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410.転売屋は秋の実りを収穫しすぎる

夏と同じくこの秋も豊作続き。


これもすべてアネットの肥料や天候に恵まれたおかげだ。


ありがたやありがたや。


秋といえば芋。


今年も良い感じに仕上がり、みんなで焼き芋にしたりお菓子にしたりとこの一週間かけて堪能させてもらったわけだが、畑ではもう一つの野菜が猛威を振るっていた。


「ここは魔境か?」


「まさかこの一週間でここまで大きくなるとは思っていませんでした。」


「だよなぁ。先週芋を掘り起こしたときは小さかったもんな。」


「恐らくは芋を収穫したことで、畑の栄養が集中したのが原因かと。」


「つまりそれだけ野菜には栄養価の高い土というわけか。」


「そういう事かと。」


「理屈ではわかるが現実はなぁ。」


畑に突如湧いて出てきたのは大量のカボチャ。


それも1mは優に超える大きさの実をつけたお化けカボチャが畑を占拠していた。


一週間前はごく普通の大きさだったのにどうしてこうなったんだろうか。


先程理屈ではわかるといったが、それでも限度というものがある。


『アンパンプキン。かぼちゃの中でも特に甘く、日持ちがするので保存食として栽培されている。稀に巨大化するものがあるが、巨大化しても味が落ちないのが特徴。が、巨大化するにはかなりの栄養分を必要とする為、余程の事がなければ大きくならない。最近の平均取引価格は銅貨69枚。最安値は銅貨50枚、最高値銅貨88枚。最終取引日は五日前と記録されています。』


余程の事がないと大きくならないって現になってるし。


しかも大量だし。


芋ならともかくかぼちゃなんてどうやって加工すりゃいいんだ?


「日持ちしますのでしばらくは寝かせておきましょうか。」


「それしかないだろう。とはいえ、倉庫にも限界があるからなぁ。芋はともかくこのデカさは邪魔だ。」


「ですね。」


「かなり甘いらしいから、とりあえず一個持ち帰ってから今後について考える。でもなぁ、まだ芋があるんだよなぁ。」


「甘いものは先週これでもかと食べましたね。」


「正直あと一か月は食べなくてもいいんだが。」


「味がわからないことには売りにも出せません。」


「ってことだ。はぁ、後でおすそ分け持ってくるな。」


「では家まで持って行かせましょう。子供たちも喜びます。」


子供はいつでも甘いものが大好きだからな。


帰る前に一度図書館に寄ってかぼちゃ料理を探してみたものの、出てきたのはありきたりなものばかり。


1mを越す巨大かぼちゃ、大きさもさることながら重さもなかなかのものだ。


つまりその重さ分の実をどうにかしないといけないわけで・・・。


「ってことで知恵を借りたい。」


閉店後、食卓テーブルの上には巨大なカボチャが鎮座していた。


それを囲むようにして女達と対策を考える。


ちなみにメルディは仕事が終わったので家に戻ったので不在だ。


「大きいですねぇ。」


「魔物を思い出すわ。いるのよ、こんな見た目のやつが。」


「マジか。」


「ゴーストランタンっていう幽霊なんだけど、かぼちゃっぽい帽子をかぶってるのよ。」


「強いのか?」


「見た目に騙されてやられる初心者は多いわね。あいつら壁の向こうからでも平気で出てくるから厄介なんだけど、奴らのランタンよりも明るくしておけば出てこれないから火を絶やさなければ問題ないわ。」


つまり対処法を知らない初心者が餌食になるというわけだ。


いきなり壁の向こうから出て来るとか非常識にもほどがある。


それにしてもかぼちゃを被った幽霊ねぇ。


まるでハロウィンの時期によく見るジャックオーランタンだな。


「冒険者からは嫌われている魔物って感じだな。」


「そうね、面倒なやつではあるわ。」


「そいつを食べるわけですね。」


「別に美味しければ何でもいいんじゃない?でも甘いんじゃお酒に合わないわね。」


「そこはまぁ工夫次第だろう。とりあえず半分に割ってから考えよう。」


「切るのは任せて。」


「これ、一般家庭じゃ絶対に無理だよな。」


これだけ巨大なカボチャを切るには包丁じゃ手に負えない。


なんなら市販の鉄の剣でも無理だろう。


切れ味の効果がついているか、もしくは鋼鉄以上の切れ味と丈夫さが必要になる。


切っている最中に武器が壊れるとか笑い話にもならないな。


かなり重たかったがなんとか四人で裏庭に移動させ(ドアを通らなかったので窓から出した)、その時を待つ。


気合を入れたエリザがミスリルの長剣を横に振ると、物の見事に真っ二つになった。


残念ながら?中に子供はいなかったが、代わりに巨大な種がびっしりと詰まっており皮付近の実は厚さ20cmはありそうだ。


「ねぇ、これ全部くり抜くの?」


「皮は固いようですが実は思ったよりも柔らかいですね、これならなんとかいけると思います。」


「鍋足りるか?」


「いっそ薄く切って焼くとか。」


「いや、そもそも焼ける大きさのフライパンがない。」


「直火に網を置いて焼くのはどうでしょうか。」


「力技だがそれもありか。でもなぁ、焦げるんだよなぁ。」


「揚げるのも難しいですね。」


「てんぷらで食べたいんだけどなぁ。」


中華鍋ぐらいの大鍋でやれば何とかなるかもしれない。


小麦粉と片栗粉で作れたはず。


でもなぁ、片栗粉がないんだよなぁ。


あれって原料なんだったっけ。


ジャガイモ?


まぁ、無くても何とかなるか。


そんなこと思いながらふと妙案が浮かんだ。


「いや、もしかするともしかするかもしれん。」


「どうしたんですか?」


「石臼てあったっけ。」


「倉庫にありますが・・・。」


「ちょいと試したいことがある。エリザ、四分の一を皮がついたまま1cmぐらいの厚みになるように切っといてくれ。大きさはこれぐらいだ。残りの四分の一はくりぬいていいぞ。」


「え、そんなに薄く!?」


「頑張れ。」


俺は俺でやることがあるんだ。


倉庫に行くと、わかり易い所に石臼が置いてあった。


簡単に見つかるのもメルディが片づけてくれたおかげだな。


倉庫の備蓄置き場から米を持ってきてそれを石うすの中へ入れる。


ぐるぐると回すと少しずつだが白い粉末がこぼれてきた。


よしよし、米粉も作れそうだな。


片栗粉の代わりに米粉を使えば天ぷらもできるはずだ。


後は小麦粉と混ぜて氷水で溶き、それを高温の油で揚げる・・・と。


よし、てんぷらのイメージは完璧だ。


「そっちはどうだ?」


「なんとかくり抜けました。」


「皮がちょっともったいないですね。」


「これだけ食ってもなぁ・・・。エリザはどうだ?」


「まったく、面倒な事させないでよね。」


ミラとアネットの前にはくりぬかれた大量の中身が、エリザの前には扇型に揃えられた皮つきの身が積み上げられていた。


よしよし予想通りの形だ。


「頑張りに見合ったものは食わせてやるから安心しろって。」


「絶対よ。」


「くり抜いたのはどうしますか?」


「そうだなぁ・・・。かなり甘いらしいから一度火を通してクッキーにでも混ぜるか、それともポタージュにするか。」


「どちらにしろ甘そうね。」


「かなりの量がありますよ。」


「あとはパイにでもするか。」


「パンプキンパイ、良いですね!」


「やっぱりお菓子じゃないの。」


仕方ないだろ、甘いんだから。


ポタージュをミラが、パイをエリザとアネットが担当することに。


流石に台所が狭いので、俺は裏庭に簡易コンロを設置しててんぷらを作ることにした。


油はモーリスさんのところで仕入れたごま油だ。


菜種油もあったんだが、昔食べに行った天麩羅屋がごま油を使ってたのでそれを真似してみようと思う。


中華鍋風の大鍋に油をたっぷり入れ、火の魔道具を二つ使って温度を調整する。


直火でもいいんだが、ガス火みたいに火力調整が出来ないので魔道具で流用する。


時間はかかるが、唐揚げでもやっているやり方なので問題ないだろう。


良い温度になったところで、エリザが切ったカボチャに米粉と小麦粉で作ったてんぷら粉を付けて一気に揚げる。


シュワシュワと泡がはじける様はなかなかに食欲がそそられるなぁ。


そうだ、ついでに他の野菜も揚げてみるか。


玉ねぎと、この前拾ってきたホワイトマッシュルームも美味そうだ。


もちろんイモも忘れてはいけない。


天麩羅といえば魚だが、鮮度がよろしくないので今回はパス。


エビが欲しい所だが、同じく手に入らないなぁ。


代わりにワイルドチキンのささみを揚げてみようと思う。


あれやこれやと工夫しているうちにあっという間に夜が更けてしまった。


「シロウまだ~?」


「お待たせ、出来たぞ。」


「わぁ、野菜が白い衣に包まれています。」


「唐揚げとは違うのね。」


「あぁ、こっちの方がサクッとしてる。お勧めの食べ方は塩一択だ。めんつゆも作りたかったんだが、さすがに時間がないからまた今度な。」


いつも出来上がっ天つゆで食べるが、味的に醤油とダシが必要なはず。


かつお出汁か昆布出汁か、この辺はまたおいおいな。


「いっただっきまーす!」


「アツアツのやつから食べろよ、俺はこっちで揚げながら食べるから。」


「代わりましょうか?」


「良いから食べろって。」


さっきつまみ食いしてみたが、かぼちゃやばいな。


かなり甘いと思っていたがあまり後を引かない甘さで、塩との相性が抜群だった。


海塩もいいが岩塩も捨てがたい。


ってことで両方用意してみた。


「わぁ!サクサクです!」


「お野菜がこんなにおいしく感じるなんて、揚げると触感も変わりますね。」


「シロウお肉!お肉頂戴!」


「いや、野菜を食えよ。」


「足りないわよ。なにこれ、ワインにすごく合うんだけど!」


「そうだな、エールよりワインかもな。」


なかなか好評のようだ。


揚げるのに手間はかかるが、始めてしまえばあっという間に作れるのが天麩羅のいい所。


「お菓子の方はどうだ?」


「ふふ、食べてからのお楽しみよ。」


「子供達の喜ぶ顔が目に浮かびます。」


「普通に売れるか?」


「売れるわ。でも準備が大変だし、皮が大量に残るのよね。流石に皮だけ食べるわけにはいかないし・・・。」


「それなら俺にいい考えがある。」


かぼちゃといえば例のやつだろう。


おあつらえ向きの魔物もいるみたいだし、そいつに掛けた名前にしてやればいい。


さて、どうやって仕込んでやろうか。

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