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443.転売屋は代替品を発掘する

「そこ!そんなもの置きっぱなしにしない!」


「すみません!」


「ほら、次のが来るからさっさと上持って行って!」


「了解っす!」


ダンジョン内はなんていうか戦場のようだ。


前線基地として多く冒険者が動き回っているのは、ダンジョン内に建てられた休憩地点。


いつもならゆっくり弁当を食べる冒険者でにぎわうこの場所も、今は奥から運ばれてくる素材を貯蔵運搬する中継地点として使われていた。


「うわ、滑る!」


「そこ気を付けて、さっき初心者が油こぼしたから。」


「なんだよ、気をつけろよな!」


「砂!砂撒いといて!」


「次の来るよ~、ジャンジャン持って行って~。」


ギルド職員の指示を受けて冒険者が大量の油・・・もとい油の詰まった実を地上へと運んでいる。


まるで餌を巣に持ち帰る働きアリのようだ。


もっとも、こっちは巣というダンジョンから外に運び出しているんだけども。


「どんな感じだ?」


「正直あんまりよくないわね。」


「やっぱりなぁ。」


「最初は行けると思ったんだけど、流石に無限に油を吐き出せるわけじゃないみたい。」


「世の中そううまくは行かないか。」


「まだ足りない?」


「今日ので何とか二日分って所だ。精製すればもう少し何とかなるかもしれないが、時間がないからなぁ。でも有害性はないから継続利用も検討するんだと。」


前線で動き回る冒険者の様子を見にダンジョンへと潜ると、エリザが陣頭指揮をとっていた。


なかなか様になっている。


今行われているのは、エリザ考案のパームボール回収作戦。


当初の予想通り、大量の油が詰まった実は燃料の代用品として使えることが確認された。


これで燃料問題も解決!とおもいきや、燃焼効率が悪く一日分でもかなりの量を必要とすることが判明した。


すぐに量産体制がととのったものの、今度は肝心の供給元がそろそろ品切れという事態になっているようだ。


世の中なかなかうまくいかないものだな。


「継続って言っても、もう搾りかすしか出ないわよ。」


「時間が経てばまた復活するだろう。問題は次の素材をどうするかだ。」


「何か案は?」


「ない。」


「ダメじゃない!」


「だから考えてるんだよ。」


早く代替品を見つけなければならないというのに、なかなかいいものが見つからない。


素材の宝庫であるダンジョンも、さすがに万能じゃなかったか・・・。


「あの~。」


「ん?」


「エリザさん、パームボール無くなっちゃいました。」


「え!もう!?」


「どうします?」


「どうしますって言われても・・・。」


気付けば休憩所に申し訳なさそうな顔をした冒険者が集まっていた。


とうとう最後の油も搾り取ってしまったようだ。


うぅむ・・・。


「とりあえず地上に戻るか。」


「それしかないわね。はぁ、他に何かいい素材ないかしら。」


「あの、別のやつでもいいんですか?」


「え?」


「燃えたらいいんですよね?それならオーガの巣にある白炭とかはダメなんですか?」


「白炭?」


「あ~そう言えばそんなのもあるけど・・・。」


「なんだそれ。」


「オーガが使ってる燃料みたいなやつよ。材料はよくわからないんだけど、おそらく植物系の魔物をもやしてるんだと思うの。」


魔物が魔物から作った炭か。


確かに昔は火鉢で暖を取っていたが、そんなので賄えるんだろうか。


「良く燃えるのか?」


「昔一本盗んで来て火おこしに使ったんですけど、あまりの熱さに肉が焦げたんです。あれ、やばいですよ。」


「いや、そんなやばい物使えるのかよ。」


「試してみなきゃわからないじゃない。」


「いやまぁ、そりゃそうなんだが・・・。」


使えるかわからないのに探すのはどうなんだ?


いや、今はそんなこと言っている暇はないのか。


可能性があれば試してみる価値はある。


でもなぁ、一つじゃ心もとないよなぁ。


「あ、シロウが悪い顔してる。」


「うるせぇ。」


「で、何するの?シロウがやるならみんな手伝ってくれるわよ。」


「いや、手伝いはいらん。手伝いじゃなくて依頼を出す。」


「どういう事?」


「みんな聞いてくれ、パームボールに代わる新しい素材を探している。この寒さを乗り切れるだけの燃料になりそうな素材があったらじゃんじゃん持ってきてくれ。とりあえず持って来たら銀貨1枚、採用されたら金貨1枚出す。ただし、先に提出されたやつは普通の買取金額しか出さないからな、早い者勝ちだ。やってくれるか!?」


「「「「やります!」」」」


思い付きで発言したがこれしか方法はない。


チマチマやるぐらいならまずは人海戦術で数を集めよう。


それから供給量と効率を考えて採用すればいい。


この冬の燃料問題を解決するかもしれない素材なんだ、もしそんなのがあれば金貨1枚でも安いもんだろう。


もちろん俺が間に入ってがっぽり稼ぐつもりだけどな。


俺の掛け声で一斉に動き出す冒険者達。


とはいえ、このままではまともな依頼にならないので一応冒険者ギルドにも報告しておかないと・・・。


「はぁ、まさかシロウさんに先を越されるとは思わなかったわ。」


「ニア!」


慌ただしく動き出した冒険者の間を縫うようにギルドの偉いさんがやってきた。


直々のお出ましという事は何かやるつもりだったらしい。


「ってことは同じことを考えてたみたいだな。」


「このままじゃジリ貧だからなんとかしなきゃって思ってたんだけど、さすがにシロウさん程の資金はだせないわ。」


「そりゃ悪かったな。」


「出来るだけ安く卸してくれると助かるんだけど。」


「今ならまだギルドの専売品にできるぞ?」


「そこまでギルドはがめつくないわ。夫にも色々言われてるし。」


「シープさんに?どうせ俺を引き留める様にとか言われてるんだろ?」


「そんなんじゃないわよ。ただ、『シロウさんに任せておいたら何とかなるから放っておいて』って言われただけ。」


「なんだそりゃ。」


俺に任せてたらなんとかなるって?


また無責任なこと言いやがってあの羊男は・・・。


「本当に何とかなりそうね。」


「いや、まだなるかわからんだろうが。」


「なるわよ。」


「なんでだよ。」


「だってシロウが企画するのよ?お金が手に入るのよ?これで燃えない冒険者はいないわよ。」


「燃やすのは燃料だけでいいっての。」


はぁ、エリザまでよくわからん理屈を言い始めたぞ。


俺はスーパーヒーローじゃないし、そもそも探してくるのは全部冒険者だ。


どちらかと言えば俺は中間搾取の悪人なんだが・・・。


そのまま待つ事一時間ほど。


早くも冒険者達が続々と新しい素材を持って戻ってきた。


「これ!登録されてますか!?」


「これは・・・まだ大丈夫だ。」


「やった!」


「じゃあ銀貨1枚。はい、次の人。」


「これはどうだ?」


「悪い登録済みだ、銅貨33枚だな。」


「くそ、次だ次!」


悔しそうな顔をして再びダンジョンに戻るやつ、当たりを引いて地上に戻るやつと様々だが、臨時の受付となった休憩所には多くの素材が持ち込まれている。


『オーガの白炭。トレントの枝を燃やして作られた炭には魔力が濃縮されており、少量でもかなりの火力を出すことが出来る。主に鍛冶工房等で使用される。最近の平均取引価格は銅貨70枚、最安値銅貨55枚、最高値銀貨1枚。最終取引日は27日前と記録されています。』


『スイープマシンのオイル。ダンジョンを掃除する不思議な魔物。体内を流れるオイルはよく燃える為取り扱いに注意が必要。主に潤滑油として利用されている。最近の平均取引価格は銅貨20枚、最安値銅貨13枚、最高値銅貨45枚。最終取引日は6日前と記録されています。』


『ファットボアの脂身。巨大な脂肪をつけたボアで、その巨体に押しつぶされればひとたまりもない。最近の平均取引価格は銅貨42枚、最安値銅貨27枚、最高値銅貨87枚。最終取引日は9日前と記録されています。』


今の所使えそうなのはこの三種類。


その中でも実用化できそうなのが意外にもボアの脂身だ。


なんせ量が多い。


動物系の脂は臭いのが何故かこいつは臭くない。


問題は単体じゃ火がつかないのだが、白炭と合わせるとかなり長持ちするようだ。


とりあえずこの二つを軸に冒険者に別の依頼を出し、地上へ運んでもらう事になった。


今も継続して持ち込みを受け付けているのは、もっと効率のいい素材が見つかるかもしれないからだ。


先程の発言を撤回しなければならない。


ダンジョンは素材の宝庫だ。


俺達の知らない素材や使い方がまだまだたくさんある。


「ね、何とかなったでしょ?」


「まだわからないっての。」


「そうかもしれないけど、とりあえず燃料が届くまでの一週間は乗り越えられるわ。それに、追加で燃料を買わなくても良くなるかもしれないし。」


「安くなるのはありがたい事だ。が、それまでに俺が破産しなければいいな。」


「お金ない?」


「無くはない。が、やっぱりない。」


「頑張らないといけないわね、ハーシェさんの代わりもしなきゃだし。」


「はぁ、マジで自分がもう一人欲しい。」


「それが良いかも。そしたら二倍速で子供が増えるわ。」


「勘弁してくれ。」


金はあるが金はない。


無いなら頑張って稼ぐしかない。


新しい家族を迎えるためにも、もっともっと稼がなければ。


そんな強い決意を胸に、俺は持ち込まれる素材の鑑定にいそしむのだった。

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