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424.転売屋は眼鏡を作る

「あ~目が痛い。」


「大丈夫ですか?」


「あぁ、ちょっと休めば大丈夫だ。」


上を向いて目を閉じたまま目頭を押さえる。


そのまま目をぐるぐると回すとなんとなく疲れが取れる気がするんだよな。


しばらくそうしてから目を開けると、香茶の入ったカップを持ったミラと目が合った・・・気がする。


というのも、姿は見えるがはっきりしない。


なんていうか焦点が合うのに時間がかかる感じだ。


カップを受け取りたくても受け取れない。


そんな俺を見かねてか、カップを俺の手に持たせてくれた。


「代わりましょうか?」


「いや、ミラは店番を頼む。これは俺がやる仕事だ。」


「そうですが・・・。」


「最近忙しくて仕分けをサボってた俺が悪い。ルティエ達に迷惑がかかる前にさっさと終わらせるさ。」


そういうと、再びカウンターの上に目を向ける。


そこに広がっているのは箱に入った赤い結晶達。


そう、この間大量に回収してきたガーネットの原石だ。


加工しやすい大きな奴は最初に渡してしまったので、今目の前にあるのは加工できるか微妙な大きさのものばかり。


中には傷がついたやつもあるので、その仕分けをしているというわけだ。


傷に関しては外側ではなく中にあるものもあるので、これは鑑定スキルで確認できない。


ただし、俺の相場スキルなら話は別。


『緋色石の原石。別名ガーネット。魔加工することにより火属性の加護を得る。中に傷がついている。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨11枚、最高値金貨10枚、最終取引日は22日前と記録されています。』


こんな感じで、ちゃんと傷の有無も表示してくれる親切設計というわけだ。


ただし、かなり小さいやつ一つ一つに触れないといけないのでかなりめんどくさい。


めんどくさい上にかなり目が疲れる。


うぅ、元の世界の時に感じた老眼のようだ。


この体・・・っていうか、この若さで老眼は出てないだろうけど、それでも長時間の近方作業は目の奥にくるものがある。


目を瞑ったまま香茶を堪能して一息ついた。


さて、休憩もしたしもうひと頑張りしますかね。


「いらっしゃいませ。」


とか思ったら客が来た。


店番は任せてあるので、一瞥だけして作業に没頭する。


「買取を頼めますか?」


「お買取りですね、物は・・・。」


「あ、これです。」


仕訳しつつ、ちらっと女性冒険者の方を見ると、カバン代わりの革袋からピンポン玉程の何かを取り出し、カウンターに乗せるところだった。


それは外の光を浴びてキラキラと輝いている。


「これで全てですか?」


「はい、二つしかないんですけど。」


「大丈夫ですよ。すぐに確認しますのでそのままお待ちください。」


革のトレイに乗せられたそれをミラが丁寧に観察していく。


鑑定スキルは発動しているだろうから物はわかっているんだろう。


後は傷や汚れがないか確認するだけだ。


「グラスアイのレンズ、傷もなくいい状態ですね。一つ銀貨2枚で合計銀貨4枚になります。」


「あ~やっぱりそんなもんよね~。」


「状態は良いんですけど、あまり需要のない素材でして。」


「うん、わかってる。私も襲われなかったら無理して倒さなかっただろうし、それでお願いします。」


「では銀貨4枚になります、またどうぞ。」


代金を受け取り冒険者が帰っていく。


ふむ、グライスアイの外皮か。


「物はよさそうだな。」


「綺麗に剥ぎとられていて状態も申し分ありません。」


ミラがレンズを親指と人差し指でつかみ、くるくると回転させる。


凸レンズが光を集め、きらきらとした光の筋が店内をくるくると回り出した。


残されたもう一つを手に取り目に当ててみる。


うわ、きっつ。


何も見えないわ。


向こう側にあるドアが逆さを向き、しかも反転している。


これで太陽なんて見ようものなら目を焼いてしまう事だろう。


『グラスアイのレンズ。グラスアイ、通称空飛ぶ目玉と呼ばれる魔物の水晶体。巨大な水晶で周囲の情報を集め他の魔物に伝えると言われている。最近の平均取引価格は銀貨3枚と銅貨50枚、最安値銀貨2枚、最高値銀貨4枚。最終取引日は11日前と記録されています。』


空飛ぶ目玉ね。


これだけ大きな水晶体を持つんだかなり大きな目玉なんだろう。


正直出会いたくない。


ふとレンズを目に当てたまま手元を見ると、先ほどまで小さかった原石が二倍ぐらいの大きさになっていた。


慌ててレンズを離すと元の大きさに戻る。


「お?」


「どうされました?」


「いや、これを当てると大きく見えると思ってな。」


「グラスアイの水晶体を通してみると手元の物が少し大きく見えるんです。遠くは見えない筈なんですけど、たまに見えるって人もいるんですよね。」


「あぁ、そいつは遠視だろうな。」


「遠視?」


「眼の状態だよ。そういやこの世界の人はあまり眼鏡をかけていないな。」


「そうですね、見えにくければ遠見の魔法や魔道具で補正できますから。好きで方眼鏡(モノクル)をかけてる人はいますけど。」


つまりその魔道具が眼鏡なんだろう。


しかし近視も魔法で補正できるのか。


つまり手元も魔法で補えると。


そりゃ眼鏡かけてる人が少ないわけだ。


オバちゃんも年の割には細かいこと平気でするし、てっきり近視かと思ったんだがなぁ。


「ちょっとそれも貸してくれ。」


「どうぞ。」


もう一つのレンズも借りて左右の目にレンズを当ててみる。


おぉ、手元がむっちゃ見える!


これなら作業も・・・。


拡大された原石にテンションが上がったのもつかの間、両手が塞がっていることに気付いてしまった。


これじゃ作業が出来ない。


ぐぬぬ、かくなる上は・・・。


「ちょっと出て来る。」


「どちらに?」


「マートンさんの所だ。」


両手が塞がっているのなら使える様にすればいいじゃないか。


レンズを握りしめたままマートンさんの工房に向かうと、探していた人物が外を掃除していた。


「よぉアーロイ。」


「シロウさん!久しぶりっす。」


「サングラスの方はどうだ?」


「ボチボチっすね。この辺の人は大方買っちゃったんで前みたいに売れなくなったんすけど、今は遠方から大口注文が来るようになって時々忙しい感じっす。」


「ちなみに今は?」


「暇っす。まさかまた何か考えたっすか?」


「またってなんだよまたって。」


「シロウさんが工房に来る時って何かする時ぐらいじゃないっすか。」


「まぁ、そうだけどな。とりあえずこれを見てくれ。」


持ってきた素材をアーロイの前で取り出すと、興味津々の顔で俺の掌を覗き込んできた。


なんだかんだ言いながらも新しい何かには敏感なんだよな、職人って生き物は。


「凸レンズっすね。」


「グラスアイって魔物のレンズだ。」


「あぁ、あの空飛ぶ目玉っすか!」


「知ってるのか?」


「時々ダンジョンで見るっすね。他の魔物を呼ぶんでサクッとやっちゃいますけど、素材を剥ぎとるのが面倒で。これをどうするんすか?」


「これを使って眼鏡を作ってほしい。」


「二つあるってことは片眼鏡じゃないっすね。」


「あぁ。片目瞑るのしんどいだろ?」


「ま、そっすね。」


別に片方でも問題はないんだ。


顔を上げたら離れた所も見えるし。


ただ、しんどいんだよ。


やっぱり両目で見た方が安心感がある。


「この大きさに合わせてサングラスの時の素材で作ってほしい。多少ずらしてかけられるようにツルは長めにしてくれ。」


「了解っす。」


「何時頃できる?」


「ちょうど暇なんで夕方までには行けるっすよ。」


「相変らず仕事が早いな。」


「これが当たればまた大儲けっす。」


「遠見の魔法もあるんだしさすがに当たらんだろう。」


「いやいや、だってシロウさんっすよ?」


どんな理由だよ。


ともかく今日中にできるのはありがたい。


アーロイに素材を渡し、店に戻る・・・前に露店に顔を出した。


「お、来たな。」


「あれ、おばちゃんは?」


「細かい作業のし過ぎで目が疲れたんだと。歳だねぇ。」


「見やすくする魔法があるじゃないか。魔道具使えば見えるんじゃないか?」


「馬鹿お前、そんなんで魔道具なんて買ってられるかよ。いくらすると思ってんだ?」


「銀貨10枚ぐらい?」


「50枚だよ。そんな金あったら別の事に使うって。遠見の魔法だって冒険者とかは重宝するが、普段遠くを見ない俺達には無用の魔法だ。毎回かけるのもめんどくさい。」


おや?


俺の想像と違って手軽に使えるって感じじゃないのか。


これはもしかするともしかする?


「じゃあ、手元が見やすくなる道具があったら買うか?」


「値段次第だな。俺も最近帳簿を見るのがしんどいんだよ。」


「暗い所で見るからだって、ちゃんとランタンを点けてやればみえるだろ。」


「そりゃ若いからできるんだって。俺ぐらいの年になるとなぁ・・・。」


またおっちゃんの苦労話が始まってしまった。


切り上げると怒り出すので仕方なく最後まで聞いてやる。


だが話を聞いてよかったかもしれない。


結構手元が見えなくて困っている人は多い。


ってことはだ。


安くそれを解消できるのなら売れるんじゃないか?


サングラスと違って誰にでも起こり得る状態だ。


こりゃ、もしかするともしかするかもしれん。


文句を言いまくってスッキリしたおっちゃんから、詫びのチーズを多めに貰い店にもどる。


「あ、おかえりなさいませ。先ほどアーロイ様が来られましてコレを置いて行かれました。」


「早いな。」


「何でもなかなかの自信作だとか。グラスアイのレンズ、仕入れますか?」


「あぁ、できるだけ大量に頼む。こりゃもしかするともしかするかもしれん。」


「畏まりました。」


ミラは小走りで取引所へ出かけて行った。


俺はカウンターのいつもの場所に腰かけ、出来上がったそれを装着する。


見える!


私にも細かい物が見えるぞ!


さっきまでの苦労が嘘のように、原石がくっきりはっきり見えるようになった。


これは素晴らしい発明かもしれない。


よし、とりあえず今の仕事を終わらせるぞ!


そう意気込んで、俺は原石の仕分けを再開した。

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