454.転売屋は雪遊びを教える
雪が降った。
それはもうドカっと。
いや、マジでその擬音が相応しいぐらいに降ったんだって。
確かに寒いなぁとは思ったけどさ、まさか一晩でメートル単位の雪が降るとは思わないじゃないか。
扉開かないし。
街中それはもう大騒ぎで、昼まで雪かきをしてもまだ雪が残っている。
幸い捨てるところは山ほどあるので、城壁の外側にもう一つ雪の壁が出来たような感じだ。
あー腰が痛い。
「シロウ終わった?」
「見たら分かるだろ。」
「まぁ、シロウにしては上出来じゃない?」
「随分と上からじゃねぇか。」
「だって私ここから向こうまで終わらせたもの。」
「あ~・・・。」
横のローザさんの店からずっと奥までは綺麗に掃除されていた。
まるで除雪車が通った後のようにぬれた地面までくっきりと見える。
俺がなんとか店の前をきれいにした間にだ。
これだから脳筋は。
「シロウ様、お茶が入りました。休憩にしませんか?」
「そうだな残りはエリザがやってくれるみたいだし。」
「え、ちょっと!」
スコップを壁に立てかけ店に戻る。
汗をかくぐらいには身体を動かしたはずなのに、中の暖かさに思わず息が漏れた。
暖かいなぁ。
火の魔道具最高。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
香茶を一口飲むとお腹の中から温まってくるのが分かる。
あれ、味がいつもと違うな。
「これは・・・。」
「芯から温まれるようにジンジンジャーをブレンドしてみました、いかがですか?」
「あぁ、美味い。」
生姜湯よりもジンジャーティーのほうが近いかもしれない、ミルクが入っているからか刺激は少なく飲みやすいな。
もう一口もう一口とつい飲み続けてしまう。
「ご主人様こっちもどうぞ。」
「お、これは新作だな?」
「ブラッドアップルが手に入りましたので頑張ってみました。見た目はちょっとアレですけど、お口に合うと嬉しいです。」
裏から出てきたアネットの手にはワインにも似た赤い色のパイの乗った皿があった。
確かに見た目はアレだが、話しの感じだとアップルパイ的な奴なんだろう。
よく見るとパイ生地の層が見える。
皿を受け取りフォークで切り分け口に運ぶ。
こ、これは・・・!
「美味い!」
「本当ですか!?」
「見た目以上にアッサリとした味だな、だが薄いわけじゃない。これは売れるんじゃないか?」
「そんな、ドルチェ様の出来に比べたら全然です。」
「そうかなぁ。」
話しながらも食べる手が止まらない。
一口、また一口と食べてしまう。
口の中が甘くなったところで、ミラのブレンドした香茶がスッキリとさせてくれるし、適度な運動でお腹が空いているのもあって一気に食べてしまった。
はぁ美味かった。
「ただいま~・・・って、何か食べてる!ずるい!」
「エリザ様もお疲れ様です、裏にちゃんととってありますから大丈夫ですよ。」
「アネット大好き!」
「現金な奴だな。」
「うるさいわね、仕事を押し付けた人に言われたくないわよ。」
そもそもお前が自慢するのが悪いんだろ?
お疲れ様と素直に言えばこんな事にはならなかったというのに。
とりあえず仕事が出来る環境にはなったが、今日はどこも大忙しで誰も売りには来ないだろう。
それに店の前が綺麗になっても雪はまだ積まれたまま。
うちの場合は裏庭の雪も処分しなきゃいけないし、もうひと頑張りしないと。
「そんじゃま、雪捨ててくるわ。」
「ふぁっふぇ、わふぁふぃもうぃふわふぉ?」
「食うかしゃべるかどっちかにしろ。」
「ん!んーんーんー!!」
「エリザ様お水!お水飲んでください!」
食べながらしゃべるからそんな事になるんだ。
なにやら騒がしい後ろを無視して再び店の外に出る。
確かに店の前は綺麗になったが、代わりに横に雪が積まれている。
このままはじゃお隣に迷惑がかかるので、木の板を加工して作られたソリに雪を乗せて外へと持っていかなければ。
雪を乗せ、紐を持って街の外へとそりを引く。
雪かきも大変だったがこっちはもっと大変だ。
「あ、シロウだ!」
「シロウだ!」
「ソリが来たぞ~!乗れ乗れ~!」
「おい、お前ら止めろ!」
何とか外に運び出したと思ったら、今度は積み上げられた雪で遊んでいたガキ共に見つかってしまった。
我先にとソリの上に乗ってくる。
「シロウ引いてよ!」
「引いてよ~。」
「重すぎてうごかねぇよ、さっさと降りろ。」
「やだ!」
「やだじゃねぇ、何やってんだよこんな所で。」
「雪遊びだよ?」
「山の上から飛ぶと面白いよ?」
なるほどなぁ。
街中の雪が集められたおかげ?で街の外には巨大な雪の山が出来上がっている。
その上から飛び降りゴロゴロと転がっている奴も居れば、小さな別の山に足から嵌って笑っている奴も居る。
この寒さで元気だなぁ。
「雪遊びならもっとやりようがあるだろ、ソリとか雪合戦とか。」
「なにそれ。」
「そうか、雪降らないんだったな普段は。」
なら知らないのも無理はない。
そりから降りて俺の周りにガキ共が集まってくる。
仕方ない、雪遊びの何たるかを教えてやろうじゃないか。
最初に教えたのは木の板を使ったソリ。
続いて小さな雪山を使った雪合戦を仕込んでやった。
あっという間にルールを把握し、早速遊び始めるガキ共。
うむ、遊ぶ事に関しては吸収力が半端ないな。
「ちょっと、戻ってこないと思ったら何油売ってるのよ。」
ふと後ろを振り返ると大量の雪が積まれたそりを引いたエリザが後ろに立っていた。
流石に一人では無理だったようで後ろからミラとアネットが押している。
「ガキ共に遊び方を教えてやったんだよ。」
「遊ぶって雪で?」
「あぁ。」
「ただ雪を投げてるんじゃないんですか?」
「それじゃ面白くないだろ?だから陣地を作って、攻め落とすんだ。ほら、ちょうど攻め込むぞ。」
雪で作られた壁を利用してお互いに雪玉を投げあうガキども。
3vs3で遊ばせているが、そのうちの一人が匍匐前進もどきで移動して、相手の後ろに回り込もうとしていた。
「あ!」
「くらえぇぇぇぇ!」
「ずるいぞ!」
「ずるくないもん!」
作戦は見事に嵌り、後ろから雪玉を当てられてやられる三人。
見事に一人で陣地を落としてしまった。
「まぁまぁ怒るな、悔しければもう一戦やればいい。面白いだろ?」
「面白い!」
「なら喧嘩せずいっぱい遊べ、雪が無くなったら遊べないんだからな。」
「「「「は~い!」」」」
よしよし、いい返事だ。
「ねぇ、これもシロウの世界の遊びなの?」
「この世界でも同じようなのはあるだろうが、こういう陣取りはそうだな。」
「面白そう。」
「まぁ大人もやってる遊びだし・・・。」
エリザがまるで子供のように目を輝かせている。
おや?コレはもしかすると・・・。
「シロウ様。」
「あぁ、それ以上は言うな。」
「でも絶対飛び込みますよ、エリザ様。」
「分かってる。」
相手が子供だろうが関係ない、遊ぶ時はとことん遊ぶ。
エリザはそういう奴だ。
で、それを見た他の奴が真似をし始めるだろう。
そうなると収拾が付かなくなる。
ならば、先手を打って遊びを誘導した方がいいのではないか。
ミラとアネットはそう判断したようだ。
奇遇だな、俺もそう思ってる。
今にも得物に飛び掛らんとするエリザを放置して、俺は冒険者ギルドへと足を向けた。
「あ、シロウさん!」
「お、ちょうどいい所に。って当たり前か。」
「調査団が来たとか?」
「残念ながらそうじゃない。雪かきの方はどうだ?」
「ギルド協会主導で冒険者に依頼をかけたので今日中には何とかなりそうね。まぁ、今晩また降らなければだけど。」
「大丈夫じゃないか?そんな雰囲気は無いし。」
「信じていいの?」
「素人の言葉を信じるなら勝手にしてくれ。」
俺は気象予報士じゃない。
雪が降るかどうかはお天道様に聞いてくれ。
「はぁ、ほんと雪って面倒だわ。」
「ならそれが遊びになるって言ったらどうする?それこそ街中で騒げる奴だ。」
「それはつまり儲かる話ですね?」
「・・・何処に居たんだ?」
「雪かき依頼の進捗状況を聞きに来ただけで偶然ですよ?別に入り浸ってなんてないですけど?」
「そこまで聞いてねぇよ。」
「それはさておき、シロウさんがわざわざ持ち込んでくるって事は大掛かりな奴ですよね?何時やります?何やります?いくら儲かります?」
「・・・最近食いつき方が異常だよなお前。」
「疲れてるんですよ。」
気持ちはわかるが・・・。
いや、元々こういう奴だし気にしないでおこう。
「まぁ、儲け話には変わりはない。折角雪が降ったんだし、それを使わないのは勿体無いだろう。で、具体的に何をするかだが・・・。」
さぁ、折角雪が降ったんだ。
お祭り騒ぎを始めようじゃないか。




