえ国王陛下の知り合いだから、どうしてもとごねられたら200枚は増額していいぞ。そんな風に言われたんだろう。普通は足りないとは言わせない、なんていわないもんだ。」


別に王家と険悪な中じゃない。


向こうがこの金額といえば俺もそれに従うさ。


だがそうじゃない何かが絡んでいるから気に触っただけの事。


さぁ、どうでてくるかなこの爺さんは。


「やれやれ、調査員に交渉事のまねごとをさせるからこんなことになるんじゃ。」


「良い物には良い金をってね。アンタもそうなんだろ?」


「ワシもそれだけの価値がある品だとは思っておる。まったく、物の価値がわからぬ馬鹿どもめが。」


「大変だな。」


「それはお互い様じゃ、悪かったな嫌な思いをさせて。」


「別に気にしてないさ。」


「はぁ、どうなることかと思いましたよ。」


「ジャンよ、次からはお前がこれをやるんじゃぞ?ワシはそろそろ引退じゃ。」


「何言ってるんですか!ハワードさんにはまだまだ働いてもらわないと。」


「そうして欲しければもっと成長しろこの馬鹿たれが。」


「えぇ、なんで怒られたんですか!?」


人を育てるってのは大変なことだ。


この凸凹コンビもその為に結成されたんだろう。


未来の担い手を育てるのが前任者の役割。


ほんと俺には向いてない仕事だ。


「ともかくだ、あの三つは無事に収まる場所に収まり俺の手には金が入ってくる。そういう事だよな?」


「あぁ、また似たようなものを手に入れたらあの狼嬢ちゃんに連絡するといい。すぐにこのバカが飛んでくるじゃろ。」


「バカじゃないですジョンです!」


「わかっとるわこの馬鹿が!」


あ、バカの種類が変わった。


さっきまでのは愛情の入った馬鹿で、後のは罵倒の馬鹿だな。


「金貨400枚、これで当分は安心ですね。」


「あぁ、おかげで無事に年を越せそうだ。」


「え、でもさっきはお金に困ってないって。」


「直近では困ってないが前に金貨2000枚近く使った後なんでな。」


「にせんま・・・。」


「派手に使っておるんじゃな。」


「色々あったんだよ、色々と。」


ほんと、色々あったんです。


まぁそのおかげで王都での商売も軌道に乗りそうだし。


この前の牙も良い感じで売れそうな予感がしている。


ダンジョン内じゃありふれた品も王都などでは珍しいなんてのはよくある話だ。


後はイザベラが頑張ってくれるさ。


「さて、話は終わったんだ。すぐに帰るわけじゃないんだろ?」


「明日には立つ予定じゃが・・・。」


「ならたっぷり時間があるな。せっかくこんな辺鄙なところまで来たんだ、たっぷり英気を養って帰ってくれ。」


「買収される気はないぞ?」


「そんな事したら後が怖いっての。美味い飯に美味い酒、悪い話じゃないと思うが?」


「そうじゃな、面倒なことをやらされたんじゃ。たまにはいいだろう。」


「そう来なくっちゃ。」


この人とは今後も付き合いがありそうだ。


ならここでしっかりと交友を深めておいて損はない。


どうやら俺の誘いにも乗ってくれるようだし、楽しい時間が過ごせそうだな。


そんな事を考えていた時期もありましたねぇ・・・。

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