411.転売屋は明かりを灯す
パンプキンランタン。
なんともまぁ安直な名前にしたものだが、その方が分かりやすいんだよな。
あれから二日。
芋ブームが終わった街にはカボチャブームがやってきた。
と言っても大量に採れたかぼちゃを消費するためのお祭りみたいなものだが、子供達には好評のようだ。
例の巨大カボチャの中身をくりぬき、ゴーストランタン風の顔を切り抜いた後、中に火を入れると出来上がり。
それが飾ってある家に行けばおやつがもらえるぞとガキ共に教えてやったら、皆大喜びで街中探しはじめた。
最初は俺達がお願いして店に飾ってもらっていたのだが、気付けば有志の皆様も参加してくれ、気付けば街を上げての大騒ぎだ。
いたるところでスープだのパイだの工夫を凝らした料理やお菓子が作られ、それにいち早く目をつけたギルド協会が三日後に料理コンテストを開くとか急に言い出したので余計に騒ぎが大きくなってしまったようだ。
ま、俺はカボチャが消費出来れば何でもいいさ。
「お菓子く~だ~さい!」
「はいどうぞ。」
「やった!クッキーだ!」
「次どこにあった?」
「裏通りに飾ってあるの見つけたよ!」
「よし行こうぜ!」
店先でミラからお菓子を貰ったガキ共が大騒ぎをしながら走り去る。
なんともまぁ元気なもんだ。
「毎日来るな。」
「いいじゃありませんか、作り甲斐があります。」
「おっちゃんが悲鳴を上げてたぞ、バターも牛乳も供給が追い付かないってな。」
「それで他所から急遽仕入れたんでしたね。」
「あぁ、ハーシェさんの機転が功を奏したな。」
「さすが行商のスペシャリスト、といった所でしょうか。」
「メルディが来てから特にだな。」
元々そう言う仕事をしていたってのもあるが、俺の下で行商を任されるようになってから見る見るうちに実力をつけて来た。
今じゃ俺よりも先に情報を仕入れ、先手を打って仕入れてくれるから助かっている。
そしていつの間に知り合ったのか、メルディもその手伝いをしているんだとか。
確かに街で値上がりしていれば他所でも上がっている可能性が高い。
それをすぐに感じ取れるメルディと組むのは得策だろう。
「では、私も行ってまいります。」
「おぅ気をつけてな。」
「ふふ、すぐそこですよ。」
「それでもだ。」
ミラの手には大きなカボチャとリンゴのパイが乗せられている。
なんでもレイラに頼まれて作ったんだとか。
それを宅配させるのはいかがなものかと思うが、ミラが自分から行くと言い出したのでこれ以上は何も言わない。
なんだかんだで仲良いんだよな、あの二人。
ミラを見送り、外にぶら下げていたランタンを取り外す。
さっき渡したのでお菓子は最後だ。
何時までもぶら下げているとまたガキ共がやってくるからなぁ。
「これでよしっと。」
「あれ、閉店ですか?」
「ん?」
急に下から声が聞こえ、梯子の上から見下ろすと中年の冒険者が俺を見上げていた。
「いや、これを外していただけだ。」
「あぁ、子供向けのランタンですね。」
「何時までもぶら下げておくとうるさいんでな。客か?」
「買取をお願いしたくて。」
「なら先に入ってくれ、すぐに行く。」
急いで梯子から降り、一先ず入り口の横に置いておく。
仕舞うのは後でいいだろう。
「悪いな待たせて。」
「いえ。それにしても色々な物がありますね。」
「ダンジョンのおひざ元だからな、何でも出て来る。アンタもその口だろ?」
「まぁそうですね。」
「っと、それじゃあ物を見せてもらおうか。」
カウンターをくぐって向かい合うと、男は革袋から何かを取り出し上に置いた。
ゴトンという思ったよりも大きな音がする。
男の手の下から出てきたのは、錆びついた小さなランタンだった。
ガラス製の小窓があり、上に引っ掛ける用の輪っかがついている。
「随分古い物だな。」
「家の奥に転がっていたんですが、この間仲間が似たようなものをダンジョンでみつけて。」
「あぁ、それでこれもそうじゃないかと思ったわけだ。」
良くある話だな。
もしかすると俺のやつも、そうやって期待した物ほどさほどいい物じゃない。
とはいえ鑑定するのも仕事のうちだ。
はてさてどんなものかなっと。
『誘いのカンテラ。使用者が望むままの映像を見させてくれる。ただし使用すれば使用するほど魔力を奪われるので注意が必要。使用する場合は時間を決めて正しくお使いください。最近の平均取引価格は銀貨20枚。最安値銀貨5枚、最高値銀貨44枚。最終取引日は689日前と記録されています。』
何だこのサプリメントの注意書きみたいなやつは。
用法用量じゃなく使用時間なのか。
しかも魔力を吸うって、呪われてないのが不思議なぐらいなんだが・・・。
「誘いのカンテラ。そうだな、銀貨10枚って所だ。」
「え、それだけですか?この前はもっと高かったのに。」
「カンテラで思い出したが、前のやつもうちに持ち込んだんじゃないか?確か導きのカンテラだったはずだ。」
「そう、それです!」
『導きのカンテラ。道に迷った時に進むべき方向を照らしてくれる。それはどんな道でも構わない。最近の平均取引価格は銀貨88枚。最安値銀貨10枚、最高値金貨1枚と銀貨30枚。最終取引日は三日前と記録されています。』
あれは中々の逸品だったが、残念ながらこっちは違うようだ。
見た目は確かに似ているが効果がなぁ。
「あれは導きのカンテラ、こっちは誘いのカンテラ。効果が違い過ぎる。」
「でも見た目は・・・。」
「見た目が同じものなんて沢山あるさ。」
「うぅ、家族になんて言えばいいんだ。」
「またダンジョンに潜って稼ぐしかないな。銀貨10枚でも美味い物は食えるぞ。」
それなりの稼ぎであることは間違いない。
それに、家に眠っていたんだろ?
それが金になるんだからいいじゃないか。
というのは、俺の感覚。
だが向こうはそうじゃないかもしれないが、ひとまず様子を見ると渋々という感じで買い取りを了承してくれた。
代金を支払い客を見送る。
さて、こいつをどうするか。
「ま、当分は倉庫行きだな。」
あまりにも物騒過ぎて手を出す気にならない。
一先ず裏の作業台の上に置いて・・・。
ふと横にボタンのようなものがあるのを見つけた。
ガラスの部分が空くのかもしれない。
そんな事を思ってしまったのが間違いだった。
カチッ。
そんな音がしたかと思えば、中で火花がはじけ明かりがともった。
「やば!」
慌てて消そうとするも消す方法が分からない。
慌てふためく俺だったが、すぐに横から手が伸びて来て俺の手を包み込んだ。
「大丈夫ですよ、シロウ様。」
「ミラいつの間に戻ったんだ?」
「ついさっきです。二人で使用していますから安心して使ってください。」
「いや、使ってくださいって。」
「綺麗な光です、まるで吸い込まれるみたい。」
「そうね、見ているだけで心が休まるみたいだわ。」
「エリザも戻って来てたのか。」
「さっきね。」
いつの間にかミラとエリザ、それにアネットが俺の後ろに立っていた。
皆うっとりとした表情で灯された明かりを見つめている。
「こんなにすごい品を買い付けるなんて、さすが御主人様ですね。」
「だってシロウだもん当然よ。」
「その通りです。買い取りだけでなく他の部分でも利益を出され、今では街になくてはならない存在ですから。」
「何だよ急に、持ち上げても飯は奢らないぞ。」
「いらないわよ。」
「何だ珍しいな。」
いつもならお酒が~とか言いそうなもんだが。
雨でも降るんだろうか。
「化粧品も軌道に乗りましたし、行商も利益を上げ、錬金術師まで抱えているんですよ。」
「お屋敷も持ってますし、王家ともかかわりがあります。」
「これ以上の男は他にいないわよね。」
「それはどうだろうな。」
「絶対にそうなんだから。」
なんだなんだ、どうしたんだ急に。
どう考えてもおかしいぞ。
「シロウ様。」「シロウ。」「御主人様。」
三人の顔がどんどんと近づいてくる。
いやいや昼間っから三人は無理だ、勘弁してくれ。
そう思っているはずなのに体は言う事がきかない。
逃げる事も出来ず女達のされるがまま・・・。
「シロウ様!」
「なんだ!?」
「大丈夫ですか、シロウ様。声をかけても返事がなかったものですから。」
ハッと目を開けると、先ほどのように目の前にミラの顔があった。
だがその横にエリザとアネットの姿はない。
さっきのは夢か?
慌てて横を見ると明かりの消えたカンテラが置いてある。
確かにさっきつけたはずなんだが・・・。
「随分と古いものですね。買取品ですか?」
「あぁ。」
「導きのカンテラとよく似てます。」
「触るな!」
「え?」
「これは誘いのカンテラだ、使うとやばい事になる。」
「それはつまり・・・。」
「起こしてくれて助かったよ。」
あのまま夢を見ていたらどうなっていたんだろうか。
魔力を吸われ干物になっていた?
それとも廃人だろうか。
ともかくやばい物だという事は、身をもって理解した。
封印するか、さっさと売っ払ってしまおう。
そして、俺にあんな願望がある事も黙っていよう。
まさか三人とするのがあんなに気に入っているとは・・・。
その後若干の気怠さを感じながらも何とか倉庫の奥に押し込み、一息つくことが出来た。
もちろんその後は一回も使用したことは無い。
人の願望は人それぞれ。
だが、その中にも自分が知りもしなかった願望があるとしたら。
これを使って発見できるかもしれない。
使うか使わないかは、あなた次第ってな。




