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433.転売屋は先手を打たれる

レイブさん曰く、例の女は王都でかなり噂になっているようだ。


やはり名のある名家が没落するのはかなりのインパクトだったらしい。


それも太陽のティアラなんていう逸品を持っているのならば尚の事だ。


だが驚いたことに、ティアラの効果についてはあまり知られていないらしい。


かなり高価なティアラ、そういう認識だけ。


そしてそんなものを持ったまま売られる一人娘を欲しがっている家がかなりある。


もちろん目的はティアラだけで女に用はない。


手に入れたらさっさと売ってしまおう。


そんな感じらしい。


もちろん無理やり引っぺがすことは出来ないし、そんな事をしたら大変なことになる。


更に言えば、売った側も売った側で非難されるだろう。


だからこそレイブさんは俺に買って欲しいわけだ。


事情を知って尚買ってくれそうなのが俺しかいないってのもあるけれど・・・。


ともかくだ、最悪の事態を回避するためには彼女を早々に買わなければいけない。


なぜなら、24月のオークションに先駆けて23月までに王都の貴族が本人を見に来るのだとか。


レイブさんが色々と理由をつけて断っていたそうだが、それでも23月が限界。


つまり残された時間はわずか一ヶ月しかない。


コレは予想外。


っていうか予想外すぎる。


「どうされますか?」


「どうするも何も買うしかないだろう。幸い税金はすぐに払う必要ないし、屋敷もギリギリまで待って貰う。っていうか買ってやったんだから待てって話だ。」


「でもさ、どうやって解放するのよ。」


「すぐに解放する必要はないんだ、理由はのんびり考えればいい。滞在費に関してもウィフさんから無理やり引っ張り出す。っていうかそれぐらいしろ。」


「それを込みで屋敷を安くされるのでは?」


「それとコレとは話が別だ。何とか交渉してみる。」


屋敷を買い、彼女を屋敷に押し込める。


別に俺の奴隷なんだから軟禁する必要はないが、相手をするのがめんどくさい。


慰謝料込みで請求してやろう。


まったく、何も使い道のない女を何故買わないといけないのか。


せめて何かできればいいんだが、生憎とそういう育て方をされていないらしい。


出来るのは社交界での外面だけ。


生憎と貴族じゃないのでそういった場所とは無縁の生活だ。


生かそうにも生かせない。


「具体的に後一ヶ月で金貨150枚といった所か。」


「そうですね、年末に向けて買取が多くなることを考えるとそのぐらいは余力が欲しい所です。」


「予定の半分、でも期日も半分。大丈夫?」


「大丈夫といいたい所だがぶっちゃけ厳しい。税金を二ヶ月待って貰って何とかって感じだ。今の仕込が全部売れても来年の仕込がまだ決まっていない現状では必ず儲かるって保証がないんだよなぁ。」


「どこかにお金落ちてませんかね。」


金貨1枚なら可能性もあるだろうが、金貨150枚はどう考えてもありえない。


そしてそんな儲けもそこらへんに転がっているわけがない。


小金はともかく大金は地道に稼ぐしかないんだよなぁ。


またオリハルコン落ちないかな。


「まぁまだ時間はあるんだし、地道に稼ぐしかないでしょ。」


「それもそうだな。」


「それじゃ私はダンジョンにでも行こうかしら、フールに誘われてるのよね。」


「デカイの期待してるぞ。」


「シロウも一緒ならありえるかも。」


「悪いが本職で稼がせて貰うさ。」


俺が一緒だといいものが出るなんてのはただの迷信だ。


あんな危険な場所に毎回行く気にはならないんだよ、普通は。


「では私もお薬の納品に行ってきます。何か新しい注文がないかも聞いてきますね。」


「無理やりじゃなくていいからな。」


「シロウ様はマリー様に呼ばれているんでしたね、留守はお任せください。」


「悪いな。それじゃあ行ってくる。」


各自がそれぞれの仕事をするために動き始める。


個人個人の稼ぎは小さくても全員集まればそれなりになる。


っていうか、稼ぎすぎなんだよな俺達は。


普通はこんな金額稼げるはずないんだよ。


なんてことを思いながらマリーさんの店へと向かった。


おそらくは新作の化粧品についてだろう。


カーラが試作品を送ってきたのかもしれない。


コレが当たればもしかしたら・・・。


いや、取らぬ狸の何とやらだ。


ありもしない売り上げに期待するのはやめよう。


「あれ、休みか?」


「あ!シロウ様、少しお待ちください。」


店に到着したものの中はまだ暗く、営業できる雰囲気ではない。


時間的には開店にはまだ少し早いが、いつもなら準備が終わっている時間だ。


寝坊でもしたんだろうか。


「もうすぐ開店だろ?手伝おう。」


「ありがとうございます!」


店の奥からマリーさんの声だけが聞こえてくる。


あっちは確かバックヤード、って事は在庫の確認か何かをしているんだろう。


店の戸を開け、棚に仕込んだ魔灯を稼動させる。


これだけで見違えるぐらいに店内が明るくなるんだよな。


さすが大通りに面した店だけの事はある。


日当たり抜群だ。


「あの、もう開いてますか?」


「まだ早いんだが・・・何が欲しいんだ?」


「化粧水の補充がしたくて。」


「それなら俺にも出来る、そこで待っていてくれ。」


開けるとすぐに客がやってきた。


相変わらずの人気店、うちとは偉い違いだ。


勝手知ったる他人の店。


ボトルを預かり、補充用のタンクから規定量を注いでやる。


コレに関しては一応俺も関わってはいる。


自分で作った物を売るってのは中々にいいものだ。


「お待たせ、銀貨2枚だ。」


「買取屋さんがいるなんて珍しいですね。」


「ちょっとな。うちにもまた寄ってくれ。」


「ふふ、ご縁があれば。」


ぺこりと頭を下げて美人な奥様が店を出た・・・と思ったらまた客が入ってきた。


「いらっしゃい。」


「あら、シロウさんじゃないか。」


「もうすぐマリーさんが来るからそれまでの代理だ、今日はどうした?」


「お肌の相談をしようと思ったんだけど・・・。」


次にやってきたのはまさかのローザさんだった。


この街の女性のほとんどが今やここの常連だ。


来てもおかしくはない。


「お待たせしました!あ、ローザさんいらっしゃいませ。」


「本職が来たから俺は用済みだな。」


「シロウ様ありがとうございました。裏でアニエスが呼んでいるので行って上げてください。」


「アニエスさんが?」


はて、何用だろうか。


マリーさんと仕事を代わり、言われるがままバックヤードへと移動する。


大きな作業台の前で拡大鏡をかけたアニエスさんが手紙か何かを読んでいた。


「俺に用があるんだって?」


「まずはこちらをご覧ください。」


拡大鏡をかけたまま、アニエスさんが手紙をこちらへ渡してくる。


それを受け取り中身を確認・・・ってなんだこれは。


「これは誰の差し金だ?」


「そこまでは。ですが差出人が王家であることは間違いありません。」


「国王陛下かそれともオリンピア様か・・・。あ、リングさんという可能性もあるのか。」


「誰にしろ書いてある通りの指示を受けております。これは監査官としての仕事の一部と思って頂いてもかまいません。」


「余所者が面倒なことを起こす前にさっさと片付けろって?」


「簡単に申しますと、そうなります。」


手紙に書かれていたのはたった三行。


『 ファルト家の娘をシロウ殿に買わせること。

  彼女を狙っている他の貴族には決して買わせてはならない。

  そのための資金を提供するので早急に代金を知らせよ。  』


なんとまぁ簡潔かつ、わかり易い内容なんだろうか。


俺が手をこまねいているのを察した王家が先手を打ってきたというところだろう。


早く買え、金は出す。


そんな意図がありありと伝わってくる。


でもな、一つだけ言いたい。


「監査官って不正を暴くのが仕事だよな?」


「普通に考えましたらそうなりますが、私はマリアンナ様のお目付けを命じられています。加えてシロウ様に害を与える者を排除せよとも言われておりますので、今回は後者に該当致します。」


「つまりはさっさと事態を収拾しろっていう王家からのお達しだな。」


「そう捉えて頂いても結構です。ウィフ様に直接支援できないのであれば、マリー様を通じてでも資金を提供し事態の収拾を図るべし。名目は化粧品の振興とでもすれば問題はないでしょう。」


「問題大有りだろ、使用用途不明金になるんだぞ?」


「そこまで誰も見ていませんから。」


なんとまぁ適当だ事。


国民の税金、つまりは俺の税金もこれに含まれるわけだが、ともかくそれがこんなことに使われるなんて・・・。


確かに彼女に何かあればもっと大変なことになる可能性は高い。


ならば早期に収拾してしまった方が最終的にかかる金額は安く済むとの考えなのかもしれない。


どちらにせよ、これで俺が買うことは確定したわけだ。


いくら金がない金がないとごねたところで、最終的には買えるだけの金が送られてくるのだろう。


金貨100枚も金貨1000枚も同じこと。


向こうはそう考えているのかもしれない。


はぁ、みんなで頑張って金を稼ごうと話をした途端にこれだよ。


あと二か月もかからないじゃないか。


「ちなみに、俺が今その金額を伝えたらいつまでに届くんだ?」


「最短で三日。通常一週間といったところでしょうか。」


「一週間で頼む。」


「そのこころは?」


「こっちにも色々と準備があるんだよ。」


いきなり引っ越せと言われても無理がある。


ならせめて彼女が屋敷に住む用意ぐらいはしてやらねばならない。


ウィフさんは買うとわかったらすぐにでも屋敷を出ていくだろう。


その準備はできているはずだ。


「わかりました、一週間後にお持ち致します。して、いくら必要ですか?」


「いくらでもいいのか?」


「もちろんです。金貨1000枚まるまるでもご用意いたします。」


「用意した後が怖いんだが。」


「これは王家の安寧、いえ国家の安定のために必要な出費です。シロウ様にご面倒はお掛け致しません。」


「わかった、ならこれだけ頼む。」


俺は当初予定していた金額・・・に少しだけ加えた費用を手紙に書き込んだ。


それを見て一瞬目を細めたアニエスさんだったが何も言わずに手紙を懐に仕舞った。


「では後の事はお任せください。よろしければマリアンナ様のお手伝いをお願いできませんか?」


「借りを残さないためにもそうさせて貰うよ。」


たったこれだけの労働で支払われる金額には足りないのだが、何もしないよりかはいいだろう。


あと一週間。


それまでに準備を終わらせなければ。


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