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417.転売屋は事情を理解する

ウィフさん曰く、幼馴染というはこの前査定した太陽のティアラの持ち主なんだそうだ。


俺の想像通り名のある貴族で、主に娼館と穀物の販売で財を成していたらしい。


ところが今の代になって立て続けに事業を始め、悉く失敗。


元々商売っ気のない人だったそうだが、家を残すために出入りの商人に言われるがまま投資をして一気に苦しくなってしまったらしい。


しまいには虎の子の娼館まで手放すことになり、つい最近心労で他界したとか。


唯一の跡継ぎであるその幼馴染とやらも、借金のかたにティアラ共々売りに出されることになったそうだ。


何とも面倒な話だな。


「ティアラだけ売るのではダメなんですか?」


「鑑定した感じでは所有権を解除しないと無理だろう。」


「所有権?」


「ティアラには所有権が決められていて、他人が手にする事が出来ない呪いをかけられているんだよ。所有者には最高の加護と祝福を与える代わりに、受け継げるのは血族のみ。もし、そうでない者が手にした場合は災厄が降り注ぐと言われているんだ。」


「つまり切り売りすることができないわけだな。」


「でも血族ならいいわけでしょ?それなら本人と子供を作ってその子に譲ればいいんじゃないの?」


「そう簡単なものじゃないんだよ。」


珍しく大きなため息をつくウィフさん。


何やら面倒ごとの雰囲気がプンプンしてくるんだが。


「受け継げるのは血族のみ、でも誰でもいいわけじゃなくティアラに認められなければならない。その基準はいまだに不明なんだ。」


「じゃあ最後の血族が死んだらどうなるんだ?」


「強力な呪いを身に纏い、世に災いをもたらすそうだよ。」


「なんだそれは、勝手すぎるだろ。」


「そうならない為に彼女の祖先は必死になって家を存続させてきた。家族を増やし、ティアラを授かる可能性を残し続けたんだ。」


「名のある貴族なんだろ、国も事情を知っているだろうし援助か何かはなかったのか?」


「それが僕だよ。」


「あ~・・・。」


なるほど。


災厄なんてまっぴらごめんなので国としても支援はしたいが、大っぴらに金を出すと文句を言われるのは必至。


なので間接的に援助をするべくウィフさんに白羽の矢が立ったわけか。


「あの、一つ疑問が。」


「なんだいマリアンナさん。」


「何故シロウ様がその方を買うのでしょう?わざわざ屋敷を売るお金を値下げするのであればそのお金を使ってご自身で買い受ければよろしいのではないでしょうか。」


「そうよね、自分で買った方が手っ取り早くない?」


「そうしたいのは山々なんだけどね。」


「都合が悪いのか?」


「もし僕が奴隷として買い受けてしまったら、彼女は負い目を感じるだろ?」


「むしろ感謝するんじゃないのか?」


「別に疎遠だったり喧嘩しているわけじゃなけれど、家柄からか自分の身分や立場に非常に敏感なんだ。加えてかなり気が強い。」


「でも嫌っているわけじゃないんですよね?」


「それはそうだね、家がなければと思った事もあるよ。狭い街で同じ境遇のしかも歳の近い異性だから、そう思うのは仕方なかったのかもしれないけど。」


つまり二人は恋仲だったと。


正確には貴族の家柄とか何とかで直接そう言う関係にはなかったが、精神的には結ばれていた。


だからこそ何としてでも助けたいが、奴隷として買ってしまうと一生それを気にしてしまう。


自分は奴隷だから釣り合わないだの、好きにしてくださいだの、ようは普通の関係にならないわけだ。


だから俺を仲介して助けようとしているわけだな。


事情は理解した。


何故ウィフさんが屋敷を俺に売ろうとしたのかも、そしてその裏で何が動いていたのかも。


どうりで安く屋敷を手放せるわけだよ。


王都に呼ばれたのも今回のようにならない為に、王家で管理・保護するためなんだろう。


もっとも、それが幸せかはわからないが今の二人には必要な事だ。


「事情は理解した。が、説明が不十分だな。」


「どういうことだい?」


「仮にその人物を買ったとして奴隷であることは変わりない。解放すれば話は別だが理由もなしに解放すれば勘づくんじゃないか?」


「それはまぁそうだね。」


「それに加えて俺には何もできない女を買う理由が無い。ティアラだって所有権がある以上俺の手には転がってこないわけだし、抱く為に買うわけでもない。いくらなんでもおかしいだろう。」


「手を出したら消されるんじゃない?」


「んなことわかってるって。」


「その方は何が出来るんでしょうか。」


「何が・・・?」


ウィフさんが腕を組み遠くを見ている。


あ~、うん。


その反応で大体察した。


「つまり何もできないと。」


「家業には手を出さなかったし、主に社交界が仕事だったのかな。」


「社交界ねぇ。」


「貴族として生きていくのであれば必要な技術だと思います。私には、関係のない世界ですけど。」


慌てて否定するマリーさんもなかなかに面白いが、貴族の中では重要な技術なんだろう。


同じく俺にも関係のない世界だ。


「何もできない女を買う?しかも高額で?無理がありすぎる。」


「でも何もしなければ彼女は知らない誰かに買われることになる、それだけは避けないと。」


「今は・・・レイブさんの所だな?」


「この街一番の奴隷商人といえばあの人だ。事情を理解した上で匿ってくれている。もっとも、期日までに支払いが無ければ奴隷として売ってもいいという契約の上でだけど。」


「当然だな。」


「レイブ様の事です、シロウ様が絡んでいることはご承知でしょう。」


「はぁ、高い買い物させられそうだ。」


この前の件といい、レイブさんには随分と貸しがある。


それを一気に返すとなると破産しかねないぞ。


こりゃ真剣に稼ぎを増やさないとなぁ。


「期日はいつまでですか?」


「今月末までです。」


「後二週間もないのか。」


「それまでに誰もが納得のいる理由を考えなければなりません。買うだけでなく解放する理由も。」


「買うのはともかく解放する方はかなりの難易度だな。」


「金額が金額ですから。」


メルディやエリザのように金貨数枚であれば気まぐれで解放してもおかしくはない。


適当な理由でも納得しやすいだろう。


だが今回はそうじゃない。


「ちなみに借金の総額は?」


「金貨1000枚。」


「マジか。」


「屋敷が格安になるはずです。」


金貨1000枚って・・・いくらなんでも高すぎる。


いや、太陽のティアラの値段を考えれば妥当なのかもしれないが、それが手に入るわけでもない。


加えて来年の税金に家賃にさらに屋敷の代金も支払うとなると・・・。


「いくらなんでもそれは無理よ。」


「そこを何とかなりませんか?」


「屋敷が安く手に入ってもその借金を肩代わりしたらトントンだ。せめて解放後に倍になって帰って来るのなら話は別だが、いくらなんでも無理だろ?」


「お時間頂ければ何とか・・・。」


「シロウ様、残念ですが我々にそれだけの現金はございません。」


「借金に屋敷代、それに来年の税金と家賃で金貨2000枚。隠しダネを入れてもダメか?」


「入れても金貨300枚ほど足りません。」


ミラの事だから余裕を持たせて応えているんだろうが・・・。


それでも後二週間で金貨300枚はいくら俺でも難しい。


「屋敷の支払い期限はいつまで延ばせる?」


「色々と入りようなので今年中まででしたら何とか。」


「後二ヶ月で金貨300枚は稼ぐ必要があるわけか。」


「たった二ヶ月しかないの?」


「幸い24月はオークションがある。それでどのぐらい稼げるかがカギだな。」


「ですがそれに出せる品はあまり揃っておりません。」


「そうなんだよなぁ・・・。」


金貨100枚を超える目玉品が生憎と揃っていない。


仕込みが上手くいってもせいぜい金貨100枚ほど。


余裕でというわけにはいかないだろう。


「せめて買うだけの金を援助するとかはないのか?」


「私のお金が入ってしまったら、私が買った事になってしまいます。」


「屋敷を値引いた時点で一緒じゃないか。」


「それには言い訳が立ちますから。」


「急いでいたと言えば済むわね。」


「はぁ・・・どうしたもんか。」


「そもそもこうなったのも、亡くなった前当主が穀物投資に失敗したからなんですよね。ほら、今年は日照りと長雨があったでしょう。あれで麦の価格が高騰すると唆されたらしくて、でも実際は豊作な上にお米が流行ってしまい、結果麦の消費が低下ってのがとどめになった。」


「それはつまり俺が原因って言いたいのか?」


「まさか。失敗したのは本人だし、それを理由にして君に買わせたいわけじゃない。」


「それを聞いて安心したよ。そう言う目論見なら今日の昼飯代、熨斗つけて返すところだった。」


恩を着せて買わせるたくらみかと勘ぐってしまったがそうではないらしい。


ウィフさんにとって自分の幼馴染を任せる事が出来、かつ買うだけの金をポンと出せるのは俺しかいない。


さすがにそんな相手を怒らせるようなことはしないだろう。


逆を言えば、俺が出来なければウィフさんの目論見はすべて崩れる。


はぁ、とりあえず後二週間で目途をつけなければ。


はてさてどうしたもんかなぁ。

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