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461.転売屋は牙を探しに行く

手紙が流行している傍ら、もう一つ流行しているものがあった。


正確には流行と呼べるレベルではないのだが、ある種の熱狂といえるかもしれない。


約十数名の冒険者がある素材を求めてダンジョン深くに身を投じている。


その中にはエリザも含まれており、その流れから導き出される答えは一つしかない。


「シロウ、ちゃんとついてきてる?」


「ついては来ているが、いい加減飽きてきた。」


「もうちょっとだから頑張って。」


もう半日近くダンジョンの中を進んでいるんだ、そりゃ飽きるだろ。


途中何度も魔物の襲撃を受けたが、冒険者達があっという間に片付けてしまうので俺はただ同行しているだけだ。


あることをさせられるためだけに、ダンジョンの奥深くへと同行『させられている』。


コレも金儲けのためと割り切ればいいんだが、やはり戦えない身としてはダンジョンの中は不安になる。


もしかしたらという気持ちと、何もないだろうという気持ち。


今はどちらかといえば後者が勝っているのでついていけているが、恐怖が勝てば進むのは難しくなるかもしれない。


まぁ、アニエスさんも一緒だし大丈夫だとは思うんだけども・・・。


「エリザ様、そろそろ目的地ですが今のうちに小休止を取りましょう。ついてから忙しくなります。」


「それもそうね、シロウも疲れてきてるみたいだし。」


「はぁ、やっと休憩か。」


「各自周囲を警戒しつつ休憩して、もうちょっとしたら墓場よ。」


「到着後は警戒しつつ目的の物を探します。かなり大変な作業になりますが頑張りましょう。」


「「「おう!」」」


今向かっているのは通称魔物の墓場と呼ばれる場所だ。


別に墓があるわけじゃないんだが、死に掛けの魔物がたどり着く場所とも言われているし、ダンジョンの掃除屋が住んでいるとも言われている。


そこにあるのは大量の骨。


そう、今回の目的はそこに眠る牙を使ったアクセサリーの材料集めだ。


特にドラゴンの牙は多目に欲しい。


一応今も他の冒険者に集めて貰っているのだが、このまま熱狂が流行になってしまうとどう考えても供給が追いつかない。


そこで有志を募って取りに来たわけだ。


別に俺が行く必要はないはずなんだけども、エリザがどうしても一緒にとうるさかったので仕方なくついて行くことになった。


まぁ、牙の種類を見極めるためにも鑑定スキルは必須だしなぁ。


「墓場にほかの魔物はいないのか?」


「正直わかんないのよね。」


「はい?」


「だってわざわざ行く必要なんてないもの。道も複雑だし、素材も格段に美味しいわけじゃないしね。」


「今回のように特定の依頼がなければ足を踏み入れない場所。確かに情報は少なそうです。」


「つまり何が起きてもおかしくないと?」


「大丈夫だって、これだけの冒険者がいるんだから心配ないわ。」


他の冒険者もウンウンと頷いている。


確かに皆中級以上のベテランばかり。


そこまでしてアクセサリーが欲しい理由が俺にはわからんのだが、まぁ心強いのは事実だしな。


「優先順位はドラゴン系、次いでウルフとシャーク。別枠でタイガーってとこかしら。」


「ピューマも人気は高かったはず、元々の数も少ないので狙い目かと。」


「見ただけで解るのか?」


「骨格を見ればまぁ。」


「後はシロウ様に丸投げしますので頑張ってください。」


「へいへい、せいぜいこき使われますよっと。」


アニエスさんが俺の横に来たと思ったらさも当たり前という感じで唇を頬に押し当ててきた。


それを見たエリザが声を上げそうになるも、ぐっとこらえる。


どうやら他の冒険者は気づかなかったようだ。


まったく、例の一件以降今まで以上にスキンシップが多くなってきた。


マリーさんは逆によそよそしい感じ。


いや、アレはただ単に恥ずかしいだけだろうけどアニエスさんはそういうの気にしないもんなぁ。


『私が認めた男の子を欲しいと願う事の何がおかしいのですか?』とか素で言うような人だ。


あの日、マリーさんと共にアニエスさんを抱いたわけだが、なんていうか一番楽しんでいたのは俺の気のせいじゃないだろう。


「これで頑張れますね。」


「まぁな。」


「シロウ、私は?私は!?」


「エリザの姐さんちょっといいですか?」


「今はダメ!?」


「いや、呼ばれたんなら行けよ。」


「でも・・・。」


「良いから仕事してこい、戻ったらいくらでもできるだろうが。」


まだ屋敷には住んでいないので、例のローテーションは稼働していない。


なのでマリーさんやアニエスさんとは機会がないと出来ないわけだ。


そういう意味でも今は優位に立っているはずのなのに、まるで玩具を取り上げられた子供みたいな顔しやがって。


まったく困った奴だ。


しばらくして打ち合わせを終えたエリザを先頭に墓場までの道を進み始める。


30分ほどしたところで急に体育館ほどの大きな空間が姿を現した。


「こりゃ凄いな。」


「見渡すばかりの骨、身の付いている死骸がありません。」


「こうも綺麗に骨だけとなると、掃除屋っていうやつの存在も信じたくなるな。」


「そうね。」


有機物をすべて溶かしてしまう魔物。


俗にいうスライムというやつがその分類に該当する。


とらえられたが最後、骨になるまで吐き出されることはない危険な魔物。


とはいえ、火に弱くなんなら片栗粉で固まってしまうような残念な魔物でもある。


対処する方法さえわかっていれば敵ではないわけだ。


「上は…問題ないわね。シロウは入り口で待機、それじゃあ宝探し始めるわよ!」


「「「「おぉぉぉ!」」」」


我先にと冒険者たちが大量の骨に突撃していく。


あちこちでパキパキだのバキバキだのいう音が響き、ぶっちゃけ耳をふさいでも聞こえてくるうるささだ。


しばらくすると当たりを見つけた冒険者が戻ってくる。


「これは!?」


『サイレントピューマの牙。音もなく獲物に近づき鋭い牙を立てる危険な魔物で、これまでにどれだけの冒険者が気づかずに絶命したのかは不明。最近の平均取引価格は銀貨2枚、最安値銅貨78枚最高値銀貨3.2枚。最終取引日は四日前と記録されています。』


「ピューマの牙、当たりだな。」


「よっしゃ!」


「一個じゃなくて複数持ってこないと割に合わないぞ?」


「ピューマ狙いだったんでむしろ目標達成っすね。」


「じゃあ俺の為にしっかり働いてこい。」


「うい~っす。」


今回は参加報酬として、発見した牙を使って好きなアクセサリーを加工する権利を与えている。


なので当たりを見つければそれで終わりなのだが、そこで終わるのはもったいない話だ。


せっかく来たんだしたっぷり素材を集めてもらわないと。


「次お願いします!」


「俺も!」


「わかったから順番に並べ。」


両手いっぱいに牙を抱えた冒険者が慌てた様子で通路に戻ってくる。


これは一個一個鑑定している時間が無駄だな。


ってことで、俺の後ろに保管場所を設けて各個人に積み上げてもらうことにした。


そうすれば待ち時間も効率的に探索できるし、俺は仕入れが増えて助かる。


僅か一時間程で通路からはみ出すほどの牙を集めることが出来た。


それでもまだ三分の一も探索していないようだ。


見た目以上に底が深いらしく、かなり下の方まで骨が詰まっているらしい。


こりゃ大流行しても何とかなるかもな。


「とりあえず持ち帰られるのはこんなもんだろう。鑑定も・・・まぁ地上でゆっくりやるさ。」


「各自自分の見つけた素材は自分で持ち帰ってね。」


「「「「ういーっす。」」」」


「そんじゃま帰る・・・か?」


帰りもエリザが先頭に立ち、アニエスさんがしんがりを務める。


俺はその少し前を進むわけだが、最後に墓場を拝んでおこうと後ろを振り返ると半透明の何かを見つけてしまった。


そいつは巨大な巣の中をふわふわと浮かびながら漂っている。


人ではない。


巨大なネコ科の何かだろう。


「エリザ待ってくれ。」


「な~に~?」


「何かいる。」


「え?」


アニエスさんも身を低くかがめて墓場の方を見ている。


どうやら俺だけではなく他の人にも見えるようだ。


「なんだと思う?」


「ピューマ系の何かだとは思いますが該当する魔物は存じ上げません。」


「どう見ても幽霊よね。」


「魔物も幽霊になるのか?」


「さぁ、ベッキーがなるんだからなるんじゃない?ほら、ダンジョンの蓋が開きそうになったこともあったじゃない。」


「そういえば。」


「とはいえ、見たのは初めてよ。」


向こうもどうやら俺達が見えるようだ。


何度もこちらに視線を向けて来るが、特に何かをしてくるわけでもなく墓場の仲をふわふわと浮かんでいる。


何かを探しているようにも見えるのだが、なんともいえんなぁ。


「牙を探してるとか?」


「それならとっくの昔に襲ってくるだろう。そうじゃないとみた。」


「狼系であればわかったかもしれませんが、生憎とネコ科はわからなくて。」


「気にしないでくれ。」


気になるが今はどうもできん。


せめて言葉を発してくれたらわかるんだが、魔物には無理だろうな。


そもそも幽霊がしゃべるわけ・・・しゃべるわ。


「餅は餅屋か。」


「つまり専門家を呼んでくるのね?覚えたわよ。」


「幽霊の専門家ですか。」


「あぁ、とっておきのやつを知っている。とりあえず今回は撤退しよう、話はそれからだ。」


「オッケー、全速力で戻るわね。」


「いや、バテるから普通で頼む。」


エリザの本気に俺がついていけるわけないだろうが。


ひとまず後ろ髪惹かれながら墓場を後にして地上へと向かう。


あの猫はいったい何を訴えたいのだろうか。


せっかく大量の素材を見つけたというのに、何とも言えない気持ちで地上への道を急ぐのだった。

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