455.転売屋は雪合戦で大暴れする
予想通りエリザが雪合戦に参加したところから、冒険者たちにも雪合戦が広がりあちこちで戦いが始まった。
収拾が付かなくなる前にギルドが介入し、突如雪合戦が開催される運びとなった。
ルールは簡単。
三人一組でエントリーをして、相手の陣地に立てられた旗を取るか全員当てられたら負けだ。
子供だけでの参加も認めているが、その場合でもハンデはない。
世の中はそんなに甘いもんじゃない。
それがわかっていながら住民のほぼ全員が参加しているのはさすがとしかいえないな。
ちなみにうちはエリザとミラとアネットの三人がエントリーしている。
え、俺は参加しないのかって?
ルールを知っている立場なので今回は審判としての参加だ。
「絶対優勝するんだから!」
「はい!頑張りましょう!」
「勝てばシロウ様を二日間独占できる・・・勝たない理由がありません。」
「いや、優勝賞品は肉だから。それと酒。そもそも俺じゃないっていうかそんな話してないんだが?」
「私たちが決めたの。」
「いや、勝手に決めんなよ。」
いつの間にか俺が商品になっていた。
二日間自由にって、一体何をさせられるんだろうか。
ナニか?
二日間×三人で六日ずっと?
いくら薬があるとはいえ干からびるんですけど?
まぁ、エリザがいるとはいえさすがに荷が重いだろう。
「シロウ様が賞品ならばやらない理由はありません。」
「マリー様、どうぞ私にお任せ下さい。」
「今日は本気を出すことを許します、叩き潰しなさい。」
「お任せを。」
で、こっちはこっちで盛り上がっちゃってるし。
エリザたちとは別にマリーさんとアニエスさんがタッグを組んでの参加だ。
「わ、私もいいんでしょうか。」
「頑張りましょうモニカ様。シロウ様を独占するチャンスです。」
「二日あれば絶対に手を出してくださいます。」
「・・・頑張ります。」
いや、そこで頑張らなくていいから。
っていうかなんで参加してるんだよ。
ガキ共はどうしたガキ共は。
「あ、シロウだ!」
「シロウだ!」
「なんだ、お前らも参加するのか?」
「うん!」
「お肉もらうんだ!」
「にくー!」
「まぁ、頑張れ。」
モニカが参加するのはガキ共の監督をしなくていいからか、それとも触発されてなのか。
彼らが勝ち上がることは無いと思うが、まぁ止める理由もなし。
そんなこんなで町を上げての大騒ぎ、雪合戦がはじまった。
「さぁ!寒い中試合を見るならあったかいスープはいかが!?アングリーバードのエキスが最高だよ!」
「火酒を飲んで寒さなんて吹き飛ばせ!時間内に10杯飲んだらもう一杯サービスするぜ!」
「さぁさぁ、今の優勝候補は中級冒険者三人組だ、続いて買取屋の三人娘!不倒のエリザに幸運のアネット、看板娘ミラは未知数だがなかなかの使い手らしいぞ!?さぁ賭けた賭けた!」
ついさっき発表されたばかりだというのに食べ物に酒、さらには賭け屋まで現れている。
この町の商人は本当に動きが早い。
儲けに敏感と言ってもいいだろう。
そのお陰でどこも大盛り上がりみたいだし、やっぱり祭りは飯と酒がないとな。
午後一番で始まった雪合戦は第一試合から熱戦が繰り広げられ、大盛り上がりでスタートを切った。
たかが雪玉、されど雪玉。
物量で攻めるチームもあれば、おとりをうまく使うところもあり見ているだけでも面白い。
魔法の使用は禁止されているものの、武器の使用は認められているので雪玉を目にも留まらぬ剣戟で捌いている冒険者もいた。
まぁ、大量の雪そのものを投げつけられたら切ることも出来ずにつぶされていたけれども。
参加チームが多いので総当たり戦は出来ず、トーナメント方式で争われている今大会。
お、エリザたちの順番が来たようだ。
「それでははじめ!」
開始の合図とともにまずは各自雪玉を作り始める。
何をするにしてもまずはコレがないと始まらない。
エリザ達の相手はどうやら初心者冒険者のようだ。
一人が盾を構えてけん制、その後ろで他の二人が懸命に雪玉を作っている。
そのまま攻め込むのか、それともじりじり行くのかはわからないが冒険者だけあって動きはそれなりだろう。
で、エリザたちはというと・・・。
「はい?」
雪玉を一つだけ持ったエリザが突然特攻。
さすがに向こうも予想していなかったのか慌てた様子で盾役に雪玉を供給するも時すでに遅く、慌てて投げた雪玉をかわして華麗に一撃必殺を決めた。
だが手には雪は無い。
そのまま戻るのかと思いきや、今度はそこで雪玉を作り始めたんだが・・・。
格好の餌食といわんばかりに残りの二人も壁の向こうから雪を投げる。
それを避けながら雪玉を作るエリザ。
まるで子供と大人の戦いだ。
と、思っていたらいつの間にか後ろに回りこんだアネットとミラが余裕で雪玉を二人に投げつけゲームセットと相成った。
「試合終了!勝者シロウ様は私のものチーム!」
「へへ~ん、このまま勝ち進むんだからね。」
「見ていてくださいねご主人様。」
元気一杯のエリザとアネット、対照的にミラはクールな感じを装っているがあれはかなり喜んでいる。
っていうか何で俺の名前なんだよ。
会場が少ないのですぐに場所を開け、別の試合が始まる。
次は・・・マリーさんたちか。
堂々としたマリーさんとアニエスさんだが、モニカはずいぶんとビビッている感じだ。
そのまま試合開始。
エリザのような特攻作戦は取らず、確実に雪玉を当てていくスタイルのようだ。
マリーさんとモニカが雪玉を供給し、アニエスさんが剛速球で相手を攻撃していく。
その正確さは半端なく、向こうが壁の向こうに姿を出した瞬間に着弾するような感じだ。
そのせいで向こうは防戦一方。
いくら玉数があれど攻撃できなければ意味は無い。
そのまま正確な射撃を続けられ、一人また一人と沈められていく。
最後はマリーさんが回りこんで止めを刺して、ジ・エンドだ。
うぅむ、なかなかに強敵だな。
「勝てるか?」
「勝てるかじゃない、勝つの。」
「さすが言う事が違うな。」
「首を洗って待ってなさいよね、シロウ。」
「俺が待つのかよ。」
戦うのは向こうだろうが。
参加チームが多いのですぐに試合というわけには行かないが、出店で時間をつぶしながら試合を見るには好都合。
熱戦は夕方まで続けられ、とうとう決勝戦のカードとなった。
残念ながらエリザ達は三回戦で敗退。
決勝戦のカードはまさかのマリーさんチームと、ニア・羊男・マスターという異色のチームとなった。
っていうかマスターなにしてんだよ。
「ゲイルさんはギルド協会にも多大な貢献をしてくださっていますから、手を組むのは当然です。」
「別にそれはかまわないんだが、あのめんどくさがりのマスターがなぁ。」
「お前と一緒にするな。俺だってたまには真剣に遊ぶこともある。」
「そんなに酒を提供したくないのか?」
「何の話だ?」
「図星かよ。」
ずいぶんと珍しい酒が商品になっていると思ったら、やはりマスターの提供だったらしい。
肉はギルド協会。
優勝すればどちらも提供しなくて済むわけだな。
相変わらずやることがせこいぞ。
「さぁ、ココで勝てばシロウ様は私達の手に、頑張りましょうマリー様モニカ様。」
「は、はい!」
「待っていてくださいねシロウ様。素敵な夜に致しましょう。」
「・・・なぜこう応援しづらいのか。」
勝って欲しいような勝って欲しくないような。
むしろマスターたちが勝ったほうが丸く治まるような気がしてきたぞ。
俺には何にも損は無い。
いや、マリーさんたちが勝っても損って訳じゃないんだが・・・。
色々とめんどくさいことになりそうなんだよ。
「いいわねモテモテで。」
「いいからお前はそこで肉食ってろ。あの三人は俺が屋敷に行くまで出番無いんだから、頑張るのも仕方ないだろう。ちなみに今日の相手はお前だろ?のみすぎるなよ?」
「わかってるわよ。今日は譲らないからね。」
「はい。時をずらしてしっぽりさせていただきます。シロウ様、この前の温泉等如何ですか?」
「勝てばな。」
これ以上は何も言うまい。
下手に発破をかけると余計に面倒なことになりそうだ。
「さぁ、いよいよ決勝戦の始まりです!」
「両者所定の位置についてください。では、スタート!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
マリーさんたちの戦術は最初から一貫して変わっていない。
アニエスさんの固定砲台を有効に使って敵をけん制。
動けなくなったところをマリーさんが横から攻撃。
モニカはひたすら雪玉作製。
かたやマスターたちは三人がばらばらな行動を取り敵を惑わせ、各個撃破していくスタイルだ。
各々が素早く動けるからこそ出来るやり方。
こりゃマスターたちの勝利・・・って。
「アニエス、行動を許可します。」
「よろしいのですか?」
「自分の身を自分で守れず何がお・・・女ですか。」
「わかりました。ご武運を。」
「貴女も。」
今王族って言いそうになったよな。
っていうかアニエスさんは動かなかっただけで動けなかったわけじゃないのか。
マリーさんの許可をもらいアニエスさんが獣の如き速さでマスターに襲い掛かる。
さすが狼。
獲物を捕まえるのは本能なのだろうか。
あんなにかっこいいことを言っていたのに、あっという間にマスターはやられてしまった。
そのままニアを!とおもったアニエスさんだったが、向こうも元は上級冒険者。
避ける、投げる、また避ける。
そのまま熱い戦いを繰り広げていた二人だったが、横から茶々を入れた羊男によってアニエスさんが倒されてしまったが、何とか同士討ちでニアを討ち取っていた。
残るは羊男とマリーさんとモニカ。
とはいえ、ひとりは使い物にならないわけで。
マリーさんもなかなかの運動神経で避けたり投げたりしていたが、さすがに体力が持たなかったんだろう。
じりじりと動きが鈍り、最後は特攻してきた羊男の雪玉を受けてしまった。
コレで試合終了。
誰もが思った次の瞬間。
「えぇぇぇぇぇぇい!」
どこからこんな大きな声が出るのだろうかという、気合の入った声とともに大量の雪玉が羊男に襲い掛かる。
一体どこから出てきたんだろうか。
っていうかどうやって投げた?
さすがの羊男も広範囲爆撃は避けられず、そのうちの一つを受けてしまい合えなく撃沈。
「それまで!勝者シロウ様を確保したいチーム!」
だからチーム名!
というツッコミはさておき、まさかまさかの伏兵の大活躍でマリーさんたちが優勝した。
賞品の酒と肉を手に喜ぶのはモニカだけ。
あとの二人は獲物を狙う目で俺を見てくる。
おかしい。
どうしてこうなったのか。
大盛況のまま雪合戦は幕を閉じたが、俺の戦いはこれから始まるようだ。
どうかお手柔らかにお願いしたい。
その願いはきっと聞き届けられないだろう。




