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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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40.転売屋はスリを捕まえる

俺の指摘を受けて少年が目を真ん丸にしている。


と、次の瞬間には誇らしげに掲げていた財布をしまい、慌てて元来た道を戻ろうとした。


「待ちやがれ!」


その背中を追いかけて俺も走り出す。


てっきり元来た扉から逃げるのかと思いきや何故かその場で慌てている少年。


押しても押しても開かない扉。


そりゃそうだ、押して出てきたんだから戻る時は引かないといけない。


だが慌ててしまってそんな事にも気づかないんだろう。


今がチャンスだ。


「待て、逃げるな!」


「くそ!」


扉から出る事を諦め、祭壇の方へと走り出す少年。


少女はというと、突然の出来事にオドオドしているだけだった。


名前を呼ばれていたという事は彼女も共犯?


そんなことはどうでもいい、まずは財布を取り返すことが先決だ。


そのまま少年の背中を追いかけつつ、行動を先読みする。


恐らく扉には逃げずに壁伝いに移動するはず。


なら、先回りだ!


少年の向かう場所を見極め途中から斜めに移動して少年を追い詰めていく。


狭い建物だ、あっという間に少年を角に追い詰めることに成功した。


「さぁ、観念しろよ。」


「何だよ!これは俺のやつだぞ!」


「いいや、俺のだ。」


「なんでわかるんだよ!」


「中身金貨3枚だっただろ?それしか持ってきてないからな。」


「それだけじゃわかんねーだろ!」


「それとは別に指輪が入っているはずだ。かなりごっつい奴がな、見てみろよ。」


あろうことか自分のものだと主張しだした少年。


その主張を覆す必殺の品があの財布には入っているのだ。


リング氏からもらったあの指輪。


少年が恐る恐る手にした財布を傾けると、彼の手にコロンとソレが転がり出てきた。


「・・・・・・。」


「それはな、とある貴族にもらった大切な奴だ。それを持っているのはこの街でも俺だけ、だからそれは俺の財布なんだよ。」


転がり出てきたそれを見つめたまま固まってしまった少年。


さて、どう料理してやろうか。


「ファン!その人に財布を返しなさい!早く!」


と、さっきまで固まっていた少女が大きな声を出して少年に命令した。


その声に固まった少年が再び動き出す。


っていうか、慌てたもんだから指輪が床に転がってしまい、這うようにしてそれを両手でつかんだ。


その隙に少年の前に立ちはだかる。


「返せ、今ならお前の処遇を考えなくもない。」


「早く返しなさい!」


「・・・これは俺のだ。」


「違うね、お前が俺から盗んだ奴だ。」


最後の抵抗をする少年。


だがその手を掴むと観念したかのようにうなだれてしまった。


指輪が再び床に落ちる。


それを拾おうとしゃがんだ瞬間。


目から火が出るような衝撃がデコ付近にさく裂する。


「いってぇなぁ!」


「す、すみません!取ろうとしただけで決してワザとじゃなくて!」


怒鳴りながら顔を上げると目を真っ赤にしておでこを押さえる少女が目の前にいた。


どうやら同時にしゃがんだせいで、頭突きをしてしまったようだ。


思っている以上に石頭だな、この女。


痛みに耐えながら指輪を拾い上げると、少年が少女の後ろに隠れていた。


やはり共犯か。


「この教会では解呪の他にスリまでやってるのか?」


「誤解です、私達はそんな・・・。」


「じゃあなんでこいつがアンタの後ろにいるんだよ。」


「ファンはうちで預かっている孤児なんです、それで・・・。」


「それで金を持っている奴から寄付とか言って金をせびってるのか?」


「モニカはそんなことしないよ!」


「ガキは黙ってろ、もとはと言えばお前が原因だろ。とりあえず財布を返せ。」


モニカと呼ばれた少女の後ろから顔を出した少年が、再び後ろに隠れてしまった。


これだからガキは嫌いなんだ。


「ほら、早くお返ししなさい。今ならまだ間に合います。さぁ、早く。」


モニカに促され、渋々と言った感じで財布を出す少年。


それを彼女が中継して俺へと手渡した。


ふぅ、とりあえず戻って来たな。


中身の金貨はちゃんと入っているし、指輪も手元に戻ってきた。


あとは、こいつらの処遇をどうするかだ。


「この度はうちの子が大変申し訳ありませんでした。」


「単刀直入に聞く、お前たちはグルか?」


「お、俺が勝手にやったんだ、モニカは悪くないよ!」


「いいえ、これは私の罪です。詰所へ突き出すのであれば責任者である私を突き出してください。」


いや、それ返事になってないんだけど。


「もう一度聞く、グルなのか?」


「違うって言ってるだろ!」


「お前らの言う神に誓ってか?」


「悪いのは私で・・・。」


「良いからお前は黙ってろ。」


保護者面してくる彼女を黙らせ、後ろに隠れる少年の手を掴む。


そのまま引っ張り出して俺の前に正座させた。


「お前がやったんだな。」


「そうだよ。財布を盗んだのは俺だ、モニカは悪くない。」


「そうか。自分が何やったか、わかってるよな?」


「・・・財布を盗んだ。」


「それは悪い事か?」


「悪い・・・事。」


「何で盗んだ?」


「お金が欲しかったからだ。お金があれば皆でご飯食べれるから。」


「みんな?」


そういえばこいつの他にもう一人いたな。


兄ちゃんとか言っていた気がする。


「モニカ、とかいったか?ここにはこいつの他に何人いるんだ?」


「あと五人、おります。」


「五人全員、人様の者を盗むのか?」


「そんなことは決して、決してありません!」


「そうだよ、他のやつらは何も知らねぇ!おれしかやってねぇよ!」


「そうか。じゃあ悪いのはお前だな?」


少年の目線までしゃがみ、彼の目をまっすぐに見る。


怯えながらも逃げずに俺を睨み続けた。


ふむ。


「財布を盗むのは悪い事、そうだな。」


「・・・うん。」


「他にもやったのか?」


「さっき、別のオッサンから。」


あぁ、あの時のオッサンか。


まさかこんな所でつながるとは思わなかったぞ。


「他には?」


「・・・あと三回ぐらい。」


「じゃあ全部で五回だな?」


「うん・・・。」


余罪を追及され睨みつけていた目からどんどん力が失われていく。


罪の意識はあるようだな。


じゃあやることは一つだ。


俺は拳を強く握ると頭上高く持ち上げ、少年の頭上に振り下ろす。


その数五回。


ゴンゴンゴンと鈍い音が狭い教会に響いた。


「ってぇぇぇぇぇぇ!!」


「五回分だ、これでチャラだからな。」


「え?」


「悪い事をしたなら当然の報いがある。お前の信じる神様もそういうんだろ?」


「は、はい。犯した罪には相応の報いがあると・・・。」


「だからこいつは報いを受けた。これで終わりだ。」


痛みで涙をポロポロ流す少年とは対照的に、キョトンとした顔をするモニカ。


そんな間抜けな顔をしていると、益々学生っぽいな。


そばかすがそれを際立たせている気がする。


「詰所には突き出さないのですか?」


「罪を償ったやつをどうして突き出すんだ?こうして財布は戻って来たし、こいつは報いを受けた。それでいいじゃないか。」


俺としては財布が戻ってきた、それで十分なんだが・・・。


それでは気が収まらないし、ガキの教育にもならない。


と、言うことで制裁を受けてもらったというわけだ。


「生きていく上で仕方なかったってのはわかる。だがな、相手を間違えたら死ぬぞ?ろくに金も入ってない財布を盗んで死ぬつもりなのか?お前、弟がいるんだろ?」


「うん・・・。」


「ならどうすればいいか考えろ。安全に稼げる仕事を見つけ出せ、お前にしかできないことで大人を利用してやれ。」


「大人を利用する?」


「ガキにしかできないことなんざ山ほどある。ようは頭を使えってことだ。」


別に俺がこいつらの行く末を気にすることなんてないんだが、関わってしまった以上死なれても寝覚めが悪い。


こういうのをお人好しとか偽善とかいわれるんだろうな。


「わかった。」


「本当に申し訳ありませんでした。このご恩はいつか必ずお返しします。」


このご恩ねぇ。


別になにもしてないんだが・・・。


せっかくのご提案なんだ、ありがたく返してもらおうじゃないか。


「言ったな?」


「え?」


「恩を返してくれるんだろ?たっぷりと返してもらおうじゃないか。」


「え、あ、え?」


身の危険を感じたのかモニカが自分の体を抱き締める。


エリザやミラさんならそそられたかもしれないが、残念ながら全く反応しない。


完全に守備範囲外だわ。


「何を勘違いしているかはしらないが、返してもらうのは仕事でだ。」


「お仕事で?」


「解呪がここの仕事だろ。これからそういった品も増えるだろうから、しっかり頼むぞ。」


呪われているからと安く買い、ここで解呪してもらって高く売る。


その流れを構築できれば最高だ。


今回の件もあるし喜んでやってくれるだろう。


「はい!精一杯やらせて頂きます!」


「よろしく頼む。それと、聖水って何に使うんだ?」


「場所を清めたり、飲んだら瘴気に侵されにくくなります。」


「アンデッドにも効果があるのか?」


「実体のない魔物には効果があると以前買いに来てくださっていた冒険者が仰っていました。でも、魔法を使えば退治できますし使う人は少ないんだと思います。」


ふむ、冒険者なんだからその辺の知識はあって当たり前だとして、需要が少ないということはあまりアンデッド系の魔物は出ないのかもしれない。


今度エリザに確認しておこう。


もし隠れた需要があるのなら・・・ぼろ儲け確定だな。


「変なこと聞いたな。それじゃあ用があったらまた来る。」


「はい!」


元気いっぱい返事をするモニカ。


ガキはというと恨めしそうな眼をしながらもさっきまでの様な敵意は見せていなかった。


我ながらへたくそな正義感を押し付けたものだと反省しながら、俺は店に戻るのだった。


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